ミニレビュー

ギミックにも使用感も満足のワイヤレスNCヘッドフォン。ゼンハイザー「PXC 550」

 定額制音楽配信や動画配信サービスが普及し、スマートフォンやタブレットで音楽や映像作品を楽しむのも当たり前になりつつある。また視聴環境としても、Bluetooth接続のワイヤレスイヤフォン、ヘッドフォン、スピーカー類が幅広い価格帯で多く登場しており、ワイヤレスの視聴機器が世の中に広く受け入れられていることが伺える。

 筆者も数年前からスマートフォン(タブレット)+Bluetoothイヤフォンという組み合わせで主に外出時の音楽再生環境を構築していたが、長く使っているうちにいくつかの不満点が出てきたので、それまで使っていたBluetoothイヤフォンから、ゼンハイザーのワイヤレスヘッドフォン「PXC 550」に買い替えた。本記事では、数カ月にわたりPXC 550を使用してみての所感をお伝えしたい。

電池持ち重視でヘッドフォンに路線変更

 それまで使っていたBluetoothイヤフォンで不満に感じたのは、左右のイヤフォン本体を繋ぐケーブルのわずらわしさと、再生時間の短さだった。

 筆者の場合は遠方への出張や取材先への移動時にイヤフォンを使う頻度が最も高く、これに次いで、スマートフォンをプレーヤーとして使い、家事をしながら音楽やラジオを楽しむことが多いのだが、ちょっと激しく動くとケーブルが揺れたり、タッチノイズが生じるのが気になっていた。

 また小型ゆえにバッテリー容量が少ないこともあって、うっかり充電を忘れると、次に使おうと思ったときには電池が切れている、というミスをやらかしがちなので、「ケーブルがなく、電池容量がそれなりにある」製品を探したところ、筆者の要求に最も合致する製品は今のところヘッドフォンで探すのがよさそうだという結論に行き当たった。

 ケーブルに関しては、昨年から左右分離型のBluetoothイヤフォンが登場してきており、購入も検討したが、いずれも使用時間が3〜4時間であり、筆者の使い方では少々短めに感じた。イヤフォンとヘッドフォンでは本来使い所が少し違うのだが、サイズが大きくなることもいとわず、電池の持ちを重視すると、必然的にヘッドフォンを選ぶことになった。

折りたたまれた状態のPXC 550はかなりコンパクトだ

 いくつかの候補の中から最終的にPXC 550を選んだ決め手は、ノイズキャンセリング機能を備えたBluetoothヘッドフォンの中では比較的軽量(約227g)で、見た目が好みであり、かつ後述のジェスチャー操作がなんだか面白そうだったからである。

よく効くノイズキャンセリング。着脱検知対応の便利なジェスチャー機能

 PXC550の主なスペックは、再生周波数特性が17Hz〜23kHz。音圧レベルが110dB。使用可能なプロファイルはAVRCP、A2DP、DIP、HSP、HFP。コーデックはSBC、aptX、mSBC、CVSD、a-Law、u-Lawに対応する。ペアリング時にNFCも利用可能だ。

Android端末とNFCによるペアリングを行なっているところ

 ゼンハイザーのPXCシリーズといえば、独自開発のアクティブノイズキャンセリング(以下NC)機能「NoiseGard」を搭載していることも特徴だ。PXC 550では、スマートフォンアプリ「CapTune」により、NCの効きを8段階で調節可能になっている。

スマートフォンアプリ「CapTune」では、イコライザ設定やノイズキャンセリング機能の強度設定などを行なえる

 PXC 550では右イヤーカップに操作の主軸が置かれており、最も特徴的な機能としては、指先のジェスチャーで様々な操作ができるタッチパッドが内蔵されている。具体的な操作としては、音量の上下、曲送り/曲戻し、再生/一時停止、通話開始/終了、通話拒否、リダイヤル、通話転送、マイクミュート/アンミュートのほか、外部マイクによる周辺環境音のモニタリング機能「トークスルー」のON/OFFなどが可能だ。

右イヤーカップを指先でなぞることで、様々な操作が行なえるジェスチャー機能

 また、右イヤーカップをひねって装着状態にする動作がヘッドフォンの電源を入れる動作にもなる。NC、サウンドエフェクト、Bluetoothの物理スイッチが配置されているのも右イヤーカップだ。

右イヤーカップをひねり、装着可能な状態にすることでヘッドフォンのスイッチが入る仕組み
スイッチが入った状態

 NC関連の機能では、必要に応じて周囲の音を聞ける「トークスルー」機能の使い勝手が良い。トークスルーはタッチパッドをダブルタップすることで切り替えられるが、簡易なNC無効化スイッチとしても利用できるので、駅構内のアナウンスを聞くなど、周囲の状況確認のため一時的に使用する頻度は高い。

 低減できる雑音の種類としては、継続的に反復する低音域のノイズをよくカットしてくれる印象を受けた。具体的には、ビル街などで聞こえる「ゴー」という反響音や、PCケースファンや換気扇の駆動音、電車の通過音、屋外での風切音などが低減される一方で、人の話し声などは低減されにくくなっており、しっかり効いている実感がある。筆者はNC機能だけを利用するために本機を装着することも多い。

 先述の通り、NCの効果はアプリ上から調節できるが、必要であればトークスルーで擬似的にNCを無効化できるので、100%の状態から変える必要が感じられない。調節する必要があるとすれば、再生音量を下げ、音楽を聴きつつ周囲の音を聞きたいときだが、そこまでするなら一旦ヘッドフォンを外してしまった方が早い。

CapTuneの設定画面。ノイズキャンセリングの効き具合などが設定できるが、いじれる項目は少ない
設定切替時などにデバイスが発する音声の言語を切り替えられる
アプリ画面のカラーリングを、ゼンハイザーファンにはおなじみのライトブルーに変更できる

 ジェスチャー機能については、わざわざ端末を取り出してアプリ上で操作しなくても、音楽の一時停止や頭出しができる点が便利だ。ヘッドフォンの着脱を検知するらしく、PXC 550を頭から外すと再生が停まり、装着し直すと再生が再開する機能を備えており、これもジェスチャー機能の一部だという。

 操作はおおむね直感的で、シングルタップで再生/一時停止、前方にスワイプで曲送り、後方にスワイプで曲戻し/頭出し、前方にスワイプした後指をホールドで早送り、同様に後方で巻き戻し、くらいまでは覚えやすいのだが、通話関係では着信応答、通話終了、通話拒否、キャッチホン、保留、リダイヤル、通話切り替え、通話中着信応答、通話中着信拒否などのすべてに異なるジェスチャーが設定されており、どのジェスチャーがどの操作に対応するのかを覚えるのに気合いが必要な点が厳しい。よって筆者は音楽再生時にしかジェスチャーを使っていない。

 また本機には48kHz/16bitのDACを内蔵しており、PCとUSB接続した際にはジェスチャー機能が使える有線ヘッドフォンとして使用できる。ジェスチャー操作に慣れないうちは意図しない操作をしてしまいがちだが、慣れれば手放せなくなる。

PCとの接続時には、再生および録音デバイスとして認識される
本体の4箇所に設置されたマイクを使って、周囲の環境音をモニターする

音質にもバッテリの持ちにも満足

 ヘッドフォンの音質には定評のあるゼンハイザー製ということもあって、筆者が日常的に使う範囲では音質面について不満はない。元々、連続使用時間を重視して製品を探したこともあるが、十分に満足している。

 装着感としては側圧がかなり強め。これはヘッドフォンのみで頭部に固定しなければならない都合上、ある程度仕方ない部分もあるだろう。形状は密閉型だが、音量を上げると普通に音漏れするので、電車内など近くに人がいる状況での使用には配慮が必要だ。

 今回重視した連続使用時間については、Bluetooth接続+ノイズキャンセリング使用時の連続使用時間は公称20時間だが、実使用時はもう少し短い印象。筆者の場合は移動中などに1~3時間の使用を断続的に数回繰り返す使い方が多いのだが、実使用上の体感では一度の満充電でおよそ2~3日間は充電せずに使用できることが多い。以前に使っていたイヤフォンでは気付いたタイミングでモバイルバッテリーなどに繋がなければ肝心な時に電池切れを起こしていたので、それほど電池の残量を気にせずにすむようになったので、満足している。

右イヤーカップのタッチパッド。ちなみに左イヤーカップには触っても何も起こらない
USB接続したところ。電池残量はLEDインジケータで表現される
Bluetoothの物理スイッチは少しわかりにくいところにある

普段使いのしやすさは理想的

 筆者は自宅にいるとき、家事をしながらAmazonプライムミュージックやSpotify、Soundcloudで適当なプレイリストを選んで流しておくことが多いのだが、完全にケーブルレスで使用でき、装着した時点で自動的に接続が完了する本機の挙動は、デバイスの持つ制約に縛られず、生活の中で気軽に音楽を楽しめるという点で理想的だと思う。

 スマホアプリが少々微妙な出来であり、もう少しアプリと連携して色々できたらよかった気もするが、長く使用していても特に不便に思う部分はなく、トータルで見れば、スマートデバイス向けのヘッドフォンとして高水準にまとまっている印象だ。

 実勢価格は4万円前後で、発売当初からあまり値下がりしておらず、ヘッドフォンというくくりでいえば普及価格帯というには厳しいお値段であるが、そもそもノイズキャンセリング機能付きのワイヤレスヘッドフォンというカテゴリの製品自体が全体的にそれほどお安くない。最近は1万円台の安価な製品も出てきてはいるが、3万円台から4万円台後半がボリュームゾーンといったところで、音質以外の部分に価値を見いだせるかどうかが選択のポイントになる。

 本機の場合はジェスチャー機能やトークスルーによる擬似NC解除が目を引くギミックだだが、やはり、ケーブルがないというのは想像以上に快適だ。音質やバッテリ駆動時間も十分満足できる。ワイヤレスヘッドフォンの購入の有力な選択肢になるはずだ。

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関根慎一