ミニレビュー

ワイヤレスでもShureの高音質。aptX HDと専用アンプの本命Bluetoothケーブル「BT2」

ワイヤレスのBluetoothイヤフォンは、手ごろな価格の製品が数多く存在する一方、音にこだわったモデルも増えてきた。その中でも注目したいのが、手持ちのイヤフォンをワイヤレス化できる“イヤフォン着脱式”のBluetoothケーブル。お気に入りのイヤフォンが持つ実力を活かしながら、ワイヤレスの快適さも得られるもので、その本命ともいえるのがShure(シュア)から登場した「RMCE-BT2」だ。

ケーブルを首に掛けて装着するBluetoothイヤフォンはよく見かけるが、RMCE-BT2がそれらと違うのは、“Bluetooth搭載ケーブルのみ”の製品であり、イヤフォンは別売ということ。ケーブルの先端にある「MMCX端子」のイヤフォンを、付け替えて利用できる。音質や装着感などが気に入っているイヤフォンを、そのままBluetoothでも使えるわけだ。新しいイヤフォンに買い替えた時も、同じMMCX端子搭載であれば、そのBluetoothケーブルを使い続けられる。

イヤフォンは付属せず、ケーブルのみ
手持ちのMMCX端子搭載イヤフォンを接続して使用する

同様の製品はこれまでも多く登場しており、ソニー「MUC-M2BT1」や、Westone「WST-BLUETOOTH」、エレコム「LBT-HPC1000RC」などのほか、Shureも'17年に第1弾モデル「RMCE-BT1」を発売。これまでのレビュー記事でも紹介してきた。

今回のShure RMCE-BT2(以下BT2)は、高音質/低遅延コーデックのaptX HDやaptX、aptX Low Latency、AACにも対応。また、Bluetooth受信用チップセットに備えてあるヘッドフォンアンプを使わずに、独自設計のヘッドフォンアンプを搭載している点も大きな特徴だ。価格は18,800円。

独自設計のアンプを搭載

現行モデルRMCE-BT1の上位機となっており、「SE846やSE535などのパフォーマンスを最大限に引き出す」とのことなので、実際にハイエンドイヤフォンを装着して、ワイヤレスでも高音質で楽しめるのかどうか試してみた。

左が'17年発売の「RMCE-BT1」、右が新しい上位モデル「RMCE-BT2」

首掛けではなくクリップ留め。高音質のカギは専用アンプ

2017年に登場したShureのBluetoothケーブル第1弾モデル「RMCE-BT1」(BT1)は、一般的なネックバンド型と同様にケーブルを首の後ろに回して装着する方法だが、新しいBT2はケーブルが短めで、首の前にケーブルが来るようにして、クリップでシャツなどに留めるスタイル。歩いてもケーブルが大きく揺れたりせず、体に密着。冬だとマフラーの着け外しや上着を脱ぐときなどにも引っ掛からないのはうれしい。

装着例

ケーブルに備えたリモコン部は、首の後ろではなく顔に近い前側に来るので、従来のBT1よりも指でつまんで操作しやすい位置になったのも良いポイント。耳から外した時はケーブル首掛けとは違って、イヤフォン部が前にぶら下がる形になるが、大きなクリップでしっかりシャツに留まるので、落ちてしまう心配はなかった。

リモコン部は顔の後ろではなく真下あたりに

電源は3つあるリモコンの中央ボタン長押しでONとなる。そのまま押し続けてペアリングの待機モードとなり、スマホやポータブルプレーヤーなど、接続したい機器のBluetooth設定画面で「Shure BT2」という機器を選んで指定するとペアリング完了。今回はiPhone X(AAC接続)と、ウォークマンのNW-ZX300を主に使用した。コーデックは高音質のaptX HDを選択している。

ケーブルに備えたリモコン部

新たに搭載したヘッドフォンアンプ部はリモコン部とは別筐体で、ケーブルの根元に備えたユニットに、バッテリとともに内蔵。その背面にクリップを備えている。なお、スマホのハンズフリー通話などに使えるマイクはリモコン部に内蔵している。

アンプ部
背面にクリップを備える

組み合わせるイヤフォンとして、まずはShureの「SE215」を使用。12,000円を切る、SEシリーズの定番といえるエントリーモデルだ。ボーカルなどの中域が豊かで、ダイナミック型ドライバ1基ながら高域にも伸びがあり、音楽ジャンルを問わずソツなく鳴らせる実力を持っている。

ウォークマンの音楽を再生すると、厚みのある中域はもちろん、低域も強い押し出しで鳴らしており、専用アンプを搭載した効果を感じる。軽い装着感ながら、出る音は有線/無線の違いを意識させず、情報量が多く、迫力のある音が楽しめる。フルレンジのダイナミックドライバでしっかり鳴らせるSE215の実力が存分に活かされている。

SE215を接続

そして重要なのはここから。イヤフォン部をケーブルから外し、次はShure SE最上位モデルのSE846を接続。実売価格は99,800円(従来のBluetoothケーブルRMCE-BT1|付属)と、先ほどのSE215とは別格のモデルだが、音にはどれほど違いが出るのか、聴いてみた。

ウォークマンのハイレゾ音楽を聴いてみると、一気に音場が広がり、低域の自然な広がり感や、高域の繊細さといったマルチドライバの良さが十分に活きている。山中千尋「Something Blue」の聴きどころであるトランペットやサックス、ピアノのソロパートが力強い押し出しで耳に届くのはもちろん、SE215の時は控えめだった、ソロパート中の周りの楽器も、しっかりした存在感を持って主役を支えている。広い音場の中で描き分けができているのを実感した。

SHANTIがカバーした「Wake Up to the Sun」は、SE215で聴いても歌声の良さはしっかり伝わるものの、一般的なインナーイヤフォンと同様に“音のカタマリ”が頭の中心で鳴るような聴こえ方になってしまう部分もある。それに対し、SE846では、ボーカルと各パートが広いステージで演奏されているのが明らかで、開放型のヘッドフォンにも近い。低域はドラムの一音一音の輪郭が明確で、広がりがある音といってもぼやけた低音ではないのが重要なポイント。

SE846の実力をワイヤレスでも実感

「ハイエンドイヤフォンなので音が良いのは当たり前」と思うかもしれないが、バランスド・アーマチュア型ドライバ4基(ツイーター×1、ミッドレンジ×1、ウーファー×2)をしっかり鳴らし切るのはアンプ側にも相応の実力が要る。Bluetoothの便利さを優先して音質を引き換えにせず、その実力を活かして聴けるのは、最上位の音を求めてSE846を手に入れた人にとって大事なことだ。

ハイレゾなどの高音質楽曲に限らず、スマホのストリーミング音楽や動画、オーディオブックなどのコンテンツを聴いても、イヤフォンの良さを活かし、内蔵スピーカーより圧倒的にいい音。圧縮音源も、専用アンプの効果もあって、密度の高い音で聴けた。

YouTube動画の音も遅延などの違和感なく聴けた

試しに、Shure以外のMMCXイヤフォンとも接続してみた。AKGのハイブリッド型イヤフォン「N40」や、Westoneのカスタムイヤフォン「ES60」とも問題なく接続でき、それぞれのイヤフォンの良さを活かした音で再生。6ドライバ搭載のES60も力強く駆動できた。

AKG N40との接続例

ウォークマンとスマホをシームレスに自動切り替え。急速充電も

Bluetoothのマルチポイント接続対応のため、iPhoneとウォークマンは常に同時接続できる。ウォークマンの音楽再生中にiPhoneへ着信があると、自動で接続が切り替わり、通話が終わるとウォークマンの音楽へと戻る。

機種間の自動切り替えはとてもスムーズなので不満はないが、一つ気になったのは、スマホでTwitterやFacebookのタイムラインをスクロールしている時に動画の投稿があると、音声も毎回自動でスマホ側へ切りかわり、音楽が途切れるという動作。

ウォークマンとスマホの同時接続

動画の投稿部分を通り過ぎるとすぐ音楽へ戻るので、ここまでシームレスに切り替わること自体はすごいのだが、投稿された動画を全部見るわけではなく、どちらかというと音楽を聴き続けたい。このように音楽を優先したい人は、スマホとの同時接続は、電話を待っているなど必要な時だけに限った方がよさそうだ。逆にSNSなどの動画も多くチェックしたい人は、いちいちスマホなどのBluetooth設定を開かずに切り替えられるので、快適な操作感といえるだろう。

もう一つ、Bluetoothイヤフォンで気になる接続性については、結論から言えば大きな不満なく使えた。ウォークマンをaptX HDで接続していたところ、池袋や新宿などターミナル駅のホームや出口付近の混雑時に途切れることも皆無ではなかったが、その頻度はかなり低いので、トータルではワイヤレスのメリットの方が大きい。接続性を優先するためにSBCコーデックの音質で我慢しないで済むのは良いことだ。

バッテリの動作時間は最大10時間で、充電所要時間は2時間。電源ON時に、英語音声で「バッテリは残り8時間以上」のように残り時間を案内してくれる。15分の充電で1.5時間使用できるクイックチャージ機能も利用できるので、出かける前の短時間だけでも充電すれば、通勤の行き帰り程度は使えた。

充電はmicroUSB端子経由で行なう

イヤフォンの個性がワイヤレスでも活かせる

ShureはBT2の製品発表時に、ヘッドフォンアンプを車でいうエンジンに例えて説明していた。確かに音質を決める大事な要素となる部分を、Bluetoothのチップだけに任せるのではなく、イヤフォンを知るメーカーが、専用に設けることにしたのは自然な流れと思える。

他社Bluetoothヘッドフォンでも、以前レビューしたソニー「WH-1000XM3」に搭載している新プロセッサ「QN1」は、内蔵するヘッドフォンアンプの良さも大きな特徴。それは決して派手に色付けしたような音ではなく、あくまで元の音を活かして高音質に仕上がっているのが良さだと感じていた。

今回使ったShureのBT2ケーブルは、1000XM3とは異なり、手頃で軽い装着感のイヤフォンだが、ワイヤレス伝送の利便性を保ちながら、圧縮しても元のクオリティからなるべく落とさないように専用アンプを活用しているのが聴いてみてよく分かった。音をガラッと変えるのではなく、ワイヤレス伝送で足りない部分をうまく補っているという印象だ。

アップルのAirPodsに代表される左右分離型の完全ワイヤレスイヤフォンも増えている一方で、BT2のようにイヤフォンにケーブルが付いているモデルは、耳から落ちてどこかに転がってしまう心配が少なかったり、聴かない時も持ち運びやすいといったメリットもある。そうした良さは保ちつつ、手持ちのイヤフォンの実力を活かした音で聴けるのがBT2の良さだ。

Shure SEシリーズなどMMCXのイヤフォンを持っていて、長く使い続けたい人には自信を持って勧められるほか、音質にはこだわりたいけれど有線は煩わしい人や、今までのBluetoothイヤフォンの音質で物足りなかった人にも使ってみてほしい製品だ。

中林暁