ミニレビュー

ソニーのアンプ内蔵ヘッドフォン「MDR-1ADAC」はカジュアル高音質が魅力

 秋はヘッドフォンの季節……だと勝手に思っている。夏場は暑くて使う気になれなかったオーバーヘッド型も快適に使えるようになり、年末を見据えてか、新製品も色々出てくるからだ。当然消費者の財布の紐も緩む……のは筆者(西田宗千佳)だけかもしれないので一般化はしないが、とにかく、毎年この時期は、なにかしらヘッドフォンを買っている気がする。

 今年買ったのは、ソニーの「MDR-1ADAC」だ。正直、音だけを期待して買ったわけではない。あ、いや、MDR-1シリーズは実際いい音だと思う。コストパフォーマンスを考えると、国産ヘッドフォンの中でおすすめのシリーズであり、その最新モデルである「1A」は、ある意味鉄板だ。

MDR-1ADAC。筆者はシルバーモデルを選んだが、ブラックモデルもある

 とはいえ、筆者が期待したのはそこではない。「MDR-1ADAC」は、MDR-1AにDACとデジタルアンプを内蔵してしまった、大胆な製品だからだ。使い勝手と音のバランスという面でMDR-1ADACをみると、これがなんともいい感じなのである。

機器を選ばずシンプルに「ちょうどいい音」を体感

 ポータブルアンプの市場はかなり伸びてきている。スマートフォンやPCで音楽を聴く機会が増え、さらには、ハイレゾの音源も増えている。そうした環境で良い音を求めるなら、ポータブルアンプは重要だ。

 とはいえ、ポタアン最大の問題点は「かさばる」「大げさ」ということ。気軽に聞けるのがスマホの良さであるのに、大きなポタアンを持ち、スマホとポタアンの両方の充電をメンテナンスし、いい音で聴くためにヘッドフォンもいいものを用意し……ということになると、それはやっぱり「覚悟が決まった人々のもの」と言わざるを得ない。

 そこで出てくるのがMDR-1ADACだ。

 すでに述べたように、これにはデジタルアンプが内蔵されている。スマホやPCとデジタル接続すれば、そのまま、スマホ+ポタアン+高音質ヘッドフォン、という環境が再現できる。それでいて、サイズは一般的なヘッドフォンとほとんど変わらない。

左側のハウジング内にデジタルアンプが入っていて、その関係からコネクター類も多く露出しているが、デザイン上の違いはその程度。重量は約300gで、アンプなしモデルとくらべ75g程度の差となっている

 写真でお分かりのように、MDR-1ADACとiPhoneをつなぐ時は、ヘッドフォン端子でなくLightning端子につなぐ。でも、見た目上は、今までのアナログケーブルでつないでいる時と大差ない。Androidの場合には、これがmicroUSBケーブルになる。PCも同様だ。microUSBケーブルでつなげば、それだけで高音質音楽再生環境の出来上がりだ。

iPhoneと付属のケーブルで接続。つないでいる場所がステレオミニではなくLightningコネクタであるところに注目

 当然そこで、肝心の音質の話になるわけだが、これがとてもいい。MDR-1ADACの場合、いままで通りのアナログ入力もあるわけだが、デジタル接続は別物の音、といっていいほどすっきりとしているが、パンチの効いた音になる。筆者はMDR-1シリーズの初代にあたる、MDR-1のBluetooth/アナログ接続対応モデル「MDR-1RBT」も持っているが、それよりもどのシーンでも解像感が高く、低音もより響き、ピントがしっかりした写真のような印象を受ける。

 ここで重要なことが一つある。当然音は良くなるのだが、なによりも「機器による差がぐっと減る」のが大きい。

 例えば、iPhoneのアナログ出力は、同じスマホであるXperia Z2に比べ、音質で劣る。そのZ2も、ハイレゾ対応のウォークマンにはかなわない。音質に対して、機器の持つステレオミニプラグからの出力系の出来が支配的であるからだ。機器による差はいかんともし難く、だからこそ「いいプレイヤーで再生したい」というモチベーションにつながっていた。

 それが、MDR-1ADAC内蔵のデジタルアンプ「S-Master HX」を通すと、機器による差はぐっと減る。デジタル接続によって「機器を選ばず音が良くなる」のは、とても快適な体験だ。

 このとき面白いのが、いわゆるハイレゾ音源以上に、MP3やAACのソース、またはストリーミング・ミュージックの場合により効果的に聞こえる、ということだ。それらの音をカジュアルに聞く場合、ポタアンまで持ち歩いて楽しむ、というシーンは少ない。しかし、「ケーブル1本でデジタル接続」であるMDR-1ADACの場合、そうしたソースをカジュアルに聞く時でも、より良い音で楽しめる。個人的には、スマホももちろんだが、外でPCを開いて仕事をしている時でも、ケーブル1本でより快適な環境になる、ということを評価したい。

アナログ接続用の端子はカバーの中にある。使い勝手が悪いので、端子位置はもう少し考慮して欲しかったところ

 実際問題、高価なヘッドフォンにポタアンをつなげば、もっといい音を得ることはできる。しかし、ここまでお手軽なものは他にない。……まあ、オーバーヘッドタイプのヘッドフォンを宅外で使うことがお手軽なのか、という話はともかくとして、だ。

 MDR-1ADACの場合、アナログ接続にはカバーを開けて奥まったところにあるコネクタにつながなければならず、かなり面倒かつ見栄えが悪くなる、という問題もある。MDR-1ADACはデジタル接続メインで使う機器、と考えた方がいい。

専用ケーブルゆえの難点も 次世代の「Type-C」採用モデルに期待

 デジタル接続であることは、カジュアルに音質を上げるには実に効果的だ。他方、マイナス点もある。

 最大の難点は、「ケーブルが硬い」ことだ。おなじみのステレオケーブルに較べ、USBケーブルは芯数も多いので、太くなる。そうするとどうしても動きづらくなる。

 もう一つ面倒なのは、スマホ接続の場合、ケーブルが専用であることだ。MDR-1ADACの場合、デジタル接続用のコネクタは2つある。PC接続とUSB接続に使うmicroUSBコネクタと、スマホ接続用のmicroUSBコネクタだ。ご存じのように、現在のUSBは両端のコネクタ形状が異なる。そのため、1本のケーブルと1つのコネクタでPCもスマホも……とはいかないわけだ。MDR-1ADACには、iPhone接続用のLightningコネクタ付きと、Androidなどで使うmicroUSBコネクタ付きの専用ケーブル、それにPC接続用の普通のmicroUSB-USBケーブルが付属する。どれもちょっと堅めで、曲がりづらくて動きづらい。PC向けについては、自宅のケーブルの山にあった柔らかめのもの(確かこれもヘッドフォンに付属のものであったはずだ)に変えることで対処できたが、完全に専用のケーブルであるスマホ向けは我慢が必要だ。

PC(筆者の場合はMacだが)と接続する時には、柔らかいUSBケーブルを選んで使っている。アンプの電源をいれなければ充電、入れれば再生、という使い分けになる

 コネクターの問題は、USB 3.1から導入される「Type-C」の導入で解決される。両端が同じコネクターになるからだ。おそらく次世代製品になると、Type-Cコネクターになり、よりシンプルに使えるものになるのではないだろうか。そうすると、MDR-1ADACと同じようなコンセプトの製品が増え、ケーブルもより良いものが出てくるかも知れない。

 なお、MDR-1ADACは内蔵バッテリで動作する。公称値は7.5時間だが、筆者が購入して数週間の使用では、まだ切れた経験はない。1回の連続再生が長くて4時間以内、移動時利用を入れても6時間以内に収まっているので、2日に一度充電していると、切れるシーンに遭遇せずにきている、という感じだ。

 仕様上、PCと接続している際にも「音楽再生時には充電していない」のだが、意外なほどバッテリが持つ。PCでの利用時は、ケーブルをつないだまま離席時などにアンプの電源を切っておくと、そのまま充電動作になるので、あまり意識することなく「継ぎ足し充電」している、ということだろう。カタログ上、完全充電には4時間かかるとのことだが、食事離席などの小一時間でも充電できれば、そこそこ長く動く分の充電ができている、という印象だ。

右側のハウジングにある音量ダイヤル。デジタルアンプを介して再生している時に限り、こちらで音量調節ができる

 MDR-1ADACは音質と使い勝手のバランスで成り立つ製品だ。最後に、筆者が気に入ったもう一つの点を指摘しておきたい。

 それは音量調節がボタンではない、ということ。要は内蔵アンプの音量調節がダイヤル式なのだ。それだけだが、ボタンで音量を調整するより、なんとも快適だ。移動中にこそ、指先の感覚だけでちょうどいいところに合わせやすいダイヤル式はふさわしい。アンプだからあたりまえ、といえばそれまでなのだが、その特質は移動中にこそ感じられる……というと、言い過ぎだろうか。

 そうなると、曲送りなどの作業のためにスマホを取りださねばならないことが気になってくる。ケーブル経由でうまくコントロールすることもできそうな気もするので、次はそこまで視野を広げてほしい、と感じる。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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