ミニレビュー

ウォークマン「NW-ZX2」を“グラウンド分離出力ケーブル”で手軽かつマニアックに楽しむ

 ソニーのハイレゾウォークマンフラッグシップモデル「NW-ZX2」。既に発売が開始されている注目モデルだが、今回はちょっとマニアックかつ、音質を手軽にアップさせる“グラウンド分離出力ケーブル”を使ってみる。

 グラウンド分離出力とは、その名の通り、左右チャンネルのグラウンドを分離した接続の事だ。一般的なイヤフォン/ヘッドフォンでは、左右のチャンネルから戻ってくるグラウンドを、1つのケーブルにまとめて入力端子まで戻している。

通常のケーブルのイメージ。グラウンドが1つのケーブルにまとまって戻ってくる(紫色の部分)

 これを、1本にまとめず、左右で分離したまま入力端子まで戻すのがグラウンド分離だ。これに伴い、通常のイヤフォンは入力端子が3極(黒い絶縁リングが2本入った端子)だが、グラウンド分離接続用ケーブルの端子は、4極(絶縁リングが3本)になる。

グラウンド分離接続ケーブルのイメージ

 入力端子の太さが違うが、ハイレゾプレーヤーの「AK100II/120II/240」がバランス駆動で採用している2.5mmの4極ケーブルと考え方は同じだ。ただ、「NW-ZX2」はバランス駆動には対応していないので、あくまでグラウンド分離のみとなる。

試用したケーブル。左が通常のケーブル、右がグラウンド分離ケーブルだ
入力端子の比較。4極端子がグラウンド分離ケーブル

前回のレビューではちゃんと聴けませんでした

 以前レポートした通り、「NW-ZX2」はグラウンド分離接続に対応している。しかし、そのサウンドを楽しむためには、対応するケーブルが必要。具体的に言えば、入力が4極のイヤフォン/ヘッドフォン用のリケーブルだ。

 先日レビューした際、そんなケーブルは持ちあわせていなかったので、編集部に転がっていた4極ミニ-4極ミニのステレオミニケーブルのプラグをペンチで引き剥がして、ソニーのバランス駆動対応ヘッドフォン「MDR-1A」にねじ込むという力技で、一応グラウンド分離出力を試すことは試した。ただ、通常のケーブルとの音の違いをキチンと聴く事はできなかった。

 その後、2月14日に開催されたフジヤエービックのイベント「ポータブルオーディオ研究会(ポタ研) 2015冬」のミックスウェーブブースで、Beat Audio製の「ZX2のグラウンド分離出力用ケーブル」の試作機を発見した。

 マニアックな製品ではあるが、実際にどのように音が変化するのか気になっていたので、さっそく試作機をお借りしてみた。

NW-ZX2
ZX2の端子部

聴き比べてみる

 お借りした試作ケーブルは、モデル名は「Signal for CUSTOM NW-ZX2」。入力端子はステレオミニの4極で、イヤフォン接続側はカスタムイヤフォン向けの2ピン端子。今回はUnique Melodyのユニバーサルイヤフォン「MAVERICK」(オープン/実売103,000円前後)を用意した。

 さらに聴き比べ用として、同じケーブルを使った、通常のステレオミニ3極プラグのバージョンもお借りした。ケーブルとしては同じ作りであるため、グラウンド分離出力による音の違いを聴き比べられるというわけだ。

 なお、Beat Audioの「Signal」は、レアメタルを加えた独自の銀線を導体に採用している。MAVERICKはダイナミック型ドライバ×1、BAドライバ×4で構成されるハイブリッド型のイヤフォンだ。

試作ケーブルは2ピンタイプ。Unique Melodyのユニバーサルイヤフォン「MAVERICK」で聴いてみた

 「The Eagles/ホテル カリフォルニア」(192kHz/24bit)を再生。通常ケーブルでしばらく聴いた後、グラウンド分離ケーブルに変えると、フワッと音場が左右に広くなり、奥行きも見通しが良くなる。ドン・ヘンリーのボーカルの響きが、奥の空間に広がって消えていく様子が、グラウンド分離ではよりわかりやすくなる。

 ベースやドラムといった、低域の変化もわかりやすい。音の輪郭がシャープになり、少しタイトになるのだが、沈み込みは深くなる。そのため、低音が寂しくなるのではなく、逆にベースの存在感自体が増す。ベースの響きが広がる様子も、より細かく聴き取れるため、低音自体が印象深くなる。

 ニュアンスや響きが良く聴き取れるようになる事で、音はシャープなのに、旨味が増えるイメージだ。3分55秒あたりからの、右から左にドラムが連打される場面でも、低音のキレと響きに確かに違いがある。

 ただ、この“変化量”は、イヤフォンやプレーヤーを変えた時ほどの“激変”レベルではない。しかし、聴き比べると「お、変わったな」というのが確かにわかる。イヤフォンが1組しかないので、比較するたびにイヤフォンとケーブルを付け替えており、最初は「急いで交換しないと前の音を忘れてしまう」と慌てていたのだが、2回目の交換からは「もう違うのはわかったから、慌てずやろう」と考えるようになった。

 打ち込み系で派手目な「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」(翠星のガルガンティア OP/96kHz/24bit)でも違いがよくわかる。音の数が多く、高音がキツめの楽曲だが、グラウンド分離ケーブルで聴くと奥行きが出るため、通常ケーブルで感じる“ゴチャゴチャ感”が良い意味で薄れる。

 また、サビの部分でもベースラインがタイトに存在感を発揮してくれるため、音楽が腰高にならず、安定感が出て好印象だ。

価格や発売時期は?

 前述の通り、モデル名は「Signal for CUSTOM NW-ZX2」。今回テストしたのはカスタムイヤフォン向けの2ピンタイプだが、ミックスウェーブによると、イヤフォン側のプラグはMMCXなど、別のタイプのものもラインナップしていく予定だそうだ。

 価格はまだ未定だが、既発売の「Signal」ケーブル(実売41,600円)の価格帯とさほど変わらないようだ。発売時期も、来月頃が予定されている。

 販売が開始されれば、専門店などでは、ケーブルの比較試聴ができる店舗も登場するかもしれない。また、イヤフォン/ヘッドフォンイベントでも聴き比べられるだろう。ZX2ユーザーは愛用のイヤフォンも持って、実際に音の違いを体験して欲しい。リケーブルによる音の変化だけでなく“グラウンド分離”も、今後のポータブルオーディオで注目のワードになりそうだ。

山崎健太郎