トピック

「グランド分離」って何? OPPOのヘッドフォンで手軽にグレードアップを試してみる

 多様な製品が続々と登場し、苛烈な競争によって音質が磨かれているポータブルオーディオ市場。技術的なトレンドも次々と登場しているので、「これって何だ?」と首を傾げているあいだに、その技術がトレンドになっていたなんて事も。最近では「グランド分離接続」が良い例だろう。

 対応機種の例としては、OPPOのポータブルアンプ「HA-2」と、平面駆動型ヘッドフォン「PM-3」。ソニーのハイレゾウォークマン「NW-ZX2」や、ヘッドフォンの「MDR-1A」などがある。

OPPOのポータブルアンプ「HA-2」
平面駆動型ヘッドフォン「PM-3」
ソニーのヘッドフォン「MDR-1A」
ハイレゾウォークマン「NW-ZX2」

 「グランド分離接続をすると、音が良いらしい」というのはわかるが、実際にそれがどんなものなのか、音がどう変化するのか、“バランス駆動”と何が違うのか? そのあたりを改めて紹介したい。また、具体的な例として、OPPOのポータブルアンプ「HA-2」とヘッドフォン「PM-3」を、10月24日に発売されたグランド分離接続用ケーブル「6N-OFC Balanced Headphone Cable」(OPP-35BHC-1/9,900円)で接続。音の違いも体験してみた。

グランド分離とは何か

 グランド分離出力のイメージを掴む時、頭に思い浮かべて欲しいのは2chの一般的なスピーカーとアンプだ。アンプの裏側にあるスピーカーターミナルには、赤い端子と、黒い端子があり、スピーカー側にも同じ2色の端子がある。それぞれの端子を、スピーカーケーブルで接続している。

 赤と黒の2つの端子は、赤が「+」(ホット)、黒が「-」(コールド or グランド)と呼ばれている。音楽信号の流れとしては、アンプの赤のホットから出て行って、スピーカーのユニットを動作させ、「-」のグランドを通ってアンプに戻ってくる。

 ステレオの場合、この一連の動きが、右チャンネルスピーカーと左チャンネルスピーカーそれぞれで行なわれる。

 注目したいのは戻ってくるグランド部分。もちろん、右スピーカーと左スピーカーのグランドはくっついておらず“分離”されている。つまり、一般的なスピーカーの接続は“グランド分離接続”なのだ。

 ヘッドフォンは、ユニットサイズが小さいスピーカーに過ぎない。それゆえ、接続とドライブの仕方も、基本的にはスピーカーと同じだ。

 であるならば、ヘッドフォンもグランド分離接続されているのが“当たり前”のハズだ。しかし、実は一般的なヘッドフォンはそうなっていない。左右チャンネルのグランドが、途中で1本のケーブルにまとめられてアンプに戻ってきているのだ。

グランドが共通になった、一般的なヘッドフォンの模式図
グランド分離された4極接続の模式図

 ヘッドフォンの場合、使い勝手を考慮してケーブルが被覆で1本にまとめられているので、中のケーブルがどのように接続されているのかわからない。そんな時は、入力端子を見ると一つの目安になる。ステレオミニの端子に、黒い線が2つ(3極)あれば、グランドが左右でまとめられている。黒い線は絶縁部分で、信号が通るのは金色のメッキ処理された部分だ。

ヘッドフォン「PM-3」に標準で付属するケーブル。3極タイプだ

 一方で、黒い線が3つ(4極)あれば、左チャンネルの+/-、右チャンネルの+/-と、4つの信号が伝送できるようになっている事がある。その場合はグランド分離接続が可能だ。ただ、ややこしい事に4極プラグであれば全部グランド分離対応かといえばそうではなく、リモコンを備えたケーブルで、その信号を伝送するために4極になっているものや、グランド分離対応とされているけれど、信号が流れる端子のアサインがソニーとOPPOのようにメーカーごとに異なっており、他社のヘッドフォンでは使えない……なんて事もある。

 ちなみにOPPOのページでは、4極プラグと信号のアサインが明示されている。こういうマニアックな情報もキッチリ提供してくれる姿勢は評価できる。

OPPOのページに掲載されている4極プラグと信号の関係図

 とりあえずは、使っているヘッドフォンやアンプとの組み合わせで、「グランド分離接続ができる」と明示されているケーブルを買えば安心だろう。

グランド分離接続用ケーブル「6N-OFC Balanced Headphone Cable」。4極になっている

バランス駆動とグランド分離は何が違うのか

 グランド分離接続を理解すると、バランス駆動も理解しやすくなるのでついでに紹介しよう。

 バランス駆動のケーブル部分、そしてヘッドフォン部分との繋がりは、実はグランドとまったく同じ。つまりグランド分離接続でも、左チャンネルの+/-、右チャンネルの+/-が完全に分離したまま、アンプ+ケーブル+ヘッドフォンが接続されている。

 ではグランド分離と何が違うのか、それはドライブするアンプの数だ。グランド分離の場合、前述のとおり「+」のケーブルにはアンプ、「-」にはグランド/アースが接続されている。それが左右チャンネルなので、アンプは合計2個。要するに2chだ。

 バランス駆動の場合は、「+」のケーブルにアンプ(正相)が接続されるだけでなく、「-」(グランド/アース)側には、それを逆相にしたアンプが接続される。つまり、1つのユニットを、正相と逆相、2つのアンプでドライブするわけだ。そのため、バランス駆動には4つのアンプが必要となる。バランス駆動対応のプレーヤーやアンプには、4つのアンプが入っているわけだ。

OPPOの据え置き型ヘッドフォンアンプ「HA-1」における、バランス駆動の模式図

 ピュアオーディオに詳しい人は、スピーカーで、ステレオアンプを2台、ブリッジ接続して1台のモノラルアンプとして使ってドライブする「BTL接続」をご存知だと思うが、あれと同じである。

 アンバランス駆動とバランス駆動の違いは、“長縄跳び”をイメージするとわかりやすい。アンバランスは地面に棒を突き立てて、そこに縄を結び、反対側の縄を人間が手に持ってまわす。バランス駆動は縄の両端を人間が持って回す。当然ながら、突き立てた棒がグラグラしていたらうまく回せないので、アンバランスではグランドが重要となる。

 どちらが音質的に優れているという話ではなく、単に方式の違いがあるという事だ。特にサイズの制約があるポータブルオーディオでは、「アンプの数が多いからバランス駆動の方が凄い」という単純な話ではない。

グランド分離で音はどのように変化するのか

 では実際にグランド分離接続すると、音はどのように変化するのだろうか?

 アンプとして、OPPOの「HA-2」を、ヘッドフォンとして「PM-3」を用意した。どちらもグランド分離接続に対応しているモデルだが、標準で付属するケーブルはグランド分離ではない。

OPPOのポータブルアンプ「HA-2」

 そこで、10月24日に発売されたグランド分離接続用ケーブル「6N-OFC Balanced Headphone Cable」(OPP-35BHC-1/9,900円)を使用する。両端が3.5mmのステレオミニ、4極プラグになっている。

 線材には純度99.9999%の高純度OFC(無酸素銅)を採用。信号伝送ロスを抑えているほか、ツイストペア構造を採用し、外部に発生する磁束をキャンセルして電流ノイズの影響も低減しているのが特徴だ。「HA-2」はバランス駆動には対応していないが、もちろん、バランス駆動のアンプと組み合わせても利用できる。

左が「6N-OFC Balanced Headphone Cable」、右が「PM-3」に標準で付属するケーブル

 「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を聴きながら、付属ケーブルとグランド分離ケーブルを付け替えてみる。

 交換した瞬間に音場がブワッと広がるので、恐らく誰にでも「おっ! 変わった!」と、すぐにわかるだろう。ケーブル交換と言うと、音の変化幅はさほど大きくないのではというイメージを持っている人がいるかもしれないが、グランド分離への交換の場合は明らかに変化するのでわかりやすいはずだ。

 音場がブワッと広がるというのは、奏でられている音楽が広がっている空間が広大になったという事だ。同時に、その空間に定位している楽器やヴォーカルの定位がハッキリと明瞭になり、広い空間に定位するようになるので個々の音像の距離感が適度に広がり、見通しもよくなる。ゴチャッと音像がくっつくと、どの楽器が、どんな音を出しているのかわかりにくくなるが、それらがわかりやすくなるわけだ。

 かっこよく言うと、ステレオイメージが明瞭になり、チャンネルセパレーションが向上したという事だ。「ホテルカリフォルニア」の場合は、ベースラインとヴォーカルの分離感、ヴォーカルの余韻が背後に広がっていく様子、右側に定位するギターの伴奏の明瞭さがアップする。また、わずかではあるが低域の安定感が増し、音楽にドッシリ感が出るようだ。

「PM-3」

 「ChouCho/DreamRiser」(ガールズ&パンツァー オープニングテーマ)のようなポップな曲も、背後の伴奏とヴォーカルの分離感がアップし、空間が広くなる事で、細かな音がとても聴きやすくなり、思わずボリュームをUPしたくなる。「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)から「バーバ・ヤーガの小屋」のようなクラシックを再生すると、空間の広さや定位の良さがさらにマッチ。「もう以前のケーブルには戻れないな」状態になる。

 経験した事がある人も多いと思うが、音質がイマイチなプレーヤー、例えばスマートフォンなどで音楽を聴いていて、もっと気持ちよく、パワフルに楽しみたいとボリュームを上げても、音がゴチャゴチャしたまま大きくなるだけで“うるさく”感じてしまう。単体の高音質プレーヤーを買ってみたら、音が細かく、ボリュームを上げても明瞭度が落ちないので不快な感じがせず、スマホよりボリュームが上げ目になっていた……なんて人もいるだろう。あの感覚に近いグレードアップ感が楽しめるのが、グランド分離接続の特徴だ。

リケーブルのキッカケにも

 イヤフォン/ヘッドフォンが好きな人なら、リケーブルが流行っているのは当然知っているだろう。ケーブルは線材の違いや構造などで音が異なるので、交換する事で、今使っているヘッドフォンの音を好きな音にカスタマイズしたり、チューンナップできるのが面白い点だ。

 ただ、ケーブルも安いものではないので「コストに見合う変化があるのか?」、「思ったような違いが出なかったらどうしよう」と不安を感じる人も少なくない。

 しかし、グランド分離接続ケーブルの場合、ケーブルによる音の違いとは別に、接続方式として明らかな利点があり、実際に音も大きくクオリティアップする。

 今回試した、「6N-OFC Balanced Headphone Cable」(OPP-35BHC-1)に関して言えば、アンプやプレーヤーのグレードが1つアップしたような違いすら感じる。価格は9,900円と、安価とは言えないが、個人的にはその価値は十分あると思う。「リケーブルに興味はあるけれど、踏ん切りがつかない」という人は、グランド分離というグレードアップも楽しめる事をキッカケに、リケーブルを始めてみるというのもアリだろう。

 バランス駆動のように“大ごと”にならず、しかし音質面で利点のあるグランド分離は、今後各社のアンプやヘッドフォンなどで採用例が増えていく可能性もあるので注目してほしいキーワードだ。今は“知る人ぞ知るグレードアップ方法”というイメージだが、誰もが気軽に様々な製品で試せるよう、メーカーには対応/非対応の明示やピンアサインの積極的な情報公開も期待したい。

(協力:OPPO Digital Japan)

山崎健太郎