レビュー

Androidスマホじゃない? 個性派ハイレゾプレーヤー「Acoustic Research AR-M2」を聴く

 ウォークマンやAKシリーズなど、ハイレゾポータブルプレーヤーが人気を集める一方で、「Xperia Z4」など、Androidスマートフォン単体でハイレゾ再生が可能なモデルも増えている。そんな中、Android OSを採用し、スマートフォンのような5型の大画面液晶を搭載しながらも、通話機能は無く、純粋なハイレゾプレーヤー……という個性的な製品が登場した。Acoustic Research(AR)の「AR-M2」だ。

Acoustic Researchの「AR-M2」

 「Acoustic Research」と聞いて「おっ」と思うのは、オーディオファン歴が長い人だろう。1952年に米国の作家エドガー・ビルチャー氏と、オーディオエンジニアのヘンリー・クロス氏によって設立されたブランドで、'54年に世界初のアコースティック・サスペンション・ラウドスピーカー「AR-1」、市販のドームツイータ幕開けとなる「AR-3」などを投入した往年のブランドだ。

 現在では、KlipschやMagnatなどと同様に、VOXXインターナショナルの傘下にあり、日本ではフロンティアファクトリーから発売されている。価格は138,000円だ。

スマホのように見えるけれど、手にするとズシリ

 スマホのように見えるのは、5型のディスプレイを搭載しているため。解像度は1,280×720ドット。OSもAndroid 4.3なので、パッと見は本当にスマホに見える。しかし、IEEE 802.11b/g/nの無線LAN機能は備えているが、3G/LTEなどには非対応で、SIMカードスロットも無い。

 内蔵メモリは64GB、microSDカードスロットも備え、最大128GBまでのmicroSDXCカードが利用可能だ。カードスロットはドアで保護されており、高級感がある。

再生中の画面
Android 4.3を搭載しているので、一見するとスマホに見える
側面のmicroSDXCカードスロットは、ドア付き

 端子は、底部にイヤフォン出力(ステレオミニ)、USB端子、ライン出力(ステレオミニ)を装備。上部の右側にボリュームダイヤル、左側面に曲送り/戻しや電源などのハードウェアボタンが並んでいる。ヘッドフォン出力は、630mW×2ch(16Ω)、327mW×2ch(32Ω)、35mW×2ch(300Ω)。

側面。ハードウェアボタンを備える
上部にはボリュームダイヤル
底部にはUSB、イヤフォン出力、ライン出力を装備

 外形寸法は136×70×15mm(縦×横×厚さ)、重量は240g。スマホに似ているので、最近の薄型・軽量スマホをイメージしながら手に持つと、「おっ!?」と驚く。ズシリと重い“金属のカタマリ”を手にしている感じで、10万円を超えるハイレゾプレーヤーとしての風格というか、凄みのある筐体だ。

 背面はつるっとした金属、前面は一枚ガラスで覆われ、側面もつるつるした仕上げなので、しっかり持たないと滑って落としそうになる。この重さだと、足に落としでもしたら飛び上がるほど痛いだろう。携帯時に何かのケースは必須だ。幸い、スマホに近いサイズなので、スマホ用のケースでピッタリ合うものが探せばあるかもしれない。

背面もツルッとしている

 内蔵バッテリの容量は4,200mAh。再生可能時間はDSD 128で7時間、PCM 192kHz/24bitで9時間。充電所要時間は4時間。画面が大きいというのもあると思うが、電池の持ちは今ひとつ。バックライトを暗くしたり、こまめに画面表示をOFFにするなどのセッティングをすると良いだろう。

DACは「PCM1794A」。特徴はボリューム

 DACチップは、TIバーブラウンの「PCM1794A」。5.6MHzまでのDSDやDXD、192kHz/24bitまでのFLAC、WAVなどのハイレゾファイルが再生可能だ。しかし、DSD/DXD再生はPCM変換となる。ALAC(Apple Lossless)、APE、AIFFの再生にも対応する。

 オペアンプはバーブラウン「OPA2134」を2基、プリアンプとローパスフィルタとして採用。ヘッドフォンアンプには、電流帰還型のTI「TPA6120A2」を採用している。コンデンサは大型タイプを多数搭載するなど、音質を重視した部品を選択したという。

DACチップには、TIバーブラウンの「PCM1794A」
TCXOは、44.1kHz系と48kHz系のそれぞれに、専用の発振子を搭載
ヘッドフォンアンプは電流帰還型のTI「TPA6120A2」

 ボリューム調整用に、OSとは独立した、ALPS製のオーディオ用アナログポテンションメーターを側面に装備。これがデザインのアクセントにもなっている。

ボリュームは、OSとは独立したALPS製のオーディオ用アナログポテンションメーターを装備

 CPUはQualcommのMSM8926。このCPUとAndroid 4.3の組み合わせは非常に安定しているという。動作はキビキビしており、アプリからホーム画面に戻ったり、アルバムを選択するなどの操作でもたつく事は無い。

 上部にアルバム、アーティスト、フォルダなどのメニューがタブのように並んでおり、それをタップすると下部にズラッと一覧が表示。中から再生したいものを選ぶというUI構成で、わかりやすい。大画面・高解像度も手伝い、ライブラリの閲覧性、操作性は良好だ。

 再生には、プリインストールされている「AR Music Prayer」というアプリを利用する。このアプリは、AR独自のオーディオパス(様々なオブジェクト指向プログラミングを通して音声データの流れを管理する)を搭載しており、Androidのオーディオフレームワークに属さず、通常の音楽再生アプリよりも高音質で再生できるとする。

「AR Music Prayer」の画面。フォルダモード
アーティスト一覧
アルバム一覧

 Android OSの設定画面に移動し、OSのボリューム調整をいじるとどうなるか試してみようとしたが、そもそもOSの音量調整自体が非表示になっており、アクセスできない。専用プレーヤーなので当然と言えるが、「AR Music Prayer」を使う事が前提で作られている製品だ。

 また、Google Playは利用できない。見た目が普通のAndroid端末なので、いろいろなアプリを入れて楽しみたいという人もいるかもしれないが、そうした拡張性よりも、音質だけを追求した、割り切りの姿勢を感じる。

Android OSのボリューム設定項目が無い

“濃い”音質

 音質チェック用には、e☆イヤホンのオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」や、カスタムイヤフォンの「Ultimate Ears 18 Pro」、ShureのSE535などを使用した。

 「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」(96kHz/24bit)を再生すると、非常に“濃い”音が出てくる。ボーカルはやや引込み気味だが、高域の伸びはバツグン。中低域が分厚く、元気のいいサウンドだ。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」(96kHz/24bit)を再生すると、先ほどの曲とは違い、ボーカルがグッと前に出てくる。アコースティックベースの音色がウォームで、音圧が豊かであるため、ブワッと押し寄せてくる低音にゆったりと身を任せるような心地よさがある。

 2曲に共通する面白い点は、中低域の音圧が豊かで、音像が前へ前へと出てくるパワフルさがありながら、不思議と音場自体は広く感じる事。普通ならば、狭苦しいサウンドになるのだが、恐らくパーカッションやシンバルなど、綺羅びやかな高音の音像が、意外なほど遠い位置に定位するためだろう。

 比較用にAstell&Kernの「AK240」で同じ曲を聴くと、ワイドレンジかつニュートラルなバランス。前へ乗り出していたAR-M2の音像や中低域が、後ろに下がり、大人しくなる。バランスとしてはAK240の方が“正しい”のだが、AR-M2の濃い音も個人的には嫌いではない。聴いていて楽しいからだ。

左からAK100II、AR-M2、AK240

 細かく聴き比べると、AR-M2の音には、高域に綺羅びやかな誇張感がある。低域もパワフルで、「Best of My Love」のような曲をボリュームを上げ目で聴いていると、頭蓋骨をズズンとゆすられ続けるような迫力が快感だ。やや膨らみ気味な低域だが、芯はあるので下品な低音にはなっていない。色で例えるなら、暖色系の、どこかホッとさせる傾向の音だ。

 モニターライクに、細かな音の描写をあますところなく聴き取りたいというニーズには、AK240のようなあまり個性の無い音の方が良い。薄味の料理の方が、素材の味が良く分かるのと同じだ。AR-M2の音は、それと比べると味付けが濃い目ではあるが、「濃すぎて素材の味がわからない」というほどではない。ベースとしての再生能力の高さがありつつ、少し濃い目なサウンドが楽しめるという印象で、逆にこのくらい個性があった方が、ハイエンドオーディオ機器らしくて良いと個人的には感じる。

 このAR-M2のサウンド、何かに似ているとずっと考えていたのだが、思い出した。ポータブルプレーヤーのラインアウトに、アナログのポータブルアンプを接続した時の音にソックリだ(接続ケーブルは銀線ではなく銅線)。

 「プレーヤー単体だと高解像度だけど、なんかサッパリし過ぎているなぁ」と感じた時に、馬力のあるアナログポタアンを追加し、ヘッドフォンをパワフルに駆動した時の“旨味をプラスした音”が、AR-M2では、プレーヤー単体から出ているわけだ。

 もし「たまには薄味が楽しみたい」と思った場合も、プレーヤーアプリに搭載されているイコライザで、60Hz、230Hzのバーを少し下げると“モニターっぽい音”にはなる。いずれにせよ、この個性を気に入るかどうかで評価の別れるプレーヤーだろう。

アプリのイコライザでカスタマイズも可能だ

個性的で面白い製品だが荒削りな部分も

 ARブランド初のハイレゾプレーヤーという事で、細かく見ていくと荒削りなところも見える。例えば、楽曲選択画面でアルバムから、アーティスト項目に移動した時など、画面の描画変化量が多い時に「ジジッ」というノイズがかすかに聴こえる。曲を選択し、再生がスタートする直前にも、かすかだがノイズが聴こえる時がある。

 音楽を再生していない時に、ボリュームノブを動かしてみると、「ゴソゴソ」というような音もする。ディスプレイが消画した時や、休止モードに入った時も「ボッ」という大きめなノイズが出る。

 また、底部にイヤフォン端子があり、上部右側にボリュームダイヤルがあるというレイアウトなので、胸ポケットに入れようとするとボリュームダイヤルが下向きになる。ダイヤルは回りやすく、少し回しただけでボリュームが一気に上がるため、ポケットと干渉してグルッと動いてしまうと、音が急に大きくなってビックリする。高感度なイヤフォンを使っている場合は、耳を痛めかねないので収納時は注意したい。

 ボリュームダイヤルをもっと回りにくい硬さにするか、クルクルと沢山回してボリュームを細かく調整できるようにして欲しかったところ。意図しないボリューム回転や、落下を防ぐためにも、ボリューム部分も覆うようなサイズの“持ち運び用ケース”を探すと良いだろう。

意図せず回ってしまいやすいボリューム

 なお、今回は5月26日に公開されたファームウェア2.1.0を適用した機体で試用している。このファームでは電源OFF時のポップノイズの改善などが行なわれたそうだ。上記の荒削りな部分も、今後のファームウェアで幾らかは解消されていくかもしれない。

まとめ

 デザインや操作性は良好、サウンドにも個性があって面白いプレーヤーだ。ただ、ライバルのプレーヤーと比べると、マニアックさが少ない点も気になる。例えば価格が近いAK100II(直販:109,800円)には、昨今のトレンドであるバランス出力が搭載されているが、AR-M2には無い。ハードウェアの変更は難しいが、Android OSをベースにしているのだから、ソフトウェア的なアプリの強化などはやりやすいだろう。ワイヤレス再生機能など、他社には無いような魅力も追加して欲しいところだ。

 138,000円という価格も、同程度のスペックのライバル製品と比べ、安いわけではなく、かといってAK240のような超ハイエンドプレーヤーほど高いわけでもなく……どっちつかずな価格設定だ。若いユーザーが中心のポータブルオーディオ市場においては、ARというブランドの知名度は必ずしも高くないだろう。ブランドを新たに売り込むという意味でも、もう少し手の届きやすい価格になればいいなと個人的には思う。いずれにせよ、機能や価格よりも、個性のある音に惚れ込んで買い求める、良い意味で“オーディオらしい”製品だ。

(山崎健太郎)