【レビュー】驚きのサブウーファ搭載、JVC「HA-FXZ200」を聴く

ダイナミック型の欠点を克服する意欲作


HA-FXZ200

 木の振動板を採用したイヤフォンや、ノズルの先端に配置できる超小型ユニットの開発、小型ユニットを縦に2個搭載したツインシステムなど、イヤフォンにおける新技術に積極的に挑戦しているJVC。その勢いを象徴するような、独創的な新機種「HA-FXZ200」と「HA-FXZ100」が、11月下旬に発売される。

 価格はどちらもオープンプライス。店頭予想価格は「HA-FXZ200」が25,000円前後、「HA-FXZ100」が18,000円前後と、高級イヤフォンの激戦区に挑むモデルでもある。

 2機種に共通するキーワードは“サブウーファ”。果たしてどんな音になっているのか、FXZ200をメインに試聴してみる。


 



■まさかのイヤフォンにサブウーファ内蔵

HA-FXZ200

 ソニーのXB(EXTRA BASS)シリーズや、オーディオテクニカのSOLID BASSシリーズなど、イヤフォン/ヘッドフォン市場の1ジャンルとして、重低音再生をテーマとした製品が存在する。また、先日レビューしたソニーの「MDR-1R」がそうであったように、現在の電子音楽において、低音のピークが従来の曲よりも低くなる傾向があり、そうした曲のビートをしっかり再生できるよう、重低音特化ではない、普通のヘッドフォン/イヤフォンでも、低音の再生能力強化が求められている。

 そうした流れも受けつつ、JVCから登場した「HA-FXZ200/100」には、なんとサブウーファが搭載されている。サブウーファと言うと、多くの人がホームシアターの床に置かれた、巨大な筐体を思い浮かべるだろう。シアターでは中低域~高域までをフロント/リアスピーカーが担当。サブウーファは重低音を担当する。この構成を、そのままイヤフォンに採用。重低音を専門にしたユニットを、中に入れようという発想だ。


裏返したところ。右と左が区別しやすい上から見たところイヤーピースを外したところ。ツインシステムユニットを搭載しているので、バッフル部分が縦長になっている

 重低音を専門のユニットで再生するには理由がある。ダイナミック型イヤフォンの場合、フルレンジスピーカーのように、1つのユニットで低音から高音まで出す製品が普通だ。しかし、イヤフォンの場合、低音をパワーアップしようと物理的に大きな口径の振動板を入れるにしても、そもそもサイズ的に限界がある。また、1つのユニットのシステムで低音を強調すると、中高域に低音がかぶったりして、他の帯域に影響が出てしまうという。低音はボンボン、ドンドンと力強く出ているが、高域がボワッと不明瞭で抜けが悪いイヤフォンも確かに存在する。

 そこで、既に存在するバランスの良い音に、後から重低音だけを適量追加できるサブウーファ方式であれば、音のクリアさを維持したまま、迫力あるサウンドが得られるのでは……というのが、基本的な考え方だ。

 サブウーファ用ユニットとして搭載されているのは8.8mm径の振動板。これに加えて、中高域を担当する5.8mm径ユニットを2つ縦に並べた「ツインシステムユニット」も内蔵。合計3つのユニットから放出された音がミックスされ、耳に届くという仕組みだ。

 これだけ聞くと簡単そうな話だが、8.8mm径ユニットをサブウーファとして使うためには、当然余分な中高域をカットするためのネットワーク(ローパスフィルタ)を入れる必要がある。しかし、イヤフォンの中に入るサイズで、100Hzより上の周波数をカットする素子が無かったという。

 そこで、アコースティックに、つまり構造的に中低域を落とす方法を模索。スピーカーのサブウーファで使われる、ユニットの前後を筐体でつつみ、開けたダクトから低音のみを取り出す「ケルトン方式」が採用された。

 だが、なにしろスペースの少ないイヤフォンの中での話。ダクトは注射針のように細く、長いものが採用された(共振周波数を低くするため)。金属の箱でサブウーファのユニットを覆い、その中から細いダクトを通って重低音のみを外に出す。ダクトは、前述の「ツインシステムユニット」のマウントプレートを貫通。音が耳穴へと放出されるノズルの手前まで到達している。


内部構造。赤い部分がダクトだ実際に内蔵されているダクトパーツカットモデル。左にあるツインシステムユニットのマウントプレートをダクトが貫通しているのがわかる

 説明されると、理屈はよくわかるし、理解もできるが、この小さなイヤフォンの中でそんな事をやってしまう創意工夫に、執念のようなものを感じてしまう。なお、JVCはこの機構を「ストリームウーハー」と名付けている。

 この変態的(褒め言葉)な構造は、知れば人に説明したくなる。幸い、ハウジングが半透明になっているため、側面を注意深く観察すると、細いサブウーファのダクトが外から見える。イヤフォン売り場に友人などと出かけた時は、「これがサブウーファのダクトだ」と説明すると盛り上がるかもしれない。

サブウーファ部分はデザインアクセントにもなっているサブウーファ部分の側面を見てみると、銀色のダクトが外から見える付属のキャリングケース

 



■音を聴いてみる

試聴の様子

 試聴にはiPhone 4S直接接続や、ハイレゾ対応のポータブルプレーヤーiBasso Audio「HDP-R10」を使用した。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、1分過ぎから入るアコースティックベースから、思い低音が砲弾のようにズドンと発せられ、頭蓋骨の中心にジーンと響く。これだけならば「低音が凄いイヤフォン」で終了だが、FXZ200が凄いのは、これほど重い重低音が出ていながら、ヴォーカルの高域だけでなく、中低域も、キッチリ分離して、埋もれず聴き取れる事だ。

 まさに、ホームシアターにサブウーファを追加した時の感覚と同じ。サブウーファのボリュームやローパスフィルタ設定を追い込み、既に存在しているサウンドに、地鳴りのような重低音“だけ”を隠し味のように追加したようなサウンドだ。

 高級イヤフォン市場では、高解像度なバランスドアーマチュア(BA)ユニットを採用した製品が多いが、対抗するダイナミック型は、その特徴を活かすため、低域を厚めに出すモデルが多い。だが、出し過ぎると中高域が埋もれてナローになり、高解像度でハキハキしたBAのサウンドと、中高域ではさらにクオリティの差が開くというジレンマがある。

 FXZ200の場合、ダイナミック型らしい量感のある低域を出しつつも、中高域の明瞭度は落ちていないのが優秀だ。また、BAと比較すると、音色に金属的なクセも少なく、ダイナミック型らしいナチュラルな高域を聴かせてくれる。ダイナミック型の特徴を上手く伸ばせており、個人的にかなり好きな音だ。


Shureの「SE535」と比較

 BAイヤフォンの人気モデル、Shureの「SE535」と、「ダイアナ・クラール/Temptation」で比較。冒頭のアコースティックベースの張り出しが、胸を圧迫するような量感で迫ってくるのはFXZ200。SE535は最低音はキッチリ沈むものの、量感は少なめ。ヴォーカルや背後のパーカッションの描写は、SE535の方が、音の輪郭にエッジが立ち、聴き取りやすい。細かな音まで掘り起こすような情報量の多さだ。FXZ200は、明瞭度では若干負けるが、細かな音は十分微細に描かれる。

 音色に注意すると、SE535はヴォーカルにもパーカッションにも、金属質の硬い色がついている。人間の声、特にサ行一番わかりやすいが、冷たく、かさついた音に聴こえる。FXZ200にすると、ロボットのようだった声が、血肉が通った人間らしい声になり「そうそう、人間の声ってこうだった」と頷ける。低音だけでない、ダイナミック型の良さの1つだろう。


JVCのモニターヘッドフォン「HA-MX10-B」

 また、サブウーファ搭載の第1弾でありながら、必ずしも重低音が“出すぎていない”ところが良い。「これがサブウーファのパワーだ!」と凄い低音を出しても良さそうなものだが、下品なサウンドにならず、「凄みをプラス」程度で我慢している音作りになっており、2万円を超える高級モデルとして、様々な曲に対応でき、長く楽しめるバランスと言えるだろう。逆に、「さぞや重低音が強烈に出てくるんだろう」と期待し過ぎて試聴すると、肩透かしを感じるかもしれない。より低価格なモデルで「出せるだけ重低音を出してみました」というモデルも聴いてみたいものだ。

 余談だが、JVCのモニターヘッドフォンで、個人的に好きな「HA-MX10-B」(実売約2万円)というモデルがある。モニターライクな正確さを持ちながら、締まりと量感のある低音を出して、「正確であると同時に、ミュージシャンが装着しながら気持よく演奏できるように」というテーマで作られた製品だ。メーカーが同じというのもあるが、FXZ200を聴いていると、このヘッドフォンの音に感覚が似ていて実に面白い。


 



■FXZ200との違いと、幾つかの不満点

「HA-FXZ100」。サブウーファを縁取るリングデザインがシルバーになっている

 実売25,000円前後の「HA-FXZ200」に対し、18,000円前後の下位モデル「HA-FXZ100」もラインナップされる。主な仕様は同じだが、FXZ200は、サブウーファを覆うパーツの素材に、比重の大きい真鍮を採用。FXZ100は、アルミを使っている。

 また、FXZ200はケーブルの芯線が、純銀でコーティングした銀コートOFC線。FXZ100は通常のOFC線となっている。再生周波数帯域は、FXZ200が5Hz~26kHz、FXZ100が6Hz~26kHz。その他は共通で、出力音圧レベルが96dB/1mW、インピーダンスが16Ω、最大許容入力は150mWだ。

 この素材の違いは、音質にも現れている。FXZ100はアルミの硬質なキャラクターが若干感じられ、音色のナチュラルさという面ではFXZ200の方が優れている。だが、FXZ100の音色は、独特の爽やかさを演出するものでもあり、高域の“突き抜け感”にも繋がってくる。疾走感のある楽曲では、こちらの方が好きだという人もいるだろう。FXZ200は、ヴォーカルの自然さ、アコースティックな楽器の温かみのある音色など、質感の豊かな再生を得意としている。

 これら2モデルとも、良い所が多い製品だが、幾つか不満点もある。1つは装着感だ。これは人にもよるが、サブウーファを搭載した事で、筐体は横に長く、耳に挿入するとかなり出っ張る。イヤーピースのフィット感が甘いと、イヤフォンの重みでじわじわ抜けてくる。大きめのピースを選ぶと良いだろう。


付属のイヤーピース装着したところ

 ケーブルに形状記憶のモールなどは入っていないが、耳の裏から引っ掛けるように装着する通称・Shure掛けをしてみたが、この方が安定する。自分の耳にピッタリ合うイヤーピースが別にあるという場合は、それを使ってみるのもアリだろう。付属ピースはシリコン製のS/M/Lのみ。もう少し形状や素材にバリエーションが欲しいと感じた。

 また、高級イヤフォンのトレンドである、ケーブル着脱ができないのも残念なポイントだ。この価格帯であれば、断線しても交換して末永く使いたいと思う人も多いだろう。また、リケーブルで音質の変化を楽しみたいというニーズもある。接点が増える事での音質への影響やコストなどの問題もあるとは思うが、今後のモデルでは対応を期待したいところだ。

 



■「イヤフォンにサブーファ?」と思った人に

 「サブウーファを搭載した」と聞くと、オーディオやイヤフォンに詳しい人ほど、「そもそも必要なの?」と、あまり良い印象を抱かないかもしれない。だが、逆に、そうした音に厳しい人にこそ聴いてみて欲しい。サブウーファの好き嫌いはひとまず置いておいて、新しいイヤフォンの音として、聴かずにスルーするのは勿体無いサウンドだ。

 ダイナミック型、BA型、どちらの音にも不満な点がある人にも体験の価値がある。もちろん、「低音が出過ぎている」、「BAには解像度が届かない」などの評価もあるだろう。個人的には、新技術を採用した第1弾製品ながら、高い完成度を持っている事を評価したい。

 この路線を突き詰め、例えばハウジングのスライドスイッチをいじると内部のノズルの長さが変わって、重低音の特性がアコースティックに調整できるとか、より変態的(褒め言葉)なモデルも欲しい。今後も、アッと驚く、マニアがニヤリとするような製品を期待したい。


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HA-FXZ200
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HA-FXZ100

(2012年 11月 9日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]