レビュー

最小ハイレゾウォークマンの確かな実力。ソニー「NW-A16」

microSDが嬉しい新機種。音質アップでサイズは小さく

ハイレゾの裾野を広げる新「ウォークマンA」

 新ウォークマンAシリーズ「NW-A16」、「NW-A17」が11月8日に発売される。昨年はハイレゾウォークマン「NW-F880シリーズ」と「NW-ZX1」を投入したほか、ホームオーディオも含めて18製品で“ハイレゾ”を強く打ち出し、ハイレゾブームを牽引したソニーだが、今年はハイレゾ対応製品を41機種に拡充。その中でも注目製品がこのNW-A16/A17だ。

ウォークマンA「NW-A16」

「ハイレゾで音楽を持ち出す」ための戦略製品と位置づけられたハイレゾウォークマンの入門機。内蔵メモリ32GBの「NW-A16」と64GBの「NW-A17」の2モデル展開で、価格は32GBモデルが25,000円前後、64GBが35,000円前後。カラーはカラーは32GBがシルバー、ブラック、ブルー、ローズピンク。64GBはシルバーとブラックのみ。

 最上位機「NW-ZX1」とミドルクラスとなる「NW-F880シリーズ」は併売され、エントリー機としてNW-A16/17が追加される形になる。入門機という位置付けのため、機能的には一部省略されている部分もあり、オーディオプレーヤーとして最大の省略点はDSD形式の楽曲に非対応という点だ。NW-ZX1/F880は、2.8MHzまでのDSDファイルであればPCM変換して再生できる。

 NW-ZX1/F880ではOSにAndroidを採用し、音楽プレーヤーだけでなく、動画再生やGoogle Playからのアプリ追加などに対応したマルチメディアプレーヤー。一方、NW-A16/17も動画/写真の再生は可能ではあるが、専用のOSを採用したシンプルな音楽プレーヤーといえる。

 上位機種には無いNW-A16/A17の大きな特徴といえるのが、「ハイレゾ対応で最小/最軽量」というサイズの小ささ、そしてmicroSDカードスロットの装備だ。これまでのハイレゾウォークマンではメモリ容量拡張ができなかったが、NW-A16/17では最大128GB対応のmicroSDスロットを装備し、内蔵メモリとあわせて最高で192GB(NW-A17)/160GB(NW-A16)まで容量を拡張できる。ハイレゾ音源は96kHz/24bitのアルバム1枚でも1GBを越え、MP3などの圧縮音源のように、手持ちの全ライブラリを転送するというわけにはいかない。こうした問題に困っている人にとっては、NW-A16/A17の登場は福音ともいえる。

 価格を見てみると、NW-A16(32GB)が25,000円、NW-A17(64GB)が35,000円。上位機といえるNW-F880シリーズは、16GBが24,500円、32GB 27,250円、64GBが36,680円とあまり変わらない。実際にF880シリーズと比較しながら、新ウォークマンAシリーズの実力を検証しよう。

型番NW-A16/A17NW-F880NW-ZX1
メモリ32/64GB
(microSD対応)
16/32/64GB128GB
microSD--
DSD対応-
PCM変換

PCM変換
アルミシャーシ-
Android-4.14.1
外形寸法
(縦×横×厚み)
109×43.6
×8.7mm
116.6×59.9
×8.5mm
122.8×60.7
×15.3mm
重量約66g約103g約139g
価格
(ソニーストア)
24,500円(32GB)
33,500円(64GB)
24,500円(16GB)
27,250円(32GB)
36,880円(64GB)
77,180円

小さくてハイレゾ対応。操作は5方向ボタンでタッチ非対応

付属品

 付属品はイヤフォンとWM-Portケーブルのみのシンプルなもの。イヤフォンは13.5mmドライバを採用したEXイヤフォンで、ノイズキャンセルに対応しているが、ハイレゾには非対応だ。

 筐体デザインは“1枚のプレート”をコンセプトとし、アルミダイキャストフレームを採用。デザイン面でも高級感があり、NW-F880より上位機という印象を残す。また、このアルミフレームは、剛性を高め、電気的なノイズなどに強い構造とするなど、音質面も考慮して採用しているという。

 外形寸法は109×43.6×8.7mm(縦×横×厚さ)、重量は66g。F880よりも小さく軽量で、世界最小・最軽量のハイレゾ対応ミュージックプレーヤーになるという。

WM-A16前面
背面にNFC
右側面にmicroSDスロットやHOLDスイッチ、ボリュームボタン
左側面
5方向ボタンとHOME、OPTIONボタンで操作

 ディスプレイは2.2型、320×240ドットのTFTカラー液晶。液晶下にHOME/BACKとPWR OFF/OPTIONの2つのボタン、さらにその下に90度に傾けた正方形状の5方向ボタン(四方向カーソルキー+中央の再生/停止ボタン)を備えている。

 従来のハイレゾウォークマン(NW-F880/ZX1)と異なり、タッチパネルには非対応。液晶下と側面のボタンで操作を行なう。

 右側面はボリュームボタンとHOLDスイッチ、microSDスロットを装備。底面にWM-Portとヘッドフォン出力を、背面にはNFCを内蔵し、対応スピーカーなどへのBluetoothペアリングを容易にしている。ストラップホールも備えている。

底面にWM-Portとヘッドフォン出力
上面
パッケージ

 NW-F880とサイズを比較すると、厚みはほぼ同じだが、幅が二回りほど小さく手に馴染みやすい。重量も66gとF880(約103g)よりかなり軽く、胸ポケットなどに入れた時の収まりもいい。

 F880だとスマホを二台持ちしているような感覚なのだが、NW-A16はスマホとは明らかに違う専用機を持っている、という感覚になる。サイズだけでなく、操作性が違うため、その印象は強く残る。

ウォークマンNW-F880との比較
横幅は大幅に違う。持ち易さはNW-A16が上だ
厚みはそれほど変わらない

転送はMediaGoから。DSD→FLAC変換で弱点をカバー

 再生可能なハイレゾファイルは、FLAC/WAV/Apple Losslessの192kHz/24bitまで。DSDの本体再生に対応しないという点がNW-F880/ZX1との大きな違いだ。また、ハイレゾだけでなく、MP3/WMA/ATRAC/ATRAC Advanced Lossless/AAC/AIFFの再生も可能となっている。

Media Go 2.8

 パソコンからの楽曲の管理/転送ソフトは「MediaGo」を利用する。Ver.2.8では新ウォークマンAに対応したほか、ソニーASIOドライバ対応製品もサポートした。ただし、ソニーの対象製品以外ではASIOでの利用が出来ないようで、ティアックのUSB DAC「UD-301」をつないでも対応デバイスとして認識されなかった。MediaGoの対応OSは、Windows Vista/7/8。

 Mac用には「Content Transfer for Mac」という転送ソフトを用意。また、ドラッグ&ドロップでの楽曲転送も可能なため、転送ソフトを使わずにウォークマンに楽曲転送を行なうこともできる。

 Media Go上の[ビュー]から[ハイレゾ]楽曲を絞込んで表示できる。音楽配信サービス「mora」も内包しているため、MediaGo上からmoraのハイレゾ楽曲購入し、そのままウォークマンに転送できる。

Media Goの[ハイレゾオーディオ変換]設定。高音質FLACなどが選択できる

 4.29GBのハイレゾ(FLAC)ファイルの転送時間は約12分。なお、NW-A16/17本体はDSD非対応だが、DSDファイルをMediaGoでウォークマンで再生可能な形式に変換し、転送できる。従来は、転送時にMP3 256kbpsに変換していたが、最新版の2.8では、変換形式に[高音質FLAC](最高192kHz/24bit)や[省スペースFLAC](44.1kHz/16bit)も利用可能となっている。

 変換音質は、MediaGoの[機器設定]で変更できるが、初期設定はMP3/256kbpsになっている。ハイレゾウォークマンユーザーであれば高音質FLACなどに変更しておくべきだろう。

 2.8MHzのDSDファイル(Suara/powder snow)をMediaGoで[高音質FLAC]を選択し、転送したところ、176kHz/24bitのFLACに変換しながら転送された。

 なお、MediaGoには[ハイレゾオーディオを変換しない]というオプションもある。これを選べばDSDファイルのまま転送されるが、当然だがこの場合はNW-A16側からはファイルが認識されず、再生できない。

DSDファイルが178.2KHz/24bit FLACで転送
DSDファイルを変換せず転送したが、ウォークマンから認識されず

 NW-A16/A17がDSD非対応なのは残念だが、MediaGoさえきちんと設定すれば、ポータブル利用時にはハイレゾFLAC変換し、持ち出すための手助けをしてくれるのは、細かな配慮なのだがすごく便利だ。DSD非対応という点も、MediaGoさえ使えればそれほど大きな問題ではないといえるかもしれない。もっともMacなどでは別の方法で解決する必要があるので、DSDのネイティブ転送/再生に対応しているに越したことはないのだが。

ハードウェアボタンによる操作性はすこぶる快適

ホーム画面

 ホーム画面には左上から、[おまかせチャンネル]、[FMラジオ]、[録音]、[フォト]、[ミュージック]、[ビデオ]、[ノイズキャンセル]、[ポッドキャスト]、[Bluetooth]、[各種設定]、[SDカード設定]、[音楽再生画面へ]のアイコンが並ぶ。今回は音楽プレーヤーとしての機能を中心に紹介する。

 スマートフォンに慣れた身としては、ついディスプレイをタッチしてしまうが、NW-A16/A17はタッチ非対応。液晶下のBACK/HOMEボタン、5方向ボタンで操作を行なう。4方向のカーソルで任意のアイコンを選んで、中央の決定ボタンを押すだけのシンプルな操作性なので全く迷う部分はない。操作の追従性も全く問題なく、サクサク動作する。

 側面にはボリュームボタンとHOLDスイッチを装備。電車が目的地に付いて降りる際など、再生停止→HOLDといった操作を本体を見ずに操作できる。

 筆者はタッチパネル操作のNW-F880を約1年使っており、操作に慣れているつもりでいたが、シンプルな操作性やハードウェアボタンの使いやすさなどで、NW-A16の操作性のほうがしっくりくる。細身で持ちやすく、ポケットなどに入れやすい形状など、取り回しの易さもNW-A16に軍配を上げたい。正直、少し使っただけでNW-A16に買い換えたくなってしまった。後述する検索性良さも含め、操作の快適さはNW-A16の大きな魅力と言える。

ミュージックの検索画面

 楽曲の検索もシンプル。[ミュージック]の楽曲検索方法として、アルバム、アーティスト、ジャンル、リリース年、プレイリストなどが用意されており、任意の項目で検索可能。また、楽曲再生画面で5方向ボタンの上/下を押すとアルバムアート(ジャケット)ビューとなり、ジャケット写真を見ながらアルバム検索が行なえる。約1週間テストしていたが、プレイリスト再生以外のほとんどの検索はこのアルバムアートビューを使っていた。

 検索中に操作中の階層がわからなくなった場合も、OPTIONボタンを押すと再生画面に戻れるなど、操作性の細かい部分までこなれていてとても使いやすい。リピートやシャッフル再生などにも対応する。

全曲
アルバム。アルバム文字数が多い場合は、写真のようにポップアップして全文表示してくれる
アーティスト検索
アルバムアート検索。個人的にはこれが一押し
再生画面

 操作で唯一困惑した点は、「つい画面にタッチしてしまう」ということ。前述のとおり、NW-A16はタッチパネル非対応なのだが、スマホやタブレットのタッチ操作に慣れた身からすると、使用開始後数日間はアイコンをタップしてしまう。もちろん、5方向ボタンの基本操作はシンプルで使いやすいのですぐに慣れるのだが。

 タッチパネル非対応ということで、少し不便を感じたのは早送りや早戻しだ。というのも、楽曲の任意の場所へスキップしたいときにタイムシークバーを使えないため。5方向ボタンの左右を長押しして、早送り/戻しする必要があるが、「サビはこのあたりだな」と一気に選択できないので少し不便だ。

 今回のようなテスト時には、他機種との比較視聴で多用するので若干不便に感じた。ただし、普段音楽を聴く場合は、曲の早送り/戻しの利用頻度は高くないので、それほど気にしなくてもいいかもしれない。

microSDカードを内蔵できる

 NW-A16の重要な強化点が、microSDスロットの装備だ。本体メモリだけでなく、最大128GBのmicroSDを追加可能で、microSDを複数持ち歩けばより多くの楽曲を持ち運べるようになる。これはNW-F880/ZX1などの上位機にない差別化ポイントだ。

 ただし、MediaGoからmicroSDへの楽曲転送を行なうためには、まずウォークマン側の[SDカード設定]-[使用メモリー選択]-[USB接続先メモリー選択]で[microSD]を選択する必要があり、MediaGoからmicroSDに転送を行なう。本体メモリからmicroSDへのコピーといった機能はない。

 また、最初にmicroSDを挿入する際にフォーマットを行なう必要があるので、他のデバイスでmicroSDを使っている人などは注意したい。

SDカード設定
初期化など選択
MediaGo転送前に転送先を本体/SDカードから選択

 転送が終わってしまえば、本体メモリに転送した曲もmicroSDの曲もシームレスに検索/再生でき、どちらに保存したかを意識することはほとんどない。

 microSD内の楽曲についての制限は、著作権保護楽曲がmicroSDに転送できないことと、本体メモリとmicroSDの両方の楽曲を使ったプレイリスト再生が行なえないことなど。「プレイリストをよく使う」という人は、注意が必要かもしれない。また、今回はTDK製の16GB microSDカードを使ったが、192kHz/24bitのFLACファイル再生時で、曲間にプチッというノイズが載ることが幾度かあった。

 メモリ容量を大幅に拡張できるのは、やはりありがたいし、複数のmicroSDを持ち運べばハイレゾでも自分のライブラリの殆どを持ち歩くことも可能になる。microSD対応は、間違いなくNW-Aシリーズの大きな魅力の一つといえる。

プレイモードやハイレゾ音質設定などが可能
再生ファイルの詳細情報も確認できる

ウォークマンらしいしっかりとした音質

付属イヤフォンはハイレゾ非対応

 ハイレゾ対応ということで、最も気になるのは音質だ。付属イヤフォンは、ノイズキャンセル対応の13.5mm径ドライバ採用EXイヤフォンなのだが、これは「ハイレゾ非対応」だ。ソニーでは、再生周波数帯域40kHz以上の製品(その中でも社内の聴感検査をパスしたモデル)を「ハイレゾ対応」としているため、この付属イヤフォンは非対応扱いとなる。

 そのためソニーでは、ヘッドフォン「MDR-Z7」や「MDR-10R」、イヤフォン「XBA-Z5」、「XBR-Z3」などの利用を推奨している。

 「ハイレゾ」がウリなのに、付属イヤフォンが非対応というのはちぐはぐな印象を受ける。ハイレゾ対応を第一に考えるのであれば、それらのヘッドフォン/イヤフォンを別途用意したほうがいい。

 ただ、とりあえず使う分には品質は充分だ。ダイナミック型らしい押出しのある中低域で、低域もタイト。高域の解像感も悪くない。個人的には、気に入ったヘッドフォン/イヤフォンが見つかれば、スペック上の「ハイレゾ」対応が必須とは思わないが、ただ後述するようにNW-A16/A17の音質をフルに体験したければやはりヘッドフォン/イヤフォンを変えたほうがいい。付属のEXイヤフォンは、スペック上はハイレゾ対応ではないが、より高音質なハイレゾ対応イヤフォン/ヘッドフォンを探す場合のひとつの基準になるレベルにある。

 とはいえ、せっかくのハイレゾ押し製品なので、付属イヤフォンがハイレゾ非対応というのは、消費者向けのメッセージとしては中途半端な印象も受ける。

ハイレゾ音響設定は[ソースダイレクト]

 今回は、e☆イヤホン/城下工業の「SW-HP11」、Shure「SRH940」、ソニーの「MDR-1R」などのヘッドフォンを中心にテストした。なお、NW-A16には、独自の高音質化技術「ClearAudio」や高域補間技術「DSEE HX」、ノイズキャンセル(NC)などの音質設定が用意されているが、すべてOFFにし、[ハイレゾ音響設定]では[ソースダイレクト]にした。

 高域の分解能が高く、制動力と深みのある低域など、基本的には従来のハイレゾウォークマンの印象と大きく変わらない。25,000円できっちりハイレゾを転送/再生できて、この品質で楽しめるというのはとても魅力的だ。ハイレゾを十分楽しめるポテンシャルがあることは、一聴してわかる。

 筆者は普段NW-F880シリーズを使っており、最初はあまり変わったように感じなかったが、いろいろな種類の楽曲を聞いていると、違いがわかるようになってきた。

 一番わかりやすいのは低域の量感が増し、さらにバスドラムの制動力やキレも増したところだ。ダフト・パンクの「Lose Yourself to Dance」などの低域の迫力はNW-16が上回っており、「Giorgio By Moroder」のシンセベースの太さも強烈で、輪郭がくっきりしている。

 ボーカルの定位感なども違いが感じられる。ジョニ・ミッチェル「Both Sides Now」では、ストリングスとボーカルの奥行きの違いがNW-A16のほうがきっちりと感じられた。

ハイレゾファイルを示す[HR]のマーク
CD音源(44.1kHz/16bit)には[HR]が付かない
44.1kHz/24bitのFLACもハイレゾ認定の[HR]

 特に低域を中心とした音質強化は、電源周りの強化の影響と思われる。NW-A16/A17では、電源用ケーブルをZX1でも使われていた低抵抗ケーブルとしたほか、安定した電源供給を可能にする厚膜銅箔プリント基板、さらにアンプのS-Master HXの電源にZX1と同様にPOSCAPというコンデンサを採用するなどで、電源関連を中心に音質改善を図っているという。

NW-A16ではアルミシャーシの採用や電源強化で音質を向上

 A16とF880の違いが一番良くわかったのは、コーネリアスの「SENSUOUS」(96kHz/24bit FLAC)を聞いた時。サウンドデザインがユニークで、数は少ないものの、激しくパンニングされ、あちこちにめまぐるしく音が移動していく音源だ。「Fit song」を聞くと、ギターのカッティングのキレやテクスチャの違いからA16の分解能の高さを感じさせ、さらに左から右にパンされるギターの定位感も明らかに違う。また、バスドラの深さや音のキレも、A16のほうが上回っているように聞こえた。

 NW-A16のほうが一つ一つの音が明瞭で、ビシッと定位しているのだが、聞き慣れたF880からA16に変えると、音の素材がよりバラバラに解体されたような印象を受ける。マスタリングが異なるCDを聞いているような違いに感じられた。

 カジュアルな音楽プレーヤーだが、音は間違いなく本格派。ハイレゾ入門機という位置づけではあるが、NW-F880よりも音質は上と感じた。DSDの本体再生にこだわらなければ、かなりお得度は高いといえる。もっとも、NW-F880と併用しているとアルバムアートの美しさだったり、タッチパネルを使ったタイムシークバーでの操作など、F880ならではの良さも感じる。

 また、ウォークマンの伝統ではあるが、10mW×2ch(16Ω)と出力はそれほど大きくないため、能率の悪いヘッドフォンやより大音量で楽しみたい、と言った人にはヘッドフォンアンプや他のハイレゾプレーヤーのほうが適しているだろう。

DSEE HXも効果あり。NCかハイレゾか

DSEE HX

 A16/A17シリーズのハイレゾ以外の高音質化機能として注目したいのは「DSEE HX」。帯域拡張技術とビット拡張技術により、MP3などの圧縮音源を最高192kHz/24bit相当にアップコンバートすることで、ハイレゾに近づけるというもの。DSEE HXは、ハイレゾ以外のファイルでは効かないので、普段ONにしておいてもいいのだが、バッテリ再生時間が短くなるという問題はある。

 効果の大小はコンテンツ次第で、それほど顕著な違いがわかるというわけではないが、いくつかのコンテンツでは効果が感じられた。DSEE HXをONにして、CD(44.1kHz/16bit)をFLACリッピングしたジェリー・マリガン/Night Lights(1963 version)を聞くと、テープのヒスノイズが明確に粒立って聞こえ、雰囲気が少し変わる。アコースティック系のライブ録音音源などで、効果があるように感じられた。

おまかせチャンネル

 再生系の機能も充実しているが、普段使いで便利なのは、「おまかせチャンネル」。ソニー独自の12音解析機能で楽曲を「ダンスフロア」、「夜のおすすめ」など自動プレイリスト化し、気分に合わせて再生できるというものだ。BGM的に音楽を聴きたいときなどには重宝する。また、NFCやBluetoothも装備し、対応スピーカーとのワンタッチペアリングやBluetooth出力にも対応している。

 ソニーウォークマンの特徴であるノイズキャンセル機能も搭載。NC効果はフルオートと[電車・バス]、[航空機]、[室内]が選べる点は従来のウォークマンと共通だ。NC効果も充分なのだが、最近のイヤフォンはかなり遮音性も高く、飛行機のような本格的なNC用途だと、オーバーイヤーヘッドフォンのほうが効果は大きい。もちろんNCが便利なシーンもあるのだが、付属のNCイヤフォンではハイレゾ非対応だ。ハイレゾを取るのか、NCを取るのかを判断しながら使い分けるのは、やや億劫にも感じる。

ノイズキャンセル設定
環境選択

 動画ファイルの再生にも対応。MPEG-4 AVC/H.264のmp4/m4vや、MPEG-4 Simple Profileの動画、MWV9の再生も可能。JPEG静止画も表示できる。また、ソニーBDレコーダからウォークマンへ「おでかけ転送」にも対応。ただし、おでかけ転送ができるのは本体メモリのみで、microSDカードには番組転送できない。

 バッテリ駆動時間は、ハイレゾ再生時で約30時間。F880の17時間、ZX1の16時間を大幅に上回っており、MP3であれば50時間の再生が可能となる。毎日の通勤電車程度であれば、数日充電を忘れても大丈夫だ。

 また、AndroidベースのF880では、Wi-FiやBluetoothをONにしておくと、音楽をほとんど聞かずに持ち歩いているだけでも、数日でかなりバッテリが減ってしまうが、NW-A16はそうした待機時のバッテリ消費が少ない。この辺りも専用機ならではの魅力といえる。

ハイレゾ音質はもちろん、多くの人にオススメできる音楽プレーヤー

 昨年来の「ハイレゾブーム」の中、老舗オーディオメーカーのポータブルアンプ/DAC参入や、バランス対応のハイエンドのハイレゾポータブルなど、高付加価値、高価格帯の製品を中心に選択肢は大幅に拡大している。3~5万円程度の比較的安価なポータブルアンプもかなり増加した。

 しかし、単体のハイレゾプレーヤーという点では、AシリーズやF880シリーズを含むウォークマンが最安クラス。これまでウォークマンやiPodを使っていた人が、気軽にハイレゾを試せる製品として「NW-A16/A17」の2.5~3.5万円という価格はとてもリーズナブルだ。

 iPodの新製品投入がほぼ無くなった現在、直接の競合といえるのはウォークマンF880だろう。小型/軽量でシンプルな音楽プレーヤーの「NW-A16/A17」か、Androidを採用してメディアプレーヤーとしての機能が豊富な「NW-F880」といった比較になるが、音楽専用機と考えると音質やmicroSD対応などでNW-A16のほうが魅力的に感じる。他社製品でも、AKシリーズの最安モデル「AK100 MKII」(税込み78,994円)やiBasso「DX90j」(約54,500円)、「FiiO X5」(約49,800円)などもあるが、価格帯的にはやや離れている。

 それより、ドコモのAndroidスマートフォン冬モデルが全7機種でハイレゾ対応したように、最新スマホの多くがハイレゾ対応となってきている。競合として考えるのはスマホなのかもしれない。e-onkyo musicがスマホからの直接楽曲ダウンロードに対応したように、今後ハイレゾ配信のスマートフォン最適化も進んでいくだろう。

 しかし、内蔵メモリやmicroSDのほぼ全てを音楽に割り当てられること、小さなボディサイズなど、ウォークマンAには専用機ならではの良さが確実にある。ポータブルで音楽を聴く機会が多い人にはやはり専用機というのはとても魅力的だ。

 ハイレゾ入門者はもちろんだが、スマートフォンとは別の専用プレーヤーが欲しいという人や、ウォークマンやiPodからの買い替えにもしっかり応える確かな音質や操作感。それをリーズナブルな価格で提供しているという点が、ウォークマンA「NW-A16/A17」の最大の魅力といえる。

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臼田勤哉