◇ 過去の連載 ◇
【Watch記事検索】

本田雅一のAVTrends

【CES】ソニー北米テレビ市場巻き返しのシナリオ

〜北米市場Samsung快進撃の背景



 海外の情勢にあまり興味がないという読者は、日本のメーカーは世界一で、国内の力関係が、そのまま世界市場での序列になっていると思っている方もいるかもしれない。あるいは、そこまでは行かなくとも、日本の電機メーカーは常にナンバーワンを争っているはずだという方は少なくないのではないだろうか。

CES2010のSamsungのLED TV展示。LEDバックライト搭載液晶テレビを新世代の「LED TV」とブランディングしてシェアを向上

 もちろん、“製品の質”という意味では、日本の家電製品は、どれをとっても海外のほとんどのメーカーに対して高い競争力を持っている。しかし、実際の販売シェアとなると話は別だ。今さらこのような事を書くのは、意外にも韓国企業を過小評価している日本人が多いと常々感じているからだ。

 たとえばテレビで言えば、Samsung(サムスン)のテレビは日本メーカーのものよりも画質はやや落ちる。しかし機能面ではほぼ同等で、部分的には日本製のものより進んでいる部分もある。たとえばDLNA 1.5のDMR(デジタルメディアレンダラー)に最初に対応したのは、サムスン製テレビだった。

 加えて低価格モデルでも、上位モデルに近いデザインや各部質感が与えられているのも特徴で、サムスンブランドが日本以外ではイメージが高いことも加わって、上のラインナップからバリューモデルまで高い満足度を演出した製品が多い。

 一昨年、北米で25%前後のシェアを持っていたソニーは、昨年前半は、18%台にまでシェアを落としたというのだから、単純にブランドごとのイメージや商品力だけでなく、何か異常な事が起きていたことは間違いない。

 いったい、なぜこのような事が起きてしまったのか。

 


■ LEDバックライトを”先進カテゴリの開拓”と見せたサムスン

 昨年、サムスンが世界中でシェアを大きく伸ばした理由のひとつは、LEDバックライトを採用したテレビにラインナップを統一し、しかも従来のテレビとは異なる世代の製品と位置付けることに成功したからだ。

 LEDを液晶のエッジに配置したエッジライト構造は、一昨年、ソニーがZXシリーズとしていち早く市場に投入したが、デザイン性の高さが評価されたものの、一方で高い価格が敬遠された面もあった。ところがサムスンはエッジライトによる超薄型化を、“全く新しい表示デバイス”のように店頭で見せる営業手法を採用した。

 これを量販店側も受け入れ、プラズマ、液晶とは別のLEDテレビとして別カテゴリの展示を行なったのである。またサムスンは上位モデルだけでなく、バリューモデルにもLEDを用いた薄型デザインを採用。バリューモデルは当然、コストを削減した画質や機能にも制限があるモデルなのだが、LEDテレビという“先進デバイス”を手軽に購入できるということで、シェア拡大に大きく貢献したのだ。

 日本メーカーとの対比では、このことで特にソニーから多くのシェアを奪った。パナソニック・ノースアメリカの北島社長が話していたように、プラズマテレビを購入する顧客はプラズマテレビしか最初から買うつもりがないなど、テレビのカテゴリごとに顧客層がキレイに分かれているからだ。

米ソニーエレクトロニクスでテレビを担当する松尾俊宏氏

 そのソニーとの比較では、ソニー製主力機(CCFL:冷陰極管モデル)はサムスンLEDテレビの上位モデルより安いが、下位モデルよりは高いという挟み撃ちの構図になった。ソニーは240Hz表示によるモーションフローの効果を訴求したのだが、“古いLCD TV”と“新しいLED TV”という図式の中で価格も安くないとなると、負けてしまうのも致し方ない。

 米ソニーエレクトロニクスのテレビマーケティング・ジェネラルマネージャー松尾俊宏氏は「シェアが落ちるからといって安売りはしないという方針でやったことも、シェア低下の一因」と話すが、さすがに18%まで下がると危機感が広がる。

 そこでソニーは二つの対策を施し、昨年後半のシェアを一昨年並の25%前後まで回復させた。 


■ ソニーテレビシェア回復への取り組み

 まず商品説明ができる販売チャネルに対しては、CCFLバックライトがLEDに対して劣るものではないこと。むしろ240Hz駆動で動画ボケを抑えた方が、よりキレイな画質を楽しめることなどを説明した。専門性の高い地方量販だけでなく、全国規模の家電量販店でも店員教育のプログラムを強化して、240Hz駆動の良さを改めて訴えた。

 またエッジライト採用の液晶テレビは、画面のサイドにバックライトが配置されるので、いずれも額縁が大きくなる。超薄型の反面、額縁周りのデザイン自由度は低く、その点を突いてCCFLならではの狭額縁を活かしたデザインも訴求した。

 もうひとつは販売戦略だ。アメリカは2,000ドル程度の製品がよく売れる。2,000ドルクラスは主に40〜42インチモデルが並ぶが、サムスンは2,000ドルより少しだけ上の値段にLED下位モデルの46インチの価格を戦略的に持ってきた。

 2,000ドルの予算でテレビを探している消費者が、ほんの少し予算を上積みすれば46インチモデルが買える。しかもLED TVで超薄型だから上位モデルに近い製品としての存在感もあり、決して安物とは思われない。

 これに対して行ったのが流通とのコミュニケーションの深化で、西田宗千佳氏の記事にもあるように、ソニー記者説明会における河野氏のコメントにつながる。すなわち製品バンドルセットなどの企画ものを増やすことによるプロモーションの強化だ。

 たとえばベストバイやシアーズといった、全米に多くの店舗を持つ量販店とは、常にデータ共有を行ない、どんな商品の企画が販売増に繋がるかを考えつつ、バンドルパッケージやセールの企画を立てている。

「複数製品のセット商品というと、これまでは売れない商品を処分するため、苦し紛れに売れる商品と組み合わせて売るというものばかりだったが、顧客ニーズに合わせて計画的にバンドルを行なったのが勝因(松尾氏)」。PlayStation 3の新型に合わせ、HDでゲームを楽しむセットとして販売したり、Blu-ray内蔵ホームシアターセットとのバンドルで映画好きに訴求するといった具合だ。

 今年の製品はこれらのノウハウを活かしたものになっている。LEDバックライト化はしているが、LED TVという訴求は行わない。“LEDだから良い”ではサムスンには追いつけないからだ。前面を1枚ガラスとして、液晶パネルとガラスの間を樹脂で埋めることでガラス表面に映像が浮かび上がるデザインを採用しているが、これもLEDではなく“モノリシックな一体感あるデザイン”を鍵としてプロモーションし、ソニーならではの独自性を出していく。

 昨年は先進的イメージやデザイン性などでサムスンに大きく水を空けられたソニーだが、今年は昨年後半に実施した挽回の戦略をさらに推し進め、製品そのものにもデザインや機能として組み込むことで巻き返そうとしている。

新BRAVIAシリーズではモノリスのようなデザインを訴求

 


■ Blu-rayプレーヤをマルチなメディア再生プラットフォームに

米ソニーエレクトロニクスでBDを担当する長尾和芳氏

 一方、Blu-ray関連機器に関しては、業界全体が期待していたほどの伸びはなかったと、ソニーエレクトロニクス・ホームビデオ/オーディオ商品企画グループディレクタの長尾和芳氏も素直に認める。レコーダ中心の国内市場とは異なり、あくまでもプレーヤー商品が中心という中、昨年対比2倍の成長を見込んでいたが、実際には1.6倍程度に留まった。

 この原因について長尾氏は「映像ソフトの価格がやや高いかもしれない。DVDソフトの値段が下がっていく過程で、Blu-rayソフトは同じペースでは下がっていかないため、割高感があるのかもしれない」と話す。

 一方でプレーヤー価格は順調に下がり、すでに“特別な存在”ではなくなってきており、さらなる普及に向けての準備はできているという。先ほどの1.6倍という成長規模はPlayStation 3やホームシアターセット、400枚BDチェンジャーなど純粋なBDプレーヤ以外のカテゴリを含まないモノだが、PS3に低価格な新型が登場して飛躍的に販売が伸びたことや、Blu-ray再生機能付きホームシアターセットの割合が大幅増となったことを合わせ、Blu-rayソフトを再生可能な製品の普及台数は、昨年比2倍以上、3倍近い数字になっているのではないか? と長尾氏は話した。

 一方、ハリウッド映画スタジオ方面からは、プレーヤーの普及ペースに対してソフト売り上げの上昇ペースが小さいという不満も出ている。これについて長尾氏は旧作ソフトの売り上げが伸びていないことを指摘する。

「VHSからDVDへの移行時、DVDプレーヤーではVHSソフトが楽しめませんでした。画質や利便性も違ったので、ユーザーはお気に入りの旧作映画を買い直していました。ところがBDプレーヤーはDVDソフトも再生できます。BDソフト売り上げに関して言うと、新作映画は予想以上にBDへのシフトが進んでいる反面、旧作映画はDVDでも構わないという方が多く、トータルのボリュームが期待値に達していないのです(長尾氏)」

 一方、Blu-rayプレーヤーの3D対応に関しては、CESで発表した3モデル中1モデル、ホームシアターセットに1モデル、3D対応の製品を用意しているが、まだマーケティング上の中心にはならないと考えている。

3D対応BDプレーヤー「BDP-S770」 3D対応のBlu-rayシアターシステム「BDV-HDZ970W」

 ソニーは放送、ゲーム、映像ソフトの三本柱で3Dテレビを推進しているが、BDプレーヤーに関しては3D対応BDソフトのタイトル数が揃ってから3Dモデルの展開幅を拡げる。BDプレーヤーに関しては今年、3D対応よりもネットワーク対応を幅広く進めるつもりだ。

「BDやDVDを見る人というのは、毎日映像を楽しむのではなく、週末にソフトを楽しむ人が多い。言い換えれば、週に1〜2回しか使わない人がほとんどなのが、BDプレーヤーという商品です。でも、それでは存在感が小さすぎます。ネットワークコンテンツへ対応は、BDプレーヤを週に数度のウィークリーエンターテイメントマシンから、毎日使うデイリーエンターテイメントマシンへと脱却させることができると考えています(長尾氏)」

 現在、米国で販売されている映像ディスクプレーヤーのうち40%がBDプレーヤーとのことだが、ネットワークコンテンツへの対応により、これを50%以上にまで引き上げられると長尾氏は予想した。

 単にDLNA対応やYouTubeなどのネットコンテンツ対応を行うだけでなく、ネットワークへの接続性を高めるためにWi-Fi内蔵モデルを用意したり、CD再生時に曲のメタ情報をネットワークから取り込み、再生中楽曲のアーティストに関連する動画をインターネットからリストアップ。ビデオ再生へとつなげたり、関連CDの試聴へとつなげるといった取り組みを新製品には盛り込んでいる。

 北米では一部の放送局が、番組放送後の4〜6時間後にはインターネット経由でテレビ番組をオンデマンドで見ることを可能にするサービスが開始しているとのことで、インターネットコンテンツとの連携が、今後のBDプレーヤーには必須になっていくと考えているという。

 さらにネットワークへの接続率が向上することを見越して、今年モデルのBDプレーヤーにはiPhoneやAndroid向けのリモコンアプリを用いてプレーヤーをリモート操作する機能も入った。リモコンアプリはプレーヤーの発売に合わせて無償配布する。

新BDプレーヤー「BDP-S570」 iPhone/iPod touch用アプリからBDプレーヤーを操作可能に
(2010年 1月 13日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]