本田雅一のAVTrends

4K/UHD対応、HDRサポートの「次世代BD」が目指すもの

次世代BDでTVも変わる? 色域やデジタルブリッジ拡張も

 今年始めに4K対応ブルーレイディスク(4K BD)の規格化が進んでいるとの記事を書いてから、もう9カ月が経過した。いったい、アレはどうなったんだ? と訝しんでいる方もいるかもしれない。

 また、これからの時代は4K映像もネット配信で十分ではないか? といった議論も出ているかもしれない。しかし、ネット配信では4Kの領域はもちろん、フルHD映像に関しても高品位にすることは(最新の圧縮方式をもってしても)、できない。実際、4K映像配信は北米でいくつかのサービスが始まっているが、映像ビットレートが低く、大画面に見合うだけの高品位化はなかなか難しい状況だ。

 画素数を増やしただけで画質が死んでしまうのであれば、なんのための4Kかという話になる。ネットからあらかじめHDDにダウンロードしてから再生する配信方法ならば対応も不可能ではないが、一度ダウンロードした映像データの取り扱いを含めたリーズナブルさという意味で、光ディスクは未だにその役割を終えていない。

 これまで4K BDと呼んでお伝えしてきた新規格は、より高効率のHEVCを用いることで高品位な4K映像に対応するのはもちろん、いくつかの“仕掛け”を用意して次世代の映像流通インフラになるよう工夫を施している。ひとつはメディアブリッジと呼ばれるBDコンテンツを光ディスクという物理メディアの呪縛から解き放つ技術、もうひとつはHDR(ハイダイナミックレンジ)への対応だ。

 便宜上、これまで4K BD(Blu-ray Disc Association[BDA]内部ではUltra HD BDと呼ばれている)と表記してきたが、進化の方向は解像度だけではない。たとえば従来通りのフルHD解像度の映像ディスクに、メディアブリッジ機能を追加するといった仕様も含まている。

 このため本稿では4K BDではなく「次世代BD」と表記して紹介することにしたい。

 まだBDAから詳しい情報は発表されていないが、規格の概要設計は7月には終了しており、各社は来年(おそらく後半と予想される)の発売を目指して開発を進めている模様だ。

 IFA会場で次世代BDを担当しているパナソニックハリウッド研究所ヴァイスプレジデントのロン・マーティン氏に次世代BDに関する話を伺い、規格化の状況を確認した。マーティン氏によると、次世代BDAのスペックは内部で大枠がすでに決まっており、近く仕様をホワイトペーパーとしてBDA会員外にも公開できる見込みとのことだ。

次世代BDの概要

 これまで、筆者は物理的な光ディスクとしてのスペックは従来のBDと同程度で、新たに映像圧縮コーデックとしてHEVCを採用するだけだと考えていたが、どうやら物理フォーマットのスペックも、このタイミングで更新されるようだ。従来までの2層50GBに加えて、2層66GB、3層100GBまで増量したスペックが追加される。3層ディスクの量産も関連する二社が十分な生産性を確認しているという。

 また転送レートも強化され、2層50GBの場合でも82Mbpsまで増速される。2層66GBと3層100GBでは108Mbps超まで転送レートが高められる。“超”というのは、ディスク回転速度増速による高速化も視野に入っているためだ。これならば、HEVCによる圧縮効率向上と合わせ、ネット配信とは根本的に異なる高画質映像を配信できるだろう。108Mbpsは通常のBDの2倍のレートであり、4K HEVCでの高画質化に十分耐えられるピークレートを得られる。

 次に映像フォーマットも格段に改善される。HEVC採用はもちろんだが、YCrCb(4:2:0)各10bitの画素フォーマットに対応したことで、従来BDの問題だった階調表現の破綻などが大幅に改善される。実写映画などでも大きく効き、アナログ記録の映画のような自然な描写が期待できるが、アニメーション作品ではそもそも階調破綻が起きやすいため、より大きな違いとして実感できるだろう。大多数の映像作品は10〜12bitのマスターを持っているので、その品質をそのまま引き出せる。

 解像度はフルHD(1,920×1,080画素)とウルトラHD(3,840×2,160画素)。デジタル映画規格の4K(4,096×2,160画素)はサポートされないが、家庭向けの4KディスプレイはウルトラHDが中心であり、ここは問題にはならないはずだ。4K映画の世界では、高精細さを活かすためにフレームレートを向上させるHFR(48FPS化)採用の動きもあるが、発表された次世代BDの規格に毎秒48フレームは入っておらず、その代わりに60フレームが使われている。

 毎秒48フレームのHFR映画は、これまでに映画「ホビット」シリーズを撮影しているピーター・ジャクソン監督しか使っていない。CGのコストが大幅に上がってしまうこともあり、HFR映画の製作予定がないため次世代BDには盛り込まれない。もっとも毎秒60フレームが盛り込まれているため、実質的な問題はないと思われる。

 映像フォーマットでもっとも注目したい点は、色再現域とダイナミックレンジが拡大されることだ。すなわち、動画に含まれる1枚1枚の絵の表現幅が広がるのだ。これまでの映像技術は解像度の向上が中心だったが、ここで別軸での表現力拡大が図られる。

 テレビ映像はBT.709という規格にそって色情報が収められている。これはDVDもBDも同じで、次世代BDでもBT.709の利用は可能だが、加えて4K映像にはBT.2020というBT.709の倍以上の広色域を再現できる規格も選ぶことが可能になった。BT.2020の採用は4K映像の国際標準と同規格だ。

 さらに、HDR(ダイナミックレンジ拡張)も利用でき、次世代BDソフトは収録されている映像がSDR(通常ダイナミックレンジ)なのかHDRなのかをあらかじめ指定しておける。SDRとはBT.709で規定されている最大100nit(明るさの単位。ここではどれだけ眩しい光を収録できるかを示す尺度として考えて欲しい)の範囲で表現してきた従来の映像のことを言う。

 この場合、強烈な光源をSDRで表現できる範囲に収めるため、高輝度部を圧縮(たとえば、実際には10000nitであるべき光を100nitにする)することで収めており、映像表現上の制限となってきた。そこでこれまでの100nitという明るさ上限を引き上げ、現代のディスプレイ(テレビ)が表現できる輝度を活かせる明るさ特性を持たせよう、というのが次世代BDのHDR対応だ。

HDR再生には特殊なテレビが必要になる?

 もう少し具体的に掘り下げてみよう。

 劇場用映画やBD/DVDあるいは放送用マスターとして出荷する場合、映像作品は規格通りの最大100nitにダイナミックレンジが圧縮される(映画の規格では最大輝度48nitだが、作られる映像はほぼ同じと考えていい)。しかし、昨今のデジタルプロセスではダイナミックレンジを圧縮する前のHDRデータも扱うことができる。ネガフィルムからスキャンする場合はもちろん、デジタルシネマカメラにもHDRを扱うための輝度カーブが用意されており、後編集で最終的なダイナミックレンジの切り出しを決められるようになっている。

 たとえば明るい日差しが窓から差し込む灯りをつけていない部屋を撮影するとき、太陽の光で照らされた窓の外も、暗く沈んでいる室内もHDRで記録しておき、後処理でバランスを決められるようにしている。このようなHDR情報を含んだマスター(HDRマスター)は、最大4000nit程度までの情報が収められている。BDのHDR規格ではテレビ技術のトレンドに合わせる形で、1000〜2000nit程度(どのぐらいかは検討中とのこと)までを表現できるHDRデータとして収録する。

 すなわち色にしろ、ダイナミックレンジにしろ、単に容量が大きくなるだけでなく、“映像を収める器”としてより大きくなるのが次世代BDと言えるが、気になるのは既存テレビとの互換性だろう。

 映画監督を含む映像クリエイターは、家庭向けにHDR映像を作ることにも興味を持っている。前述したように、特性上ダイナミックレンジが広いネガフィルムはもちろん、デジタルシネマの場合でもセンサーが捕らえているダイナミックレンジは、一般的な映像コンテンツに収められている以上の情報があり、デジタル製作プロセスではHDRデータを扱うこともできる。HDRマスターがあるのなら、それをそのまま映像ソフトとしてリリースしたい。

 ただし、HDRを表現するにはディスプレイ側が対応しなければならない。高輝度部分が画面全体になることはほとんどないが、それでも通常ダイナミックレンジの10〜20倍の明るさが表現されているとき、それをディスプレイ上でどのように再現するかの工夫は必要だからだ。この対応は液晶テレビであれば、ローカルディミング機能を用いてバックライトの一部のみを極端に明るくすることなどで表現することになる。

 なお、実は同様の仕組みを「Dolby Vision」の名称で、今年1月のCESでドルビーがデモンストレーションを行なっていた(シャープのブースで展示されていた)が、次世代BDに採用されたものはドルビー独自の技術ではなく、BDA内で、SMPTEやMPEG等の、すでに国際標準として存在している技術を組み合わせて実現させるという。

 これら技術仕様はすでに仕様が固まり、標準規格として決定される見込みとのこと。言い換えれば、家庭向けHDR映像の標準がここで定まるということだ。映像規格の標準が決まれば、今度は対応するディスプレイが登場し始める。将来この次世代BD標準に準じた、HDR対応液晶テレビが登場してくることになる。

 ということで、HDR対応ソフトに対応するにはHDR対応テレビが必要になる。ただし、HDR対応ソフトは非対応ディスプレイで再生する場合には、SDR映像に階調変換してから表示されるよう、プレーヤ側で互換性が取られることは付記しておきたい。映画などであれば、劇場に近い表現となるのはノンHDRの表示だ。

 またすべてのHDR対応ディスプレイが、次世代BDのHDRモードが持つ最大ピーク輝度を出せるわけでもない。規格上、最大でそのぐらいの輝度は表現可能になるものの、ディスプレイ側がどこまで明るさを表現できるかは別の話だ。

 とはいえ、現在は映像処理LSIなどで工夫することで、ダイナミックレンジを広げている(現行テレビの自動ダイナミックレンジ復元は最大300nit程度)のが、次世代BDでは映像クリエイター側が自由に表現の幅として利用できる。映像作品のHDRマスターに存在する情報を載せられるわけで、大いに歓迎したい改良だ。

ディスプレイごと表現能力の差が出やすくなる

 これまでは“局所的にピーク輝度を上げることができます”、“高輝度パネルを使っています”といっても、それを活用する方法は限られていたが、次世代BDになれば、映像ソフト側に含まれる情報が増えるため、細かなローカルディミングによるバックライト制御や、輝度ピークの高さなど製品の素地が結果に大きく影響するとも言い換えられる。

 これは色再現についても同じだ。BT.709という従来の色再現規格は可視光線の35%程しか表現できない。これに対してBT.2020は75.8%をカバーしている。世の中にあるテレビやプロジェクターは、これよりも狭い範囲の色しか表現できないため、こちらもディスプレイごと、メーカーごとの能力差が明確に出てくるとは言えるだろう。

 もちろん、これは次世代ブルーレイの再生だけに限ったものだから、テレビ放送や従来のBDソフトなどを再生する場合には、各社が創意工夫をしている色域拡張を伴う巧みな絵作りや、通常ダイナミックレンジのソフトで高輝度部を伸びやかに表現する機能などが生きてくる。当面はそちらの機能の方が、ディスプレイとしては重要(ソフトの数がずっと多い)だろうが、今後の映像ソフトとディスプレイの進化を促す意味で、次世代BDは大きな可能性を持っている。

フルHDのソフトも「次世代BD化」が可能

 最新コーデックであるHEVCの活用、HDR機能、それにBT.2020による広色域表現、色深度の10ビット化などは、なにも4K映像だけで活用できるものではない。フルHD映像は今なおリーズナブルな解像度だ。

 これまでのBDプレーヤーでは再生できなくなるが、フルHD映像に対して、上記の最新技術を用いて次世代BDとしてパッケージ化することもできる。むしろ、数としてはそちらの方が多くなっていくのではないだろうか。

 次世代BDでは物理的な容量やデータ転送レートが高められていることもあり、フルHDのBDソフトも高画質化する。

BDソフトを書き出す、“デジタルブリッジ”の行方

 次世代BDではまた、BDに収録されている映像をHDD、記録型BD、メモリカード、モバイル機器への転送もオプション機能としてサポートすること明らかになっていた

 計画では(デジタルコピーや映像配信の標準フォーマットとして主に米国で使われている)Ultra Violetで策定されたCommon File Formatと互換性のあるStandard File Format(SFF)が規定され、SFFで書き出すことによってSFF対応するすべての機器で、一度購入したBDソフトを楽しめるようにするとのことだった。

 購入したBDソフトを違法にリッピングする人がいるなら、最初から正規の手段でコピー可能にしてしまい、コピー世代やコピー数を管理した方が良いという考え方が根っこにあるが、一方でどこまで使われるかも未知数。過去にもAACS Managed Copyといった案が生まれていたが、実際には運用が開始されていなかった。

 このデジタルブリッジ機能は、次世代BDではなく、まずは現行Blu-ray(HD)から実現するとのことだ。

 次世代BD規格のディスクをSFFで書き出す機能については、技術検討すべき課題が多く次世代BDの最初のバージョンには盛り込まれないが、既存BDのSFF書き出し機能からスタートする。

 現行Blu-rayのデジタルブリッジ機能をサポートする次世代BDプレーヤー/レコーダでは、BDの中身をSFF形式に変換する。既存ディスクでも可能にするため、インターネット上にサーバを用意し、各ディスクの内部構造などを提供し、それを参考に書き出しを行う。単に動画を抜き出しただけではなく、チャプター位置、音声切り替え、字幕なども切り替わる。

 当面はモバイル機器での利用を想定しており、タブレット機器への転送や、無線映像サーバー機能を持ったHDD、SDカードへの転送などに対応する見込みだ。iPhone/iPadはどうなる? という質問が出てきそうだが、(あまり望みは無さそうだが)標準規格として策定されているものなので、アップルに対応する気があるならば実装できる。

 なお、将来的には4K対応ディスクのSFF書き出しも検討するとのこと。たとえば、手持ちのBDの中でも特にお気に入りのタイトルをHDDレコーダにリッピングしておき、いつでも再生できるようにすることも、やり方によっては可能になるはずだ。もちろん、仕様上で許可されることと、実際の映像ソフトがそのように作られることとは違う。映画やアニメの版元が、暗号化されて再コピーできないよう管理するとはいえ、書き出し禁止にしたければそのようにソフトを作ることもできる。

 とはいえ、機能がなければ使われることもない。やっと“管理された複製”について、実際の運用がから始まることになる。なお、対応機器の登場は来年後半が見込まれている。

【次世代BDにおける主な機能拡張】

  • 4K/UHD対応
  • 物理フォーマットも大容量化。2層66GB、3層100GBを用意
  • 映像コーデックにHEVCを採用し、圧縮効率向上(記録時間拡大)
  • YCrCb(4:2:0) 10bit対応
  • HDR(ダイナミックレンジ拡張)対応
  • 色域はBT.2020をサポート
  • タブレットなどにコンテンツを書き出す「デジタルブリッジ」
     (現行BDが先行して対応)
  • 次世代BD対応機器/ディスクの発売時期は2015年後半頃$$

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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