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次世代高画質はダイナミックレンジから。Dolby Visionの狙い

ドルビービジョンは、色表現やダイナミックレンジを向上する

 Dolby Japanは23日、色表現やコントラストを向上し、映像のダイナミックレンジを大幅に拡大する高画質化技術「Dolby Vision(ドルビービジョン)」の報道向け説明会を開催した。

 ドルビービジョンは、1月上旬に米国で開催された2014 International CESで発表された、ドルビーの新映像技術。色表現やダイナミックレンジを高め、画質を向上するもので、対応製品の発売は2014年後半が予定されているという。

 ただし、その実現にはコンテンツ制作から配信事業者、テレビまでのエンドツーエンドの対応が必要となるという。ドルビービジョンとはどんな技術だろうか? 仕組みや今後の展開について聞いた。

次世代映像は「色」と「ダイナミックレンジ」

 ドルビービジョンは、マスターとなる映像素材の色や輝度、コントラスト、ダイナミックレンジなどを、忠実にテレビなどのディスプレイ機器に伝送し、表示することで、画質を向上する総合的な映像ソリューションだ。

現実世界のダイナミックレンジは広い

 その狙いは、「ダイナミックレンジの拡張」と「コンテンツ制作者の意図した色」の実現だ。

 人間の視覚は、20,000nits(=cd/m2)までの明るさから0.001nitsの暗さまでを認識できる。一方で、現在のコンテンツ配布メディアで最高画質といえるBlu-rayで使われる色空間「REC.709」では、明るさは最大100nit、暗さは0.117nitsが基準となっており、人間の視覚能力より、かなり制限されている。

 カメラで撮影した非圧縮の映像は、より広色域でダイナミックレンジも広いはずだが、ポストプロダクション工程や、パッケージ化/配信などの過程を経るごとに、色情報やダイナミックレンジが制限され、REC.709に準拠する形で配布されることとなる。

 つまり、技術の進歩によりディスプレイの表示能力が向上し、コンテンツ配布方法も多様化する中で、旧来の映像制作や配信プロセスによる制約が課題になっている。その課題を解決し、マスターに近い高品位な映像を、テレビやディスプレイなどの消費者向け製品に届けるために開発されたのが、ドルビービジョンというわけだ。

デジタルシネマ(DCI P3)ではダイナミックレンジは大幅に制限される
映画からBDで更に制約が
ドルビービジョンでは元映像に近いダイナミックレンジを実現する

 ドルビービジョンでは、明るさ10,000nits、暗さも0.0005nitsの再現を目標としており、現在のBDや放送などで各色8bitの色情報も、各色12bitまで拡張。「制作」から「配信」、テレビなど「表示デバイス」までの各段階でドルビービジョンに対応することで、コンテンツ制作者の意図した映像表現を忠実に伝送/表示できるようにする。

人間の視覚とBD、ドルビービジョンのダイナミックレンジ比較

 ドルビービジョンは色やダイナミックレンジの伝送についての規格で、フレームレートや解像度についての制約はなく、4KでもSDでも対応できる。色域についても、日本の4K放送などで採用が見込まれるBT.2020以上をカバーできる。

Dolby Japan事業開発部 ディレクターの真野克己氏

 Dolby Japan事業開発部 ディレクターの真野克己氏は、「次世代の映像体験に向けて、業界や市場からの要求として、ハイフレームレートや4Kのような高解像度が現れ、実現されつつあるが、ハイダイナミックレンジと色表現という課題が残されていた」とし、それに対して、エンドツーエンドのソリューションで応える姿勢を強調。「大事なのはどのような色域もカバーし、ダイナミックレンジを確保できること」とした。

ドルビービジョンの実際。2つのストリームを利用する

 ドルビービジョンの実現のためには、コンテンツ、配信、ディスプレイなど、各段階での対応が必要となる。

 コンテンツ制作においては、映画など非圧縮で撮影された映像を、ドルビービジョンに準拠したカラーグレーディング(色処理)を行ない、マスターとなる映像を作成。そのマスター映像をドルビーの用意するドルビービジョンエンコーダでエンコードして配布する。配布のためには映像配信サービスなどでも、ドルビービジョン対応が必要となる。

 ドルビービジョンの映像は、ハイダイナミックレンジかつ広色域映像を伝送するために、2つのストリームで構成される。ひとつは色深度8bitで通常の機器(ドルビービジョン非対応のテレビなど)でも再生可能にする「基本(互換)レイヤー」と呼べる部分、もうひとつが「差分レイヤー」となる映像ストリームでこちらには4bit分差分データや「マイフレーム」と呼ばれるメタデータを収めている。メタデータには、シーンごとの輝度変化やピーク輝度の数値情報などを収めており、2つのストリームをテレビ側でデコード/合成する際に、メタデータの情報を元に復元することで、コンテンツ制作者の意図に忠実な映像再現が行なえるという。コーデックはMPEG-4 AVC/H.264やH.265/HEVCなどに対応可能としている。

 ドルビービジョン映像の表示のためには、テレビ/ディスプレイ側の対応が必要。2つの映像データやメタデータを参照し、復元するための「ディスプレイマネジメント回路」を備えた映像処理LSIが必須となる。半導体向けのライセンスプログラムはすでにスタートしており、テレビ/ディスプレイ向けのライセンスもまもなく開始予定。2014 International CESではシャープやTCLがドルビービジョン対応テレビを出展していたが、対応テレビは、2014年末頃の発売を見込んでいるという。

 また、配信事業者については、Xbox Video、Amazon Instant Video、Netflix、VUDUなどの対応が検討されている。非対応のテレビなどでも、基本ストリーム(互換レイヤー)部分だけをデコードするため、対応テレビであればドルビービジョンで、非対応テレビでも互換レイヤー部分を利用して再生できる見込み。

 立ち上げ段階では、インターフェイスはEthernetのみとなり、IP映像配信サービスの利用を想定しているとのこと。ドルビービジョンエンコードされた映像の入力やデコードがまずはIPベースで行なわれることを想定しているためで、HDMIなど他のインターフェイスへの対応は今後検討していくという。また、BDでの規格化などについては、Blu-ray Disc Association(BDA)の中で議論を進めているとのこと。

 CESで発表され、今回デモで紹介されたのは、映像配信サービスのコンテンツをテレビで受信するためのソリューション。その「上流」となる映画館などでの対応も期待されるが、検討中だが詳細はまだ未定としている。ただし、ドルビービジョンは映像制作者からの強い要求を元に開発したものであり、また、今回のデモでも多くのハリウッドスタジオの素材を利用していることからも、映画向けの展開も期待できそうだ。

圧倒的なダイナミックレンジ

RPM-4200(左)とドルビービジョン対応の改造版RPM-4200(右)

 ドルビービジョンの映像を実際に見てみると、確かにその違いは明白だ。今回のデモでは、映画制作向けの42型リファレンスモニター「RPM-4200」と、同じモニターをドルビービジョン対応に改造したもので比較した。明るさはRPM-4200の100nitsに対し、対応モニターは4,000nitsと高輝度化されていた。

 デモ映像はドルビービジョン エンコードしたドルビーオリジナルのものやハリウッド映画などで、対応モニターには4,000nitsを基準とし、カラリストが色調整などを行なった信号(12bit)を入力。一方のRPM-4200には100nitsを基準に制作した通常の映像を8bitで入力した。

ドルビービジョン対応RPM-4200

 ダイナミックレンジの違いは顕著で、飛行機のボディに太陽があたった反射光の煌きの“まぶしさ”などは圧倒的。また太陽の周囲の輪郭がRPM-4200では飽和してしまっているが、対応モニターでは、はっきりと太陽の形と光の広がりが見えるなど、輝度の高さによる表現力の違いは明らか。水面の反射光の複雑な流れなども、より自然に感じられた。

 また、より細かな“白“の違いが表現できるため、白いドレスの細かなテクスチャなどにも顕著な差が見て取れた。RPM-4200では一つの雲にみえていたものが、対応モニターでは、重層的に連なった細かな雲の集合であることなども確認できた。

 明るさだけでなく、暗部の階調表現も大幅に向上し、ドルビービジョンでは、暗い車庫の中の壁の汚れなども感じられる。また、扱える色情報が増えたことで、従来では黒く沈んでいた車庫内の車の紫色がより暗部までなだらかに見えた。色/ダイナミックレンジといった要素だけでなく、総合的に画質向上していると感じられた。

【通常板(左)、ドルビービジョン(右)】
右がドルビービジョン。光の煌きやピーク輝度の高さに違い
水面の表現や表情や雲の表現、花の色などが違う
機体の煌きや水面の反射などが異なっている
暗部階調も美しい
より暗い部分まで「紫」が見える
左からELITE、ドルビービジョン対応ELITE、RPM-4200、ドルビービジョン対応RPM-4200

 また一般的なテレビでの比較として、シャープの3年前の米国モデル「ELITE」をドルビービジョン対応に改造したものと、標準状態のELITEを比較するデモも行なわれた。ベースモデルは100nits基準で8bit信号入力、ドルビービジョン対応ELITEは、700nits基準で制作したコンテンツを12bit入力して比較した。

 実際のドルビービジョン対応テレビは、IP経由でのコンテンツ入力を予定しているが、今回のデモではELITEのテレビ固有の映像処理を想定し、700nitsを基準に専用にエンコードした素材を用いたとのこと。

 4,000nitsを前提としたモニター比較ほどではないが、3年前の民生用テレビでもダイナミックレンジやディテール表現の差は明白。水面の反射光の表現や、ペンギンの真っ白なお腹の羽毛のディテールなどで大きな違いが感じられた。

 映画「華麗なるギャツビー」のパーティーシーンでは、強烈な明滅が印象的だが、明暗混在したシーンの暗部階調のつながりなどが、より自然に感じられた。また、「オブリビオン」では、オレンジの炎に包まれた中の鮮烈な赤の表現の違いなどが見てとれるなど、ドルビービジョンによる画質向上はしっかりと実感できた。

(臼田勤哉)