本田雅一のAVTrends

出揃ったプレミアム4Kテレビの見どころはローカルディミング

プラズマユーザーの筆者がREGZA Z10Xに注目する理由

 “テレビ”ジャンルは昨年来、4Kがひとつのキーワードになっているのはご存知の通り。そうした中で今年のトレンドとして、ぜひキャッチアップしておきたいのが、”プレミアム4K”と総称される画質重視の4Kテレビ製品だ。

 昨年までならばラインナップといっても、4K製品の幅が狭く選べる状況ではなかったが、今年は上位モデルから普及型まで様々な価格帯の製品が登場している。中でも本誌読者のように「自分で調べて吟味して製品を選ぶ」タイプの消費者にお勧めしておきたいのが、プレミアムクラスの4Kテレビだ。

 “4K”というキーワードは、採用している液晶などの表示解像度しか表現していない。製品の幅が狭い頃は、最も高精細なテレビとしての価値があったが、ラインナップが豊富になり、参入メーカーが多くなってくると、4Kテレビをさらにいくつかの階層に分けることが可能だ。

東芝REGZA「65Z10X」

 成熟した製品ならば、最も購入しやすい価格帯の製品が、最もコストパフォーマンスに優れていたりするものだ。しかし今年という時間軸で評価すると、必ずしもベストとは言えない考え方だ。エントリークラスの4Kテレビは、さすがにまだ熟成が進んでおらず、“アフォーダブル”ではなく“ロープライス”な製品になっているからだ。

 プレミアムクラス……すなわち、各社最上位シリーズの4Kテレビは、高価なだけにメインストリームの製品とは言えない。しかしフルHDから4Kへ、テレビのトレンドが決定的になっている中で、メーカーはブランドイメージを獲得するため、プレミアム4Kに力を入れている。

 4Kでさえあれば画質は問わない……というならば話は別だが、少しでもコダワリがあるならば、今年のプレミアム4Kは買い時といえる。

“プラズマユーザーの眼で見た”今年の4Kテレビ商戦

 さて、実は今年の4Kテレビは“個人的にも”とても注目している。なぜなら、我が家で使うテレビを近く入れ換えることも検討しているからだ。理由はいくつかあるが、来春には世界初の4K商業放送が開始され、また未発表ながら4K収録が可能な次世代ブルーレイの仕様もほぼ決まっている。

 すでに4Kプロジェクターを導入済みの人も、直視型のテレビも4Kに移行するタイミングを見計らう時期になってきた、と言えるかもしれない。超解像技術もこなれ、テレビ業界のモメンタムが4Kへと向かう中で、今ならば“プレミアム”な……価格がという意味だけでなく、各社がブランドイメージを獲得するために手間暇をかけて作り込んだ商品が買えるタイミングでもある。

 過去の例を見ても解るとおり、商品として成熟し始めるとともに普及価格帯の製品が増え、画質重視の上位モデルは成立しにくくなる。メインで使うテレビを入れ替える機会はそうそう多く無い。今世代、あるいは次ぐらいが、4Kテレビを使う上でもちょうどいいかな? と思えるようになってきた。

 そして、4Kテレビ上位モデルを狙う際に持っておきたいのが、これからの5〜10年を付き合う上で、小手先の機能ではなく”映像を映し出す”という本質部分で、しっかりと価値を引き出せているかどうかだ。

2007年発売のパイオニア「PDP-5010HD」(本田家は60型のPDP-6010HD)

 私の場合は、現在使っているプラズマテレビ(パイオニア PDP-6010HD)と比べて、トータルの映像体験を上回れるかどうかだ。ディスプレイ方式が異なるため、直接比較することは出来ないが、筆者が個人的に(4K液晶テレビが出始めた後も)当面は液晶に変えることはできない、と諦めていた点のうちのいくつかが最新のテレビでは改善している。

 ひとつは動画解像度。いわゆる動きボケだが、この点は製品ごとに異なるものの、ある程度対策が進みつつある。4Kでも質の高い倍速補間ができるようになったことに加え、高輝度を出せる上位モデルの一部はインパルス表示(黒画面を挿入することで表示時間を短くし、動きボケを抑制する)にも対応した。

 もうひとつは明るい部分から暗い部分まで、一貫した画質が得られるかどうか。とりわけ液晶は暗部表現が色再現、ダイナミックレンジの両面で厳しいが、ローカルディミング(バックライトを細かく分けて)技術の進化が、液晶が不得手な暗部表現を高めている。

 ローカルディミングは、画面全体をいくつかの区画に分け、それぞれの区画に映し出す映像の明るさに合わせてバックライトの明るさを最適に調整する手法だ。液晶の黒が沈み、逆に全体の消費電流に余裕がある時に部分的に明るく光らせることで、コントラストを大幅に上げることができるが、実は液晶が圧倒的に不得手な暗部表現能力を高める効果もある。

 液晶は完全に光を遮ることができないため、真っ黒の信号でもバックライトの光が漏れてしまう。この漏れ光は無彩色ではなく少し色が付いており、結果的に液晶は暗い色ほど漏れ光の影響を強く受け、彩度が落ちるだけでなく色相までズレてしまう。

 暗部再現能力が映像作品の表情を大きく変える映画作品などの場合、この点がとても気になる。プラズマにはこの問題がなかった。プラズマにはプラズマの問題もあるのだが、暗部から明部にかけての一貫した色表現や局所コントラストの高さは捨てがたい。

 しかし、バックライトを暗く絞り込めば液晶が原理的に持つ問題を大幅に緩和できる。

 たとえば明度10%グレーの円を真っ黒の背景に描いた時、液晶パネルには10%の明るさで円を表示せねばならない。しかし、円を含む区画のバックライトの輝度を10%まで落とせば、液晶パネル上では5倍のゲイン補正を行ない100%の円を描けば良い。仮に1%の漏れ光があったとすると(実際にはもっと少ない)、前者では1:10のコントラスト比しか得られず漏れ光の影響も大きいが、後者なら1:100のコントラスト比となる上、漏れ光も1/10に抑えられるため無視できるレベルの影響に抑え込める。

 実際にはもっと複雑だが、プラズマが持っていた画質の良さを4K時代にも楽しみたいならば、ローカルディミングは必須の機能と言える。しかも、エッジライトで大まかな分割しかできないローカルディミングでは効果は薄い。

 単純なコントラスト感だけでなく、“画の質を高める”という視点でローカルディミングを活用するならば、多数のエリアに分割可能な直下型LEDバックライトのローカルディミング機ならば、プラズマユーザーも納得できる画質を期待できる。

直下型LEDバックライトを採用したZ10Xシリーズ

意外に難しいローカルディミングのフル活用

 さて、リクツとしては簡単なローカルディミングの仕組みだが、実際に上手に使いこなすのは難しい。数100万円の業務用モニタであれば、RGB独立LEDを用いて複雑なローカルディミング制御を行なう製品もあるが、我々が自宅に導入できるテレビは数10万円の製品だ。

 上記では単純に“グレー”の円で例示したが、実際の画素はRGBの原色に別れており(サブピクセルという)、サブピクセル上で補正できない範囲まで絞り込んでしまわないよう制御せねばならない。しかも、バックライト光は区画の境目で混ざり合う上、LEDが置かれてる位置からの距離で、明るさや微妙なホワイトバランスが変化する。

 さらにはバックライトの明るさも変化幅が大きいと無視できない応答遅れが生じるため、LEDの明るさ制御と同期させてゲイン調整を行なっていくことになる。さらには、明るい区画と暗い区画が隣合う場合、不自然な描写(暗い部分にぼんやりとお化けのように光る領域=ハロが出るなど)となることもあるからだ。

 これらを勘案しながら、きちんと”補正できる範囲内”で、可能な限り幅広くバックライトを動かし、しかも不自然なバックライト変化とならないよう、各区画の明るさを決めていくのだ。実際に評価してみると、その難しさがよくわかる。

 直下型LEDバックライトのローカルディミングは、意外に古くから使われている技術だが、テストするといまだに不自然な振る舞いが見えてくる。筆者がテストによく使う映像は、ステレオサウンド社が販売している「Super HiVi Cast」のビデオテスト信号だ。

 このソフトの中に”Black & White 1”、”Black & White 2”というテスト映像がある(それぞれ77番と78番)。この映像は背景の左半分が100%輝度の白、右半分が真っ黒で、黒いドレスを着た女性が左右に行き来しながらポージングを行うのが前者、後者は同じ女性が白いドレスを着ている。

 本来は白や黒の階調表現能力を見る映像だが、ローカルディミングのテストとしては、最も“いやらしい”映像のひとつ。ソフトを持っているならば、実際に店頭で見させてもらうといいだろう。領域の境目が見えてしまったり、バックライトの動きと映像補正が上手に同期していない例などが見えてくる。他にも黒背景に白い円が動く“Moving Circle 1〜5”(43〜47番)も、このテストをする際に役立つテスト信号だ。

 これらの映像は、かなり極端な状況を意図的に作り出しているもので、”これが表示できなければダメ”というわけではない。細かく区切ったと言っても、画素数に比べればずっと少ないわけで、完璧など求められないから、どの製品も完璧ではなく”惜しい”感じなのだが、ほぼ問題なく動いている製品もあった。東芝のREGZA Z10Xシリーズだ。

 東芝はCELL REGZA「55X1」(2009年12月発売)で512分割という、民生用としてはその後も例がない細かな分割のローカルディミングを実装していたことがある、テレビメーカーの中でも直下型LEDのローカルディミングに積極的な会社だ。しかし、CELL REGZA以降の製品は、あまり大胆にLEDの明るさを絞っておらず、おかしな振る舞いも出にくいが、一方でせっかくのローカルディミングの効果を活かせていないという印象だった。前作のZ9Xもそうだ。

 ところが今回はかなり剛胆に動かしている。細かく領域分割したローカルディミングを採用する4Kテレビ上位モデルを販売しているのは、ソニー、パナソニック、東芝だが、いずれも今年の製品はどれも効果を最大限に狙っていた。

ソニーBRAVIA「KD-65X9500B」
東芝REGZA「58Z10X」
パナソニックVIERA「TH-65AX900」

 “だからこれが良いよ”というのは簡単だが、各社ともこの分野は練りに錬って開発している。では、東芝のREGZA Z10Xでは、5月に発売したZ9Xから短期間で何が変化したのだろう? 改善手法を開発陣に尋ねてみた。

半導体・ファームウェア設計と画質調整の連係プレイ

 “東芝のローカルディミングは、あまり輝度を動かさない(ため効果が薄い)”と書いたが、これは開発陣も認識していた問題だったという。

 ローカルディミングは、暗部でLEDを絞って表現力を高める効果もあるが、輝度を復元する機能も各社搭載し始めており、キラリと光る部分を、より明瞭に光らせる……つまり、白をより白く輝くように描写する効果もある。

 このうち明るい方は積極的に使いこなせていたが、暗部側に関してはLEDの絞り込みを穏やかにしていたという。黒背景に白い被写体が動くような部分で、周りがフカフカと光って不安定な描写になるためだ。そこで、Z10Xではより積極的に暗部を絞り込んでも、不自然な振る舞いにならないよう、ローカルディミングの制御に根本的な修正を施した。

 実はZ9Xのローカルディミング制御は、CELL REGZA 55X1で開発されていたものがベースになっているそうだ。区域内のピーク輝度値を検出してバックライト輝度を決めるというシンプルなものだが、効果的な反面、弊害も出やすい。55X1のような512分割などの細かい領域分割でなければ自然には動かせない。

 そこでレグザエンジンCEVO 4Kにあらかじめ内蔵させていた、バックライト制御専用CPUを使い、ソフトウェアでバックライト制御を実装しなおしたという。ポイントは「ではどうやって?」となるが、ソフトウェア制御らしい細かな摺り合わせとアルゴリズム変更が功を奏したようだ。

 これまではローカルディミング制御する区画の中からピーク輝度検出を行なっていただけだった。これはエンジンの中にあらかじめハードウェアで入っている。しかしその機能は用いず、制御区画をいくつかの小領域に分割し、8×8の領域を見て輝度信号の評価を行なっている。さらには、周囲の制御区画を加重評価し、最終的には7×7の制御区画範囲を見て明るさを決める。

 このように実際の分割数よりも細かな区画分割で映像評価を行なうのは、平均輝度(APL)をベースにローカルディミング制御を行なうためだ。APLでバックライトを制御することで動きが安定し、黒の締まりを引き出しても(すなわちバックライトを絞り込んでも)不自然な動きとなりにくくなる。

 しかし、その弊害としてピーク輝度をバックライトの明るさ決めに使わなくなるため、キラリと光る部分、すなわち明るい方向へのコントラスト拡張が行ないにくくなる。そこで、評価区画を細かくして「小さいけれど明るく光ってる部分」を発見しやすくしている。

 これらの改良で、ローカルディミング制御の”基礎体力”が向上したことで、より大胆に動かしても映像が破綻しないよう追い込めるようになったということだ。実際の作業も絵作りのチームが、ローカルディミング制御を開発している青梅研究所のメンバーと協業し、半導体・ファームウェア開発と一緒に映像を観ながら開発を進めたという。

 実はZ9XからZ10Xまで期間が短い上、映像エンジンも同一世代。この短期間にここまで変わるか? と訝しんでいたのだが、ローカルディミング専用に別CPUを搭載しているとは想像していなかった。将来性を担保するため、後に新たな知見が得られたときのために盛り込んでいたのだそうだ。

プラズマ好きも移行の決断ができる?

 東芝への取材で痛感したのは、ローカルディミング技術を突き詰めていこうと思うと、単純なパネルの品位+画質調整の作り込みだけでは限界があるということだ。的確なローカルディミングのため、映像評価を行なう映像処理エンジン部分の開発と画質評価・調整とを一体化していかないと、なかなか良い結果を得られない。

東芝REGZA「J10Xシリーズ」

 各社とも、そのための“仕込み”を自社開発の半導体などに盛り込んでいるが、この難しい開発を戦略的に行なっていけるメーカーでなければ、なかなか完成度を高めるのは難しそうだ。しかしながら、現時点でもプラズマ好きのユーザーが選んでも後悔しないぐらいに進化している。それどころか、ダイナミックレンジ拡張で白ピークが伸びることなどを考えると、すでにプラズマは越えたと言っていいかもしれない。いずれにしろ、もうプラズマの4Kテレビが出てくることはないのだ。

 また、ローカルディミングを積極的に使う最新の4Kテレビは、コントラストが高まったことで精細感も増している。明暗の幅が拡がるのだから当然だが、このことによって輪郭強調などのエンハンス処理をほとんど使わなくとも、ハッキリ・クッキリの映像になるという利点もある。エンハンス処理を行なうと、補正した分だけ画の品位は落ちるからだ。

 ところで上記の取材時に、より購入しやすい価格設定のJ10X(こちらも直下型LEDのローカルディミング機)も、Z10Xと同じ改良が施されているのか? と質問したところ「まったく同じ」とのことだ。ただしJ10XはIPS液晶のため、視野角は広いがコントラストは落ちる。またローカルディミングの分割数が少し少ないそうだ。

 個人的な結論(新たに4K時代のリファレンス機を探す)は出ていないが、高画質を意識して4Kテレビを買いたいと思っているなら、やはりローカルディミング制御に秀でた製品を選ぶべきだろう。そろそろ満足できる完成度に高まってきている。

(協力:東芝ライフスタイル)

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「続・モバイル通信リターンズ」も配信中。