本田雅一のAVTrends

静かに立ち上がる4K BD「UHD BD」。揃わぬ各社の思惑

IFAに登場? 最後の光ディスクの行方。HDRにも新潮流

 Ultra HD Blu-ray Disc(UHD BD)の仕様決定が発表され、さらには技術仕様をまとめたホワイトペーパーが発行されたことで、いよいよ“最後の光ディスク規格”と言われる本規格が製品化に向けて動き始めた。

 とはいえ、いくつかの理由でそのスタートは静かなものだ。長年に渡るフォーマット戦争が繰り広げられたBDの頃とは様相が異なるとは誰もが感じているだろう。その理由には、加入型映像配信サービスの台頭もあるが、フルHDから4Kへの高精細化に対するニーズがどこまであるのか? といった疑問もあるかもしれない。

 しかしここしばらく業界では4K化よりも大きな話題となっているHDR(ハイダイナミックレンジ)への対応を含め、UHD BDにはネット配信にはない魅力も存在している。何より100Mbpsを越えるピーク転送レートを扱える点は、15Mbps程度で4K映像を配信するインターネット映像配信に比べて明らかに優位な点だ。

 物理メディアからネット配信へ。映像ビジネスのトレンドが変化する中で、UHD BDはどのような形で立ち上がろうとしているのか、現時点での情報をまとめてみよう。

年内の発売はパナソニックとサムスンから

 UHD BDの規格について書く前に、まずは対応製品として、近くどのようなものが揃ってくるかについてハッキリとさせておきたい。

 UHD BDはディスク容量が2層66GBと増加しているだだけでなく、3層100GBにも対応するなど記録技術やディスク生産技術も進化しているが、基本的にはBDの延長線上にある技術だ。この点は、読み取りに使う光の波長が大きく変わったDVDとBD(あるいはHD DVD)の関係とは根本的に異なる。

 最新のHEVCを映像圧縮規格に採用するなどの違いもあるが、根本的な違いというよりは、技術動向の変化に応じて“現在”のレベルにまで一度引き上げたという印象だ。そもそも、基本的な光ディスク部分の仕様に関しては、昨年の今頃にはある程度決まっていたぐらいだ。

パナソニックがCES 2015に出展したUHD BD対応のBDプレーヤー試作機

 このような状況のため、いつでも大手メーカーなら製品を出す準備が整っているのかと思いきや、実はさにあらず。1月のCESで試作機を展示したパナソニックは、レコーダの最上位機種をUHD BD対応とした高級機を用意する見込みだが、ソニーをはじめとする他メーカーは、製品開発の声を聞かない。

 ではパナソニックだけしか製品化できないのか? というと、サムスンはUHD BDのために専用LSIを開発しており、すでにサンプル品は動作しているという。おそらく、ドイツ・ベルリンで開催されるIFAには、その試作機が置かれるはずだ。

 実際に発売されるタイミングとして、どちらが先になるかは今のところわからないが、すでに動作の実績があるパナソニックの方が、量産出荷は早いのではないかと見ている(ただし、サムスンは少量の初期出荷を行なうなどして発売日を前倒しすることがある)。

 これ以外の計画は今のところ聞こえてきていない。“ソニーは?”という問いが聞こえてきそうだが、今のところUHD BDへの規格策定には協力するものの、事業としてはまだ態度を決めかねているという状況のようだ。

 ソニーは今年年末のBDレコーダ用プラットフォームを代替わりさせ、ルネサステクノロジのEMMAからパナソニックと同じユニフィエに切り替えると見られる。これはパナソニックの半導体部門が富士通の同部門と事業統合され、ソシオネクストとして再スタートを切ったこととも無関係ではない。

 しかし、調達するユニフィエがUHDに対応できるものかどうかは定かではない。UHD対応のユニフィエを調達しているなら、搭載するドライブやソフトウェア開発によってはUHD BD対応レコーダを出す可能性はゼロではない。しかしながら、まだ第1号の製品が発売されていない時点で、ソシオネクストが製品開発の基礎になるソフトウェアコンポーネントを用意できているかと言えば、その可能性は低いだろう。もし、UHD BDにソニー製レコーダが対応するとしても、そう近い将来ではないと予想される。

 一方、UHD BDプレーヤーとしては、台湾のメディアテック(MediaTek)がUHD BD対応のシステムLSIを開発中だ。しかし、こちらはサンプルを来年春ぐらいには出せるようだが、それを待っていると製品化は秋以降になる。もし来春に登場なら、今から積極的に関わり、ソフトウェアの開発とLSIのバグ出しをやらねばならない。しかし、現時点ではそこまでコミットするかどうかを判断できないというのが、ソニーの事情らしい。

 なんとも寂しい状況だが、このような背景を考えると、映像系エンスージャストはパナソニックの高級レコーダに期待するほかないだろう。OPPO Digitalなどの独立系メーカーは、メディアテックのソリューションが安定するまで製品化は難しい。彼らが製品を出せるのは、はやくとも来夏、順当ならば来秋のCEDIAというイベントぐらいではないだろうか。

 全体の趨勢を考えるならば、これが最後の光ディスクによる映像パッケージ規格になることは間違いない。100Mbpsを越える最高ビットレートを持つUHD BDこそが、4K時代に高画質を提供できる唯一のメディアという点は今後も変わらない。しかし、そのニーズがどこまであるかも含め、スタート時点はややゆったりした立ち上げになりそうだ。

“4K”に対してハリウッドメジャーの足並みが揃っていない理由

 UHD BDは”画質・音質”面で、ストリーミング、ダウンロードなどをはじめ、あらゆる映像配信・パッケージビジネスの頂点に立つ高品位規格となる。当面は3層100GBではなく、2層66GBのディスクが流通の中心となるが、それでも従来比で最大容量が32%増加した上、映像圧縮効率が倍以上に高められたHEVC採用などで画質が担保されている他、HDR対応もさせることで解像度以外の画質向上アプローチも盛り込まれている。

 しかし、4K映像の販売に関しては意外にハリウッドメジャースタジオの足並みが揃っていない。理由はそれぞれの映画会社ごとのビジネススタイルの違いだ。

 CGアニメ作品が多いディズニーは、カメラを4K対応にすれば4K映画のマスターが作れる実写映画とは異なり、レンダリングを行うCPUパワーを4倍にしなければ作業性が落ちる。言い換えればCGのレンダリングコストが4倍に跳ね上がるわけだ。ラッシュまで4Kでレンダリングしないとしても、映像制作に与える影響は小さくない。

 またユニバーサルはグレーディング・編集工程を2K(フルHD)でシステム化、運用しており4Kへの更新は遅れているようだ。たとえばトム・クルーズが主演したオブリビオンという映画は4Kカメラのソニー製F65で撮影されているが、編集やグレーディングは2K領域で行なわれた。こちらもコストがネックになっている。

 その対極の立ち位置にいるのが20世紀フォックスだ。彼らはBDのセキュリティ対策(コピー対策)にもっとも力を入れてきたが、同時にダウンロードでのネット配信にも力を入れてきた。2012年に“プロジェクトフェニックス”というコードネームで立ち上げたセキュア・コンテンツ・ストレージ・アソシエーション(SCSA)も、その取り組みのひとつ。

 SCSAはHDDやメモリーにコンテンツをダウンロードして再生可能にした上で、さらにクラウド型サービスと連携してネット上でコンテンツ所有権の管理が可能。UltraVioletとも連携できる。コンテンツの流通形態はネット上での販売の他、BDを用いたデータ流通も想定しており、4K映像のコンテンツキャリアとしてUHD BDを使いたいと思っているのだ。

 というのも、SCSAでは多様なデバイス向けに無変換で最適な映像をコピーするため、ひとつの映像について数種類のストリームを同時にパッケージ化するという。このため1タイトル分の容量は大きなものとなり、一般的な4Kの映画作品で100GB近くになる。これを一度にダウンロードさせるのは現実的ではないため、UHD BDをうまく使いたいと考えている。

 対するソニーピクチャーは、まだ態度を決めかねているようだ。“One Sony”という考え方の元、ソニーグループ全体で4Kを進める戦略とも強くかかわっているように思えるかもしれないが、現在はそれぞれの事業領域で利益を確保する方針に変化してきている。

 ソニーグループの場合で言えば、ディスク製造に関してはUHD BDメディア生産の中心を担うことになるが、映像作品をUHD BDパッケージとして、どこまで本気で流通させるかは態度を決めかねているようだ。

 業界最大手のワーナーを含め、一通りUHD BDパッケージがリリースされることは間違いないものの、重要なことは「どこまで本気で流通させようとするか」だ。UHD BD対応プレーヤーの本格普及が来年以降ということも考えれば、その結論が見えてくるのはかなり先になると思う。

 しかし、UHD BDで取り込まれるHDR技術に関してはまた別の切り口がある。フルHDの解像度でHDRを利用することもできるからだ。HDRはワーナー、ディズニー、ユニバーサル、ソニー・ピクチャーはじめ、どこも強い興味を示している。その評価はUHD Allianceという別組織で主に進められており、ネット配信も含めて議論されている。

生中継までカバーする“Hybrid log-gamma”カーブとは?

 HDR映像(静止画における、複数異なる露出で撮影された画像を合成する手法とは異なることに注意されたい。映像業界でのHDRはデジタルシネマカメラやフィルムが捉えている広いダイナミックレンジをそのまま映像作品で活用する技術をさす)を実装する技術にはさまざまな提案がある。大まかなところは、すでに本連載でも伝えたが、UHD BDで採用されているのはHDR10というものだ。

 HDR10は人間の眼が感じる明るさ変化に応じて、リニアに信号記録できるように規定されたHDR記録の基準で、”バーテンモデル”という近く特性に合わせたもの。俗にPQ(Perceptual Quantitize)カーブと呼ばれるもので、人間の眼が虹彩(絞り)の動きなしに同時に捉えられる光の特性に合わせられている。

 その幅は0〜1万nitsで、PQカーブを用いればそのすべてのダイナミックレンジを映像作品に収めることができる。ただし、世の中にあるディスプレイにこの幅を出せるものはなく、また実際に表示できたとしてもレンジが広すぎて使いこなせない。

 実際に映像作品を作る際には最大でも1,000nits以下で使う。HDR10でも目安として1,000nitsという数字が書かれており、概ねこれに合わせて映像作品は収録されることになるだろう。

 このほかにもドルビー方式、フィリップス方式などもあるが、中でもNetflixが配信に用いることを発表していて注目されているのがドルビーのドルビービジョン(Dolby Vision)だ。ドルビービジョンはPQカーブを用いているが、これを表示する際の基準を設けており、そのためのメタ情報も映像ストリームに入れている。さらに標準ダイナミックレンジ向け映像に対する差分ストリームを用いることで、色深度を10bitから12bitに拡張している点も異なる。

 メタ情報には、どのように(記録映像より狭いダイナミックレンジのディスプレイに)映すべきかというトーンマッピング情報が収められており、映像コンテンツオーナーから見ると、作品がどのように表示されるのか、大まかな目安となる点が利点とされている。ただし、実際にはディスプレイ側で自動的に判断しながら最適表示する方が良い結果を得られる場合も多く、ライセンス料金が高額ということもあって採用するメーカーは少ない。

 UHD BDでもドルビービジョンはオプション規格となっているが、ディスプレイ(テレビ)側に採用することを表明しているのは米VIZIOや中国TCLなどで、日韓のテレビメーカーは採用を見送っている。

 このためUHD BDではHDR10、Netflixなど映像配信系もHDR10が盛り返す可能性があるが、実はここに来て“Hybrid Log-gamma”という規格が注目を集め始めている。

 “Log”とは対数のことで、デジタルシネマカメラがHDRを記録するときに使うカーブ。“Gamma”はご存知、従来の標準ダイナミックレンジで使われている輝度特性カーブだ。

 この両方をかけあわせて作られたのがHybrid Log-gammaと考えておいていただいていいと思う。係数にもよるが最大1,200〜2,000nitsまでと、現実的なダイナミックレンジに最適化されており、そのままHDRに対応していないテレビに表示しても、違和感のない映像になるよう作られている。

 こればかりは実際に見てみる他ないが、Hybrid Log-gammaで作られた映像はHDR対応ディスプレイで見る限り、HDR10やドルビービジョンのHDR映像と同等の映像を出す事ができる。その上で、標準ダイナミックレンジのテレビに映像を映すと、低輝度部から高輝度部までバランス良く見える。HDRの特徴である明るい部分の色付きもある程度は得られる。

 さらに、Hybrid Log-gammaは標準ダイナミックレンジで映す際の画を基準に調整して送出すれば、きちんとHDR情報まで送り出すことができるという特徴がある。HDR10などでは、あらかじめ撮影していた素材をグレーディングすることで最適な絵作りを探すが、生放送ではそれを行なうことはできない。一方、Hybrid Log-gammaならば“いつも通り”に放送すれば、HDRにも対応出来るというわけだ。

 NHKやBBCがこのHybrid Log-gammaをベースにした技術を開発しており、いずれ放送のHDR化も進む事になるだろう。おそらくだが、最終的に4K放送が本格化する際には、Hybrid Log-gammaベースのHDR技術が標準として盛り込まれることになると思う。

 Hybrid Log-gammaが放送に使われるようになれば、昼間のサッカー放送などで気になる屋根の影に起因する白トビや黒潰れなどがうまく表現できるようになるとともに、ライティングでのステージ演出なども鮮明に伝えられるようになるだろう。スポーツや音楽ライブの放送には最適で、テレビドラマなどもHDR10ではなくHybrid Log-gammaに向かうかもしれない。

 このHybrid Log-gammaの話題は、今週、ドイツで開催されるIFAでデモを行なうメーカーがある他、オランダで行われる放送機器展「IBC」でソニーなどが技術デモを行うと見られる。日本でも幕張で開催されるInterBEEで、Hybrid Log-gammaがどのようなものか、その眼で確かめることができる。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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