大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニックが提案する「スマートAVライフ」とはなにか?

~「タイム/プレイスシフト」の戦略を聞く~


パナソニックAVCマーケティングジャパン本部・吉清和芳本部長

 パナソニックは、3月9日から薄型テレビ「スマートビエラ」を発売する。すでに2月20日から発売しているブルーレイレコーダ「スマートディーガ」とともに、スマートAVライフという新たな利用提案を開始。オリンピックの公式TOPスポンサーである強みを生かした提案も同時に推進していくことになる。パナソニックAVCマーケティングジャパン本部・吉清和芳本部長に、スマートビエラを中核としたスマートAVライフへの取り組みについて聞いた。


■ スマートAVライフで「時間や場所に縛られない新しさ」を提案

47型液晶テレビの「スマートビエラ DT5シリーズ」。狭額縁のデザインを採用している

――2月20日からスマートディーガを発売したのに続き、3月9日からはスマートビエラが発売となります。今回の新製品の手応えはどうですか。

吉清氏(以下敬称略):今回のスマートビエラとスマートディーガでは、デジタルを生かした、新しい暮らしを提案していきたいと考えています。それは時間と場所を超える新たな提案だといえます。スマートビエラで5シリーズ16機種、スマートディーガで3機種をラインアップし、とくにスマートビエラでは「グラス&メタル」のデザインを採用しました。素材を生かすことで、プラズマテレビでは高級感を演出し、液晶テレビでは先進感を表現しました。

 また、積極的にエコを意識した視聴スタイルを選択できる「エコ視聴」や、ムダを見つけて自分でエコする「エコナビ」も搭載しています。「つながる」、「かんたん」、「キレイ」、「デザイン」、「エコ」という5つの観点から、新たなテレビの時代を象徴する製品だといえます。

――今回のスマートビエラ、スマートディーガの投入にあわせて、「スマートAVライフ」という表現を用いていますね。これはどういう意味ですか。

吉清:最近、「スマート」という言葉があちこちで随分聞かれるようになりました。そのなかでパナソニックが提案するスマートAVライフとはなにか。ひとことでいえば、「時間や場所に縛られない新しいAVライフを実現する」ということです。これまでのテレビの役割を振り返ると、エンターテイメントを楽しむ、あるいは情報を得るという用途がありました。テレビが果たす、こうした意義はこれからも変わりません。そして、これまで通り、テレビはリビングの中央に設置され、大きな存在感を持ちます。

 しかし、大きな違いは自分から情報を見に行くことができる、自分から楽しみたいエンターテイメントにアクセスできるという点です。この点で、新たなテレビの世界がやってきたといえます。また、レコーダについても録画して番組をみるというスタイルが定着するなかで、録画したコテンンツを見る時間を、どううまく作り出すかということが課題となっています。この解決策として、家中どこにいても、いつでも見たい時にコンテンツを視聴できる。いわば、時間と場所を超えた楽しみ方ができる。ここに新たなスマートAVライフの意味があります。パナソニックは、この世界を「商品群」として展開していくつもりです。

3月15日から発売する新たなお風呂テレビ「ビエラ SV-ME5000

――とはいえ、パナソニックでは、これまでにもAV製品による「群」展開を行なってきましたね。これらの商品群展開とはどこが異なりますか。

吉清:従来の群展開は、SDやDVD、BDといったブリッジメディアによる連携、あるいはHDMIケーブルで機器同士を接続するといった連携が中心でした。もちろんこうしたつながり方はこれからも残りますが、新たなビエラやディーガではWi-Fiをベースにしていること、インターネットをベースにするといった点で、これまでにない広がりがあります。ここに、新たな群展開の可能性があるのです。

 リビングに設置したディーガに蓄積したコンテンツを、お部屋ジャンプリンク機能を利用して、お風呂テレビでお風呂に入りながら視聴したり、寝室のテレビに飛ばして、ベッドに横になりながら視聴したりといったことが可能です。こうした使い方では、寝室のテレビにはアンテナを接続する必要がありませんし、シンプルWi-Fi機能を利用すれば、もともと家にネット環境がなくても、Wi-Fiを利用してビエラやディーガ、スマートフォン、キッチンテレビなどを相互接続できます。これまでのテレビとインターネットとの融合に比べて、より一歩踏み込んだものであることが特徴です。そして、使っていただくとわかるのですが、従来製品に比べてもネットがサクサク動く(笑)。これは大きな進化です。リモコンを使って、ストレスなく動作させることができます。


■ 体験型の店頭展示を予定。オリンピック開幕に向け「スマートヒルズ」などで訴求

――テレビの訴求は、薄型化、ハイビジョン化、そして3Dなど、直接、目で見てわかる要素ばかりでした。しかし、スマートAVライフの提案は、視覚的には訴えにくいものばかりですね。そのあたりはどう解決していきますか。

吉清:ご指摘のように、いままでのテレビは見ていただくだけで、その進化や特徴が理解しやすかったともいえます。しかし、スマートAVライフは、家中どこでもみられる「プレイスシフト」と、見たいときにいつでも様々なコンテンツを楽しむことができる「タイムシフト」。つまり、時間や場所に縛られないAVライフのことを指しますから、製品単体で提案してもなかなかわかりにくい。つまり、実際に体感していただかなくては、そのメリットが理解しにくいという背景があります。パナソニックがいくら「テレビの新しい時代が到来した」といっても、それがなかなか理解しにくいですから、とにかく、体感していただくのが最適であると考えています。

 そこで、量販店の方々とも昨年秋からお話しをし、お客様に体感していただくということを前提にした展示を行なっていただくようにしました。3月9日のスマートビエラの発売にあわせて、店頭展示を一新しますが、お部屋ジャンプリンクのデモストレーションが行なえたり、テレビ売り場にもインターネットの回線を引いていただき、ネット接続によって、VIERA Connectを体験できるようにしたりといったことを行ないます。YouTubeで動画を視聴したり、4月以降は「もっとTV」の店頭実演を可能なように工夫するなど、体感するという点で様々なご協力をいただいています。

 先頃開催した専門店向けの合同展示会でも、お部屋ジャンプリンクをデモストレーションし、注目を集めましたが、このときには、まだ一部に旧モデルが混ざった展示でした。3月からは新たなお風呂テレビが発売されますから、よりスマートなお部屋ジャンプリンクの活用が可能になります。こうした体感型の展示が、スマートAVライフの提案には切り札になると考えています。

――六本木ヒルズではスマートヒルズのキャンペーンを開始しますね。また、新たに放映するテレビCMもこれまでにない雰囲気のものとなっています。

吉清:その点でも、新たなテレビの世界が到来していることを示しながら、スマートAVライフとはどんなものか、そして、それを体感していただけるようなものへと展開することを狙っています。ロンドンオリンピック開幕150日前となる2月28日から、「スマートAVライフ、はじまる」というキャンペーンを開始しました。ここではオリンピックをスマートに楽しんでいただける提案を行なっています。滝川クリステルさんが登場する新たなCMも、スマートビエラやスマートディーガの特徴を自然な形で訴求できるものになったと自負しています。

2月28日からは、「スマートAVライフ、はじまる」キャンペーンを開始。写真中央は六本木ヒルズの「スマートヒルズ」キャンペーンの様子

パナソニックはAV機器分野唯一のオリンピック公式パートナー

――今年はロンドンオリンピックが開催されます。AV機器分野における唯一のグローバル公式パートナーであるパナソニックは、どんな提案をしていきますか。夏のボーナス商戦期のテレビ売り場においては、突出する商材がない中で、このキャンペーンに期待する販売店も多いと思いますが。

吉清:7月27日に開幕するロンドンオリンピックは、パナソニックの強みが最も表現できる場でもありますから、これにあわせた訴求に力を注いでいきます。北京オリンピックに比べて2週間ほど早い開幕日になりますし、オリンピック需要は、開幕2週間ぐらい前からピークを迎えるということを考えますと、ボーナス商戦となる6月、7月は、まさにオリンピックを前面に打ち出したプロモーションが最適です。

 どの競技も決勝はだいたい夜中になりますから、タイムシフトの有効性を訴えるととともに、VIERA Connectの機能を活用することで、オリンピックに関する情報などを入手するといった提案を行ないます。また、4月中旬にはオリンピックスペシャルサイトを公開し、オリンピックに関連したオリジナルアプリケーションや、オリンピック選手の応援企画などを用意することで商戦を盛り上げていきます。これまでにもオリンピック商戦においては、タイムシフトや3Dといった特徴を訴求してきましたが、こうした機能に加えて、今回のオリンピック商戦では、スマートAVライフならでは使い方も訴求していきたいと考えています。


■ 「もっとTV」対応を重視。スマートAVの販売戦略目標も

スマートビエラおよびスマートディーガのリモコンには「もっとTV」のボタンがついた

――業界でいち早く、有料のVODサービス「もっとTV」への対応を図りました。これはビエラ、ディーガの販売拡大に寄与すると考えていますか。

吉清:私は、大きな弾みになると考えています。もっとTVは、放送局が新たなサービスに踏み出したものであり、パナソニックとしても、日本ならではの「見逃し番組サービス」に育てていきたいと考えています。薄型テレビのビエラでは、直接利用できる「見逃し番組サービス」に対するメリットはすぐにご理解いただけると思います。

 しかし、蓄積型のレコーダであるディーガにおいても、もっとTVは重要な機能になると考えています。パナソニックでは、スマートビエラだけでなくスマートディーガにおいても、もっとTVに対応し、リモコンにはビエラ同様、もっとTVの専用ボタンを搭載しています。つまり、既存の薄型テレビにスマートディーガを接続するだけで、もっとTVが利用できるようになります。

 地上デジタル放送への完全移行によって、薄型テレビは買い換えたばかりというユーザーの方がほとんどです。しかし、レコーダは、まだ買い換えていないという方々が多いと考えています。レコーダを買い換えるのであれば、テレビの利用を進化させることができるスマートディーガをぜひ選んでいただきたい。レコーダを買い換えることで、ここからスマートAVライフに踏み出していただくことができます。

 こうした機能の数々は、レコーダの新たな体験を生み出すものであると自負しています。これまでのタイムシフト+新たな楽しみ方の提案によって、私は、ディーガがレコーダからホームサーバーへと進化したと思っているんですよ。スマートディーガは、まさにホームサーバーへの一歩です。

「スマートAVライフは、まだブラウン管テレビを所有している方や、デジタルテレビを使いこなしていないという人にこそ、使っていただきたい」と語った

――スマートビエラ、スマートディーガの販売戦略においては、まず、目標をどこに置きますか。

吉清:なかなか数字では言いにくい部分もあります。ただ、多くの方々にスマートAVライフを知っていただくための活動には力を注いでいきたいですね。これまで新たな機能が登場すると、それは難しいのではないかといった声や、あるいはテレビを使い込んでいる人たち向けの機能であるという言い方もされてきました。もしかしたら、スマートAVライフというと、その傾向がますます強まるのではないか、という先入観でみてしまう方もいるのではないでしょうか。

 しかし、スマートAVライフは、むしろ、まだブラウン管テレビを所有している方や、デジタルテレビを使いこなしていないという人にこそ、使っていただきたい。これまでにない操作感を実現していることをご理解いただきたいと思っています。もちろん、デジタル機器の先進的活用者の方にも使って満足していただけるはずです。まずは体感していただきたいというのが、新たなテレビ時代におけるパナソニックからのメッセージです。

(2012年 3月 8日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など