大河原克行のデジタル家電 -最前線-

TV事業再編に挑むソニー、パナ、東芝の狙い

業績改善総仕上げ。白物/スマート化も関係

 ここにきて、テレビ事業の組織再編が相次いでいる。

 ソニーは、7月1日を目標にテレビ事業を分社化することを発表。東芝は、デジタルプロダクツ&サービス社の映像事業を分割し、東芝ホームアプライアンスに統合。4月1日付けで新会社「東芝ライフスタイル」を発足し、テレビ事業と白物家電事業を統合する。また、パナソニックは、4月1日付けでAVCネットワークス社からコンシューマ関連事業を切り出し、白物家電を担当しているアプライアンス社に統合。これによって、テレビ事業は白物家電事業に統合されることになる。

 相次ぐテレビ事業の組織再編は、テレビ事業再生に向けた「総仕上げ」が進んでいることを示すものとなるのだろうか。

各社テレビ事業の現状

 電機大手各社にとって、テレビ事業はここ数年、「お荷物」といえる状況だった。

2月の決算発表においてテレビ事業の分社化を発表したソニー平井社長

 ソニーは、2013年度もテレビ事業が赤字の見通しで、これにより、10年連続でテレビ事業は赤字となる。平井一夫社長は、社長就任以来、テレビ事業の黒字化、そして、エレクトロニクス事業の黒字化を必達目標とし、2013年度の達成を目指していた。「数を追わず、収益を確保することを優先する」(平井社長)という戦略を打ち出したものの、テレビ事業の回復は遅れている。

 ソニーの加藤優CFOは、「2011年度末時点でマイナス1,475億円だったテレビ事業の損失は、液晶パネル関連コストの削減、商品力強化とオペレーションの改善などにより、現時点でマイナス250億円まで追い込んだ。一定の成果をみせている」とするが、「2年でブレイクイーブン」という意欲的な計画は未達に終わる。

 東芝は、2年連続で500億円規模の赤字を計上してきたテレビ事業が、2013年度第3四半期(2013年10~12月)単独で黒字化を達成。回復基調に転じつつあるが、東芝の久保誠副社長は、「黒字化といっても自慢できる数字ではない」とわずかな黒字に留まったことを示す。第1四半期の800億円の赤字などの影響もあり、2013年度通期では3期連続での赤字の公算が高い。通期黒字化は来年度以降に持ち越すことになりそうだ。

 そして、パナソニックも、プラズマテレビからの撤退などの荒療治を実行。2013年度第3四半期単独でのテレビ事業部の営業利益は、1億円の黒字を計上。だが、テレビ・パネル事業の連結収支では、マイナス81億円の赤字が残っている。

パナソニックの河井英明常務取締役

 パナソニックの河井英明常務取締役は「テレビ事業の改善は進捗が若干遅れている。第4四半期以降には徹底した事業構造を行ない、来年度は利益が出る形にしていきたい」と、手綱を引き締める。事業構造改革のなかには、4月1日付けのテレビ事業を含む組織再編が盛り込まれることになる。

ソニーのTV事業分社化は、総仕上げに向けた最後の一手

 今回3社が発表したテレビ事業の再編は、各社各様の狙いがある。

 テレビ事業の分社化を行なうソニーは、まさに構造改革の総仕上げという意味合いが強いと言えるだろう。

 平井社長は、「テレビ事業の黒字化なしに、ソニーの再生も、その後の成長もない」とコメント。残り250億円規模の赤字解消を、分社化という新たな体制で成し遂げようとしている。

 分社化のメリットについて、平井社長は、「独自のマネジメントを行ない、現場で判断することができる。これは、経営スピードを加速できることにもつながる」と語り、「分社化するとそのまま黒字化するというオートマチックなものではないが、分社化が黒字化への道につながるのは確か」とする。

ソニー・コンピュータエンタテインメントのPlayStation 4

 平井社長は、同じく分社化し、プレイステーション事業を展開しているソニー・コンピュータエンタテインメントで社長を務めた経験もあり、自ら分社化のメリットとデメリットを熟知している。

 「ソニー・コンピュータエンタテインメントやソニーモバイルコミュニケーションズは、ソニーの100%子会社として、スピーディーな経営を実現している。これをテレビビジネスに持ち込むことになる」と、分社化の成果に自信をみせる。

 関係者の間からは、「歴史的にも長いテレビ事業にはあれこれ口を挟む人が多かったが、分社化によって、それが薄れることになるのはプラス効果」とする声もあがっている。

 総仕上げに向けた最後の一手が分社化ということになるだろう。

さらなるスリム化で経営にスピードを出す東芝

 東芝は、決算発表時に使用する事業セグメントの分類において、2013年度第3四半期決算から、テレビ、パソコン、家庭電器を「ライフスタイル事業」として区分けを行っている。今回の組織再編で、東芝ライフスタイルという新会社を設立。分社化させる形を取りながら、名実ともにテレビを「ライフスタイル」の中に組み込むことになる。

 東芝では、2013年6月に田中久雄氏が社長に就任。同年8月に発表した経営方針では、「創造的成長の実現」を掲げ、2015年度に売上高7兆円、営業利益4,000億円、B2B比率を現在の80%から90%へと拡大するといった計画を打ち出した。さらに、10月にはそれに向けた組織の再編を発表。従来は、社会インフラ事業、デジタルプロダクツ事業、電子デバイス事業、家庭電器事業の4つの事業体制であったものを、電力・社会インフラ事業、コミュニティ・ソリューション事業、ヘルスケア事業、電子デバイス事業、コンシューマ&ライフスタイル事業の5つの事業体制に再編するとともに、「エネルギー」、「ストレージ」に加えて、「ヘルスケア」を3本目の柱に位置づけている。

東芝の田中久雄社長
「エネルギー」、「ストレージ」に加え、「ヘルスケア」を3本目の柱に位置づけている東芝

 こうした取り組みのなかで、テレビやPCに関わる社員の約20%にあたる約400人を、社会インフラ事業などに配置転換。テレビ事業とPC事業の合計で、2013年度に約100億円、2014年度は約200億円の固定費削減を図るほか、テレビ事業に関しては、成長率の高いアジアや中近東、アフリカ等などの新興国市場に注力していく一方で、不採算国での販売を休止。中国。大連の生産拠点の終息など、海外の製造拠点を3カ所から1カ所に集約。グローバル生産委託比率を現在の40%台から70%に引き上げ、固定費削減と生産効率向上を図ることを明らかにしていた。

 これらの構造改革施策によって、2013年度末までに、全世界のテレビ事業に関わる社員を、約5割にあたる約3,000人体制にまでスリム化することになる。

 田中社長は、「赤字では事業を継続する意味がない」、「聖域を設けず、大胆な構造改革を実施する」として、テレビ事業の黒字化に向けた大胆な構造改革を断行したわけだが、こうしたスリム化によって、テレビをはじめとする映像事業に関わる約700人を新会社の東芝ライフスタイルに移籍。1,400人規模という適正な規模でスタートする。

 東芝ライフスタイルは、テレビと白物家電事業を、分社化した体制のなかで一体運営する形になる。拠点や人員配置をはじめとする経営資源の共通化によるメリット、コスト最適化などによる競争力の強化、映像機器と家電製品とを連動した形で注力地域に対して、戦略の一本化などによる戦略投資の拡大が見込まれる。

 また、社長直属の地域戦略/横断商品企画プロジェクトチームを新設することで、統合によるシナジー効果を最大化するという。

 「聖域を設けない構造改革」の行方が、テレビ事業を白物家電事業に組み込んだ分社化である。もともとパネル事業を持たないことでのスリム化では他社をリードしているが、さらにスリム化した体制で、経営にスピードが出ることは見逃せない。

 東芝の白物家電事業も第2四半期までは赤字の状況。そして、第3四半期に黒字転換したというが、その状況はテレビ事業と同じだ。黒字化に転じはじめた2つの事業の統合が、どんな効果を発揮するかが注目される。

「テレビは白物家電」を具現化するパナソニック

 パナソニックも、4月1日付けで、コンシューマ向けデジタル製品事業を、AVCネットワークス社から、白物家電を担当するアプライアンス社に移管。テレビと白物家電事業を一本化する。

 正式な組織発表は、3月27日に予定している津賀一宏社長による事業方針説明会の場になるだろうが、すでに発表されている4月1日付け役員人事では、現在、アプライアンス社の社長を務める代表取締役専務の髙見和徳氏が、引き続きコンシューマ事業担当を継続するほか、長年にわたりテレビ事業を担当してきたAVCネットワークス社上席副社長 コンシューマ事業担当の西口史郎氏が、アプライアンス社の上席副社長 企画担当に就任。現在、AVCネットワークス社テレビ事業部長を務める楠見雄規氏は役員に昇任するとともに、アプライアンス社 上席副社長 ホームエンターテインメント・ビューティー・リビング事業担当(兼)ホームエンターテインメント事業部長に就任する。

 こうした幹部人事の動きからも、テレビ事業がアプライアンス社に含まれることは明らかだ。

 パナソニックがテレビ事業を白物家電事業に統合するのは、かつて自らもテレビ事業を統括してきた経験を持つ津賀社長の思いが強い。

パナソニックの津賀一宏社長

 津賀社長は、2012年の社長就任直後の会見で、「パナソニックを普通の会社に戻す」と発言する一方で、「テレビはもはや白物である」と位置づけ、その後も「テレビ事業の方向性のひとつとして、仮説を立てているのが、白物家電のひとつにテレビ事業を位置づけるということ」などと発言してきた。

 今回の組織再編は、津賀社長が就任以来示してきた「テレビは白物家電」という言葉を具現化するものだといえよう。

 津賀社長は、「白物家電は、売り上げと利益の面からみても、事業の大きな柱である。だが、テレビ事業は、売り上げは立っても、利益はでない。これはコア事業ではない」とし、テレビ事業の構造改革に挑む一方、パナソニックが事業対象とする「住宅空間」、「非住宅空間」、「モビリティ」、「パーソナル」という4象限において、テレビは住宅空間で事業を行なうものと定義。「住宅空間のなかにテレビが入っているということは、テレビはもはや白物である。住宅のなかでも重要な位置を占めるという点には変わりはない。住宅空間のなかで、どんな役立ちをすれば、パナソニックがテレビ事業を持っている価値を生かせるのかということを意識していきたい」としていた。

スマートビエラのマイホーム機能。テレビに関する情報をまとめた「テレビのホーム」、天気予報やメモ、カレンダーなどを表示する「くらしのホーム」、よく見るWebサイトを一覧表示する「ネットのホーム」、個人の趣味にあわせた独自のページも作れる

 そして、「白物家電のひとつにテレビ事業を位置づける上で、具体的な取り組みが、スマートビエラになる。スマートビエラは、マイホーム機能が特徴であり、テレビは単にテレビ放送を受けるだけのデバイスではなく、ネットにつながり、クラウドを利用しながら、様々なサービスが提供され、生活の場において、暮らしを助けるデバイスになる。より家と一体感を持ったようなテレビづくりを目指す」などと語っていた。

 ディスプレイはBtoB事業へと位置づけを明確化し、その一方でテレビを白物として扱うことで、テレビがスマート化へ進展するなかで、パナソニックが持つ白物家電や住宅関連事業との連携によって、パナソニックの強みを生かすことができる領域へと展開。そこにパナソニックならではの価値を作ることになる。

このようにテレビ事業の再編の狙いは各社各様だが、大きな流れを捉えると、業績改善に向けた最後の総仕上げという側面とともに、経営資源の効率活用、迅速な意思決定といった経営面でのメリットを追求する狙いが見える。また、テレビのスマート化に伴う白物家電製品や住宅関連機器との連動といった動きが背景にあることも見逃せない。

 まずは新たな体制によって、テレビ事業を復活させ、黒字化することが各社共通の課題。その成果はどこが一番早いのか。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など