西田宗千佳のRandomTracking

第656回

日本のコンテンツ投資からAI戦略まで。Netflix・共同CEOがすべてに答えた

Netflixの共同CEO(最高経営責任者)である、グレッグ・ピーターズ氏

Netflixの共同CEO(最高経営責任者)である、グレッグ・ピーターズ氏の共同インタビューに参加した。

ピーターズ氏は、2015年にNetflixが日本参入を果たした当時の日本事業責任者であり、過去にも何度も、本連載でインタビューをお届けしている。

今回は共同CEOの立場で、今のNetflix事業全般に関わる話を聞いた。

多くの人が気になるのは、2026 World Baseball Classic(WBC)独占配信の価値や、日本コンテンツの行方などだろう。

だがそれだけでなく、話題はAIにも及んだ。コンテンツ制作の中で、AIの活用は実践の段階に入っている。しかし、その価値や運用方針については課題も多く、議論が尽きない。

NetflixはAIにどう取り組むのか? そして、結果として、映像配信の世界はどう変わっていくのだろうか?

WBCは成功、今後は他のパートナーとの連携も視野に

まずは、多くの人が気になっている話から入ろう。

Netflixは、今年春のWBCを日本で独占配信した。その結果をどう評価しているのだろうか。日本では「地上波で視聴できない」ことに対する議論も巻き起こった。

ピーターズ共同CEO(以下敬称略):WBCは大成功でした。私たちは非常に満足しています。

またこのことは、スポーツのストリーミング配信が、国中の多くの人々がアクセスするための有効な方法になり得るという事実の一例を示しています。実際、多くの方にご登録いただけました。加入しやすいよう、初月が低価格になるプランを導入した成果もあったでしょう。

地上波放送と比較して、注目すべき違いもあります。以前は系列局の地上波放送がなかった日本の地域でも、NetflixからWBCを見ることができた場所があるということです。ある意味では、私たちはさまざまな地域へのリーチを拡大しているのです。

そうは言っても、私たちも、スポーツ戦略をどう進化させるかを考えています。すべてのモデルにおいて、パートナーシップの余地があると考えています。必ずしもNetflixだけでやらなければならないとは考えていません。放送局や他のパートナーと、どのように連携してイベントやスポーツを組み合わせて提供していくかを考える機会があると思います。

私たちは加入者にとって、消費者にとって、どう機能するのがいいのか、ということについて、非常にオープンだということです。

そして私たちは、WBCの次は何なのかを見つけ出そうとしています。今後も私たちは、様々なことを試していくことになります。

日本への投資は継続強化、実写の成功には楽観的

Netflixでは「ローカル重視」が貫かれている。グローバル企業ではあるが、コンテンツが生まれた土地で受け入れられるものでなければ世界にも通じない、という発想だ。

日本への投資も継続して強化される。

ピーターズ:私たちはコンテンツへの投資を増やしています。そして私たちは特に世界中の、私たちがクリエイターに語る手助けができ、世界の視聴者に届けることができる素晴らしい物語がまだたくさんあると信じている国、すなわち日本のような国への投資を増やしています。まだまだ、これからです。

「投資を増やしている」という言葉の中には、現在の配信ビジネスが単純な拡大期を過ぎ、過剰投資が抑制される時期に入った……という言説に対する対抗でもある。

ピーターズ:競合他社や他のサービスは、コストをどう合理化し、制作費を下げるかを考えなければならなくなっていると言えるでしょう。しかし、私たちは世界中で制作するコンテンツの量を拡大しています。なぜなら、加入者が私たちに対し、さらに多くのコンテンツを求めていると強く確信しているからです。彼らはもっと多くの物語を求めています。だから、私たちはコンテンツへの投資を増やしています。

その中で日本は有望な市場であり、同時にコンテンツ供給の拠点でもある。英語以外のコンテンツにおいて、日本は韓国に続き2番目に人気が高い。現状、アニメを中心にしたヒットとなっているが、実写の可能性についてはどう見ているのだろうか? 韓国に続く2位、とはいうものの、実写作品の人気ではかなり水をあけられている。

ピーターズ:日本の実写作品が世界で支持されることについては、かなり楽観視しています。アニメだけでなく実写も支持されるのは間違いありません。

ただ日本は長い間、実写作品の制作において、国内だけに焦点を当てていた時代が長く続きました。そのため、クリエイターを後押ししてクリエイティブのレベルを非常に高く保つ機会を逃してしまったのだと思います。

私たちは、(グローバルを意識した投資を)再び行っているところです。作品を見れば、そのことは明らかです。

ですから常に後押しし、開発に投資し、脚本に投資し、高い制作品質に投資するようにしなければなりません。

縦型動画にネトフリが参入する狙い

そんな中でも、Netflixは新しい形のコンテンツへの投資や、視聴スタイルへの投資を進めている。

中でも注目されるのが、スマホネイティブな動画スタイルとも言える「縦型ビデオ」の話だ。「Clips」と呼ばれるこの機能は、日本からはまだ利用できないものの、アメリカ・イギリスなど9カ国で先行利用が可能になっている。

ピーターズ:ショートコンテンツや縦型動画など、よりモバイルにフォーカスした動画の実験も行なっています。なぜなら、目の前に大きなテレビがあるときだけでなく、スマホで少しの時間ができたときには、異なるエンターテインメントのニーズがあることを、誰もが認識していると思うからです。

ただし、縦型動画でTikTokやInstagramのような、ある種のソーシャル空間を作って追いかけていくつもりはない、とも話す。

ピーターズ:私たちはTikTokやInstagramの代わりになるつもりはありません。私たちがやることにはなりません。しかし、私たちがメンバーに届けるのが自然なエンターテインメントの瞬間というものがあり、そのうちのいくつかはスマホの縦型動画で届けるのに適していると考えています。

現状、ドラマなどのソーシャルメディア的でない縦型動画がもっとも拡大しているのは中国市場だ(Netflixは中国本土でのサービスは行っていない)。中国市場での縦型動画との違いを問われ、ピーターズ氏は次のように説明する。

ピーターズ:中国で縦型マイクロドラマがうまくいく理由の一つは、現時点では、それらが他のコンテンツと違って検閲されていないからです。政府の規制を回避しているという側面が多少あるのです。

Netflixのアプローチについて言えば、一部については、我々が現在持つコンテンツを切り取り、縦型で提示するものになります。しかし中には、縦型動画のために制作され、縦型動画専用で、実質的にそのフォーマットでしか利用できな作品も含まれます。

体験・広告・制作の3点でAIに取り組む

現在、多くのビジネスでAIが変革の中心になってきている。映像業界も例外ではない。本連載でも、「映像とAI」の関係については、このところ連続して語ってきた。

Netflixは、AIについてどのように取り組もうとしているのだろうか? ピーターズ氏は「主に3つの観点がある」と説明する。

ピーターズ:AIについては、私たちは3つの分野に投資しており、差別化された品質の体験を作り出すのに十分なデータと規模を持っていると考えています。

1つ目は、作品の選択やインタラクティブな選択などに関連するユーザー体験です。

私たちはパーソナライゼーションとレコメンドシステムに関し、20年近くにわたって取り組んできました。新しい「生成AI」というテクノロジーを使って体験を拡張することで、より良いものにできると考えています。

そしてそれはまた、異なる種類の発見や選択の体験を提供できることを意味します。

その一例が「会話型検索」です。自然言語で「こんな感じのものを探している」と話せていくつかのおすすめをもらい、さらに「いや、もっとこっちの方向のものがいいな」と対話しつつ、結果として違うタイトルのセットをもらうことができるわけです。

Netflixは、見たい作品の発見にレコメンドを導入した最初期の企業でもある。大量に存在するコンテンツから「知っている作品を目で探す」のではなく、「この人が好みそうな作品を提示する」ことで、配信カタログにある作品の価値を高めた。

一方で、技術の進化とサービス利用者の拡大により、レコメンドをはじめとした作品発見のプロセスにも進化が求められている。

ピーターズ:レコメンドが最新のAIがベースの技術になっても、レコメンドから大半の作品が視聴される、という傾向は変わらないのではないか、と予測しています。なぜなら、すべてはユースケースに関係しているからです。『続きを見る』であったり、誰かが見ているシーズンの次のエピソードをただ戻って見たいという場合もあります。それらを含め、どこから視聴するのか、ということは変わらないと思います。

本当のチャンスというのは、現在のレコメンデーションをさらに良くすることにあります。その中で、映画やドラマシリーズを提示するだけでなく、ライブイベントやゲーム、ショートコンテンツもおすすめするようになると、本当に面白い領域になります。

ここではいわゆるLLM(大規模言語モデル)ベースのレコメンドシステムが効果的に機能し、はるかに簡単に番組を見つけられる状況になりつつあると考えています。

検索の改善も重要です。

テレビでの「検索」は基本的には非常に使いづらいものであり、ほとんどの人はあまり使いません。非常に具体的なものを探している時にしか基本的には使わないものです。要は、2文字入力すればタイトルにたどり着くような場合です。

しかし、音声対応のAIベースの会話型検索があれば、全く違うものになると思います。レコメンドを見て「今はそういう気分じゃないんだよね」と(Netflixのサービスに対して)言えるようになるんですから。「80年代の、楽しくて、明るい感じのものがいいな」といった感じの対話になります。

だから、今後検索を使う人の数は増えるでしょう。

こうした技術による刷新はいつ我々のもとに提供されるのだろうか? 色々な国の色々なコンテンツを、先入観に囚われずに発見できるようになれば、大きな変化になるはずだ。

ピーターズ:現在、レコメンドシステムの仕組みを変更し、生成AI技術をもっと活用しようとしているところです。テストを経て、機能を解き放つことになります。10年後ではなく、来年、来年どうなっているか確認してみてください。

すなわち、レコメンドや検索のシステムの改変は、そう遠い話ではないということなのだろう。

ライバルであるAmazon Prime Videoがこの領域での改善に勤しんでいる。Alexa+で生成AIベースの技術導入が進むと、作品の中身にある映像や音楽のイメージから検索することすら可能になる、と発表されている。

これは筆者の私見だが、Netflixも生成AIをベースに改良することで、より詳細な印象に基づく検索と発見を可能にしていくのだろう。Amazonが目指すものとの差異は、変更がスタートしてみないとわからないが。

次のAIによる変化が「広告」だ。

ピーターズ:我々はAIを、「現在起きている多くのことを自動化する方法」だと考えています。ブランドがキャンペーンを計画したり、変更したり、効果測定をしたりするわけですが、それが今やますます自動化できるようになっています。ターゲティングの向上にも活用できますし、広告周辺のクリエイティブな分野でも使うことができます。

この結果、作品の持つクールで文化的な価値を、関連性のある要素を持つブランドのために解き放つことができるでしょう。これまでは、その調整に多くの労力を要するため、実際には非常に困難なことでした。しかし、生成AIを使えば、それをはるかに迅速に行なうことができます。

この点は、エージェンティックAIのマーケティング活用という意味で、業界全体のホットトピックとなっている部分だ。Netflixも「広告つきスタンダード」プランの利用者が増え、広告収入の拡大が重要になってきている。だから、その効率をAIで拡大したい、というのも自然な発想である。

AIはクリエイター重視。AIでも制作総コストは下がらない?!

残る1つが、クリエイターにとっても、視聴する我々にとっても重要な要素だ。コンテンツ制作の中で、AIをどう活用するか、という点である。

ピーターズ:コンテンツ制作については、あくまで、クリエイターがより魅力的な方法で物語を伝えるためのツールを提供し、そのプロセスをより良いものにして、彼らが物語を伝える上で実際に効果的になれるように、このテクノロジーを活用しようとしている例だとお考えください。

ツールとしての活用であってクリエイターの置き換えではない、というのはわかりやすい話である。

今年3月、Netflixは、映画監督で俳優のベン・アフレック氏が創業したAI関連企業である「インターポジティブ」を買収、アフレック氏をシニアアドバイザーとして迎え入れている。インターポジティブはAIによる映像編集技術の会社であり、いわゆる動画生成技術を手がける企業ではない。同社の買収も前述の「コンテンツ制作過程の改善」に関するものだという。

では、AIとコンテンツ制作の関係は、具体的にはどういう形になるのだろうか?

ピーターズ:コンテンツを制作する時間を短縮できるようになるでしょう。お客様は、今よりも早くシーズン2やシーズン3を見られるようになることを望んでいるはずです。AIツールがそのプロセスを早めることになると期待しています。

さらに、コンテンツ制作におけるより厄介な部分を、より簡単にできると信じています。

今の再撮影について考えてみてください。「あのショットを撮り逃してしまった」といった場合でも、俳優を呼び戻してシーンを再現するのは非常に困難で、労力も費用もかかりすぎるため、多くの場合わざわざそんなことはしません。

しかし、関わる全員の許可を得て生成技術を使うことで、そのプロセスを簡単にし、問題を解決できると考えています。結果としてより良いストーリーテリングに繋がります。

また、以前なら高すぎてできなかったようなシーンやショット、私たちが以前は作れなかったような視覚効果などが、これらのツールを活用することで可能になるでしょう。

もう一つ、今日AIツールがよく使われている分野は、ストーリーの構想やプリビズといった企画の初期段階です。最初からAIを使うことで、何を達成しようとしているのかを把握し、そのプロセスを通じてより良い結果を得ることができます。

私たちは、オープンソースモデルやオープンウェイトモデルのようなフロンティアモデルを使用し、私たちが持っている膨大な量のデータを使ってそのモデルを調整しています。

そしてそのAIモデルを、クリエイターが自然な会話や自然なプロセスで自分たちのやっていることを何でもできるようにするツールセットに統合するのです。

監督が撮影監督と「どのレンズを使うべきか」について話し合うように、私たちはその監督がAIツールとも同じようなやり取りができるようにしたいのです。

インターポジティブの買収は、私たちがこうしたツールセットを構築するための基盤になりつつあります。今では、そのコアツールを使って、制作プロセスの一部を行っている作品が数多くあります。

Netflixが考えているのは、最終的な結果を得るのではなく、VFXや撮影技術の延長としてAIを使う、という話なのだ。

縦型動画もAIと関連性の深いジャンルである。中国では縦型動画需要の拡大により、AI生成による縦型動画も増えている。従来型の実写やアニメを含まない、純粋なAI生成による動画だ。Netflixの縦型動画でのAI利用も、他の作品同様の扱いになるのだろうか?

ピーターズ:今私たちがやっているすべての縦型動画は、ほとんどが伝統的な制作アプローチに基づいています。私たちはクリエイターにツールを提供し、彼らが最も効果的だと考える方法でコンテンツを制作できるようにしたいと考えています。

だから、同じツールを縦型動画のクリエイターにも提供して、彼らがどうするかを見るつもりです。

しかし繰り返しますが、私たちは、それらのAIツールが「完全に生成的な方法」で使われるとは見ていません。つまり、誰かがプロンプトを書けば、そのまま動画が出てくるというようなものではないということです。

撮影は今まで通り行ないますが、もしかしたらその撮影された素材を変換して、着ているシャツや背景を変えるかもしれません。そういった流れでの使い方です。

他方で、AIでの変化について、ピーターズ氏は面白いが納得の見解も披露してくれた。

ピーターズ:コストを考えた時、AIが「より安く作ること」につながるのか、という観点があります。

実際のところ、そうなるとは思っていません。

映像のストーリーテリング制作におけるテクノロジーの歴史的な使用を振り返ってみると、より良いテクノロジーがコスト低下に結びついたことは通常ありませんでした。

新しいテクノロジーが登場したとき、私たちはそれを使って、より良くするために継続してお金を使います。なぜなら、私たちが使えるお金の額は「どれだけ安く作れるか」ではなく、「どれだけの人が見るかに基づいて、結果としてどれだけ使えるか」だからです。

今回もそうなるだろうというのが私の予想です。

すなわち、AIで低コストになる部分はあったとしても、その分を別のコストがかかる領域に回すことになるので、単純に制作費が下がることにはつながらない、という意見だ。

ゼロから生成AIで生み出すのであれば、関わる人も時間も少なくなるので単純コストカットになるだろう。だが、Netflixはそういう使い方をしないし、コンテンツ業界も視聴者も望んではいない。

だとすれば、「コストは変わらず質だけが変わる」という結果になるのだろう。

AI利用ルールは公開済み

そして、制作の中でAIを使うのであれば、明確なルールも必要である。

実は、ネットフリックスはすでに「Netflixコンテンツ制作におけるAI利用のルール」を公開している。

ピーターズ:私たちの視点からすると、まず第一に、これらのAI技術はクリエイターのツールであり、基本的にはクリエイターに取って代わるものではなく、クリエイターが主導すべきものだと信じています。

ただ、それに対する不安があることは理解しています。ご存知の通り私たちはIPを中心に展開しており、IPを保護し、その周辺の安全性と基準を確保するという観点からも来ています。そのため、クリエイターを支援しつつ、クリエイターに取って代わることのないAIのガイドラインと使用方法を説明することで、私たちが業界をリードする立場にあると実際に考えています。

実際にそれらのガイドラインを公開しており、パートナーの中にはこれらの技術を使うことをエキサイティングなことだと考える方々もいらっしゃいます。

私たちは、人間を第一に考え、俳優の肖像や声などを本人の許可なく使用することは決してありません。ガイドラインの中では、そういったことを尊重する安全な方法で使われるべきだと私たちが考える理由と方法を説明しています。

ガイドラインの内容は英語だが、以下のリンクから確認できる。

Netflixの公開しているAIガイドラインのページ

Using Generative AI in Content Production

簡単にまとめると以下のような内容だ。

  • 【基本方針】
    Netflixは、生成AIツールを透明かつ責任を持って使用される場合、クリエイティブなワークフローにおける「価値ある補助ツール」と位置づけている。クリエイターに取って代わるものではなく、クリエイターが主導して物語をより魅力的に伝えるためのツールであるという「人間を第一に考える」スタンスを基本とする。
  • 【5つの基本原則(Guiding Principles)】
    以下の原則を満たす低リスクな使用であれば、通常はNetflix担当者への報告のみでよい。1つでも「いいえ」や「わからない」がある場合は、事前にNetflixの担当者に相談する必要がある。
    1. 生成されたものが、著作権保護された作品を複製・実質的に再作成したり、著作権を侵害したりしないこと。
    2. 使用するAIツールが、入力データや出力結果を保存、再利用、またはモデルの学習(トレーニング)に使用しないこと。
    3. 可能な限り、入力を保護するために安全な環境でAIツールを使用すること。
    4. 生成された素材はあくまで一時的なものであり、最終的な成果物(本編映像など)の一部ではないこと。
    5. 本人の同意なしにタレントのパフォーマンスを置き換えたり、生成したり、労働組合の対象となる仕事をAIで代替しないこと。
  • 【事前の書面承認が常に必要なケース】
    以下の4つの領域では、使用意図の報告に加えて、事前に書面での承認が必須になる。
    6. データ使用:承認なしにNetflix所有の素材や個人情報(キャスト・スタッフ情報)をAIに入力することは禁止。適切な法的許可なしに、アーティストや権利者の素材を用いてAIモデルを学習・微調整することも禁止。
    7. クリエイティブ出力:ストーリーの中心となる主要キャラクター、重要な視覚要素、架空の設定などをAIで生成する場合は承認が必要。また、著作物や公人・故人の肖像を参照して生成することも許可なしには行えない。
    8. タレントとパフォーマンス:実在のタレントの声や肖像のデジタルレプリカを、明示的な同意なしに作成することは禁止。また、演技の感情的なトーンや意図を変えるような大幅なデジタル改変を行う場合も注意と承認が必要。
    9. 倫理と表現:実際には起きていない出来事や発言を本物のように見せかける、誤解を招くコンテンツ(実在のジャーナリストを使ったフェイクニュースの映像など)の作成は禁止。また、俳優や脚本家、クルーなど、労働組合が担う役割をAIで置き換えることも適切な承認なしには行えない。

どれも、作品制作の過程での利用は許諾の上、演者を含むクリエイターの権利を侵害しない形で行う、というスタンスでの内容と言えるだろう。

吹き替えも「声優」「クリエイティブ」重視。すでにリップシンクにAI活用

海外作品が受け入れられるには、字幕や吹き替えが欠かせない。Netflixがさまざまな地域からコンテンツを集められるのも、同社が字幕や吹き替えなどの「国際化」に力を入れているためだ。

ここでもう一つ気になってくるのが、字幕や吹き替えでのAI利用だ。

ピーターズ:私たちがAIというテクノロジーの使い道について、非常に慎重に判断をしようとしている部分です。

ここでも、クリエイティブな要素に取って代わるとは考えていません。クリエイティブな要素の一部とは、翻訳先の言語で演技をして反映させることが仕事である「声優」を意味します。

例えば、字幕制作のプロセスをより速く、より高品質にするためにAIツールを使います。しかし、吹き替えにおいては特に、私たちは実際に声優を置き換えるためには使いません。

ただ、AIが品質を高めるために使われている部分もある。それが「リップシンク」だ。

ピーターズ:私たちは吹き替えと口の動きが一致するように、ビデオの口の動きを少し変更しています。

私たちが体験をよりシームレスにできるなら、視聴者はこれら(リップシンク)の変化に気づきさえしません。その結果として、これまでなら海外の別の言語の作品を見ようとも思わなかったような人々でも、もっと視聴するようになることを意味します。

『イクサガミ(Last Samurai Standing)』がその一例です。吹き替え俳優の動きをもとに、映像側の口の動きを少し変更したところ、特に日本の実写パフォーマンス作品にとってプラスに働き、グローバルでの視聴量トップ10リストに入りました。

もちろんこれも、出演した俳優陣の許諾を得て行なっているものです。

『イクサガミ(Last Samurai Standing)』
Netflixシリーズ「イクサガミ」シーズン1 世界独占配信中 / シーズン2制作決定

ゲームにはより注力。目指すは「ゲーム機を持たない層」

Netflixはサービスの中でゲームも扱っている。現状、あまり存在感はない。利用している人も少ないようだ。

だが、同社は今後この分野に力を入れていく。

Netflixはサービス内でゲームを提供しているが、今後はよりテレビでの体験を拡充する

ピーターズ:私たちはテレビにインタラクティブな体験を提供できるプラットフォームを「ゲーム」という形で構築しました。スマホをコントローラーとして使って、テレビでゲームをプレイするわけです。これは、家庭内の複数の人が座って一緒にゲームをプレイできることを意味します。

同時に私たちはそのコア技術を使って、全く異なる様々なことを試そうとしています。ライブのコンテンツと連動して、実際に視聴者に投票してもらうような形で参加してもらうこともその一つです。

すでにNetflixが提供するゲームの中には、QRコードを読み取ってスマホと連動すると、スマホをコントローラーにしてテレビからゲームが楽しめるものがある。今後はこの技術を、ゲームと同時に「インタラクティブな番組」に生かしていく、ということのようだ。

ピーターズ:私たちの本当の目標は、テレビでゲームを解き放つことだったと言えるでしょう。なぜなら、多くの人はPlayStationなどのゲームコンソールを持っていないからです。Netflixを介してテレビでゲームをプレイすることの素晴らしい点は、ゲームを選ぶだけで遊び始められることです。ダウンロードを長時間待つ必要もありません。すぐに体験の中に入り込めます。私たちはスマホをコントローラーとして使ってこれを行ないます。

視覚的な体験としては、トップレベルのものにはならないでしょう。しかし、私たちはより簡易なアクセス手段を持っています。クリックするだけでプレイできるんです。

例えば、この夏私たちはFIFAのゲーム、つまりサッカーをリリースします。

基本的には非常に複雑で、プレイの仕方を学ぶのに長い時間がかかるものです。しかし我々は、より簡単に楽しめるものを提供しようとしています。誰もがスマホを手に取り、5分でプレイの仕方を覚えてただ楽しめるようなものを。

これはすごくエキサイティングです。さらに本当にエキサイティングなのは、このインタラクティビティとゲームプレイの一部を、リニアな体験と結びつけられることです。

最初はFIFAのゲームプレイだけですが、後々、アメリカとカナダで女子ワールドカップが開催されます。そこでもしある試合に興味があるなら、実際の試合が起こる前にその試合をプレイできるわけです。試合結果が気に入らなかったら、自分でリプレイすることもできる。

ライブ体験とゲームプレイを結びつける上で、私たちができることはたくさんあります。

最終的に私たちが目指しているのはインタラクティビティをテレビ体験にどう持ち込み、それをより流動的でシームレスなものにするかということです。

正直なところ、すでにあるものをただ提供するだけでは、あまり価値を生みません。私たちが考えようとしているのは、より多くの人にとってこれまで存在し得なかったような、私たちが可能にできる新しい体験とは何か、そしてその価値を届けることです。

その結果、2年後や3年後にこれがどうなっているか、私自身にも全くわかりません。

私たちがやることは、クリエイティブ・コミュニティにこれらのツールを提供することです。

彼らは私たちが決して思いつかなかったようなことを思いつくでしょう。そこが本当にエキサイティングなところになると思います。

劇場体験は大切。劇場とは良い関係を目指す

映像作品は、テレビやスマホの中に留まるものではない。映画館という体験は過去から存在し、それは今も有効だ。それどころか、より大きな価値を持つようになっている。

日本で起きた『超かぐや姫!』のロングラン上映はその一例と言える。

ピーターズ:「私たちが劇場公開に反対している」という話を聞くことがありますが、そうではありません。

映画を見に行くのは誰もが好きだと思います。それは素晴らしい体験です。そこには、私たちには何の問題もありません。

私たちは常に、彼らのビジネスをサポートしつつ、私たちのビジネスもサポートするような映画館との関わり方をどのように構築できるかを考えようとしてきました。

私たちが抱えていた主な問題、それは「私たちが映画館を嫌っている」という間違った話が色々と出ている理由だと思いますが……劇場公開のモデルでは、ストリーミングサービスのメンバーが映画を見られるようになるまで長い期間待たなければならないということです。

我々は、それが必ずしも私たちのメンバーにとって正しいことだとは考えていません。

当然のことながら、人々は他の人たちと一緒に「現実世界での体験」をしに行くことが好きです。それは良いことであり、サポートすべきことだと私たちは気づいています。

だから私たちはいくつかの異なる劇場イベントを行ってきました。ストリーミングで配信した後に劇場で応援上映のようなことをした『K-pop Demon Hunters』は良い例だと思います。

ストリーミングで終わった後でも、人々が映画館に行くし、私たちはその時点で実際に多くのチケットを売り上げました。

私たちは、どうすればより良く提携できるかという視点を進化させているのだと思います。

私の推測では、劇場との連携ではますます多くの活動が見られるようになるでしょう。時にはうまくいき、時にはうまくいかないこともあるでしょう。劇場パートナーが私たちと喜んで協力してくれる時もあれば、そうでない時もあるでしょう。

それも構いません。

でも、私たちはこれらの企業の多くと良好な関係を築いています。東宝が良い例だと思います。もっと良い例が増えていくでしょう。

ドラマシリーズにおいてさえ、私たちはいくつかの複数エピソードを、劇場で公開しました。こういったことも機能し得ると思います。

繰り返しになりますが、作品によっては、みんなで映画館に行って一緒に見るという社会的な視聴体験が価値を持つ場所があると思います。集まって劇場でみんなで観る、それ自体に人々は興奮する要素があります。

それが何なのかを、私たちが見つけ出さなければならないと思います。映画かもしれないし、シリーズかもしれない。色々実験すべきだと思います。

私たちはその価値をサポートしたいですし、その価値を私たちのメンバーに提供したいのです。

だから私はただ、そうするための正しい方法を見つけ出し、そして私たちの劇場パートナーがそれらのモデルをサポートしてくれるように、しかしストリーミングにも悪影響を与えない方法で、確実に実行しなければならないと考えています。

映画館という関係でいえば、ワーナーブラザーズの買収が失敗に終わったことが記憶に新しい。「買収額が見合わない」として撤退に至ったのだが、その決断はどう下されたのだろうか?

ピーターズ:私たちは、買収する企業(ワーナーブラザーズ)について、自社にとっての価値の分析 を行いました。その上で、私たちがそれだけの価値があると考えたモデルを構築し、その額を上限に入札を行ないました。 そして誰かが「それ以上の額で入札したい」と手を挙げた時、我々は「ノー」と言ったわけですが、まさにボーダーラインだったといえるかもしれません。

Netflixにとってワーナーの持つIPや劇場とのつながりは魅力的だっただろう。だが、そこで算定した価値分析を崩してまでの買収は、そもそもプランの中になかった、ということなのだろう。

是が非でも取りに行くという話ではなく、あくまでビジネス上の判断が前提にあったということだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41