大河原克行のデジタル家電 -最前線-

シャープのテレビ夏商戦は、60型超を10%以上に

「4K」と「モスアイパネル」を軸に大画面を家庭へ

シャープ デジタル情報家電事業本部国内AV営業統轄の居石勘資氏

 シャープは、夏商戦において、60型以上の液晶テレビの構成比を10%以上に高める計画を明らかにした。6月15日に発売した4K対応液晶テレビ「AQUOS UD1シリーズ」の70型モデルに続き、8月10日には、60型モデルを投入。4K対応テレビの販売に弾みをつける。さらに、モスアイパネル搭載のXL9シリーズの展示強化に加え、デザインを一新し、6月20日から発売したG9シリーズの大画面モデル展開によって、60型以上の製品群で選択肢を広げた提案を行なう。

 6月27日からは、AQUOS UD1のWebプロモーションを開始。須藤元気氏が率いるダンスユニット「WORLD ORDER」を起用した映像によって4Kの世界を訴求。7月以降には、量販店店頭でもこの映像を販売促進に活用する考えだ。シャープ デジタル情報家電事業本部国内AV営業統轄の居石勘資氏に、シャープの夏商戦の液晶テレビ戦略について聞いた。

リビングを“アミューズメントパーク”に

 シャープが夏商戦において、プロモーションの主軸に置くのは、60型以上の大画面テレビである。

 現在、シャープは、大画面テレビで3つの選択肢を用意している。

4K対応のAQUOS UD1シリーズの70型モデル(左)と、モスアイパネル搭載のXL9シリーズ

 ひとつは、4原色技術のAQUOSクアトロンを搭載し、アルミフレームの新デザインを採用したG9シリーズ。60型を最上位に、52型、46型、40型をラインアップする。

 2つめはモスアイパネルを採用したXL9シリーズだ。80型を筆頭に、70型、60型、52型を揃える。

 そして3つめが4K対応テレビのUD1シリーズである。4Kモスアイパネルを採用し、6月15日から、すでに70型モデルを発売している。

シャープの居石勘資氏

 シャープ デジタル情報家電事業本部国内AV営業統轄の居石勘資氏は、「テレビ市場全体の落ち込みは依然として厳しい」と前置きしながらも、「そのなかでも、大画面に対するニーズは着実に増加している」と語る。

 シャープは、今年春商戦において、「これからはリビングが我が家のアミューズメントパーク」をキーワードに、大画面テレビの利用提案を量販店店頭、地域店などで積極展開してきた経緯がある。

 そこでは大画面によって楽しむことができる「おウチdeカラオケ」、「大画面3D体験」、「大画面スマホ連携」、「大画面でゲームを楽しむ」、「大画面でネット動画を楽しむ」という5つの利用提案から、大画面の魅力を訴求してきた。

 「かつてのブラウン管時代には、29型の大型テレビが54%と過半数を超え、薄型テレビ時代に入っても37型および40型が約50%の普及率に達し、さらなる大型化が進んだ。2012年以降、こうした大画面化の動きがさらに加速し、初期に薄型テレビを購入した層が、50型以上に買い換え、買い増しするといった需要が出ている。どこかで半数以上がさらなる大画面テレビになるという状況も生まれるだろう。実際、もっとテレビを大きくしたいという人は、約60%に達しているという調査結果もあり、潜在的な大画面ニーズがある。春商戦での実績をもとに、夏商戦ではさらに大画面訴求を推進する」という。

50型以上の販売を加速させる、3つの要素

 シャープでは2006年以降、50型以上の液晶テレビを国内で累計で約100万台を出荷した実績を持つ。そのシャープが、夏商戦の大画面化提案戦略において中軸に据えるのが、70型テレビの提案および4K対応テレビの提案となる。

 もちろん、4K対応テレビや70型が販売の中心になるわけではない。しかし、大画面の魅力を訴求するには4K対応テレビおよび70型の展示が最適であるとシャープでは判断した。

 その理由を居石氏は、「50型以上の液晶テレビの販売をさらに加速させるには、3つの要素をクリアしなくてはならない。その解決策を表現するのが、4K対応テレビと70型の製品展示になる」と語る。

 大画面化した際に課題となる3つの要素とは、「画素の粗さ」、「映り込み」、「設置スペース」の3点である。大画面になるほど画素の粗さが見えるようになり、大画面になるほど外光の画面反射が気になる。そして、大画面になるほど設置スペースに困るようになるからだ。

4K対応のLC-70UD1

 「画素の粗さを克服するためには4K技術が適しており、映り込みへの対応にはシャープ独自のモスアイパネルによって解決できる。また、設置スペースでも、2005年発売の57型液晶テレビでは横幅が165.2cmであったのに対して、UD1の70型モデル『LC-70UD1』では横幅が157.8cm。サイドスピーカーを無くし、アンダースピーカーレイアウトを採用した2.1chフロントサウンド音声システムを搭載するとともに、ベゼルを狭額縁としたことで、2005年モデルと同じ設置スペースに、10インチ以上大きな大画面テレビが設置できる」とする。

 シャープが投入した夏商戦向けモデルでは、こうした大画面テレビの課題を解決できるとして、夏商戦の量販店店頭および地域店における展示で、70型の大画面テレビの展示に力を注ぐ姿勢を明らかにする。

 4K対応テレビのLC-70UD1と、モスアイパネルを採用したLC-70XL9を並列展示し、「自然な映像を楽しみたいという方々には4K対応テレビのUD1を、フルHDの力強い映像を楽しみたいという方々には、70XL9を選択していただけるようにしたい」と語る。

 実売価格は70UD1が約85万円、70XL9が約65万円と20万円の差がある。2つの製品を並べた展示を行なうことで、画質と価格のバランスで、どちらを選択したらいいのかといった提案が可能とある。

 4K対応テレビの販売促進において、まだ4K放送が始まっていない点を販売店でも懸念する声があるが、シャープでは、THX 4Kディスプレイ規格の認証を取得した特徴を生かしながら、古い映画作品に関してもスクリーンで見るような映像再現を可能するほか、静止画などでもより高画質な映像を楽しめるといった提案によって、4K対応テレビならではの特徴を訴求する考えだ。

 「キセノンやカーボンアークといったモードを用意することで、映画が撮影された時代のスクリーンの状況に近い形での映像再現もできる。こうしたこれまでにない楽しみ方を体験したいというユーザーには、4K対応テレビを選択してもらうといった提案をしていきたい」とする。

 シャープでは、大画面テレビの提案において、体験してもらうことを重視する販売施策を加速する考えである。量販店店頭でも比較検討できる環境を用意するとともに、地域店でも個展の開催などにおいて、4K対応テレビなどが持つ数々の機能を紹介することで、テレビ視聴の新たな体験を訴求していくという。

 これは、70型での提案に限らず、8月10日に発売が予定されている60型の4K対応テレビ「60UD1」でも同じだ。60UD1の市場投入以降は、60型をターゲットとした同様の提案も行なっていくことになるという。

60型超の販売台数比率を、従来の7%から10%以上へ

プロモーションサイトの「AQUOS REAL LIVE

 一方、シャープでは、6月27日から、元格闘家の須藤元気さんが率いるダンスユニット「WORLD ORDER」を起用したWebプロモーション映像「AQUOS REAL LIVE」を、同社のWebサイトで公開する。

 「AQUOS REAL LIVE」は、360度に設置された32台のカメラと、天井からの1台のカメラの合計33台のカメラを使用した立体映像技術「Cuvie」を採用して撮影。WORLD ORDERのダンスと音楽を通じて、UD1シリーズが実現する「ありのままの臨場感」、「圧倒的なリアル感」を表現。Webで公開される映像は、マウスを使用して、360度と真上からの映像を自由に選択して視聴することができる。

 7月以降には、量販店店頭などでも、4K対応テレビのプロモーション映像としてこれを活用。「よりわかりやすい形で、4Kの世界を体験していただくことができる」としている。

 居石氏によると、6月15日に発売した70UD1は、「ほぼ予想通りの販売台数でスタートしている」という。

 全国1,000店舗で70UD1の展示を行なっており、8月10日の60型の60UD1の発売にあわせて4K対応テレビの展示は、全国2,000店舗に拡大する考えだ。

 現在、国内テレビ市場においては、50型以上の販売台数構成比は約6%、販売金額では約21%となっている。これに対して、シャープでは、50型以上の販売台数構成比がすでに12%と2倍の構成比となっているが、夏商戦では15%以上に引き上げていく考えだという。

 「60型以上という観点でみれば、UD1シリーズ発売前までは7%だった販売台数比率を、夏商戦では10%以上にまで引き上げたい」と、居石氏は意欲をみせる。

 4K対応テレビの投入によって、大画面モデルの販売拡大に弾みをつけるのが、この夏商戦のシャープの挑戦となる。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など