藤本健のDigital Audio Laboratory
第711回
DSD 11.2MHzやDXD録音/再生も可能に。「Sound it! 8 Pro」の進化点
2017年2月13日 12:52
「Singer Song Writer」や「Ability」などの音楽ソフトを開発しているメーカーのインターネットが、DSDネイティブ録音/再生が可能なサウンド編集ソフト「Sound it! 8 Pro for Windows」を2月22日に発売する。
以前に紹介した「Sound it!8 Premium for Windows」の上位版で、DSD 256(11.28MHz/12.28MHz)や、PCM 768kHz/32bit(Integer)まで対応するなど、機能強化されている。その進化した点を中心に、このソフトを紹介しよう。
老舗ソフトがハイレゾ再生/録音機能を強化
ご存じの方も多いと思うが、Sound it!は波形編集ソフトとして長い歴史を持つ老舗ソフトであり、このDigital Audio Laboratoryにおいても2001年の創刊当初から何度となく取り上げてきている。同じジャンルの海外ソフトとしてSoundForgeやWaveLabがあったり、オープンソースやフリーウェアとしてはAudacity、SoundEngine Freeといった数多くのソフトがある中、独自の進化を遂げてきたソフトともいえる。
今回発売されるSound it! 8 Pro for Windowsは、そのSound it!シリーズの最高峰という位置づけであり、今回はダウンロード販売のみ。価格は通常20,000円だが、2月22日15時まではキャンペーン価格として18,000円で予約を受け付けている。
その名称からも分かる通り対応OSはWindowsのみで、Windows 7/8/8.1/10での動作となっているが、近いうちに同機能を持つMac版もリリースすることを明らかにしており、現在Version 7で止まったままのMac版が久しぶりにバージョンアップして、Windowsと機能を並べることになるわけだ。
Audacityなど定番のフリーウェアがある中、わざわざ市販ソフトを買う意味があるのだろうか?という疑問を持つ方もいると思うが、今回のSound it!はAudacityなどにはない、ハイレゾサウンド用の機能を数多く備えたツールへと進化している。
その一つが超ハイサンプリングレート、超高分解能に対応した波形編集ソフトとなっているのだ。多くの波形編集ソフトやDAWでも、サンプリングレートは192kHzまで、分解能は32bitFLOATまで扱えるようになっているので、普通は十分なスペックだと思うが、最近のハイレゾ音源では384kHz、32bit-INTまで扱えるというものまで登場してきている。それに対し、このSound it!8 Pro for Windowsは最高で768kHz/32bit-INT(Integer)まで扱える、まさに無敵の波形編集ソフトへと進化しているのだ。
さらにPCMだけでなくDSDにおいても2.8MHzや5.6MHzはもとより、11.2MHzさらには12.28MHzに対応し、DSDネイティブのままのレコーディング、再生を可能にしているのが大きなポイント。Sound it!8 Premium for WindowsでもDSDファイルの読み書きが可能であったが、読み込む時点で自動的にPCM変換されてしまっていたが、Sound it!8 Pro for Windowsならネイティブのまま読み込み、再生もできるというわけなのだ。
試しに、手元にあるコルグのDS-DAC-100を接続して、オーディオ入出力にDS-DAC-100を設定した。ここで5.6MHzのDSFファイルを読み込んで見ると、まず「PCMにコンバートしますか?」というメッセージが出てくる。ここで「いいえ」を選択すると短時間でファイルが読み込まれ、画面にはPCM的な波形が表示される。
これは分かりやすくするために表示するだけの波形。そのため、ここでは編集機能は使えず、できるのはあくまでも再生のみ。実際に再生してみたところ、DS-DAC-100の表示上もDSD 5.6MHzのネイティブとして認識していた。
【訂正】記事初出時「コピーすること以外、何の編集機能も使えず」としていましたが、実際はコピーもできないため、訂正しました(2月13日15時40分)
ちなみに先ほどの「PCMにコンバートしますか? 」のメッセージに対して「はい」と答えると分解能やサンプリングレートを設定するダイアログが現れるので、ここで指定するとその形式のファイルに変換される。この場合は、自由に編集できるわけだ。
ところで、384kHz対応のDACならまだしも、384kHzでのレコーディング、ましてや768kHzまで対応したオーディオインターフェイスなんてほとんど存在しない。またDSDでのレコーディングができるものもとなると、コルグのDS-DAC-10Rがある程度。ただ、先日RMEがPCMで768kHz、DSDで11.2MHzに対応したADI-2 Proを発売したところなので、これがまさに最高峰でのベストマッチコンビといったところだろうか。今後、ADI-2 Proを入手次第、実際に768kHzやDSDでのレコーディングがどう動くのか試してみようと思っている。
ちなみに、このADI-2 Proには「Sound it! for ADI-2 Pro」がバンドルされることがアナウンスされていたが、現時点においてはまだリリースされていない模様。シンタックスジャパンによると、Sound it! for ADI-2 ProはSound it!8 Pro for Windowsの機能削減版であり、プラグインなどは少ないものの、768kHzやDSD 11.2MHzでの録音、再生は可能になるとのこと。開発が完了し次第、ユーザーに配布するそうだ。具体的にどんな違いがあるのかもチェックしてみたい。
「DXD」ってどんなファイル?
Sound it!8 Premium for Windowsの新機能として、「ハイレゾリューションサウンドDXDに対応」というものがある。DXDという名称は目にすることがあるが、実はよく理解できていなかったので、これを機会にどんなフォーマットなのかをチェックした。
ただ、ネットで調べてもあまり詳細な情報はなく、e-onkyo musicが2Lレーベル作品のDXD配信開始時に「スイス・Merging TechnologiesのDAW『Pyramix』に採用され、ハイサンプリングレートで編集も可能なPCMフォーマットとして音楽制作現場で使われている。DXDのままで商用配信するのは国内初」と説明している。ただ、“拡張子.dxd”の特殊なPCMファイル形式でもあるのかと思ったが、e-onkyo Musicで販売されているファイル形式はFLAC/WAVであるというので、ますます混乱してしまう。
ここでSound it!のオーディオファイルの読み込み画面から、拡張子の一覧を確認してみたが、.dxdなど、それっぽいものが見当たらないし、ファイルの保存メニューにもやはり見当たらない。さらにいろいろ調べて分かったのは、DXDという特殊なファイル形式があるわけではなく、768kHz/32bitなどのPCMファイルのことを、DXDと呼んでいるようだ。ということは、このSound it!を使えばDXDを読み込むことができるし、場合によっては44.1kHz/16bitなどのデータをリサンプリング、ビット解像度変換をかけた上でDXDで保存することもできる、というわけである。
44.1kHz/16bitのデータをDXDに変換してしまうのには少し無理がありそうだが、DSD 5.6MHzやDSD 11.2MHzのファイルを読み込んでDXDに変換するという点では意味がありそうだ。
DDPファイル作成対応やプラグインエフェクト追加などで使い勝手が向上
もうひとつAudacityなどにはない機能としてあげられるのがDDPファイルの作成機能だ。DDPとはDisc Description Protocolの略で、CDプレス用マスターの納品フォーマットのことだ。その昔は、U-maticテープで納品していたり、PMCD(プレスマスターCD)で納品したりしていたが、現在はDDPで納品するのが一般的になっており、これであればネットを介した入稿も可能なわけだ。
当初DDPフォーマットの互換性なども問題になっていたが、現在のDDP 2.0では、そうした問題もほとんどなくなったようだ。ただ、そのDDP出力できるソフトは、それほど多くないのが実情だが、そんな中、Sound it!8 Pro for Windowsが対応した。
どうやって使うのだろうと思ったら、いたってシンプル。波形編集機能とは別にプレイリスト機能というものがあり、ここにWAVファイルを並べられる。ここでは、曲間の設定も可能で、CD-Rへ直接焼くこともできるが、「DDP」というボタンをクリックすれば、アルバムデータとしてDDPファイル群を生成できる。Studio One 3 ProfessionalやWaveLab Pro 9などでもDDP出力は可能だが、Sound it!8 Pro for Windowsが2万円で入手できることを考えれば、DDP出力機能だけのために購入しても損はなさそうだ。
そのほか、Sound it!8 Pro for Windowsになっての進化点としては、数多くのプラグインエフェクトを装備したことも挙げられる。数でいうとPremiumが39個だったのに対し、Proでは49個になった。
具体的なエフェクトとしてはMSGainEQ、LINEAR PHASE MULTIBAND COMPRESSOR、INEAR PHASE EQ、IR Reverb、LINEAR PHASE MULTIBAND DELAYといったものがある。
いずれも、すべてインターネットによるオリジナルのエフェクトだが、Sound it!8 Pro for Windowsのために新たに開発したものではなさそうで、同社のDAWであるAbility Proに収録されているものを持ってきたようだ。もちろん使えるのはPCMのデータに対してであり、DSDに掛けられるわけではないが、これらを使ってマスタリングした上で、プレイリストを経由してDDPで出力するといった使い方は、かなり効率よく、コストパフォーマンスも高いといえそうだ。