藤本健のDigital Audio Laboratory

第710回

手のりサイズでハイレゾ録音と広角フルHD動画撮影。ズーム「Q2n」の実力

 超広角レンズの小さなビデオカメラ、というとGoProやソニーのアクションカムを思い浮かべる人は多いと思うが、ズーム(ZOOM)からもそんな小さなビデオカメラが発売されている。今回取り上げるQ2nは昨年秋に発売されたフルHD撮影が可能な製品で、実売2万円とかなり安いのだが、他社製品とは大きな違いもある。それは高音質なX-Yマイクが搭載されており、96kHz/24bitのハイレゾサウンドでのレコーディングもできる点だ。

ズーム「Q2n」

 サイズ的にはGoProなどと比較すると一回り大きいが音質重視という人にとっては、かなり魅力的に見える製品。実際、どんなものなのか、サウンド面を中心にチェックした。

iPhoneと並べたところ

てのひらサイズで96kHz/24bit録音と1080p録画

 Q2nは手のひらにのるサイズのビデオカメラ。いわゆるアクションカメラというよりも、音楽をレコーディングすることを主眼としたものになっている。高音質なコンデンサマイクを搭載しているので、いい音で録ることができるのと同時に、広角だから小さなリハーサルスタジオでも角に置けば部屋全体を映し出すことが可能で、練習風景をしっかり捉えられるといったメリットがある。

てのひらに収まるサイズ
上部にマイクを備える

 スペック的にいうと、映像としては最大1080p/30fpsでの撮影が可能で、動作モードを切り替えれば1080p/24fps、720p/30fps、720p/24fpsにすることも可能。動画フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264となっており、ファイル形式はMOV。本体の重量は92gで、電源は単3電池2本となっており、その電池は底蓋を開けると装着可能。また、ここにmicroSDのスロットも用意されており、映像と音声を記録する形になっている。

電源は単3電池2本
SDカードスロットなどもこの場所に

 ディスプレイは1.77型のフルカラー液晶を搭載し、ここで映像をモニターしたり、メニューの設定操作ができるが160×128ドットという解像度なので、あくまでもどんなものが映っているのかを軽く確認できる程度ではある。このディスプレイの周りに計9つのボタンが用意されており、これらを使ってほとんどすべての操作を行なっていく。細かなセッティング以外は階層メニュー構造はなく、単純にボタンを押すだけでモードを切り替えられるのは使いやすいところだ。たとえば、映像モードの切り替えもVIDEOボタンを押していくだけで、切り替えられるし、FOVボタンを押すことで、ワイド画面からズーム画面まで5段階で切り替えられるといった具合だ。

1.77型カラー液晶を装備

 さて、本題となるのが、ここから見ていくオーディオの録音機能だ。前述のとおり、ここにはX-Y方向に向けられた2つのコンデンサマイクが搭載されている。外からはマイク形状などを確認できず、ズームのWebサイトなどを見ても詳細は公開されていないようだが、マニュアルを見ると、レンズ側に向けて120度の広がりを持つマイクであり「特定の音源を狙った近~中距離の録音に最適」と記載されている。ご存知の通り、ズームはリニアPCMレコーダのメーカーとして実績を持っており、H4n PROやH5、H6など、高性能なリニアPCMレコーダをラインナップする一方、ハンディビデオレコーダ製品として、これまでもQ4n、Q8などを出しており、今回出したQ2nもそのシリーズのエントリーモデルとして登場した格好だ。

120度の広がりを持った録音が可能

 ユニークなのは、ビデオ撮影時の音声をこのマイクで録れるというだけでなく、Q2n自体を単なるリニアPCMレコーダとして利用することもできるという点。ビデオモードの切り替え時にCAMERA OFFに設定すれば、ビデオは撮影されず、音声だけWAVで記録されるようになっている。またこのオーディオのフォーマットとしては44.1kHz/16bit、48kHz/24bit、96kHz/24bitの3モードから選択できるようになっており、まさにハイレゾ・レコーディングをするための機材として利用することができるのだ。

WAV音声だけの記録も可能

 なお、このオーディオの3つのフォーマットはWAVファイルだけでなく、MOVファイルでも有効になっているようだ。つまりビデオで録る際でも非圧縮の高音質録音ができる。MOVファイルのデータ構造について公開されている資料を見つけることができなかったので細かい情報まで掴めているわけではないし、MOVファイルからWAVデータを分離させるツールなども見つけることはできなかったので、確証は得られなかったが、他社製品でも、MOVファイルにハイレゾ・オーディオデータを入れ込むものがあったので、Q2nでも同様のことを行なっているのだろう。

 このマイクからの録音する際のレベル調整はオートゲイン機能で自動で行なえるほか、もちろんマニュアルで設定して、固定化することも可能。この場合は、サイドにあるノブを使って調整を行なう。ちなみに、この下にある2つの端子は電源供給も兼ねたUSB端子およびHDMI出力となっている。USB端子はPCやiOSデバイスとの接続を可能とするもので、USBマイク、メモリカードリーダー、Webカメラとしての利用ができる。

レベル調整のダイヤル
WebカメラやSDカードリーダーとしても使える

 また反対側のサイドにはヘッドフォン出力と外部マイク入力、そしてモニターヘッドフォン出力の音量調整ボタンが用意されている。マイクから入った音は、リアルタイムにこのヘッドフォン出力でモニターすることができるようになっている。

マイク入力や、ヘッドフォン出力など

立体感のある録音が可能

 Q2nで野鳥の鳴き声を録ってみようと、これを持って外に出てみた。やや風がある日だったが、Q2nにはウィンドスクリーンは付属しておらず、オプション扱いであるため、そのまま持ち出した。同じくオプションであるMA2というマイクスタンドアダプタはズームから借りていたので、これを取り付けた状態で持ち歩くことにした。

マイクスタンドアダプタ装着で手持ち録音

 なぜかその日は、いつもいく公園や神社にスズメもヒヨもハトもいない状況だったので、10分ほど歩いて池のある公園に来てみた。ここには水鳥はいっぱいいたが、ほとんど鳴かずに静かな状況かと思っていたら、何羽かが騒ぎ出したので、これを96kHz/24bitの録音モードで録ってみた。さらにモードを変更して1080p/30fpsでの撮影も行なってみた。順番に行なったので若干時間差はあるが、それぞれの結果が以下のものだ。

野鳥の声(YouTubeにアップロード)

動画サンプルの元ファイル(音声は96kHz/24bit)

野鳥の声 bird.mov(180.06MB)

音声サンプル(96kHz/24bit)

野鳥の声 q2n_bird2496.wav(15.87MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 公園の隣で建設工事を行なっていたため、重機のエンジン音による低音が入っているとともに、自衛隊のヘリコプターが上を通過していたので、かなり異音がいっぱいで、あまりいい環境とはいえないが、鳥の鳴き声やその動きというのは立体的にしっかり捉えられているのがわかるだろう。とくに映像と一緒になっていると、その雰囲気がよくわかるはずだ。マガモがいるのは分かったが、騒いでいるカモメみたいな鳥は何だろう?と思い、そばにいた野鳥の会の人たちに聞いてみたところ、これはユリカモメとのこと。本来は海鳥だけど、最近は陸地へもやってくるのだとか……。ちなみに、映像後半の左側にいっぱい映っているのはキンクロハジロだ。

 ここから場所を移動して、今度は線路際へ行って撮影。今度はそこまで高音質であることもないので48kHz/24bitに落とし、映像は先ほどと同様に1080p/30fpsで撮影してみた。電車の移動を立体的なサウンド、迫力ある音で捉えているとともに、超広角なのでかなりの視野で見ることができるのがわかるはずだ。

電車の通過する音(YouTubeにアップロード)

動画サンプルの元ファイル(96kHz/24bit)

電車の通過する音
train.mov(100.03MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 続いて、これを自宅に持ち帰り、いつものようにCDで鳴らした音を録った。

・録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)

q2n_music1644.wav(6.93MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 周波数分析をかけた結果を見ても、やはりズームのほかの製品と非常に近い音となっており、クセのない素直な音で捉えていることがわかる。この結果からも、リニアPCMレコーダとしてみても十分な性能を備えていることが見て取れる。

WaveSpectraでの分析結果

 超広角レンズのビデオは好き嫌いというものもあるかもしれないが、2万円でここまでの機能、性能を実現していることを考えると、1つ持っておいて損のない機材だと思う。

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Q2n

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto