第371回:2種のマイクを内蔵したリニアPCMレコーダ「DR-100」

~ 外部マイクも使用可。24bit/96kHzに対応 ~


DR-100

 今年1月に米国NAMM SHOWで発表されたティアック、TASCAMブランドのリニアPCMレコーダ「DR-100」。同社DRシリーズの最上位機種に位置づけられるDR-100は3月25日に発売されたが、先日ファームウェアがアップデートされ、24bit/96kHz対応へと進化した。



■ アップデートで24bit/96kHzに対応

 TASCAMブランドのリニアPCMレコーダは、2008年1月にDR-1を発売したのを皮切りに、それをギタリスト・ベーシスト用にチューニングしたGT-R1、そしてDR-1をコンパクトにした廉価版のDR-07、DR-100と発売してきた。

 当初24bit/48kHz対応として出てきたので、おや? という印象はあった。他社の多くが24bit/96kHz対応しているので、最上位モデルなら、24bit/96kHz対応すべきなのではないだろうか……、と。

 しかし、その疑問はゴールデンウィーク明けに解決された。そう、ファームウェアのアップデートで24bit/96kHz対応したのだ。やはり当初から24bit/96kHz対応を予定していたようだが、先に24bit/48kHz版が完成したため、24bit/96kHz版の完成を待たず、まずは製品リリースしたというのが実態のようだ。

 今回は、その24bit/96kHzに対応した最新のファームウェア1.10にアップデートされたDR-100を借りることができたので、試してみた。

 カタログの写真などではわかりにくいが、外形寸法は80×35×153mm(幅×奥行き×高さ)とちょっと大きい。下位機種のDR-07、さらにiPod touchと並べてみると、どの程度かがよくわかるだろう。また、バッテリなしの重量が290g、後述する2種類のバッテリを入れた状態での重量が370gだった。

DR-07、iPod touchとの比較


■ マイクや電源が特徴のDR-100

 このDR-100はDRシリーズの最上位機種ということで、DR-1やDR-07にはない、さまざまな機能が搭載されているが、最大の特徴はマイク周りにいろいろな工夫が凝らされていること。

 まず搭載されているマイクは単一指向性のエレクトレット・コンデンサ・マイクと無指向性のエレクトレット・コンデンサ・マイク2種類、計4個。当然メインとして使うのが単一指向性のもので、DR-1やDR-07と同様、アルミ筐体に包まれた本体リアに搭載されているもの。

 LとR合わせて90度のポジションとなっており、楽器の演奏など音楽を高音質に録ることを主な目的としたものとなっている。ちなみに、このマイクの間にSD/SDHCカードを入れるようになっている。

単一指向性と無指向性のコンデンサマイク

SD/SDHCカードスロット

 一方、無指向性のマイクは液晶パネルの上にある小さな穴の中に設置されたもの。こちらは発言者が特定できない会議の録音用などとして利用するもので、前述の単一指向性マイクのような音質を求めるマイクではないようだ。

 さらにDR-100では外部マイクも利用可能で、XLR接続のマイク端子をフロントにLとRの2つ搭載している。これは+48Vのファンタム電源供給にも対応しているため、手持ちのより高性能なマイクを利用することができる。リニアPCMレコーダの用途は人それぞれだとは思うが、とくに業務用としては普段使っているコンデンサマイクを使いたいというニーズは高いだろう。DR-100はそうしたニーズに対応した機材というわけだ。

 これまでにファンタム電源対応のXLR端子を装備したコンパクトなリニアPCMレコーダとしては、以前紹介したズームのH4やH4n、またディーアンドエムホールディングス MARANTZ PROFESSIONALブランドのPMD661があったが、これらにDR-100も加わった。

無指向性のマイクは液晶パネルの上に内蔵ファンタム電源対応のXLR端子も装備

 そして、録音ソースとしては、もうひとつライン入力にも対応している。これは本体左サイドに用意されたステレオミニジャックを使って入力するもので、これを合わせると録音ソースは4種類から選択できるようになっている。切り替えは液晶パネル右下にあるスイッチで行なう。LINE、UNI(単一指向性マイク)、OMINI(無指向性マイク)、XLRと機械式で切り替えるスイッチとなっているので、単純でわかりやすい。

ライン入力にも対応

LINE、UNI、OMINI、XLRを切り替えるスイッチ

 ほかの機種にないDR-100のもうひとつのユニークな特徴が電源だ。本体右サイドに挿入する形で装備するリチウムイオン充電池が標準で搭載されているほか、本体ボトム面には単3電池2本を入れるバッテリボックスが用意されており、ダブル電源での運用が可能になっている。

電源はリチウムイオンバッテリ単3電池2本でも駆動可能な“ダブル電源”

 単3電池のほうは、本体の設定によりアルカリ電池とニッケル水素電池のいずれかが利用できる。カタログスペック上の録音時間(JEITA録音時)はリチウムイオン充電池で約5時間、ニッケル水素電池で約4時間、アルカリ電池で約2時間となっている。つまり、フル充電したリチウムイオン電池とニッケル水素電池を装備させれば計9時間の録音ができるという計算になる。

主電源を選ぶ内部設定

 そして、本体設定には主電池をどちらにするかという設定がある。これをニッケル水素電池とした場合、まずはニッケル水素電池から使い出し、バッテリが切れると自動的にリチウムイオン電池に切り替わる。この状態で、ニッケル水素電池を満充電のものと入れ替えてしまえば、さらに長時間録音が可能になるという仕掛けになっている。

 もっとも、電池の入れ替えをすると、入れ替え作業する音が入ってしまうため、内蔵マイクでの録音というのはあまり現実的ではない。このような長時間運用をするのであれば、外部マイクを使うのが無難だろう。

 ちなみに、オプションのACアダプタもあるので、AC電源が利用可能な環境であれば、こうした電池の入れ替えなどをしなくても、長時間録音が可能となる。なお、リチウムイオン電池の充電は、このACアダプタを使うか、PCとDR-100をUSB接続し、USBから電源供給で充電する。


■ 96kHz対応のHSモードで録音

 本体の電源を入れると、STDモードで起動する。これはファームウェア1.10が出る以前と同じモードで最大24bit/48kHzまでの録音となる。しかし、電源を入れる際、ホイールの真ん中にあるENTER/MARKボタンを押し続けると、STDモードとHSモードの選択画面が現れる。

 HSモードにすると、24bit/96kHzに対応するのだが、HSモードではいくつかの機能制限がある。まずはMP3での録音、再生ができなくなること。またDR-1以降、DRシリーズの売りともなっている重ね録りのためのオーバーダブ機能が使えなくなる。

 さらに、-50%~+16%の範囲で速度調整を行なったり、その際音程を変えるか、変えないか設定をするVSA機能など、再生に関わるPB CONTROL機能もHSモードでは使えなくなる。とはいえ、やはり24bit/96kHzでのレコーディング性能を試してみたいのでHSモードで起動するとともに、24bit/96kHzのフォーマットに設定してみた。

STD/HSモードの選択画面

HSモードではオーバーダブ機能は使えないHSモード、24bit/96kHzの設定で録音

 さっそく、このDR-100に2種類の電池を搭載し、野外へと持ち出してみた。やはり、他機種と比較してちょっと重いが、操作感はなかなかいい。とくに使いやすいのがレコーディングレベル調整だ。

 多くのリニアPCMレコーダはボタン操作でレベルを調整するのに対し、DR-100では右サイドにある1軸2連のボリュームを使って調整するのだ。内側がL、外側がRチャンネルとなっているが、通常は左右同じレベル設定の状態で連動させて回す形になっている。また本体ボトムには、このボリュームレベルとは別にマイク感度をL、M、Hの3段階で設定するスイッチが用意されているので、これとともにレベル調整をするのだ。

 録音時の設定としては、これら以外に、リミッターのオン/オフ、また40Hz、80Hz、120Hzの3段階で設定できるローカットフィルターがある。ここでは、どちらもオフの状態にして、いつものように鳥の鳴き声を録ってみた。それほど風はなかったが、念のため付属のウィンドスクリーンをかぶせて録音した。

1軸2連のボリュームつまみ

ローカットフィルター設定

付属のウィンドスクリーンを付けて録音

 録音操作はRECボタンを一度押すとレコーディング待機状態に入り、ヘッドフォンからモニターされる。さらにもう一度押すと録音がスタートする。もちろんマイクは単一指向性のマイクを用い、感度は最大のHに設定して録音した結果がこれだ。鳥のいた位置の問題か、ややステレオ感に欠けるような気もしたが、音質は非常にクリアで明瞭。比較的小さな鳴き声を拾ったものの、とてもリアルに聴こえる。

 

録音サンプル
鳥の鳴き声を収録bird2496.wav(15MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定した上で付属のウィンドスクリーンを装着して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


 さらに部屋に持ち帰り、いつもと同様に、CDを再生した楽曲のレコーディング性能のチェックも実施。例によってTINGARAのJUPITERを使わせてもらい、24bit/96kHzでレコーディングを行なった。

 本体ボトム面には三脚穴があるので、カメラの三脚に固定し、左右スピーカーが約90度の向きになるように据えて音を捉えてみた。かなり大きな音量で再生しているのでマイク感度はMにして録音している。

 レコーディングし終えた状態でDR-100をUSBケーブルでPCと接続すると、SD/SDHCカードがマスストレージデバイスとして認識され、読み取ることができる。そのデータを波形編集ソフトでノーマライズをかけるとともに、ほかの機器と比較できるように24bit/48kHzに変換して周波数分析をかけたのが下の図(左側)だ。

 また16bit/44.1kHzに変換したWAVファイルを掲載しておくので、ほかの機材の結果と聴き比べるとDR-100の実力がよくわかるはずだ。波形からも、十分見えてくるが、現在ある24bit/96kHzの機器の中でのトップ集団に入る実力を持っているのは間違いないだろう。

 なお、同じ音を無指向性のマイクでも録音してみた。あまり、こうした使い方はあまりしないとは思うが、聴いてみると、すぐにその質の違いは実感できるはずだ。その違いは波形にも現れてくる。とはいえ、会話などを録るのが目的であれば十分すぎるクォリティーといえるだろう。

録音サンプル:楽曲(Jupiter)
単一指向性マイク使用、DR-100音声サンプル
music4416.wav(7.04MB)
無指向性マイク使用「DR-100」音声サンプル
omni_music4416.wav
(7.06MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、いずれも24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

■ PRE RECやMARK機能などを搭載

 そのほか、特筆すべきポイントをいくつかピックアップしておこう。まずは、本体メニューの設定でPRE RECをオンにしておくと、最大2秒前からのレコーディングが可能になる。

 こうした機能を装備した機材は結構あるが、PRE RECとは反対のREC DELAYという機能もある。こちらはオンにしておくと、RECボタンを押した約0.3秒後からスタートする。このREC DELAY機能、他メーカー製品ではあまり見かけない機能だが、0.3秒後からスタートすることで、ボタンを押した音などが入り込むことを防ぐことができるのだ。

 もっとも、タッチノイズという面からいえばREC DELAYより効果的なのが、標準で搭載されるリモコン。通常の再生、ストップ、録音、スキップなどのボタンのほか、MARKボタンというものがある。MARKボタンは本体のホイールの中心にあるのと同じもので、録音中にこのボタンを押すとその位置にマークが打たれていくというもの。本体で行なうとボタンを押すノイズが入ってしまうが、リモコンならその心配がなく便利だ。

一般の波形編集ソフトなどで読み込めば、マーク情報もいっしょに表示可能。画面はSoundForge

 マークしておくと、停止中、または再生中にマーク位置へジャンプできるため、頭だしなどが可能になる。またこのマークはWAVファイルに記載されるため、一般の波形編集ソフトなどで読み込めば、マーク情報もいっしょに表示することができる。

 このリモコンを付属のワイヤレスリモコンアダプタにはめ込み、ケーブルで本体と接続すると、ワイヤードリモコンにもなる。これを使うシチュエーションはそれほどないかもしれないが、本体が直接見えない場所からコントロールするといった場合には有効につかえそうだ。

 一方、DR-1にあって、DR-100にない機能もある。それがエフェクト機能だ。ギター/ベース用のGT-R1も含め、ここには強力なエフェクトが多数搭載されていたが、DR-100からは削除されているのだ。したがって、エフェクト機能を使いたいのなら、DR-1かGT-R1を選ぶ必要がある。

 実売価格4万円前後でこれだけのクォリティーを持つとともに、外部マイクが使えるのは大きなアドバンテージだ。またダブル電源方式に対応している点でも、評価する人は多いのではないだろうか? 多くのメーカーから多くの製品が出ているリニアPCMレコーダだが、また強力な選択肢が追加された。


(2009年 5月 18日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]