第372回:RolandのDAW「SONAR V-STUDIO 100」を試す【前編】
~ オールマイティーなハードとバンドルソフト「SONAR VS」 ~
SONAR V-STUDIO 100 |
以前、SONARの業務用システム「SONAR V-STUDIO 700」を紹介したが、6月下旬に実売価格7万円前後の一般ユーザー向けのシステム「SONAR V-STUDIO 100」が、ローランドからCakewalk by Rolandのブランド名で発売される。
これは、オーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラ兼デジタルミキサー兼デジタルレコーダというオールマイティーなハードウェアと、SONAR VSというDAWをセットにしたもの。そのSONAR V-STUDIO 100を一足早く借りることができたので、どんな製品なのか試した。機能があまりにも盛りだくさんであるため、今回と次回の2回に分けて紹介する。
■ 24bit/96kHz対応のUSBオーディオI/F
以前、SONAR V-STUDIO 700を自宅の仕事場で広げた際は、本当に大きなコンソールで、普通の個人ユーザーが使う代物ではないなと実感したが、今回発売される、SONAR V-STUDIO 100(以下V-STUDIO 100)はまさにDTM環境で利用するシステムのようだ。
コンパクトな作り |
実際そのハードウェアを机の上に置いてみると無理なく設置できる。外形寸法は82.0×180.8×70.2mm(幅×奥行き×高さ)、重量は1,9kgとA4変形の分厚い書籍といった感じだ。
コンパクトながらも機能てんこ盛りで、さまざまな利用法があるのだ。使い方によって、ハードウェアとしての性格も大きく変わってくるのだが、USBでPCと接続するか、スタンドアロンで使うかで大きく異なる。
今回はUSBに接続した場合の使い方を主に見ていくが、この場合、まずはUSB 2.0対応のオーディオインターフェイスとして機能する。16bit/44.1kHzから最高で24bit/96kHzまで対応し、アナログ、デジタル合わせて8IN/6OUTという仕様だ。
フロントにはマイクまたはTRSフォンの切り替え使う入力が2系統を搭載、リアには入力としてTRSフォン×2、RCA×2、S/PDIFコアキシャル、出力はTRSフォン×4、RCA×2がありトータル8IN/6OUTとなっている。
入出力端子 |
なお、フロントのマイクに対しては+48Vのファンタム電源をオンにしてコンデンサマイクが使用できるとともに、INPUT 1にはHi-Zボタンが用意されているので、ギターやベースとの直結が可能だ。
これまでのローランドのオーディオインターフェイスの場合、サンプリングレートの切り替えスイッチがあり、それを設定した上で電源を入れると切り替わるという仕様になっていたが、V-STUDIO 100のハードウェアにはそれらしきスイッチが見当たらない。
ユーティリティ画面 |
もしかすると、M-Audio製品のように随時切り替える方式になったのかなと思ったのだが、マニュアルを読むと搭載されている液晶画面を用い、ユーティリティ機能でサンプリングレートを設定した上で電源を入れ直すとのことだった。
オーディオインターフェイスのドライバをインストールして、USBで接続してしまえば、特に複雑なこともなくオーディオインターフェイスとして利用できる。ドライバとしてもASIO、WDM、MMEに対応しているので、どんなソフトででも使うことが可能だ。
Windows上のコントロールパネルにはV-STUDIO 100のアイコンがこれを起動させると、ほかのローランドのオーディオインターフェイスと同様、バッファサイズの設定画面が現れる。
ためしに、96kHz動作時にバッファサイズを一番小さな設定にして、SONARで確認してみたところ、レイテンシは2.3msecという表示になった。
ドライバ設定画面 | オーディオオプション |
■ オーディオI/Fの音質チェック
では、オーディオインターフェイスとしての音質性能はどんなものだろう? またいつものようにRMAA Proを使って音質チェックをしてみた。RMAAでは入力と出力を直結させることで、出力した音を入力して測定するのだが、今回はリアにある3/4chの出力をバランス接続で3/4chの入力へとつないで行なった。
44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれで行なった結果をご覧いただきたい。なぜか、周波数特性は96kHzでの結果がベストとなったが、いずれも、かなりいい結果になっている。
【RMAAテスト結果】 | ||
44.1kHz | 48kHz | 96kHz |
■ バンドルソフト「SONAR VS」
SONAR VSがバンドル |
さて、このV-STUDIO 100は、各種DAWなどと一緒に使うこともできるが、もちろんベストマッチはSONAR。そしてパッケージにはV-STUDIO 100用のSONAR VSというDAWがバンドルされている。
これはSONAR 8のエンジンを搭載したソフトだが、機能的にはSONAR 8の下位バージョンに当たるもの。国内では発売されていないが、海外でリリースされているエントリー向けのSONAR Home Studio 7とよく似た画面になっている(国内のバージョンはSONAR Home Studio 6)。
このSONAR VSはSONAR 8と同様、ACTという機能に対応している。これは現在、画面上でアクティブになっているミキサーやエフェクト、シンセサイザのパラメータを、フィジカルコントローラの各ツマミなどに割り当て、スムーズにコントロールできる機能。V-STUDIO 100はオーディオインターフェイスとしてだけでなく、フィジカルコントローラとしても機能するため、ACT機能を利用した効率のいい操作が可能になるのだ。
ACT用として機能するのは液晶の周りにあるR1~R4の4つのツマミ。ACTのV-STDUIO 100画面を表示させておくと、現在割り当てられているパラメータが表示される。
R1~R4のツマミ | パラメータが表示される |
搭載された100mmフェーダー |
フィジカルコントローラとしてみたとき、なかでも大きなポイントとなるのがトップパネルの右側に配置された100mmのフェーダーだ。これは、タッチセンス付のモーターフェーダーとなっており、ミキシング操作において、非常にスムーズなコントロールができる。
ちなみにタッチセンス付というのは、フェーダーを指で触れているか触れていないかを感知するもので、触れていないとモーターが作動して、自動的にSONAR上のミキサーで設定されている位置にフェーダーが動く。しかし、指で触れるとモーターの動作がとまり、手で自由に動かせるというものだ。
見てのとおり、フェーダーは1つだけなので、両手の各指を使って、複数のトラックのレベルを一気にコントロールする、といったことはできないが、TRACKの左右ボタンを押して、トラックを切り替えることで、各トラックのレベルを動かしていくことができる。
またSOLO、MUTE、ARMの各ボタンにより、現在選択中のソロ、ミュート、録音待機のスイッチをオン/オフできるほか、SHIFTキーを押しながら、これら3つのボタンを押すと、モニターのオン/オフやオートメーションWRITEのオン/オフなどの設定もできるようになっている。
もちろん、再生、録音、ストップ、巻戻し、早送り……といったトランスポートのリモートコントロールも、すべてV-STUDIO 100のハードウェアを利用して行なえるので、レコーディングや再生、ミックスなどに関しては、ほとんどマウスを使うことなく操作できてしまう。
ただ、あれ? と思ったのがジョグホイールがないこと。多くのフィジカルコントローラでは、曲の位置を動かすため、ジョグホイールとかシャトルコントローラといったものが搭載されているが、やはりスペースを食うのを嫌ったのか、V-STUDIO 100にはないのだ。もっとも、早送り、巻戻しボタンを使えば、十分それに相当する操作ができるので、とくに困るわけでもないのだが……。
■ プラグイン集「VS Production Pack」同梱
ここでちょっとバンドルされるソフトであるSONAR VSに話を移そう。
このソフトはトラック数が64までと制限はあるものの、一通りのオーディオレコーディング、MIDIレコーディング、ミキシング、マスタリング機能までを備えたDAWだ。SONAR 8と比較すると、グラフィックが多様されたややカワイイ画面になっており、初心者向きな感じもする。
当然、V-STUDIO 100との連携がベストマッチとなってはいるが、もしほかのオーディオインターフェイスを持っており、それを使いたいというのであれば、V-STUDIO 100を単なるフィジカルコントローラとしてだけ利用することもできるし、場合によってはV-STUDIO 100を接続しないで使うことも可能ではある。
基本的な操作方法は、SONAR 8と同様であり、ここでは詳しくは触れないが、ユニークなのはVS Production Packという10種類のプラグインをまとめたプラグイン集が同梱されていること。これがなかなか強力なので、簡単に紹介してみよう。
まずはお馴染みNative InsturumentsのGuitar Rig 3 LE。これはSONAR 8 PRODUCERにもバンドルされているが、Marshall JCM 800をモデリングしたLEAD 800やFenderのTwin ReverbをモデリングしたTwang Reverbなどを搭載するとともに、リバーブ、ディレイ、コーラス、フェイザー、ワウ……とさまざまなエフェクトを装備した強力なギター用ツール。SONAR VSで新規プロジェクトを作成する際、ノーマルを選ぶと自動的にGuitar Rig 3 LEが組み込まれるというのも便利なところだ。
Boost11もSONAR 8にバンドルされているものだが、これはマスタリング用に用いる非常にパワフルなマキシマイザー。これを使えば、簡単に音圧を思い切りあげることも可能だ。
Guitar Rig 3 LE | Boost11 |
VX-64 Vocal Strip |
一方、V-STUDIO 100の登場とともに、初お目見えとなった強力なツールがVX-64 Vocal Strip。これは5つのエフェクトモジュールを組み合わせたマルチ機能プラグインで、名前のとおりボーカル用に特化したもの。
5つのモジュールとはボーカルの歯擦音を除去してくれる「ディエッサー」、ダイナミックレンジを圧縮伸張させ、全体的なレベルのバランスを調節することができる「コンパンダー」、特定の周波数の範囲をアッテネート、カット、ブーストし、音のキャラクターを形作ることができる「チューブイコライザ」、入力された音声の複製を作り、ディレイをかけることで微妙なピッチ変調を加え、複数の人が歌っているような雰囲気を作り出す「ダブラー」、さらに「ディレイ」を搭載し、たとえば、アナログテープへのレコーディングをエミュレートしたり、、ダブリングとディレイでボーカルに厚みと質感を加えるなど、ボーカルトラックの編集で大きな力を発揮してくれる。
さらにソフトシンセのほうも、いろいろなものが搭載されている。目玉となるのはStudio Instrumentsというもの。実はこのStudio InstrumentsにはSI-Bass Guitar、SI-Drum Kit、SI-Electric Piano、SI-String Sectionの計4種類があり、マルチ音源とは異なるリアルでパワフルなサウンドを生み出してくれる。
SI-Bass Guitar | SI-Drum Kit |
SI-Electric Piano | SI-String Section |
そのほかにもウェーブ・テーブル・シンセサイザのRapture LE、プレイバックサンプラーのD-Pro LEなど、使える音源がいっぱい搭載されている。ある意味、ソフトだけでも十分、7万円の価値はあるのではないかと感じてしまうほどだ。
ちなみに、SONAR 8を持っているので、SONAR VSは不要だけど、V-STUDIO 100のハードウェアをSONAR 8のオーディオインターフェイス兼コントローラとして使いたいという人もいるだろう。もちろん、そうした使い方もOKだし、ACT対応のコントローラとして利用することはできる。この場合でも、オーディオドライバとSONAR VSのインストールが必要になるようだ。
■ Macにも対応
やはりSONARと名がつく製品だけに、ここまでWindowsのPCに接続することを基本にV-STUDIO 100を紹介してきたが、実はハードウェア的にはWindowsのみならず、Macもサポートしている。
Mac用のドライバが同梱されているので、8IN/6OUTのオーディオインターフェイスとしてはもちろん、LogicなどのDAWと組み合わせてフィジカルコントローラとして利用することもできる。
ためしにMacでの動作チェックを行なっていて気づいたのだが、実はこのV-STUDIO 100にはMac用のドライバだけでなく、Mac用のアプリケーションもバンドルされているのだ。といってもSONARのMac版が登場したというわけではなく、プラグイン集であるVS Production PackのMac版が搭載されており、Guitar Rig 3 LEや各種ソフトシンセを利用することができるのだ。
VS Production PackのMac版 |
ドライバ以外は国内では正式サポートの対象外のようではあるが、今後USB化が進むMacの世界において、V-STUDIO 100は大きな選択肢となりそうだ。
次回は、V-STUDIO 100をUSBから切り離してスタンドアロンで使う方法を紹介する。