第411回:Rolandのギター用DTMセット「V-STUDIO 20」
~ エフェクト/チューナ/録音のオールインワン ~
V-STUDIO 20 |
ギタリスト向けのDTMセット、「V-STUDIO 20」がCakewalk by Rolandのブランドで発売された。
BOSSのマルチエフェクター「ME-25」相当のエフェクト機能や、ボーカルエフェクト「VE-20」に匹敵する機能、さらにはチューナ機能を搭載するとともに、操作を極めて簡単にしたDAWの「Guitar Tracks 4」、それにコントロール・サーフェイス機能を備えたオーディオインターフェイスがセットで実売29,800円前後というハイ・コストパフォーマンス製品だ。
まだ、開拓されているとはまったくいえないギタリスト向けDTM市場を大きく切り開く製品になるだろうか?
■ ギタリスト向けDTM市場を開拓?
DTM業界という業界があるかどうかはわからないが、その最大のマーケットは40歳代から団塊世代のギタリストやギタリストだった人たち。音楽・楽器好きでお金を持っているからだが、最大のポイントは、この世代にギターを演っていた人が多いことだ。
いま弾いているかはともかく、彼らが若かったころは、ギターがひとつのステータスであり、モテるための1つの条件でもあったため、とにかくギタリスト人口は多い。残念ながら現在の10代、20代などはゲームやパソコンなど、面白いアイテムがいっぱいあるため、ギターや楽器に興味を示す人は少なく、DTMマーケットとして開拓していくのはなかなか難しいのが実情。だからこそ、オヤジ・ギタリスト世代をどう捕まえるかが最大のテーマなわけだ。
これまでもIK Multimediaの「AmpliTube」、NativeInstrumentsの「GuitarRig」などアンプ・シミュレータ系のソフト、Propellerheadの「Record」をはじめとするレコーディングソフト、また変り種ではKORGの「JamVox」のようなユニークなアイテムなど、ギタリスト向けにいろいろな製品が登場してきた。
また、Appleの「Logic Pro 9」やDigidesignの「ProTools 8」における「Eleven」など、既存のDAWにもギタリスト向け機能が搭載されるようになり、さまざまな方面から狙いをつけてきているが、まだ大ヒットといえるような製品は出ていない。
その背景には、こうした情報が、DTMに関心を持っていない層にまったく届いていないことが大きいように思う。また、「DTM=ピコピコサウンド」という固定概念があり、関心を示していなかったり、そもそもデジタルは邪道だと決め付けている人たちも結構多そうではある。それをどう切り崩すかは業界共通のテーマであるが、そこに新たなアプローチで仕掛けてきたのがローランドというわけだ。
先日、ドイツ・フランクフルトで開催されたMusikmesseで発表され、その数日後には国内でも発売されたのが、V-STUDIO 20。これまでもV-STUDIO 700、V-STUDIO 100というシステム製品が発売されてきたが、そのV-STUDIOシリーズに位置づけられる製品だ。
といっても、共通するのはDAWとハードウェアを組み合わせたセット製品であるということだけで、機能的、システム的な共通点があるわけではない。ある意味、ローランドが以前使っていた「ミュージ郎」というDTMブランドを捨てて、よりカッコよく、本格的な音楽制作ツールであることを意味する「V-STUDIO」ブランドに切り替えたと考えたほうがわかりやすいのかもしれない。
■ エフェクターやチューナを内蔵
VS-20は760gと軽量 |
では、そのギタリスト向けとして登場したV-STUDIO 20とはどんな製品なのだろうか? システム構成としてはハードウェアであるVS-20本体と、ソフトウェアであるGuitar Tracks 4とVS-20 Editorとなっている。VS-20自体は横長のお弁当箱サイズで760gと軽い。ここに、さまざまな機能がてんこ盛りとなっている。
まずはオーディオインターフェイスとしての機能は、左サイドにギター入力、フォンジャックでのライン入力、それにキャノンのマイク入力があり、右サイドにはRCAのライン出力とヘッドフォン出力、それにフットスイッチ端子、ペダル端子、それにUSB端子が並ぶ。
左側面の端子類 | 右側面の端子類 |
もっとも、すべての入力が同時に利用できるわけではなく、オーディオインターフェイスとしては2IN/2OUTという仕様なので、ラインまたはギター/マイクを、トップパネルのスイッチで選択する。ただし、ギターとマイクはモノラルであるため、両方を同時に使うことが可能となっている。
この切り替えスイッチを見ると、MIC 1、MIC 2とあるが、MIC 1はVS-20本体の左右に搭載されている内蔵コンデンサマイク。これで直接アコースティックギターを捉えたり、ボーカルを録ることも可能だ。
トップパネルのスイッチで入力切替 | コンデンサマイクも内蔵する |
トップパネル。フェーダーやスイッチ類が並ぶ |
一方で目立つのは、トップパネルにいろいろと並ぶフェーダーやスイッチ類。詳細は後ほど紹介するが、これらはコントロール・サーフェイスとして並んでいるものであり、簡単にいえばリモコンの操作子だ。ギタリストに拒否反応をされがちな、マウスでの操作を廃し、基本的にこのVS-20上の操作子を動かすだけでエフェクトの設定や選択、レコーディングや再生といった作業ができるようになっている。
さらに、V-STUDIO 20が従来のDTM製品と決定的に異なるのが、エフェクト機能。VS-20本体にDSPが搭載されており、プラグインを使わなくても、本体のみでエフェクト処理を行なうことができ、結果としてゼロレイテンシーでのモニタリングが可能となっている。
VS-20 Editor起動画面 |
では、どんなエフェクトなのか。これはVS-20 Editorというソフトを起動させれば、すぐにわかる。画面右上には「Powered By BOSS」のロゴがあることからも想像がつくとおり、まさにBOSSのエフェクト。
具体的にはマルチエフェクターであるME-25にほぼ匹敵する性能を持っており、パネル的にはペダルスイッチの数が1つ増えた格好だ。50種類のプリセットが用意されており、それから選択することで、目的のエフェクト設定を簡単に得ることができる。
もちろん、プリセットから選択するだけでなく、自由に自分で設定を変更することも可能。画面からもわかるとおり、大きくはCOMP/FX、OD/DS、MODULATION、DELAYの各セクションに加え、画面上側にあるアンプシミュレータ、リバーブという大きく6つから構成されており、それぞれをオン、オフしたり、機能を切り替えていくことができる。
たとえば、COMP/FXではコンプ、リミッタ、ワウ、プリEQといった機能に切り替えることができ、MODULATIONでは、コーラス、フランジャ、フェイザ、トレモロと切り替えることが可能だ。さらに、「DETAIL」ボタンを押すと各パラメータの設定画面も出てくるので、より細かくエディットしていくこともできる。
BOSS ME-25 | 50種類のプリセットを用意 | より細かくエディットしていくことも可能 |
これらエフェクトはローランド自慢のDSPテクノロジー「COSM」を用いているわけだが、COSM最大の特徴ともいえるアンプモデリング機能も強力。ローランドのJC-120をはじめ、FenderのTwinReverbやBassman 4×10 combo、VOXのAC-30TB、70年代のMarshallアンプ……といった各種アンプをモデリングしており、これらを選ぶだけですぐに、それっぽい音を出すことができるのだ。
さらにこのアンプ部分、表示されている「VOCAL」ボタンをクリックすると、ボーカルプロセッサへと切り替わる。ここでいうボーカルプロセッサとは、やはりBOSSのエフェクトであるVE-20に匹敵するもので、マイク入力されたボーカルをさまざまに加工してくれるものだ。
機能的にVE-20とまったく同じというわけではないが、マイクからボーカルを入力するとたとえば3度下のパートを自動生成してハモれる機能や、不安定なピッチを補正して、より上手なボーカルに仕立て上げてくれるリアルタイムでのピッチ補正機能などが用意されている。このボーカルプロセッサも前述のCOMP/FX、OD/DS、またリバーブと同時に使うことができるため、必ずしもボーカル用途だけでなく、楽器用途としても活用できそうだ。
画面左上の「VOCAL」ボタンでボーカルプロセッサへと切り替わる | VE-20 | ピッチ補正機能も搭載する |
BOSSのチューナも用意 |
もうひとつ、ギタリストにとって重要なのがチューニング。VS-20にある「TUNER」というボタンを押すと、やはりBOSSのチューナが登場する。この状態でギターの弦を弾けば、すぐにチューニング作業に入れるというわけだ。
このようにV-STUDIO 20にギターを接続するだけで、さまざまなエフェクターからチューナ、そしてアンプまですべて揃ってしまう。つまりエレキギターが1本、シールド1本あればOKというわけだ。Windowsが入ったPCが1台必要になるが、エフェクト処理をすべてVS-20側で行なうので、CPUパワーはそれほど要求ず、ネットブックでも十分使えるのもポイント。ちなみにVS-20本体はUSBからの電源供給のみで駆動するようになっている。
■ レコーディングソフト「Guitar Tracks Pro 3」もバンドル
とはいえ、ここまでの機能だけなら、BOSSのME-25とVE-20それにチューナが1つあればいい話。V-STUDIO 20としての真価を発揮するのはここからだ。
前述のとおり、このパッケージにはもうひとつGuitar Tracks 4というソフトがバンドルされている。4という番号がついているからには、その前のバージョンが存在したわけで、確かに国内でも以前「Guitar Tracks Pro 3」があった。とはいえ、これは6年も前の話だ。
また海外ではGuitar Tracks Pro 4というソフトが販売されているが、それの簡易版というわけでもない。Guitar Tracks 4はVS-20のハードウェアを存分に使えるようにチューニングされた、専用ソフトで、名前のとおりギタリスト向けに作られたレコーディングソフトだ。
起動して登場するのが、VS-20風なユーザーインターフェイス。マウスで操作することもできるが、フェーダーやトラック選択、また入力レベルの設定などはすべてVS-20側の操作でできるようになっている。
一般的にDAWでは、まずトラックを作成し、オーディオトラックかMIDIトラックかを設定し、ボリューム、パン、エフェクトを設定し……といった作業を行なう必要があるが、Guitar Tracks 4ではあらかじめ32のトラックが用意されており、そこに録音するだけなので、単純明快。まずレコーディングしたいトラックを選び、録音ボタンを押せばメトロノームが鳴って即レコーディングが開始されるといった具合だ。
VS-20風なユーザーインターフェイス | 録音ボタンを押してレコーディング開始 |
これなら、DAWなど触ったことのない人でも、ほとんど迷うことなくレコーディングが行なえるだろう。たとえばTrack1にリズムギターをレコーディングした後、Track2を選択して録音をスタートさせると、Track1のギターが再生されながらレコーディングが開始されるので、ここにリードギターをレコーディング、さらにTrack3にボーカルを入れて……といった作業を繰り返していけばいい。画面に表示されるのは8つ分のトラックのみだが、A~DのTRACK GROUPを切り替えることで1~32のトラックにアクセスすることが可能になる。
ここで気になるのが前述のエフェクトの関係。Guitar Tracks 4はVS-20 Editorと完全に連携されており、標準の設定ではエフェクトがかかった状態でトラックへレコーディングすることができる。
しかし、場合によっては、とりあえずレコーディングするけれど、エフェクトの設定は後で細かく調整したい、ということもあるだろう。そんな場合、信号のルーティングを変更することにより実現可能となる。
VS-20 EditorにあるSETTINGボタンをクリックするとルーティングの画面が表示される。この図からもわかるように、NORMALではエフェクトがかかった音がPCへと流れていくのだが、DRYRECに切り替えるとエフェクトがかかった音でモニターされ、PCへはエフェクトがかかっていないDRY音が流れるようになる。
さらに、Re-AMPを選択するとPCから出力された音をVS-20のエフェクトを通した上で、再度PCに戻すことができるようになっている。つまり、ここでエフェクトの設定を細かく設定しなおした上で、別のトラックへとバウンスすることができるわけだ。
ルーティング画面 | エフェクトがかかってないドライな音もモニター可能 | Re-AMPを選択するとPCから出力された音をVS-20のエフェクトを通した上で、再度PCに戻すことができるようになっている |
プラグインを使った一般のDAWでのエフェクトの扱い方からすると、多少まだるっこしさはあるが、単純なだけにわかりやすくもある。なお、このSystem Setting画面の右側にはフットスイッチの機能設定やフットペダルのボリューム設定、それにMIC 2のファンタム電源スイッチなども用意されている。
ヘルプも充実 |
使い方がよくわからない場合のヘルプも充実している。先ほどのVS-20風な画面の左側には、「Select Input」、「Add Effects」、「Select Track]といったボタンが用意されているが、これは入力の選択、エフェクトの追加、トラックの選択という意味であり、これらを選ぶとヘルプが開く。テキスト解説に加えて、使い方のビデオが埋め込まれているので、これを見ればよりわかりやすい。
■ ドラムやベースなど各パートの作成も可能
ギタリストがはじめてDTMの世界に踏み込むのであれば、ここまでの機能でも十分すぎるパワーを実感できる、十分実用的に使えるはずだ。しかしGuitar Tracks 4はCakewalkのSONARをベースにしたソフトであるだけに、まだまだ奥は深く、さまざまな使い方ができる。
プラグインエフェクトも使用可能 |
まずは、プラグインエフェクトの利用。ここまでVS-20のハードウェアにまかせっきりだったが、当然PCのCPUパワーで動作するプラグインエフェクトも使え、DirectXおよびVSTに対応したエフェクトが利用できる。
あらかじめフィルターやEQ、エキサイターなど9つのDirectXプラグインに加え、VSTプラグインのBoost11が搭載されている。Boost11はいわゆるマキシマイザーなのでより音圧を稼ぎたい場合には有効に利用できる。
VSTプラグインのBoost11が搭載されている |
そして画面をトラックビューに切り替えるとよりDAWっぽい画面が登場してくる。この画面において、レコーディングした波形を見ながら編集していくことができるので、4小節分録ったリフを繰り返すといったこともできるわけだ。
また、ギタリストにとってうれしいのは、この画面でドラムやキーボード、ベースなどほかのパートを簡単に作り上げることもできるようになっている。といっても、打ち込みをしようというわけではない。画面を大きく表示させ、メディアブラウザービューを開くと、あらかじめ用意されているループ素材をプレビューできるようになっている。
トラックビューに切り替えるとよりDAWっぽい画面が登場 | ループ素材のプレビューも可能 |
ドラムパターンなど気に入ったフレーズを見つけたら、それをトラックに張り込んでいけば簡単にパートを作成することができるだ。もっともGuitar Tracks 4に用意されているループ素材はドラムを中心に300種類弱なので、十分とはいえないかもしれない。ただ、こうした素材集はDVD-ROMなどの形で数多く市販されており、ネット上にはフリーの素材集もいろいろある。必要であれば、そうしたものを利用してみるといだろう。
また、このトラックビューには、1つだけ特殊なトラックが用意されている。それが一番上にあるMIDI Backing Trackというトラックだ。これはその名のとおり、バッキング用に用意されたMIDIトラック。こちらも、打ち込みをするためではなく、MIDIの素材集から取り込んで使えるようにしたもの。TTS-1というGM2準拠のソフトシンセが設定されているので、もしMIDIデータがあれば、それをカラオケのように鳴らして、ギターをレコーディングしたりボーカルトラックを作っていくことができるわけだ。
「MIDI Backing Track」というトラックを一番上に用意 | ループ素材のプレビューも可能 |
■ CDへの書き込みなども可能
このようにして曲が完成したら、最後はCDに焼いたり、MP3ファイルとして作品にしたいところ。もちろん、そうした機能も用意されているので、V-STUDIO 20があれば、すべてトータルで作業できる、まさにオールインワンパッケージとなっている。
完成後、ディスクへの書き込みが可能 | MP3ファイルとして作品にすることもできる |
なお、オーディオインターフェイスの性能は、16bit/44.1kHzまたは24bit/44.1kHz。普通の使用であれば、これで十分すぎるほどだが、もしその後よりハイクォリティーな作品を作り上げていきたいと思ったら、現在ある各種DAWの世界へとステップアップするといいだろう。
SONARであれば、Guitar Tracks 4のデータと互換性もあり、VS-20のハードウェアをそのまま利用していくことも可能。VS-20はオーディオインターフェイス的にはASIOドライバ対応で、コントロールサーフェイス部分はMackie Control互換だからほかのDAWでも使っていくこともできるので、発展性という面でも申し分ない。