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「日本でテレビシェアTOP3を狙う」TCL事業責任者インタビュー。世界初のDolby Atmosスピーカーも出る!?
2025年7月7日 08:00
世界最大級のパネル製造企業「TCL CSOT」を傘下にもち、液晶テレビの世界シェア第2位を誇るグローバルブランドが「TCL」だ。
6月上旬、中国・広東省にあるTCL CSOT工場とTCL本社を巡るメディアツアーに参加し、パネル・テレビ開発に携わるメンバーや事業責任者らから新製品や日本市場での今後の戦略などについて話を聞くことができた。その模様を全3回にわたって取り上げる。
最終回は、TCL製品の販売を担うTCL Industries 深圳本部でのインタビューを伝える。
メディアツアー第1弾、第2弾の記事はコチラ
インタビューに応じてくれたのは、日本を含むアジア地域の統括責任者である張(チョウ)氏と、TCL製品のマネジメント責任者である宦(カン)氏。
「日本のマーケットは、まだまだ買い替えを狙える巨大な市場」「大きなチャレンジではあるが、日本のテレビシェアTOP3を狙いたい」「さらなるローカライズ化とブランドの認知拡大に努める」など、日本市場をターゲットにした野心的な戦略を話してくれた。
「年間出荷額約5,000億円」の日本は非常に有望な市場だ
――テレビ事業におけるグローバル戦略を教えて欲しい。
張氏(以下敬称略):TCLはこれまで約30年間、テレビ事業に注力してきました。振り返れば、今から20年前は日本のテレビメーカーが世界の市場を席巻していたと思います。そして10年前、日本と入れ替わるように、サムスンやLGといった韓国のテレビメーカーが世界のトッププレイヤーになりました。
ですが、近年と言いますか今後については、台湾および中国のメーカーが大きく発展して行けると考えています。というのも、テレビで最も重要な“パネル”のサプライヤーチェーンにおいて、中国の企業が90%近くのシェアを獲得すると見込まれているからです。つまり、パネルの開発から生産までをグループに抱えているTCLにとっては、今後の市場は、非常に大きなチャンスがあるわけです。
張:また、いま現在、テレビ事業に対して最も投資をしているのもTCLだと思っています。TCL CSOTにはこれまで約6兆円もの投資を行なってきました。中国国内だけでなく、インドやメキシコ、ベトナム、ポーランドにも製造拠点を拡張しています。
TCLの本社は中国にありますが、北米地域、南米地域、アジア地域というようにエリアを区切って、セールス部隊だけでなく研究開発部隊も置き、地域の需要に応じた製品を届けるローカライズ化も行なっています。もちろん、共通化できる部分は共通化することでコストの抑制につなげています。
今後の戦略としては、TCLはハイエンドの市場を攻めていきたいと考えています。そこでキーになるのが“大型”と“ミニLED”です。この2つの特徴を備えた製品をどんどん充実させ、各地域で展開したい。またテレビ単体で利用するのではなく、様々な家電製品と連携させるスマート化を推し進めようとしています。
それから各地域に応じたブランディングにも注力していきます。今年TCLは2032年まで、家庭用オーディオ・ビジュアル機器および家庭用電化製品部門におけるオリンピック最高位スポンサー(ワールドワイド・オリンピック/パラリンピック・オフィシャル・パートナー)となる契約を結びました。我々はこのスポンサー契約を最大限に活用し、TCLのブランドを世界中に広めてゆきます。
――日本市場をどのように見ているか。
張:経済力や人口などをグローバルの水準と比較しても、日本はまだまだトップクラスに位置しています。そして、日本のテレビの年間出荷額は約5,000億円、白物であれば6,000億~7,000億円ほどの規模がある。まさに買い替えを狙える巨大な市場であり、我々にとっては非常に有望な市場なわけです。
日本には非常に優れたメーカーも多いため、そうした市場で勝負することは非常にチャレンジングであることは理解しています。テレビであればソニーやパナソニック、空調であればダイキンも技術をリードしています。
ですが、こうした強豪と競える技術力を身に付け、日本メーカーと同じ土俵に立てれば、グローバルに対して「我々の技術力はトップクラスである」と言う強いメッセージを発信することができる。特に東南アジア地域では「日本ブランド=高品質」というイメージが根強いですから、日本市場での成功がグローバルにも良い影響を与えると考えています。
真のベゼルレス“Virtually ZeroBorder”で他社の1世代先をリードできた
――2025年モデルのハイエンド「C8K」シリーズの特徴や訴求ポイントは。
宦:TCLは2019年に「X10」と言う名前を冠し、量子ドット×ミニLEDテレビを世界で初めて発売しました。その後、多くのテレビメーカーが量子ドット×ミニLEDテレビを発売し、いまやミニLEDテレビがテレビの市場を牽引する一大ジャンルになりました。
宦:ミニLEDテレビのパイオニアである私たちは、より高い輝度、より多くの分割数でコントラストを高め、より良い画質を追求してきましたが、分割数が各社横並び……限界に近付いていることも事実です。では、どこで差別化するか?と考えた時に生まれたのが「Virtually ZeroBorder」技術でした。
宦:2025年モデルのハイエンドである「C8K」シリーズは、ベゼルを排したVirtually ZeroBorder技術を搭載したモデルです。パネルの歴史を振り返ると、10年前は約30ミリあった非表示部分は技術の進化で10ミリになり、最近は5ミリ程度まで狭まっています。ただ、最後に外枠を付けると結局10ミリくらいのベゼルができてしまう。
私たちはテレビ全体の設計を見直したうえで、非表示部分をゼロにできる材料や拡散版の改良、パネルの生産工程にもメスを入れようやく、真のベゼルレスであるVirtually ZeroBorderを実現しました。最終的に、C8Kには22個の新しい特許技術が使われています。
Virtually ZeroBorderは他社にない技術ですから、きっと日本の皆さんにもこの魅力が分かっていただけると思います。
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— TCL Japan (@TCL_Japan)June 6, 2025
従来の液晶テレビの外観を刷新!
C8Kの『Virtually ZeroBorder』
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TCLの2025年最新モデル『C8K』では
✅テレビ画面の四隅にある黒い縁(非表示領域)を限りなく排除
✅画面全体に映像を表示…pic.twitter.com/VkktzZ8B8s
宦:ローカルディミングの進化もC8Kの特徴です。ミニLEDチップを変更したり、アルゴリズムを見直すなど、ハードとソフトの両面を改良することで、より効果的な明暗の制御を実現しました。またミニLEDのレンズとパネルの距離を短くすることで、ハローの抑制も行なっています。C8Kに関しては設計から材料まで多くの変更点がありましたから、品質テストにも4,000時間を費やしています。
C8Kは特殊な製造工程を経て作成されるため、パネルの製造から組み立てまで、非常にシビアな精度が求められます。生産ラインも別の機種とは異なる、完全にカスタマイズされたものです。製造能力と言う点では、他社の1世代先をリードできたとも思います。
日本語には“匠”という言葉がありますよね。私たちも“テレビの匠”を極め、より良い製品を世界中に展開して行きたいと考えています。
日本のテレビ市場においても“トップ3”に入る
――今後の日本市場に対する展望と戦略を教えて欲しい。
張:TCL本社の目標としては、日本のテレビ市場においてもトップ3に入るのが目標です。少なくとも、シェア20%は獲らなければトップ3には入れない、そう思っています。現在はレグザ、シャープ、ハイセンスが3強ですが、我々は一歩一歩着実に階段を上がっていくことが現実的ではないかと考えています。そして、テレビの勢いを生かし、エアコンや冷蔵庫といった白物家電の分野でもシェア拡大を図っていくつもりです。
とはいえ、日本でトップ3を狙うことは非常にチャレンジングであるという事も把握しています。世界1位のサムスンでさえ、日本市場を攻略できませんでしたし、やはり日本では日本のブランド、韓国では韓国のブランド、中国では中国のブランドが強いわけです。
では、我々はどのように日本市場を攻略しようとしているのか?という話になるわけですが、まず1つは「魅力的な製品をリリースすること」、これに尽きます。日本にはテレビや家電製品に詳しい方が多いと考えていますから、そうした方々の心をつかみ、購入してもらうためには優れた製品が欠かせません。
次に重要なのは、「日本のビジネスパートナーとの関係強化」です。製品を正しく消費者の方へ伝えてもらえるようメディアへの情報発信はもちろん、販売を支える量販店やネット通販のパートナー、それから安心して製品を購入してもらえるようなアフターサポートの体制も強化して行きます。
最後は「ブランド力の強化」です。オリンピックスポンサーであることを最大限に活かして、今後はオリンピックの選手であったり、関連する方々とタッグを組み、TCLのブランディングを進めていけないか?検討しているところです。
ブランド力、認知度の低さは、日本市場での大きな課題だと考えています。製品力であったり、技術力という点で見れば、我々は決してシェア上位のメーカーに負けていない、そう自負しています。
ただ、日本向けのテレビラインナップはまだまだローカライズが足りない、とも感じています。これまでも日本のオフィスには製品の企画担当や研究開発メンバーを在籍させるなど、日本仕様のための施策に取り組んできましたが、ローカライズでまだできることはたくさんある。どうすればより認めてもらえる製品に仕上がるか、調査力を高め、それを研究開発にフィードバックし、ローカライズを深化させた、次期モデルの開発を進めていきます。
張:一方で、チャンスと捉えているものもあります。それがテレビの大型サイズの領域です。ある大手調査会社のデータによれば、75型以上のテレビのおけるTCLのシェアは20%以上と聞いています。TCL CSOTと共同開発した優れたパネルをいち早く市場に投入できますし、さらにはコスト競争力にも優れることが我々の強みです。
日本市場に参入した当初は、何よりもコストパフォーマンスを前面に打ち出しシェアを獲得することでしたが、今は“ハイエンドな大型ミニLEDテレビ”を積極的に展開し、大型サイズのシェアをより強固なものにしていきたいと思います。
またテレビだけではなく、エアコンや冷蔵庫といった白物家電も伸びしろがあります。テレビや家電がネットと繋がるスマートホーム化の流れは、次の大きなチャンスでしょうし、中国メーカーは白物家電でも躍進できると考えています。
――あえて質問するが、有機ELテレビについてどのように思っているか。
宦:有機ELもメリットがあるデバイスだと思っています。ただ私たちとしては「有機ELは小型・中型の製品に相応しい」と考えます。
何より現状の技術で大型の有機ELディスプレイを作るには、液晶よりも非常に多くのコストがかかります。大型化する際のコストという課題は、今のところ、改善できるが見込みが立っていません。
また焼き付きという課題もあります。ですから、スマートフォンやタブレットなどのような、使用期間が2~3年と比較的短いデバイスにはよいと思います。対して液晶の場合は、大型であっても有機ELほどのコストがかかりませんし、寿命も長いと考えています。
TCLテレビの実力は? ソニー最上位「BRAVIA 9」と比較した
インタビュー後、深圳本部にある画質検証室に招かれ、2025年モデルの映像を見ることができた。
部屋にはTCLのフラッグシップモデル「85X11K」(日本未発売サイズ)が用意されており、X11Kを挟むようにして、比較用の液晶テレビ(ソニー「K-75XR90」)と、有機ELテレビ(ソニー「XR-77A95L」、日本未発売サイズ)が設置されていた。検証室では、ソニーやサムスン、レグザなど、あらゆるメーカーの最新テレビと比較できるようになっているという。
映像設定をリセットした後、3つのモデルをすべて“スタンダード”モードに揃え、HDR10信号のデモ映像を見比べた。
X11Kは3モデルの中でも一際明るく、花びらの模様やペン先から伸びる繊維の1本1本まで、克明に描写されている。金属のピークの煌めきであったり、口紅や果物(マンゴーなど)といった彩度の高い色も極めて濃厚で艶やかに映す。対するソニーXR90は、X11Kに比べるとエッジの立ち方が穏やかで色はナチュラルだ。
次に再生したのは、黒背景の中を4つのカラーボール(RGBW)が高速かつランダムに動き回るテスト映像。ここではバックライトの挙動を見る。
X11Kは動き回るカラーボールとバックライトの動きが完全にリンクしており、ボール周辺のハローも抑えられている。しかも4つのカラーボールすべてが、断トツに明るい。一方のXR90はボールの周りが白くにじんで、ハローが大きいことに気が付く。素早く動くカラーボールに対しもバックライトの明滅が追い付けておらず、バックライトがまるで流れ星の“尾”のように流れてしまっている。カラーボールの輝きも弱めだ。
最後は、映画「フォードvsフェラーリ」のシーン。当初スタンダードでの見比べだったが、わがままを言って全モデルを“シネマ”モードに変更してもらった。
ここでもX11Kの明るさと色乗りの良さが際立つ。ただ、マット・デイモンの肌がペタッと平坦になってしまい、描画線が太い。暗部もややノイジーだ。隣のXR90は肌のディテールが潰れず、ノイズの粒子が細かく目立たない。ヌケも良く、画に奥行きを感じる。
この点をTCLジャパンのスタッフに伝えると、「映画モードで画質差があるのは把握しています。やはりソニーは“映画の入り口から出口”まで知り尽くしている。ですが、私たちもそうした点を日々研究しています。画作りに関しても引き続き努力を続けて参ります」とのことだった。
どこに置いてもOKな“Dolby Atmosスピーカー”も準備中!?
深圳本部の展示ルームでは、一足先に“隠し玉”を見ることができた。その隠し玉とは、世界初のDolby Atmos FlexConnect対応ワイヤレススピーカー「Z100」だ。
立体音響技術であるDolby Atmosが映画館でデビューしてから約13年。今では、テレビからスマホ・タブレット、AVアンプ、サウンドバー、ワイヤレスイヤフォンまで搭載され、Dolby Atmosのサウンドの魅力が徐々に広がりつつある。ただその一方、利用者の「スピーカーを複数台設置することへの抵抗感」はほとんど変わっていないのが実情だ。
テレビの両脇にスピーカーを設置するだけならまだしも、ソファの脇や後ろにまでスピーカーと専用スタンドを置くのは、家族の理解が得られない限り難しい。例え設置できたとしても、左右のスピーカーを設置する距離を揃えたり、リビングの景観を損なわずにケーブルを引き回すのも難易度が高い。ましてや天井スピーカーの設置は……言うまでもないだろう。
このような状況を変えられるでは? と期待されているのが、2023年8月に米ドルビーとTCLが開発発表を行なった新しいオーディオ技術「Dolby Atmos FlexConnect」(以下FlexConnect)だ。
FlexConnectは、対応テレビと対応ワイヤレススピーカーの組み合わせでDolby Atmos環境を構築できるのが特徴。テレビがシステム全体のハブとなり、複数のワイヤレススピーカーに対して信号を送るトランスミッターの役割を備える。このため、Atmos対応のレシーバーであったり、レシーバーへの接続(HDMIケーブル)は必要としない。
また高性能なキャリブレーション機能により、ワイヤレススピーカーを好きな場所に、好きな台数(上限アリ)設置できる手軽さも大きなポイント。設置場所に応じて、2台、3台、4台置いたり、スピーカー位置が左右ズレても、また異なる高さに置いたとしても、Dolby Atmosの効果が最適化されるようになっている。
柱状の形をしたZ100は、天面にイネーブルドスピーカー、側面にウーファー、ミッドレンジ、ツイーターを仕込んだ1.1.1ch構成のワイヤレススピーカー。総合出力は170W。TCLの2025年テレビ(X11K、C8K、C7K、C6Kなど)と組み合わせた場合、最大4台まで接続することができるそうだ。
展示ルームで実際にその音を聞いたが、TCLの最新テレビ「C8K」とZ100×2(前方に2台をポン置き)だけで、想像以上に音響空間が拡がり、さらにテレビ単体時に比べてセリフが明瞭に聴き取れることが体感できた。ケーブルレスで、部屋のどこにでもポン置きできるシステムであれば、リビングにも導入しやすいはずだ。
「Z100の日本発売はまだ決まっていません」とのことだったが、導入の準備は進めている様子。Z100の登場で、Atmos対応シアターシステムの新しい選択肢として、FlexConnect対応機器に注目が集まりそうだ。
おまけ:中国・深圳はこんなところでした写真集
最後は取材中に撮影した、中国・深圳の街の様子を写真で紹介する。