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第454回:TASCAMの低価格24/96対応PCMレコーダを試す

〜楽器チューナも備えて実売1万円の「DR-05」 〜


DR-05

 ビジネス用ICレコーダーのリニアPCM対応が進んできたことも影響しているのか、24bit/96kHzタイプのリニアPCMレコーダにも低価格化の波が押し寄せている。先日、1万円を切る製品としてZOOMのH1を紹介したが、新たにTASCAMも、1万円前後とこの価格レンジの製品「DR-05」を投入してきた。

 こんなに安い価格で発売してメーカーは採算が取れるのだろうか……と心配になってしまうほどだが、どれだけの機能、性能を持っているのかチェックしてみた。



■ 低価格ながら高い質感の本体

 これまでもTASCAMのリニアPCMレコーダはいろいろと紹介してきたが、改めてTASCAMブランドのリニアPCMレコーダで現行製品がどのくらいあるかを調べてみると、ハンディータイプのものだけでDR-2d、DR-07、DR-08、DR-100、やや毛色が違うがギター/ベース用のGT-R1、そして今回のDR-05と6種類もある。それぞれ価格は多少異なり、機能や形状に違いはあるが、ぱっと見た感じではGT-R1以外はそれほど大きな差別化はされていないようにも思える。「気に入った形、音質のものを見つけて!」といったところだろうか。

ZOOM H1

 そこに新ラインナップとして追加されたDR-05も24bit/96kHz対応で、似たスペックながら実売価格が1万前後という製品になっている。手元に先日のZOOM H1がないので、並べての大きさ比較などができないが、見た目の印象は大きく異なる。H1は、かなり割り切った廉価品という設計であり、小さな液晶は搭載されているもののメニューボタンもなく、いくつかのスイッチだけで設定から録音、再生まですべて行なってしまおう、という簡易的なレコーダーになっていた。ボディーの質感もややチープな感じで、上位のH4nやH2とはハッキリした差別化が図られていた。

 それに対し、このDR-05は、「え? いいの?、これ1万円で」というのが実物を見て手に取ったときの最初の印象。というのも、言われなければDR-2dなどと比較して、どちらが高い機種なのかわからないほど、しっかりした機材に仕上がっているからだ。もちろん液晶も備えているし、スペック的には24bit/96kHz対応、マイクは比較的口径の大きそうなコンデンサマイクがY字型に搭載されているなど、2〜4万円程度の各社リニアPCMレコーダと比べて遜色ない。

 iPhone 3GSと並べてみたところ、ちょっと大きめといった感じ。また手元にあったリニアPCMレコーダと並べてみても、やや大き目だ。バッテリは単3電池2本で駆動し、アルカリ電池またはニッケル水素電池が利用できるという仕様。DR-2dは24bit/96kHzだと電池の持ち時間が短いという話題が、掲示板などによく書かれていたが、DR-05はスペック上だと24bit/96kHzでの録音時、アルカリ電池(EVOLTA)だと約10.5時間、ニッケル水素電池(eneloop)だと約10時間の連続録音が可能となっており、この点においては上位機種を上回る内容となっている。

 記録メディアはmicroSD/SDHC。これは右サイドにあるスロットで出し入れを行なうようになっており、初期状態では2GBのmicroSDが挿入されている。

iPhone 3GS(右)とサイズ比較 他のレコーダなどと比較。左からTASCAM DR-2d、Roland R-05、TASCAM DR-05、iPhone 3GS、YAMAHA POCKETRAK C24
バッテリ収納部 microSDカードスロット部

 次に入出力について見てみよう。まずはマイクから。前述のとおり、コンデンサマイクが搭載されているが、これは無指向性のマイクで、分度器で計ってみたところ120度の角度で取り付けられている。メーカー資料によれば、左右一体型のマイクハウジングにマイクカプセルが取り付けられているようだ。試しにRECORDボタンを押して、マイクからの入力をヘッドフォンでモニターするとなかなか感度よくクリアな音が入ってくる。ステレオ感はあるが、それほどクッキリした左右の違いや立体感は出てこない印象。メーカーの説明でも「前方の狙った音だけでなく周囲の音を全方位的に収音します」とあるように、やはり指向性はそれほど高くない設計のようだ。

マイク部
マイク部の構造


外部マイクやライン入力も可能で端子は2つのマイクの間に配置

 外部マイクやライン入力も可能で端子は2つのマイクの間に設置されている。メニュー設定によってMIC POWERをオンにすればプラグインパワーの利用も可能となる。左サイドにはヘッドフォン出力兼ライン出力があるので、モニターする際にはここを利用することになる。なお、モニター用には当然使えないが、再生するだけであれば、裏側のスピーカーも利用できる。ただし、デフォルトではオフの設定になっているため、これを利用するためには、メニュー操作でオンにする必要がある。


左側面 背面のスピーカー部 スピーカーを利用する場合は、メニュー操作でオンにする

 そのメニュー操作にも使う液晶はオレンジ色のバックライトの画面で、情報量が結構多く表示される。メニュー操作は、液晶下に丸く配置されたボタンで行なうが、早送りや巻戻し、+と−それに再生ボタンから構成される十字キー&決定ボタンによる操作は直感的で、迷うこともない。またMENUボタンなどが、その間に配置されている。



■ 録音してみた

 デフォルトでは16bit/44.1kHzに設定されているので、まずは24bit/96kHzへの変更を行なった。MENUボタンを押し、FORMATをWAV 24bit、SAMPLEを96kに設定するだけなので、マニュアルを見なくても、すぐに行なえる。ちなみにこのフォーマット、WAV 16bitとWAV 24bitのほかにMP3の32/64/96/128/192/256/320kbpsも選択可能。この際のサンプリングレートは44.1kHzか48kHzになる。

液晶ディスプレイ 操作ボタン部

 レコーディングの設定はこのほかに、低域を切るLOW CUTが用意されているが、ここではデフォルトのオフのままの設定にしておいた。ここでRECORDINGボタンを1回押して、準備状態になる。デフォルトの設定では音量調整はマニュアルとなっているので、十字キーの左右ボタンで適当な入力レベルに設定、また上下キーで適当なヘッドフォン出力に設定する。通常は、このようなマニュアルの入力レベル設定でいいと思うが、DR-05にはマニュアルのほかに、PEAK REDUCTION、AUTO LEVEL、LIMITERの3つのレベル調整モードが用意されている。

十字キーの左右ボタンで入力レベルを設定 上下キーでヘッドフォン出力を設定 マニュアルのほかに、3つのレベル調整モードを用意

 まずPEAK REDUCTIONは、基本的にはマニュアルなのだが、録音中にピークを検出すると入力レベルを下げてくれるというもの。RECORDINGボタンを1回押した録音準備で、PEAK REDUCTIONをオンにして、録音すべき音を一通りDR-05に聞かせてやれば、ちょうどいいレベルに調整されるので、RolandのR-05のリハーサル機能にも近い感じ利用することができる。AUTO LEVELはICレコーダーに搭載されているそれと同様なので、会議の録音などに利用するのがいいだろう。そして、LIMITTERは過大入力があっても音が割れないように、その部分だけ入力を抑えるというものだ。

 ここではマニュアルの状態で、外に出て鳥の鳴き声を録音してみた。まずは、ぜひその音を聴いてもらいたい。家の屋根付近にスズメがいっぱいいたので、それを狙ったものだ。マイクを真上に向けて拾ったのだが、かなりリアルに録れているのがわかるだろう。低域でブーンとした音が入っているのは、そばにエアコンの室外機が置かれていたのでその駆動音を拾ったものだ。それこそLOW CUTをオンにしておけば、キレイに消えたかもしれない。

 よく聴いてみると、スズメが羽ばたきながら隣の家と行き来しているのが分かるはずだ。右側でカタカタカタといっているのは、トタンのひさし部分でスズメが歩いている音。16〜18秒目あたりで左側で「ピー」と鳴いているのは、庭側にやってきたヒヨドリの声。と、このように書けば、なんとなくの左右感が分かると思うが、普通に聴いていると、そこまでハッキリとは立体的な情景が浮かばない。その辺がDR-05の実力ということなのかもしれない。このときは、それほど風がなかったが、ほかの日に録音した際には、そよ風程度でも入力レベルが大きいと、すぐに風切り音でピークに達してしまう。ウィンドスクリーンは付属していないので、野外での使用がメインだと工夫が必要だろう。

録音サンプル:野外生録
bird.wav(14.6MB)
録音サンプル:楽曲(Jupiter)
music1644.wav(6.88MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ USBバスパワー駆動も。クロマティックチューナー搭載

 録音したデータはmicroSDに自動生成されるMUSICフォルダにDR0000_0000.wav、DR0000_0001.wavと順に作成されていくが、頭部分の名称変更も可能になっている。このように録音されたデータはmicroSDを直接PCに挿入することで、読み込むこともできるし、DR-05本体右サイドのUSB端子経由で受け渡しすることもできる。この際、PCと接続すると選択画面が現れる。「STORAGE」を選べば、普通にUSBマスストレージデバイスとしてmicroSDの内容を読み書きできるのだが、もうひとつの「BUS POWER」を選ぶと、DR-05をPCからのUSBバスパワーで駆動することができる。もちろんUSBケーブルの先はPCでなくても大丈夫。iPhoneなどを充電するためのAC-USBアダプタでも問題なく使えるので、シチュエーションによっては便利に使えそうだ。

録音したデータは、microSDのMUSICフォルダに保存される ファイルの頭部分の名称変更も microSDをPCに挿入して読み込めるほか、USB端子経由での受け渡しも可能
PCと接続すると選択画面が USBマスストレージデバイスとして認識 USBバスパワーで動作する際は液晶右上にUSBのマークが表示される

 続いて音楽のテストを行なった。素材はいつものようにTINGARAのJUPITERだ。何の支障もなく録音でき、非常にキレイな音で録れているという印象だが、ほかのレコーダでの結果と比較すると、ややレベルが小さめに感じた。もちろん、あらかじめ波形編集ソフトでノーマライズをかけているので、最大レベルは0dBとなっているのだが、音を聴き比べてみても音圧が小さめに感じる。

クロマティックチューナーも搭載

 試しに波形をH1、DR-2dと比較してみるとやや中域が弱めな感じ。波形編集ソフトでの波形を比較すると、確かに少し小さいことが確認できる。これもマイクの特性ということかもしれないが、より高音質を求めるのであれば、やはりDR-2dクラスにしたいところだ。H1と聴き比べると、音圧が少し小さいせいか、中高域がやや弱めに感じる。ただ、これはユーザーの好みという面もあり、基本的に必要なレベルは十分クリアしている。

 なお、ほかのTASCAM製品と同様に、DR-05にもクロマティックチューナー機能が搭載されている。マイクで音を拾ってのチューニングができるので、これを持ち歩いていると便利に利用できそうだ。


DR-05の波形(左)をDR-2d(中央)、H1(右)と比較
波形編集ソフトでの表示。左からDR-05、DR-2d、H1

 以上、1万円程度で購入できるTASCAMの24bit/96kHzのリニアPCMレコーダ「DR-05」について見てきたが、デフレ時代を象徴する製品というようにも思うが、ユーザーの立場から考えればこれだけの機能、性能を持ったものが安く買えるというのは嬉しい限りだ。

 もちろん初めてのユーザーにとっての入門機としても、すでに他社製品を含めリニアPCMレコーダを持っている人にとっても、バックアップ用としてもオススメできる。


(2011年 3月 14日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]