第474回:iPad対応のMIDIインターフェイス3製品を比較

~ヤマハ「i-MX1」など。Camera Connection Kit不要で動作 ~


左からMIDI Mobilizer II、i-MX1、iRig MIDIのパッケージ

 DTM環境としてかなり広く認められるようになってきたiPad。ソフトシンセやシーケンサ、レコーダー、エフェクト……といったアプリの数と質においては、現在のところAndroidと比較にならないほど充実している。iOS4になったところでCoreMIDIというMIDI機能が実装されたことの意義も大きい。iPad Camera Connection Kit経由でUSB-MIDIキーボードなどともドライバなしで接続可能になったため、対応するアプリが次々と登場しているのだ。

 また、7月になってヤマハがCamera Connection Kit不要のMIDIインターフェイス、i-MX1を発売(オープン価格、実売価格6,000円前後)。さらに9月末には米LINE6からMIDI Mobilizer II(同6,800円前後)、おそらく同時期には伊IK MultimediaからはiRig MIDIというMIDIインターフェイスが発売される(価格未定、アメリカでの価格は69.99ドル)。その発売前のMIDI Mobilizer IIおよびiRig MIDIがそろって手元にやってきたので、i-MX1とともに使ってみた。



■ 初代から進化した「MIDI Mobilizer II」、USB装備の「iRig MIDI」、コンパクトな「i-MX1」

MIDI Mobilizer II

 以前の記事でも紹介したことがあったが、iPad用のMIDIインターフェイスをいち早くリリースしたのはLINE6であった。まだCoreMIDIが実装される前のiOS3の時代に発売されたMIDI Mobilizerは、これまでにソフトシンセやコントロールサーフィスなど数多くの対応アプリが登場してきた。もちろん今でもiOS3を使っているユーザーは少なくないため、iOS3環境用のMIDIインターフェイスとしてMIDI Mobilizerは重要で、かつ唯一の製品である。

 しかし、iOS4以降のユーザーにとっての本命はやはりCoreMIDIだ。アップル純正のGarageBandほか、すでにさまざまなCoreMIDI対応アプリがリリースされているが、CoreMIDIを使うためにはCamera Connection Kitを使って、USBデバイスと接続することが必要であった。USBを使うので汎用性があることは確かだが、iPadから供給できる電力が小さいため、USBバス駆動のデバイスの多くがこれでは使えなかったり、その電力の問題なのか比較的不安定で、うまく動作しないケースもかなりあった。

 そんな中、ヤマハがいち早くCamera Connection Kit不要なMIDIインターフェイス、i-MX1をリリースしたわけだが、それから数カ月のうちにさらに2社から登場することになったのだ。

 まず、この3つを並べてみたのでご覧いただきたい。若干、大きさや形状に違いはあるが、いずれもiPadのDockコネクタに接続するもので、Dockコネクタの反対側にはミニジャックが搭載されている。MIDIインターフェイスなのにミニジャック? と不思議に思うかもしれないが、各製品にはこのミニジャックをMIDI端子に変換するケーブルがついているので、これを利用してキーボードや音源モジュールなどMIDI機器に接続するわけだ。

3製品の本体を比較。左からMIDI Mobilizer II、i-MX1、iRig MIDIミニジャック-MIDI端子の変換ケーブルが付属する


MIDI端子側はいずれもオス型

 それぞれをiPadに接続した写真を見てみると、実際の雰囲気が分かるだろう。ケーブルを見てみるとMIDI端子側はいずれもオス型。つまりMIDI機器と接続する上で別途MIDIケーブルを用意する必要はないのだ。ケーブルの長さを計ってみるとヤマハが155cm、LINE6が160cm、IK Multimedaが165cmと微妙に違うが大差はない。

 やはり気になるのは、それぞれのケーブルに互換性があるか、という点だが、試してみたところまったく同じ仕様のようで、違うメーカーのケーブルでも問題なく動かすことができた。ステレオミニジャックとMIDIのDINジャックを結ぶケーブルというのは、初代MIDI Mobilizerで初めて目にしたが、規格化されていたのだろうか……。いずれにせよ、仕様が統一されているという点は歓迎だ。


iPadと接続。左からi-MX1、MIDI Mobilizer II、iRig MIDI


MIDI Mobilizer(左)とMIDI Mobilizer II(右)

 ちなみに、その初代のMIDI Mobilizerと今回のMIDI Mobilizer IIを並べてみると、見た目や大きさ、形はまったく同じ。中の回路が違うということのようだ。もともと初代MIDI Mobilizerにはファームウェアが入っていて、これまでも何度かバージョンアップがあったので、そのままCoreMIDI対応が図られるのでは……と期待していた。しかし、従来のMIDI Mobilizerの仕組みとCoreMIDIではかなり違いがあったようで、実現できなかった模様だ。その結果、見た目は同じだけれど、中身が異なるMIDI Mobilizer IIの誕生となったわけだ。

 そのMIDI Mobilizer IIと似て見えるのがIK MultimediaのiRig MIDI。最初、IK MultimediaのWebサイトで写真で見たときには、LINE6のOEMでは? とも思ったのだが、近くでよく見るとやはり形状、質感も結構違う。もっともこのiRig MIDIは量産前のサンプルということで質感は多少変わる可能性があるとのことだったが、MIDI Mobilizer IIとは機能的にも違う面があるのだ。

 iRig MIDIにはMIDI IN、MIDI OUTに加え、中央にはMIDI THRUがある。これはMIDI INに入ってきた信号がiPadへ流れる一方、そのままMIDI THRUへも出力されるという仕様になっている。したがって、iPadのMIDIシーケンサに記録させると同時に外部に接続したMIDI音源を演奏させるとか、反対にiPadのソフトシンセを鳴らしながら、外部シーケンサで記録させる、といったことが可能になる。

 さらにユニークなのはUSB端子が搭載されていること。これはiPadへ電源供給するためのUSB端子であり、データ的な接続をするものではないが、ACアダプタとUSBケーブルで接続しておけば、MIDIを利用しながら充電もできるというわけだ。ちなみに、iRig MIDIをiPadと接続しない状態でUSB電源供給を行ない、MIDI INに入ってきた信号がMIDI THRUから出て行くのかを試してみたところ、これはうまく動かないようであった。

 一方、iPadと接続していれば、CoreMIDI関連のアプリを起動しなくてもMIDI THRUは利用できた。ついでにもう1点補足しておくと、iRig MIDIに付属されている前述のミニジャック-MIDIのケーブルは2本のみ。3端子すべてを同時に使うためにはなんらかの方法でもう1本ケーブルを入手する必要はあるようだ。


iRig MIDIMIDI IN/OUTに加え、MIDI THRUも装備USB端子も備える

 そしてMade in Japanのi-MX1。こちらは先ほどの3つ並べての写真からも分かるように、コンパクトであるのが最大の特徴。本体の中央にDockコネクタが装備されていてバランス的にもいい感じに思える。ほかの2つと比較してのウィークポイントとして挙げられるのは、ここにインジケータがないこと。

 MIDI Mobilizer IIもiRig MIDIも三角印の赤いLEDが装備されており、MIDI信号の入出力状況が一目で分かるのだ。もちろん、実際に動き出したらあまり使わない機能ではあるが、信号がしっかり届いているか、間違いなく信号が出ているのかを確認できると安心できるのは確か。要は大きさを取るか、インジケータによる安心を取るか、ということのようだ。

 では、それぞれを実際にiPadに接続して使うとどうなのか。Camera Connection Kitを使っている場合とどう違うか、各機種に使い勝手などの面で差があるのかについて注意しながらチェックしてみた。

i-MX1MIDI Mobilizer II/iRig MIDIは本体の赤いLEDでMIDI信号の入出力状況が分かる


■ GarageBandなどで外部MIDIキーボードが問題無く動作

 iPadのDockコネクタにi-MX1は接続しても特に反応はないのだが、MIDI Mobilizer IIとiRig MIDIでは「アプリケーションがインストールされていません」というメッセージが表示される。ドライバ的な意味合いを持つアプリが入っていないという意味だ。ここでApp StoreにアクセスするとMIDI Mobilizer IIでは「MIDI Memo Recorder」のインストール画面へと進む。これはもともと初代MIDI Mobilizer用のツールとして出ていたもので、MIDIの入力信号すべてをダンプリスト表示しながら記録していく。

 MIDI信号をテンポなどに関係なくリアルタイムレコーディングしていくもので、非常に単純ながらどんな信号が来ているかの確認ができるとともに、現在の状況を完全に再現できるという意味では便利に使えるものだ。そのMIDI Memo recorderがバージョンアップしてMIDI Mobilizer IIにも対応したのだ。

MIDI Mobilizer II/iRig MIDIをiPadに接続すると、アプリのインストールのためApp Store画面へMIDI Mobilizer用のアプリ「MIDI Memo Recorder」

 初代とIIを差し替えながら使ってみたが、機能的にはまったく同じように使うことができた。では、このアプリをi-MX1やiRig MIDIで使えるかを試してみたが、これはNOだった。ただ、結論からいうと今回いろいろ試したアプリの中でほかの機器が動作しなかったのは、このMIDI Memo Recorderのみ。このアプリは単にレコーダーとしての役割のほかに、ファームウェアのアップデートなどにも使われるものなので、プロテクトがかかっていたようだ。

 一方、同じようにアプリのインストールを求められたiRig MIDIだが、こちらは肝心のアプリ自体がまだリリースされていないようで、App Storeに行っても何も表示されず、インストールはできなかった。IK Multimediaからはソフトサンプラーとして著名なSampleTankのiPhone/iPad版がアナウンスされているので、これがその基本アプリになるのではないだろうか。なお、インストールしなくても確実に認識はされているようで、特に使っていく上での不都合はなかった。

「MIDI Memo Recorder」はi-MX1/iRig MIDIでは使えなかったIK Multimediaはソフトサンプラー「SampleTank」のiPhone/iPad版を用意


GarageBand

 続いて動かしてみたのがGarageBand。これがCoreMIDIで使えることは確認済みではあるが、3つのMIDIインターフェイスで使ってみたところ、外部のMIDIキーボードを弾いた信号を確実に受けることができた。GarageBandに限らずiPadのCoreMIDI対応アプリで外部MIDI機器をCamera Connection Kit経由で接続すると、うまく動作しないことがしばしばだ。しかしこれら3つの製品では、ほぼ間違いなく動くという面では非常に安心して使うことができた。その安定さという面では、3つの機器間での差はほとんど感じられず、どれでも間違いなく使えるという印象だ。

 そのほか、以前にもCoreMIDI対応を確認するために使ったソフトシンセであるiMS-20、bs-16i、miniSynth PRO、Nlog Pro、Pianist Proのそれぞれを使ってみた。結果的にはいずれも問題なく外部MIDIキーボードから演奏できた。またbs-16i、Nlog Pro、Pianist ProではiPad上の鍵盤を弾くと外部MIDI音源を鳴らすこともできた。ちなみに、DX-7を再現したiPhone用音源として気に入っていたDXiやAKAIのSynthStationもCoreMIDIに対応していたことに今回初めて気づいた。


iMS-20bs-16iminiSynth PRO
Nlog ProPianist Pro
DXiSynthStation

 次に使ってみたのがコントロールサーフェイス。先日紹介したヤマハのFaders&Padはi-MX1だけでなくMIDI Mobilizer IIやiRig MIDIでも問題なく動かすことができた。しかし本命は以前にも取り上げたMackie Control互換のAC-7 Pro。以前紹介したときは、Nintendo DSでMIDIを扱うためのDSMIDIというWi-Fiを利用するプロトコルを使っていたが、実はこのAC-7 Proはすでに販売終了となっており、App Storeにも存在しない。その代わりに、AC-7 Coreという後継のアプリが出ていたので、こちらを購入してみた。

 これも基本的にはWi-FiでMIDI信号を飛ばす形になっていて、こちらはMac標準のネットワークMIDIを活用する。Windowsの場合はrtpMIDIを使うのだが、これらについての詳細は今回は割愛。しかし、このAC-7 ProはWiFiを使わず、CoreMIDIでのワイヤード接続も可能になっているのだ。

 設定などはとくになく、単にこれらの3つのインターフェイスを取り付けるだけでOK。あとはCubaseなのかSONARなのかProToolsなのかといったDAWを選択するだけですぐに使うことができた。AC-7 Proとデザインは多少変わったが、やはり使いやすさという面では抜群だった。縦型の画面はなくなっている代わりにスキンの変更でデザインを変えられるのもユニークなポイントだ。

Faders&Padは、i-MX1だけでなくMIDI Mobilizer II/iRig MIDIでも動作したAC-7 Coreスキン変更でデザインを変えられる


■ 新たなMIDIユーティリティ「Midi Tool Box」も登場

アールテクニカの「Midi Tool Box」

 そんなテストをしている中、ちょうどいいタイミングで入ってきた新アプリ情報があった。それは日本のアールテクニカという会社がリリースした「Midi Tool Box」というもの。これはMIDIインターフェイスからの入力と出力をモニタリングできたり、先ほどのMIDI Memo RecorderのようにリアルタイムレコーディングできるというMIDIユーティリティアプリの強力版。とくにモニタリングにおいて細かくMIDIフィルターの設定ができるのも便利だ。価格は850円で、リリース記念として450円で販売されている(8月29日現在)。

 ResetterというGM System ONやGS System ONなどが行なえる機能があるのも使えるところだが、個人的にいいと思ったのがSysex Librarianという機能。そうMIDIシステムエクスクルーシブのデータを一括して受信でき、それを保存管理できるのだ。個人的には今後MIDIのチェック用の機材として便利に使えそうに感じた。


MIDIインターフェイスからの入出力モニタリングや、リアルタイムレコーディングが可能モニタリングで細かくMIDIフィルターの設定ができるSysex Librarian機能

 さて、ここまでiPadで3種類のMIDIインターフェイスが使えるということを見てきたが、実はこれら3製品ともiPadだけでなく、iPhone、iPod touchでも利用可能となっている。実はこれが大きなポイントでもあるのだ。iPhoneもiPadも同じiOS4.3が搭載されているという点では共通であるのに、iPhoneではCoreMIDIを活用することができなかった。というのも、Camera Connection KitがiPhoneで認識されないからであり、どうしようもなかったのだ。

 しかし、今回扱っている3つのMIDIインターフェイスともにiPhoneで使えるようになっているため、MIDIの可能性が大きく変化しそうだ。実際いずれもiPadと同じようにiPhoneで使うことができた。iPhone/iPadのユニバーサルアプリを中心に、CoreMIDI対応しているiPhone用アプリも少なくないので、試してみてはいかがだろうか?


(2011年 8月 29日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]