藤本健のDigital Audio Laboratory
第544回:独Marianの24bit/192kHz対応サウンドカードをチェック
第544回:独Marianの24bit/192kHz対応サウンドカードをチェック
業務機を手掛けるメーカーの「Seraph AD2」はDTMに使える?
(2013/3/25 13:27)
自動販売機やATM、遊園地の機器……、世の中に存在する数多くの業務用機器の中にはPCが組み込まれており、これらの機器からも音を発生させている。つまりサウンドカードやオーディオインターフェイスといったものが入っているわけだ。このような業務用機器で用いられるデバイスは一般的なものよりも堅牢性が重視されるが、この組み込み系という分野で実績のあるオーディオデバイスメーカーがある。そのひとつが、ドイツのMarianという会社だ。そのMarianのデバイスは、これまでも国内で数多く使われていたが、最近になって一般向けの販売がスタートされた。
業務用機器というだけに、あまり馴染みのないメーカーではあるが、DTM機器として見てもなかなか面白い機材であり、Marianのルーツを辿ると興味深い一面も見えてくる。そこで、今回はMarianのSeraph AD2という94,500円(発売元はフックアップ)の製品を使ってみた。
Marianとはどんなメーカーか
一昔前まで、オーディオインターフェイスといえば、PC内蔵のPCI接続のものがほとんどだったが、FireWire時代を経て、現在はUSB接続の機材がその大半を占めている。いま内蔵のデバイスというと、先週紹介したPCIe Sound Blaster ZxRなどクリエイティブメディアのSound Blasterシリーズのほかは、数千円のバルク品サウンドカードくらいで、あまり見かけないというのが実情。そんな中、新たに国内での発売が始まったMarianのSeraphシリーズは、12ラインナップあるすべてがPCI Express x1接続の内蔵型。アナログの入出力を装備するもの、ADATやAES/EBUなどのデジタル入出力を装備したもの、また、デジタルで長距離伝送ができるMADIを搭載したものなど、いろいろなバリエーションが存在する。
ただ、業務用だからか、Marianというのは筆者自身、まったく聞いたことがないメーカーだった。なぜ、そんな機材を突然日本で扱うようになったのか、代理店のフックアップに問い合わせてみたところ、「これまで、特に流通に流す形での販売はしてこなかったが、企業からの要望に応じてMarian製品を長年扱ってきた」との答えが返ってきた。「実は、その昔扱っていたドイツのオーディオインターフェイスメーカー、SEK'Dの供給元であり、SEK'D倒産後、Marianと直接取引をしてきた」というのだ。
SEK'Dとは、また懐かしい名前だと思ったが、筆者の自宅倉庫を漁ってみると、その昔大変お世話になったSEK'Dのオーディオインターフェイス、PRODIF32が出てきた。Windows95、Windows98の時代、S/PDIFでビットパーフェクトな入出力が可能な機材がほとんどなかったのだが、このPRODIF32がそれを実現できる数少ない機材だった。結構、いい値段だったような記憶があるが、業務上必要で、購入して使っていたのだ。当時、筆者は「コンピュータ・ミュージック・マガジン」という電波新聞社が発行する雑誌の付録CD兼CD-ROMの制作を請け負っていたのだが、ミュージシャンから納品されるDATを完全な形でPCで吸い上げるために、必須のアイテムだったのだ。当時から、非常に安定したドライバ&ハードで使いやすかった印象があるが、そのPRODIF32の開発元こそが、このMarianだったのだ。
フックアップに聞いたところ、SEK'D自身はメーカーではなく、実質的に商社的な企業であり、当時の小さな無名メーカーから商品を受け入れて、SEK'Dブランドで販売していたとのこと。そのときに扱っていたオーディオインターフェイスの供給元が、このMarianとRMEだったのである。そう考えると、資本はまったく異なるがMarianとRMEは兄弟のような会社ともいえそうだ。SEK'D倒産後、RMEはFirefaceシリーズなどが大ヒットして国内外で知名度の高い会社になっているが、Marianは業務用を中心に比較的地味に活動してきたようだ。
32IN/32OUT対応で自由度の高い設計
さて、今回使ってみたMarianのSeraph AD2はアナログ2系統(モノラル×2)の入出力およびAES/EBUを1系統、さらにワードクロックの入力を装備するという比較的シンプルな構成。最高で24bit/192kHzが扱えるオーディオインターフェイスだ。PCIeのカードには2つのD-Sub端子および、BNCクロック入力があり、ここに付属のブレイクアウトケーブルを接続して利用する。このブレイクアウトケーブルはアナログ用もデジタル用も、XLR端子のものとなっている。このままだと民生機との接続ができないため、XLR-RCA変換アダプタもバンドルされている。またオプションとしてワードクロック出力とMIDIの入出力を可能にするドーターカードがあり、これをセットにしたSeraph AD2 MWX(105,000円)というモデルも用意されている。
とりあえず、セッティングしてドライバーをインストール。この状態でFL STUDIOを起動させて鳴らしてみると、ASIOドライバ経由ですぐに音が出せる。ハードウェア的にはアナログ、デジタル合わせて4IN/4OUTという構成のはずなのだが、ASIOドライバを確認してみると、なんと32IN/32OUTという壮大な入出力チャンネルに見える。何だこれは? と思ってツールバーに常駐しているアイコンをクリックしてみると、ミキサーが起動する。PCの画面のスペース上、このサイズのコンソールとなったが、チャンネル数は44chまであるし、4つのフィルター=EQに加え、センドの設定もできるなど、かなり大規模なミキシングコンソールとなっている。
バーチャルミキサーとなっていて、例えばPC側から見える32chに割り振ったり、実際の入出力に割り振るなど、非常に自由度が高い。またRoutingを開くと、ルーティングの変更などもできるようになっている。画面のデザインは異なるが、RMEのFirefaceのミキサーともよく似た設計になっている気がする。
では、このアナログの音質はどの程度のものなのだろうか? ブレイクアウトケーブルの入出力をつなぎ合わせた上で、いつものようにRMAA PROでの音質テストを行なってみた。24bit/192kHzだけは、どうもうまく実験することができなかったが、44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれでの結果が以下のものだ。
これを見た感じでは、きわめて高音質とは言えなかったのだが、実際に音を聴いた感じでは、クセのないストレートな音で、扱いやすい印象だった。
続いてレイテンシーに関するテストも行なってみた。CENTRANCEのASIO Latency Test Utilityでも、192kHzでの計測はうまくできなかったが、44.1kHzでの入出力を合わせてのレイテンシーが3.22msec、48kHzでは2.96msec、そして96kHzでは1.48msecと、まずまずの結果。また44.1kHzでバッファサイズを128 sampleにした際のレイテンシーも8.71msecという結果が出ていた。
こうした結果を見ると、超ハイパフォーマンスというわけではないようだが、業務用機材としては安定してしっかり機能してくれそうな機材だ。
DAWソフトはSamplitude 11 Silverをバンドル
このSeraph AD2には、Samplitude 11 SilverというDAWもバンドルされている。このSamplitudeもSED'D時代からバンドルされていたソフトで、ポピュラーな製品とはいえないが、根強いファンの多いユニークなDAWだ。Samplitudeそして、その上位版のSequoiaは、プロのマスタリングスタジオなどでも使われている独特なDAWであり、ミックス時の音質などで定評があるほか、数少ないDDP出力ができるソフトとしても広く使われている。
Samplitudeはもともとマルチトラックのオーディオ編集ソフトとしてスタートしたのでMIDI機能が弱い印象があったが、このSamplitude 11 Silverを見る限り、MIDIシーケンス機能も含め一通りの機能がそろっているようだ。もっともSilverというのはバンドル版専用の機能限定版で、一通りの機能は装備しているがトラック数が8つまでに限られているようだった。
以上、MarianのSeraph AD2というPCIeオーディオインターフェイスを見てきたが、いかがだっただろうか? 価格帯的にも、DTMユーザーが買う製品ではないが、堅牢なシステムを構築したいという場合には、実績あるメーカーだけに信頼できるだろう。また、このミキサーからも分かる通り、非常に自由度の高い機材なので、用途もいろいろと考えられそうだ。