藤本健のDigital Audio Laboratory

第555回

iPhone向け2chマイク搭載USBオーディオの実力は?

フォステクス「AR101」でiPhoneをPCMレコーダに

AR101にiPhone 5を装着した例

 昨年のInter BEEでフォステクスが参考出品していたiPhone用のオーディオインターフェイス、AR101。オーディオインターフェイスというよりも、マイクと呼んだほうが分かりやすそうな機材ではあるが、今年4月25日に発売された。オープン価格だが、実売価格が18,000円前後で、他のiPhone用外部マイクと比較すると高めな設定となっている。これをマイクとして使ったらどんな音で録れるものなのか、以前からとても気になっていたので、メーカーから借りて試してみた。

iPhoneや一眼カメラのマイクとして使えるオーディオインターフェイス

 フォステクスのAR101について簡単に紹介すると、これはちょっと変わった形状、コンセプトのオーディオインターフェイス。基本的にはiPhone用のデバイスで、付属ケーブルでiPhone 4S以前の30ピンDockコネクタに接続して使うというもの。ただし、AppleのLightning-30pinアダプタを利用すれば、iPhone 5などのLightningコネクタのデバイスでも利用できるようだ。また、USBミニのケーブルを使えばPCとも接続することができ、PC用のデバイスとして使えるようにもなっている。これにより、iPhoneやPCを使った高音質録音や、インターネットライブ配信などでの利用を想定している。

 パッケージを開けると、ずいぶんいろいろな部品が入っている。が、これを組み立ててiPhoneと組み合わせると、写真のようなちょっとゴツイ感じの機材ができあがるのだ。ホルダー部はiPhoneをバネの力で挟むようになっているから、どの世代のiPhone、またiPod touchでも取り付けることができるし、ケース付のままでも留めることができるのは嬉しいところ。また、グリップは横に取り付けることもできるのでシチュエーションに応じて持ち方を変えることができるというわけだ。

セット内容
iPhone 5を装着したところ
グリップは横にも接続できる

 また、必ずしもこれらすべての部品を組み合わせて使わなくてもいい。実は本体部分と接続されているジョイントは、カメラのアクセサリーシューに取り付けることが可能になっているから、ビデオ撮影機能付のデジタル一眼レフに取り付けて使うといったこともできる。さらに、ホルダーを三脚に取り付けて使うといったことも可能になっているので、iPhoneでビデオ撮影するといったときにも便利に使えそうだ。PCと接続する場合はグリップを取り外し、デスクトップ用として使ってもいいだろう。

一眼カメラとの接続例
三脚を取り付けてビデオ撮影も
パソコンとの接続例

 でも、AR101は見た感じ、マイクのようだが、これがなぜオーディオインターフェイスなのか。実は、本体上部にステレオミニジャックが2つ用意されており、ここに単一指向性のマイクを取り付けていたのだ。そのためマイクの方向を自由に回転でき、必要に応じて音の広がりをコントロールすることができるようになっている。またこれを取り外して、他社製のマイクに取り換えが可能となっている。プラグインパワーにも対応しているので、いろいろなマイクが利用できそうだ。しかもINPUT1とINPUT2は単にLとRというわけでなく、モード設定によってそれぞれをステレオ入力にすることができる。したがって最大4chの入力が可能というわけだ。もっとも付属のマイクはモノラル仕様であるため、4ch入力を実現するためには他社のステレオマイクを利用するということになるのだが。

天面にマイク入力を2つ備える
マイクの向きを調整可能

 もちろん、これはステレオミニの入力なので、マイクに接続するだけでなく、ライン入力として利用することも可能。とくにスイッチが用意されているわけではないので、入力レベルを一番絞った状態にするとライン入力レベルとなるわけだ。

 一方で、出力も用意されている。これはヘッドフォン出力用のステレオミニジャックとラインアウト出力も可能なステレオアウトがそれぞれ独立してある。ステレオアウトのほうはラインレベルのほか、マイクレベルなど5段階で設定可能となっている。

ヘッドフォン出力用のステレオミニ
ステレオミニのライン出力も可能

iPhoneアプリからも操作可能

中央にロータリーエンコーダを備える

 では、その設定などの操作はどのようにして行なうのだろうか? これが、なかなかユニークな操作体系になっている。本体にはLEDのインジケータがあり、中央にはロータリーエンコーダーがあるので、これでレベル調整が可能になっているのだ。しかも、このロータリーエンコーダーはPUSHボタン式となっており、このボタンを活用しながら行なうのである。

 まずデフォルトの状態では、ヘッドフォンモニターの出力調整となっている。実際に出ている音量がLEDインジケータにも表示され、iPhoneと接続している場合はiPhoneのボリュームと連動する形になる。ここで、1度ボタンを押すと入力レベル調整に切り替わる、この状態でレベル調整すると、今度は出力レベルは固定で入力レベルが変化し、インジケータにも入力レベルが表示されるようになるのだ。したがって、この状態で外部からの音量をチェックしつつ、レベルオーバーしない範囲で、なるべく大きくなるように設定すると、いい音で録れるというわけだ。現在どちらのレベル調整をしているのかが分かるように、LEDインジケータの一番端の点灯/点滅状態で示されるようになっている。

 さらに、ボタンを15秒の長押しをすると、さらに細かく調整ができる。具体的にはINPUT1のレベル調整、INPUT2のレベル調整、INPUT1のパンニング、INPUT2のパンニングだ。ただ、さすがにここまでの設定になるとマニュアルを見ながらでないと、現在何を設定しているのかが分からなくなってしまうのが難点ではある。

 もちろん、すべてを本体で操作しなくてはならないというわけではない。無料ダウンロード可能なiPhoneアプリ(名称は本体と同じ「AR101」)が用意されており、これを使って本体だけではできない設定を含め、いろいろとできるようになっている。具体的には、まずINPUT1、INPUT2それぞれをモノラルにするか、ステレオにするか、という点。デフォルトはモノラルであり、この場合は標準のマイクがLとRとして機能して、ステレオで録ることができる。これをステレオに切り替えると、ダブルのステレオになるというわけだ。また、リミッターそして、ローカットの設定も用意されている。リミッターに関しては反応速度の設定ができるようになっており、ローカットについてはデフォルトの80Hzのほかに200Hz、300Hz、600Hzの設定ができる。

AR101アプリのメニュー画面
インプット設定
リミッターの設定
ローカットの設定

 ここで気になるのは、このリミッターやローカットの処理をどこが行なっているのか、という点。この処理をiPhoneが行なっているとしたら、利用できるアプリが制約されそうだし、CPUパワーも食うのでは…とちょっと心配したが、どうやらこれはAR101側で行なっているようだ。そして、一度設定すると、電源を切っても本体が覚えていてくれる。

 では、PCと接続して使用する場合、どうなっているのだろうか? PCとの接続もiPhoneと接続をしていたのと同じHOST(POWER)と書かれたUSBの端子を使って接続する。ケーブルは付属していないが普通のUSBミニのケーブルを使いでつなぐことができた。とくにドライバーは用意されていないようで、USBで接続すれば、すぐに使うことができた。Windowsで試してみたところ再生デバイス、録音デバイスとしてAR101の表示を確認でき、これを設定すればそのままオーディオインターフェイスとして利用できる。ただし、PC用のユーティリティソフトは出ていないため、前述のリミッターやローカットの設定はPCで行なうことはできない。そこでiPhoneのアプリで設定した状態でiPhoneから切り離し、PCに再接続したところ、その設定のままPCで使えるようになっていたので、やはりiPhoneやiPadなどiOS端末を持っていることが前提のデバイスであると考えるのがよさそうだ。

背面。PC接続時もHOST(POWER)と書かれたUSB端子を利用する
PCのサウンド設定でAR101を再生/録音デバイスとして選択
MulitiTrack DAWを使って、4ch入力できるかどうかをチェックした

 そして、もう一つ気になったのは、INPUT1とINPUT2をステレオにして4ch入力とした場合、独立4ch入力のオーディオインターフェイスになるのか、という点。iOSの場合、USB Class Audio 2.0に対応していて、マルチ入力ポートを持ったデバイスであれば、4chや8chといった入力が可能になるのだが、AR101の場合どうなのだろうか? このマルチ入力ポートに対応したアプリとしてはMulitiTrack DAWがあるので、これで確認してみたところ、ステレオ2chしか見えない。ということは、やはり4ch独立入力というわけではなく、2つのステレオ入力があり、それがミックスされて入力されているということのようだ。そもそも、WindowsはUSB Class Audio 2.0に標準では対応していないから、AR101をドライバなしで認識できたという時点で、4ch入力ではない、ということだったわけだが……。

野外と室内で録音品質をチェック

iPhone 5を装着して、野外で録音した

 さて、ではこれをiPhone 5と組み合わせて、リニアPCMレコーダとして使うと、どんなものだろうか? さっそくセッティングして、野外に持ち出してみた。フル装備でのAR101+iPhone 5という構成は一般的なリニアPCMレコーダとしてもかなりデカイ感じで、その形状も物々しい。付属のインナーイヤーヘッドフォンではなく、オーバーヘッド型のヘッドフォンをしていたこともあるとは思うが、さすがに怪しい感じ。これで鳥の鳴き声を録音していたら、周りの目が気になった。

 ちなみに、今回使ったのは、筆者が常用しているヤマハのCloud Audio Recorderという170円のシンプルなレコーディングアプリ。16bit/44.1kHzのものだが、これで録音した結果が以下のものだ。マイクユニットに風防はついているが、やはり外だと風に吹かれてしまうため、あまりレベルを大きくすることはできず、だいぶ絞り気味。それをあとでPCに取り込んだ上でノーマライズをかけてレベルを上げている。聴いてみると分かる通り、スズメが近くで鳴いているほか、遠くでウグイスが鳴いているのが聴こえるだろう。ただ、かなりホワイトノイズが入っており、S/Nという面では、最近のリニアPCMレコーダに比べると遠く及ばない感じ。決して風の強い日ではなかったのだが、野外での高音質録音というのにはあまり適していないかもしれない。ちなみにリミッターはオフ、ローカットもオフの状態で録音しているが、ローカットをオンにして、もう少し入力レベルを上げれば、S/Nは向上したと思われる。iPhone本体だけではできないステレオ録音がしたい場合には便利そうだ。

音声サンプル(16bit/44.1kHz)
野鳥の声 ar101_bird1644.wav(2.50MB)
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
WaveSpectraでの周波数分析結果

 では、室内での音楽の録音はどうだろうか? いつものように、TINGARAのJUPITERをモニタースピーカーで鳴らしたものを三脚に設置したAR101 + iPhone 5の構成で録音してみたのがこちらだ。こちらもリミッターオフ、ローカットオフで、入力レベルはもう少し上げた形で行なっている。低域から高域までキレイに捉えていて、バランス的には悪くはないと思うが、やはりどうしても混入してしまうノイズがちょっと気になるところ。やはり最近のリニアPCMレコーダの性能と比較してしまうことに無理があるのだとは思うが……。ちなみに、これをWaveSpectraで周波数分析にかけたものが、右のグラフだ。これを見る限りは、悪くはなさそうだ。

音声サンプル(16bit/44.1kHz)
CDからの録音 ar101_music1644.wav(6.96MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので
ご了承下さい
RMAA PROでのテスト結果(16bit/44.1kHz)

 最後にオーディオインターフェイスとしての性能をチェックするために、RMAA PROを使ってのテストも行ってみた。もっとも、ASIOドライバを使えるデバイスではないので、MMEでのテストの結果だ。16bit/44.1kHzという設定で行ったテストなので、24bit/96kHzや24bit/192kHzといった最近のオーディオインターフェイスとは、そもそもベースが異なるハードウェアだから、あまり比較する対象ではないと思うが、結果はご覧のとおり。この結果を見ても、やはりPC用として使うよりは、iPhoneとの組み合わせで利用するデバイスと考えたほうがいいだろう。

 以上、フォステクスのAR101についてみてきたが、いかがだっただろうか? iPadではなく、iPhoneで利用できるオーディオインターフェイスは非常に少ない状況なので、iPhoneに外部入力を取り入れたいという場合や、ステレオで録音したい場合には、一つの選択肢になると思う。

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AR101

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto