藤本健のDigital Audio Laboratory
第554回:AndroidとUSBオーディオを接続する注目アプリ
第554回:AndroidとUSBオーディオを接続する注目アプリ
Nexus 10で「USB Audio Recorder PRO」を試す
(2013/6/10 14:18)
オーディオ、DTM系においてはiOSの3年遅れ……といった感じのAndroidだが、少しずつではあるものの進化はしてきているようだ。その進化の過程において、一つネックになっていたのがオーディオインターフェイスやUSB DACとの接続性。Android 4.1、いわゆるJelly BeanにおいてUSBオーディオがサポートされるという話であり、確かにOS的には対応しているようだが、大半のAndroid端末では制限がかけられており、USBオーディオデバイスを認識することができないのだ。
そうした中、OSに頼らずアプリだけでUSBオーディオを認識し、利用できてしまうというアプリがある。それが、USB Audio Recorder PROというもの。名前の通り、USBオーディオに対応したレコーダアプリだ。これを手元のAndroid 4.2タブレット「Nexus 10」や、USBオーディオインターフェイス「DUO-CAPTURE EX」などを使って、どんなものなのか試してみた。
「USB Audio Recorder PRO」とは
これまでも何度も紹介してきたとおり、iPadではiPad Camera Connection KitまたはLightning-USBカメラアダプタを利用することで、USBクラスコンプライアント対応のデバイスと接続し、利用することができる。これに相当する機能がAndroid 4.1に搭載されたようだが、なぜか各社ともこの機能を使えないようにしてあり、大半の機器において利用できないのだ。筆者はまだ試したことがないが、root化というワザを使ったり、カーネルの差し替えといったことをすることで、USBオーディオが使えるようになる、という話はネット上にもいろいろ上がっている。チャレンジしてみたいと思いつつも、結構難しそうなので、チャレンジしていないというのが実情だ。
そうした中、root化しなくてもUSBオーディオが利用できるアプリがあるらしい……という情報をネットで見かけていて、先週、編集部から「試してみては? 」との連絡があった。結構大変なのでは……と思いつつ試してみたところ、あまりにもあっさりと動いてしまったので、どんなものなのか紹介していこう。
そのアプリが、オランダのeXtream Software Developmentが開発したUSB Audio Recorder PRO、というもの。このeXtream Software DevelopmentはAndroidでUSB-MIDIデバイスを認識し、利用できるようにするUSB MIDI MonitorやマルチトラックレコーダのAudio Evolution Mobileなどを開発している数少ないメーカーであり、筆者も以前インストールしてテスト的に使ってみたことがあった。そこが、チャレンジングなアプリ、USB Audio Recorder PROを今年初めにリリースしていたのだ。
レコーディング用のアプリだが、このアプリを利用するにはUSBオーディオデバイスが必須。基本的にUSBクラスコンプライアントに対応したデバイスであれば利用できるようで、USB Class Audio 1.0もUSB Class Audio 2.0もサポートしている。また、これらのUSBオーディオデバイスを接続するためにはAndroidデバイスをホストとするためのOTGケーブルが必要となる。同じ形状で、実は配線が正しくなくて動かない製品もあるとの話だが、筆者は以前ネット通販で購入したiBUFFALOのUSB(microB to A)変換アダプタ、BSMPC11C01BKというものを使っており、これでバッチリと動作する。
動作する機材、うまく動かない機材があるようだが、開発元のWebサイト上に動作した機器の一覧が掲載されているのでチェックしてみるといいだろう。ここにはAndroidデバイス、そしてUSBオーディオ機器のそれぞれが掲載されているが、当然すべての機器が網羅されているわけではないので、掲載されていないが動くケースも結構ありそう。
アプリ自体の価格は円安のため最近ちょっぴり値上げされたようで、6月10日現在は526円。うまく動作するか不安な方は、デモ版が公開されているので、先にこれをインストールしてテストしてみてもいいかもしれない。ちなみにこのデモ版は、レコーディング時に2分で切れてしまうということと、起動後15分で終了してしまうという制限があるだけで、機能的にはすべて利用できるようになっている。
USB DAC「DVK-UDA01」と接続して高音質で再生
まず最初に試してみたのは、USB DACと接続しての再生。昨年インプレスジャパンが発売した「ハンダ付けなしで誰でもできる! USB DACキットではじめる高音質PCオーディオ」のDVK-UDA01をNexus 10と接続してみた。
このアプリで各USBオーディオ機器をうまく認識させるためにはちょっと手順を踏む必要がある。接続するだけであっさり動作する場合もあるが、うまく認識されないときは、いったんUSB接続を外すとともに、アプリを完全に終了させる。その後、USBでデバイスと接続した上で、改めてUSB Audio Recorder PROを起動すると、「アプリ『USB Audio Recorder PRO』にUSBデバイスへのアクセスを許可しますか? 」というメッセージが表示される。ここでOKをすれば、無事認識されるはずだ。その後、WAVファイルを読み込んで再生ボタンを押すと、確かにUSB DACから音が聴こえてくる。これは、なかなか画期的、これまでのNexus 10とは明らかに違う音で再生することができる。また、DVK-UDA01はUSBバスパワーで動作するデバイスだが、Nexus 10からのパワーで問題なく動作してくれた。
ここでI/Oタブをタップして見てみると、InputとOutputの項目があり、当然ながらInputは無効で、Outputは「44100Hz」、「16bit」となっている。このDVK-UDA01は48kHzにも対応したデバイスだったはずだが、44100Hzのところをタップしてみたところ「32000Hz」、「44100Hz」、「48000Hz」の3つの選択肢が出てくる。試しに48000Hzを選んで、44.1kHzの音を再生してみたところ、サンプリングレートコンバータは挟まないで再生するようで、テープの早回しのようにピッチが高く、作成スピードが速い形で音が出るようだった。また、ここで再生できるのはWAVファイルのほか、FLAC、OggVorbisの3形式であり、MP3やAACなどはサポートされていない。
ローランドのUSBオーディオ「DUO-CAPTURE EX」でも動作
続いて、以前紹介したローランドのオーディオインターフェイス、DUO-CAPTURE EXを接続してみた。このDUO-CAPTURE EXはリアのスイッチに44.1、48、TABというスイッチがあるのが大きな特徴。PCと接続する場合には44.1または48を選択することで、USBバスパワーのオーディオインターフェイスとして機能する。一方、iPadとCamera Connection Kitなどを経由して接続する場合にはTABを選択。この場合は、本体に内蔵させる単3バッテリー×3で動作するのでUSBからの電源供給が不要になるとういのがポイントであり、コンデンサマイク用のファンタム電源も問題なく利用できてしまうのだ。
おそらく、TABを選んで接続すればうまくいくだろうと試したところ、どうもエラーが表示されてしまう。何度か試してみたがうまくいかないので、スイッチを44.1に変更して試してみたところ、あっさり動いた。
改めて再生してみると、問題なく音が出るのでI/Oのほうを見てみると、サンプリングレートは当然44100Hzとなっていて、量子化ビット数は24bitとなっていることも確認できる。またInputのほうも有効になっているようで、ここをタップしてみるとステレオでの入力とモノラルでの入力が選択できるようになっている。
そこで、本来の機能であるレコーディングのほうをテスト。といっても録音ボタンをタップして録音するというだけの単純なものなのだが、しっかりとキレイな音で録音することができた。画面右下にあるMonをタップするとモニターオンとなり、画面下側にレベルメーターが表示されるようになる。ただ、モニターオンとはいっても、オーディオインターフェイス側にモニターバックできるというわけではないようだ。もっともエフェクトがあるわけでもないので、モニターが必要であればオーディオインターフェイス側でダイレクトモニタリングすればいいわけだ。
また、オーディオインターフェイスのバッファサイズも変更できるようだが、これにおいても音をモニターするわけではないので、デフォルトの設定で問題ないし、より安定した動作をさせたいのであれば、大きいバッファサイズにしておけばよさそうだ。
PreSonus「AudioBox 44VSL」で4ch同時録音も
続いて試してみたのが、やはり以前にも紹介しているPreSonusのAudioBox 44VSL。これは4IN/4OUTのUSB Class Audio 2.0対応のデバイス。最高で24bit/96kHzにまで対応している機材なのだが、これはどうだろうか? コイツはきっと、かなりいい動きをしてくれるはずだと期待はしていた。というのも、Google PlayにおけるUSB Audio Recorder PROのイメージ写真としてAudioBox 44VSLと思われる機材が写っていたからだ。
このAudioBox 44VSLはACアダプタを接続して動作させる機材で、USBバスからの電源供給は不要。予めACアダプタに接続した状態でNexus 10に接続し、USB Audio Recorder PROを起動してみると、バッチリと認識する。しかもメイン画面の左側には小さい文字で「IN 44100 24-bit AudioBox 44VSL Audio In MULTITRACK 4 channels」、「OUT 44100 24-bit AudioBox 44VSL Audio Out MULTITRACK 4 channels」といった表示もあるようだ。ここでI/Oタブを見てみると、ここにもAudioBox 44VSLの表示が出ている。また、サンプリングレートとしては96kHzまで選択できるようになっている。
さらにInputにおいてはステレオ、モノラル、さらにはマルチトラックの選択までできるようになっているので、ここではMultitrackを選択してみた。この状態でレコーディングをしてみると、画面には4ch分のレベルメーターが表示されて4ch同時のレコーディングができた。その結果がどうなるのか思って確認してみたところ、4ch同時レコーディングの場合はステレオのWAVファイルが2つできていたのだ。ただし、再生は2chまでしかできないようで、1/2chとしてレコーディングされたものが再生される。3/4chのほうを再生したければ、改めて手動で読み込みなおせば再生することができた。
そのほか、AudioBox 44VSLの入力側、出力側それぞれのレベル調整を行なえるミキサー機能も用意されているので、なかなか便利に使うことができそうだ。
このように24bit/96kHzが4ch同時にレコーディングできる環境をNexus 10で実現できたわけで、これはなかなか画期的といえる。試しに手元にあったGalaxy Nexusでも試したところ、こちらでも同様に動かすことができた。また編集部から借りたNexus 7でも同じように動かすことができたので、汎用性は高そうだ。
ただし、やはり大きなネックであると感じるのは、そのシステム構成。USBオーディオデバイスを掴んでいるのがAndroid OSではなく、アプリ自身であり、これが直接ハードと接続しているという点だ。だからこそ、root化することなく、USBオーディオを利用することができたわけだが、USBオーディオが利用できるのはアプリ内だけの話なのだ。せっかく、DTM系のアプリがいろいろと登場し始めているのに、それらで利用できないというのが残念なところ。
Androidを採用した端末メーカーが、USBオーディオを全面的に開放してくれるのがベストではあるが、すぐにそうした動きになるとはあまり期待できない。ただ、eXtream Software Developmentでは、他のアプリでも利用可能なソフトを開発中のようなので、ぜひそこに期待したい。