藤本健のDigital Audio Laboratory

第573回:iPhoneの最新iOS 7がUSB Audio Class 2.0対応。使えるUSBオーディオがさらに拡大

第573回:iPhoneの最新iOS 7がUSB Audio Class 2.0対応。使えるUSBオーディオがさらに拡大

iOS 7では、iPhoneでもLightning-USBカメラアダプタ経由でUSBオーディオが利用できるようになった

 9月末の記事で「iOS 7とiPhone 5sのDTM対応状況まとめ」という記事を書いた。ここではiOS 7に変わって、Inter-App Audioが搭載されたことや、オーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスは従来通り使えることなどについて紹介した。また大きなポイントとしてiPhoneでもLightning-USBカメラアダプタを介してUSBオーディオが利用できるようになったことにも触れたが、その後さらに状況が変わっていたことに気づいたので、改めて紹介してみたい。

UR28Mのアップデートをきっかけに、CCモードでのiPhone接続にトライ

 前回の記事を書いたのは9月30日。リリース当初のiOS 7にいろいろとあった初期の不具合をFIXした7.0.2というOSが登場してすぐのことだった。そのときにも紹介したとおり、iOS 7になった際、iOS 6以前と大きく変わったことの一つが、iPhoneでLightning-USBカメラアダプタが利用できるようになったこと。といっても、このことをAppleが正式に表明しているわけではない。現在もAppleサイトを確認するとLightning-USBカメラアダプタの対応モデルとされているのは下の4機種。

  • 第4世代iPad
  • iPad mini
  • iPad mini Retinaディスプレイモデル
  • iPad Air

 つまりLightning端子を備えたiPadということであってiPhone 5やiPhone 5s、iPhone 5c、第5世代iPod touchについては触れられていない。

 ところが、iPhone 5をiOS 7にアップデートした結果、Lightning-USBカメラアダプタを認識し、その先にオーディオインターフェイスやUSB DACを接続すると利用できるようになった。それはiPhone 5sでも同様であり、筆者自身は試してはいないが、iPhone 5cや第5世代iPod touchでも使えるのではないかと思う。

 これによってiPhoneによる、よりハイクオリティーなオーディオ再生ができるようになったり、オーディオインターフェイス経由でのレコーディング可能になるわけだ。ただ、その時の記事にも書いた通り、うまくいかないケースもあった。具体的にいうと、iPadなら動作するPreSonusのAudioBox 44VSLがiPhoneでは動作しなかったり、RMEのFireface UCX(のクラスコンプライアントモード)で使うことができなかったのだ。このAudioBox 44VSLとFireface UCXに共通するのは、ともにUSB Audio Class 2.0である点。もしかしたら、ほかに要因があったかもしれないが、ハッキリしないまま一旦実験は終了となった。

ヤマハのUR28M

 それからしばらく、その問題点について追及することもなかったのだが、先週、ふとまた試してみたのだ。そのきっかけはSteinberg/ヤマハのオーディオインターフェイス、UR28Mのファームウェアアップデートにある。

 ヤマハは10月11日、UR28MとUR824の2つのオーディオインターフェイスのVersion 2.0というファームウェアをリリースしている。これによって、以下の3つの新機能が追加されるというのだ。

  1. iPadで使用できる「CCモード」
  2. DSPエフェクト「Guitar Amp Classics」
  3. インターネット配信などに便利な「ループバック機能」

 先日、とある仕事でこのDSPエフェクトをチェックする必要があり、手元にあるUR28Mのファームウェアをアップデートし、いろいろと試していた。UR28Mについては以前の記事「第478回:操作系がユニークな“ヤマハ×Steinberg”USBオーディオ」でも紹介したとおり、内部にDSPが搭載されており、チャンネルストリップやリバーブをゼロレイテンシーで利用することができた。しかし、今回のファームウェアアップデートによりギターアンプシミュレータが4種類搭載されたのだ。具体的にはCLEAN、Crunch、Lead、Driveの4種類だ。

チャンネルストリップ
リバーブ
CLEAN
Crunch
Lead
Drive

 これを利用するためにはdspMixFxというミキサーから呼び出すか、CubaseのMixConsoleから呼び出す形になるが、ダイレクトモニタリングで利用可能になるというものなので、基本的にゼロレイテンシーでモニターできるのがポイント。またかけ録りもできるし、モニターだけエフェクトをかけて、レコーディングには素の音を入れるといったこともできる。

dspMixFx
CubaseのMixConsole

 そのエフェクトのチェックをしていたときは、手一杯だったが、気になっていたのがCCモード(クラスコンプライアントモード)だ。従来は独自ドライバーを使っての使用しかできなかったが、CCモードに対応したということは、PCでドライバなしで利用できるほか、iPadでの利用が可能になる。実際、Steinbergのサイトでも、CCモードにすることでiPadで使えると書かれているが、これがiPhoneで利用できないかを先週、ちょっと確認してみたのだ。

iOSアップデートによってUSB Audio Class 2.0に対応

 方法は、前回行なったのと同様、Lightning-USBカメラアダプタを使ってiPhone 5sとUR28Mを接続するのだ。こうした接続において、iPadやiPhoneから電源供給を行なうのが困難だが、UR28Mの場合、ACアダプタでの駆動となるためその心配はいらない。とりあえず、そのまま接続したらうまくいかなかったが、それは当たり前。デフォルトの状態はCCモードになっていないので、CCモードに設定する必要がある。マニュアルを見ると、Cボタンを押しながら電源を入れるとCCモードとして起動するとのこと。通常モードに戻す場合は、再度Cボタンを押しながら電源を入れればいいのだそうだ。

Lightning-USBカメラアダプタを使ってiPhone 5sとUR28Mを接続
Cボタンを押しながら電源を入れるとCCモードとして起動

 というわけで、この方法でCCモードにして、接続しなおしてみた。その結果、あっさりと認識され、MUSIC機能で再生してみると、UR28Mから音を出すことができた。ということは、UR28MはUSB Class Audio 1.0対応ということなのだろうか? そうだとすると2IN/2OUTのデバイスとして認識されていることになるが、本来UR28Mは6IN/8OUTという仕様。音楽を再生しただけではわからないので、マルチポート入力に対応しているMultiTrack DAWを使ってみた。そこで確認してみると、なんと4つの入力が選択できるではないか。チェックしてみたところ、S/PDIF入力を除く4chのアナログ入力が見えていた。

UR28Mは6IN/8OUT
MultiTrack DAWで確認すると、4つの入力が選択できるようになっていた
djayの設定画面では、ステレオ3系統、6ch分の選択肢が表示された

 一方、マルチポート出力に対応しているのがdjay。これの設定画面を見てみると、ステレオ3系統、6ch分の選択肢が現れた。やはりS/PDIF以外のアナログ端子すべてが見えているわけだ。

 つまり、UR28MはiPhoneからは4IN/6OUTのオーディオインターフェイスとして見えていることになる。そして、実際に切り替えて使ってみると、確かにそのように機能しており、マルチポート同時の入力または出力ができていることが確認できた。

現在のiOSは7.0.4

 ということは、UR28Mは、明らかにUSB Audio Class 2.0で動作しているということになる。以前はうまくいかなかったのに、UR28Mならうまく動作するということなのか?

 ここで思い当たったのが、実は以前はiOS 7.0.2だったが、最近2回のアップデートを行ない、現在のOSは7.0.4になっているということ。もしかしたら、これまでのアップデートのうちに、USB Audio Class 2.0になったのかもしれない。

PreSonusのAudioBox 44VSLで問題無く動作

 そこで、PreSonusのAudioBox 44VSLを改めて繋いでみることにした。以前は動作しなかったが、今回はどうなのか?  結果はあっさり動いてしまった。こちらは4IN/4OUTのオーディオインターフェイスとしてしっかり認識している。もう一つの動作しなかったRMEのFireface UCXはベンダーに返却してしまったので、手元になかったが、おそらくこれも動くものと思われる。オーディオファンの中には、RMEのオーディオインターフェイスを高く評価している方も多いと思うが、そのRMEのFireface UCXがiPhoneでも使えるようになるというのは大きなメリットといえるのではないだろうか?

PreSonusのAudioBox 44VSLを接続
4IN/4OUTのオーディオインターフェイスとして認識された

 さらに、もうひとつ手元にあったUSB Audio Class 2.0のUSB DAC、ラトックシステム「RAL-DADHA1」も試してみることにした。これはDSD対応のDACなのだが、さて、動作するのか? 実は接続したとたん「デバイスを使用できません」というエラーが表示されてしまった。エラー内容を読むと「接続されたデバイスは消費電力が大きすぎます。」とある。RAL-DSDH1もUSBバス電源供給ではなくACアダプタで駆動するDACなので、iPhoneから電源供給するわけではないはずなのだが……。何度か接続し直してみるなどトライしたが、やはりダメだった。もしかしたらUSB回りの回路でUSBバスからの電源を使うものがあるのかもしれない。試しに先日購入したiPad Airでも試してみたが、やはりダメ。これはOS側の問題というよりもハードとの相性ということなのだろう。

【12月3日追記】ラトックシステムによれば、製品版では上記のようなエラーが発生しないとしています(編集部)

ラトックシステムのRAL-DADHA1と接続
「デバイスを使用できません」というエラー表示された

 以上のとおり、現在のiOS 7.0.4ではUSB Audio Class 2.0のオーディオインターフェイスを接続し、利用できることが確認できた。ホストマシンのほうがオーディオインターフェイスよりも圧倒的に小さいというのがちょっと妙ではあるが、これによってiPhoneの利用手段はまた大きく広がったといえるだろう。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto