藤本健のDigital Audio Laboratory
第1028回

バーチャルサラウンド機能搭載のゲーミングミキサー「BRIDGE CAST ONE」を試す
2025年4月28日 12:02
一般的にオーディオインターフェイスというと、DTM用途、音楽制作用途の機材を指すことが多いと思うが、ここ4、5年で状況が変わってきている。
YouTuberやVTuber、またゲーム配信など、配信ユーザー向けのオーディオインターフェイスが国内外の各社から出てきているのだ。また、音楽制作用のオーディオインターフェイスであったとしても、ループバック機能を搭載するなど、配信用途でも使えるようにするのが当たり前になってきている。
そんな中、音楽制作用オーディオインターフェイスメーカーの元祖ともいえるローランドが、配信用に大きく舵を切ってきており、ユニークな製品をいろいろと生み出している。中でも昨年リリースされた「BRIDGE CAST ONE」(市場想定価格27,500円前後)はコンパクトながら非常に豊富な機能を備えており、まさに配信に特化した非常に強力な製品となっている。
しかも、実は配信用途だけでなく、オーディオ/ビジュアルのファンにも関心の高い機能が搭載されている。それは、手持ちのヘッドフォンを5.1chや7.1chのサラウンドサウンドが再生できるバーチャルサラウンド対応ヘッドフォンにするための機能だ。そのバーチャルサラウンド機能も含め、BRIDGE CAST ONEとは実際どんなものなのか紹介してみよう。
ゲーム配信特化のBRIDGE CASTシリーズ
2年前に、ゲーム配信特化のミキサーとしてローランドの「BRIDGE CAST」という製品を紹介したことがあったが、ローランドは昨年2月に「BRIDGE CAST X」というビデオ入力対応の上位機種をリリース。さらに同年9月に発売したのが、下位モデルとなる「BRIGE CAST ONE」だった。
このBRIDGE CAST ONEは“Dual Bus Streaming Mixer”というサブタイトルがついているとおり、オーディオインターフェイスというよりもミキサー的な位置づけの製品。つまり、配信者側のモニター用と配信視聴者用、それぞれのミックスを分けて調整が可能なデュアル・オーディオ・バスに対応している、ということを前面に打ち出しているのだ。
下位モデルとはあるものの、非常に豊富な機能を備えており、大半のユーザーはBRIDGE CAST ONEで十分では?という内容になっている。
ただし、いわゆるミキサーともだいぶ雰囲気は違っている。配信用ミキサーとしては、ヤマハの「AGシリーズ」は非常に高い人気を誇っているが、ある意味AGシリーズの最上位機種である「AG08」と近い機能を有している機材ともいえる。
では、外観的なところから具体的に見ていこう。
BRIGE CAST ONEは卓上設置型の小さな機材で、トップパネルに大きなノブが搭載されているのが特徴的なデザインだ。
一般的にミキサーというと、入力チャンネル数分のフェーダーが並んでいるけれど、BRIGE CAST ONEは大きなノブが1つのみで、その斜め右にはヘッドフォン出力音量を決めるPHONESという小さなノブがあるくらい。これでどうやってミックスするのだと不思議に感じてしまうけれど、うまくできているのだ。
が、その操作方法の前に気になるのが、そのそも何chの入力があるのか?という点。リアパネルを見るとあまり端子がないように思える。
左からXLRのマイク入力、3.5mmのヘッドセット入出力、AUX入力、LINE OUTだけ。そのヘッドセットのマイク入力はXLRのマイク入力との兼用となっているため、実際のところマイクと、AUX入力だけだから、モノラル1chとステレオ1ch(モノラルで数えれば2ch)のみ。
こんなんでミキサーといえるのか……と思ってしまうが、実はそのほかにもそれぞれステレオでCHAT、GAME、MUSIC、SYSTEM、SFXとあるので、トータルで数えれば、モノラル1ch、ステレオ6chの計7ch入力を備えたミキサーといえる。
どういうことかというと、マイク入力とAUX入力以外はすべてバーチャル入力なのだ。バーチャル入力といってしまうと、かえって分かりにくいかもしれないが、要はPC側からの音の入力という意味である。
CHATとは、ZoomやGoogle Meetなどの相手からの声、GAMEはゲームアプリの音、MUSICは音楽の再生音、SYSTEMはPCからのエラーメッセージをはじめとしたシステム音を意味している。SFXだけはちょっと位置づけが異なり、BRIDGE CAST ONEで設定した2つのポン出し音。つまりピンポーンという音だったり、拍手喝さいの歓声だったりといった効果音を割り当てたものだ。
ただし、必ずしもCHATがZoomで、MUSICが音楽再生音と決められているわけでもない。OS側、アプリ側から見ると、オーディオの出力先として、CHAT、GAME、MUSIC、SYSTEMが選べるようになっているので、ユーザーが自由に設定すればOK。だから3種類の音楽プレイヤーソフトを起動し、それぞれCHAT、GAME、MUSICに割り振って使う……なんてこともできるわけだ。
ソフトウェアミキサー「BRIDGE CAST」でコントロールする
そのミキサーの中枢を担なうのは、BRIDGE CAST ONE本体ではなく、BRIDGE CASTというソフトウェアミキサーだ。
これを用いて調整するので、実は本体側の操作はしなくてもOKなのだ。それでは、さっきのノブは何なのだ?と思ってしまうところだが、ここがうまくできている。実はこのソフトウェアミキサーのリモコンとなるのが、ハードウェアというわけ。7chあるうちの3chの調整をハード側に割り当てられるようになっているのだ。
デフォルトではMIC、CHAT、GAMEとなっているがプルダウンメニューから選ぶことで、7chのいずれかを設定することが可能になっている。
そして、この3つにはデフォルトでは赤、緑、青が割り当てられており、てハードウェア側のノブをプッシュするたびに色が変わり、そこでノブを回せば、それに相当する色の入力ゲインを調整できるというわけだ。
なお、大きいノブの下にはMIC、CHAT、GAMEという3つの文字が書かれているが、これがミュートボタン。つまりMICをミュートすればマイクからの音はミュートされるし、CHATをクリックすればZoomなどの通話相手からの音を調整することができる。
しかし、この3つのボタンはミュート専用というわけではなく、やはりBRIDGE CASTソフトエア上でプルダウンメニューを開くことで、さまざまな機能を割り当てることができる。たとえば、SFXを選んでポン出しボタンとして活用するなど、ユーザーのニーズに応じた設定が可能になっている。
本体ボタン一つでボイスチェンジャーを通した声に
と、まあ、ここまでであれば、単に音量を調整するソフトウェアミキサー+リモコンといったところだが、BRIDGE CAST ONEが面白いのはここから。まずはVOICE TRANSFORMERというボタンがあるので、これをオンにしてみると、マイクからの入力音がボイスチェンジャーを通した声に変わる。
デフォルトでは5種類のプリセットが用意されており、リバーブがかかった声にしたり、ピッチチェンジャーで声を高くしたり、低くするなど、声を七変化に変化させることが可能。これは、まさにローランドのお家芸ともいえる機能となっている。
またMIC CLEANUPを利用することでノイズを減らしたり、コンプレッサをかけたり、ディエッサをかけたり、EQで調整するなど、自由度高くマイクからの声を調整することができる。
さらにMIC SETUP機能におけるMIC REHEARSAL機能を使うことで、マイクからの音をクリアにすることを自動で行なえるようになっている。
バーチャルサラウンドは「音がかなり立体的に聴こえてくる」
そして、もう一つの目玉となるのがゲームの設定機能だ。
画面左側にはGAME EFFECTSというものがあり、5つあるプリセットを選ぶことで、さまざまなゲーム、さらには映画などの音が聴き取りやすくなるほか、LIBRARYから各種設定を選ぶことで、さまざまなサウンドに対応するようになる。
一方、右側にあるのが、バーチャルサラウンド機能。VIRTUAL SURROUNDボタンをオンにして出力をヘッドフォンにするかスピーカーにするかを設定すると、普通のステレオのヘッドフォンやステレオのスピーカーをバーチャルサラウンド対応に仕立てることができるのだ。
この機能は基本的にWindowsで使う機能になっているようなのだが、Windowsのサウンド設定画面でスピーカーを選択した上で、その構成において5.1サラウンドもしくは7.1サラウンドを選択するのだ。
必要に応じてテストボタンを押すと、各チャンネルの音がかなり立体的に聴こえてくる。
確認ができたら、VLC PlayerやFoober 2000などのサラウンド対応アプリでコンテンツ再生させると、2chのヘッドフォンやスピーカーでもサラウンドを楽しめるようになる。
ある意味、このバーチャルサラウンド機能だけのためにBRIDGE CAST ONEを買っても悪くないというか、そのためのマシンと考えてもいい機材だ。手持ちのヘッドフォンでサラウンドコンテンツを楽しみたいという方にとって、非常に手ごろで便利な機材といえそうだ。
なお、これらの機能全体を表すBRIDGE CAST ONEのブロックダイアグラムがあるので、これを見れば各信号の流れがつかめるはずだ。