藤本健のDigital Audio Laboratory
第583回:Mac波形編集の決定版? 大幅に強化された「Sound Forge Pro Mac 2」を試す
第583回:Mac波形編集の決定版? 大幅に強化された「Sound Forge Pro Mac 2」を試す
(2014/3/3 13:18)
米Sony Creative SoftwareからMac用の波形編集ソフトSound Forge Pro Mac 2がリリースされ、国内でも代理店のフックアップが3月14日よりパッケージ版を38,850円で発売する。Macにおける波形編集ソフトの決定版的なものが無い中、Windows環境で定評あるSound Forgeが進出した格好だが、実際どんな機能のものなのか試してみた。
バージョン2でバッチ変換などWindows版と同等の機能を搭載
オーディオデータを扱う上で、便利なのが波形編集ソフトだ。これがあれば、レコーディング、再生ができるのはもちろんのこと、不要部分をカットしてトリミングをしたり、ノーマライズをかけて聴きやすい音量に整えたり、エフェクトをかけたり、またさまざまなフォーマットでの保存ができるなど、一通りのことができる。
確かにDAWがあれば同様のことはできるのだが、ちょっとデータを切り出したいとか、サンプリングレートを変更したい、といったときにわざわざDAWを起動するのは面倒だし、動作も重くなる。例えていうなら、ちょっとした文章を書いて編集するなら、WordやDTPソフトを使うよりも、テキストエディタを利用したほうが軽くて快適という感覚に近い。特に業務で使うとか、頻繁に編集作業を行なうのであれば、利用すべきソフトである。
ところが、Macユーザーの間で、広く利用されていた波形編集ソフトであるBIAS Peakが数年前になくなってしまって以降、定番ソフトが存在しない。確かにオープンソースのフリーウェア、Audacityなどは存在しているが、どうもスマートでなく、扱いづらいと感じている人も少なくないだろう。
そんな中、2012年秋にSound Forge Pro Macが発売され、筆者もかなり期待したのだ。というのもWindowsにおいて、Sound Forge Proは非常に扱いやすいソフトであり、高機能で軽い。これと同じものがMacでも動くとしたら、便利になると思ったからだ。
ところが、当時試してみたところ、長年WindowsでSound Forgeを使ってきたユーザーとしては、違和感があった。印象としてはWindowsから移植したのではなく、まったく別の波形編集ソフトが登場し、名前が同じSound Forgeだった、という感じ。例えば、WindowsのSound Forgeであれば、昔から録音ボタンを押すと、録音ダイアログが表示されるとともに、入力のレベルメーターが表示されるので、ここで大まかなレベル調整をした後にレコーディングに入ることができたが、Mac版は録音ボタンを押すと直後にレコーディングがスタートするために使いづらい。
ユーザーインターフェイスもだいぶ変わっていて、いろいろと馴れない感じなのだ。また極め付けはバッチ処理機能がないこと。Windows版のSound Forge Proにはバッチコンバータという機能があり、例えば「WAVファイル素材に対し、コンプレッサ処理を行なった後にノーマライズをかけ、16bit/44.1kHzに変換して、MP3の128kbpsで保存する」といった一連の操作を覚えさせ、大量のWAVファイルに一括処理するという機能があったのだが、Mac版にはなかったのだ。
ところが、今回のSound Forge Pro Mac 2になり、Windows版とほぼ同じ機能を搭載し、バッチコンバータも搭載したということだったので、改めて試してみたのだ。
Windows版に無いエフェクト、豊富な入出力形式対応
実はこのSound Forge Pro Mac 2がリリースされる少し前にWindows版がSound Forge Pro 11というバージョンになっていたので、こちらはすでに少し使っていた。なんとWindows版がMac版に歩み寄り始めていてユーザーインターフェイスが少し変わってきていたのである。前述の録音ダイアログがなくなってしまうなど、当初気に入らなかったが、それなりの使い方を見いだせるようになり、だんだん慣れてきていた。その上で今回Mac版の新バージョンを試したところ、ほとんど違和感はなくなっているし、機能的にもほぼすべてが網羅されている。
録音ダイアログはないが、入力モニター用のレベルメーターを表示できるので、ここで録音時のレベルをチェックできるし、必要に応じてこのレベルメーターを右に表示したり、下に表示したり、左に表示できるなど、レイアウトは自由自在。これは入力用のメーターだけでなく、ラウドネスメーター、ファイル・プロパティ、リージョンリスト……と自分の好きな形でレイアウトできるので、Windows版よりも使いやすいくらいだ。
また、改めて確認してみると、Processメニューには、フェードイン、フェードアウトはもちろんのこと、ノーマライズ、リバース、ボリューム調整、またelastiqueタイムストレッチ、iZotopeのサンプリングレートコンバータやビット深度コンバータ、といった処理メニューはあるし、エフェクトとしても一通りのものが揃っている。もっとも、これはAudioUnitsに対応しているからで、GarageBandに入っているものなど、標準のエフェクトが利用できるようになっているのだ。また、iZotopeのNectar Elementsというプラグインが標準バンドルされているのも大きなポイント。これはタックシステムが12,800円で販売しているボーカル処理用のプラグインで、プリセット音色を選べるほか、手動でプレゼンスやドライブの設定、リバーブ成分の設定、ディエッサーやピッチの調整などなどが簡単にできる。
さらにiZotopeのマスタリング用エフェクト6種類もバンドルされている。具体的には下記の通り。Windows版にも入っていないこれらツールが利用できるのも大きなメリットといえそうだ。
なお、AudioUnitsのほかにVSTプラグインにも対応しているから、フリーウェアを含め、さまざまなプラグインを追加して利用することができる。
さて気になるバッチコンバータはというと、Windows版とは少し異なる実装となっていた。Windows版は、ツールメニューからバッチコンバータを起動させて使うのに対し、Sound Forge Pro Mac 2では、Convertという別アプリケーションとなっており、これを起動して利用するのだ。まあ、別アプリ化しているものの、基本的にはWindows版と同様で、Processメニューの各処理とエフェクトの各処理、また、ファイルの入出力などが自在に設定できるようになっている。ファイルのサポート形式もFLACが追加されたことで、Windows版が対応しているフォーマットは一通り利用できるようになった。
具体的には、読込みは3G2、3GP、AAC、AIF、AMR、FLAC、CAF、M4A、MP3、MP4、SND、W64、WAV。保存は3G2、3GP、AAC、AIF、CAF、FLAC、M4A、MP3、MP4、SDII、SND、W64、WAVとなっているからまず不自由することはないだろう。
この入出力フォーマットが多いのもSound Forge Pro Mac 2の大きな特徴。Sound Forge自体をファイルコンバータとして利用しても便利だが、大量にデータがある場合は、バッチコンバータが大きな威力を発揮してくれる。
「SpectraLayers Pro 2」との連携で編集機能強化も
ところで、Sound Forge Pro Mac 2には、もうひとつ大きな機能が追加されている。それは同じくSony Creative Softwareのオーディオ編集ソフトであるSpectraLayers Pro 2との連携機能だ。このSpectraLayers Pro 2については、また改めて詳しく紹介したいと思うが、これはスペクトル分析をかけた上で、それをレイヤーとして扱って編集するという、非常にユニークなソフト。特定の周波数成分だけを抜き出したり、特定の音だけにエフェクトをかけるなど、Sound Forgeにはできないユニークな機能を持っている。
同じオーディオファイルに対し、Sound ForgeとSpectraLayersとの間をシームレスにやり取りして編集できるので、これまでのSound Forgeだけでは決してできなかった編集作業が可能になるのだ。なお、Sound Forge Pro Mac 2とSpectraLayers Pro 2をセットにしたAudio Master Suite Macというパッケージも定価71,400円でSound Forge Pro Mac 2と同時に発売される。
ちなみに、SpectraLayers Pro 2との連携機能は、Windows版のSound Forge Pro 11にも搭載されているのでまさにWindows版、Mac版が横並びになった格好だ。
前バージョンで抱いていた偏見を除いてSound Forge Pro Mac 2を使ってみた結果、現時点のMac上の波形編集ソフトとして、決定版といっていい、強力な機能を持ちつつ軽いソフトに仕上がっていた。体験版もWebからダウンロードできるので、Macの波形編集ソフトを探している人ならば、一度試してみる価値のあるソフトだと思う。