藤本健のDigital Audio Laboratory

第582回:「UbuntuでDTM」の人気再び? USBオーディオやDAWソフトとの連携を試す

第582回:「UbuntuでDTM」の人気再び? USBオーディオやDAWソフトとの連携を試す

 コンピュータの初心者ユーザーでもWindowsやMacに触れたことのあるレベルの人なら、比較的容易に使えるOSとして知られるUbuntu。このDigital Audio Laboratoryにおいても、以前何回か紹介したことがあったが、2009年に取り上げたのが最後となっており、すでに5年近くが経過している。最近、DTM周りでも、またUbuntu関連が賑やかになってきているので久しぶりにインストールしてみたところ、かなり使える環境になっていた。どんな状況なのかを簡単にレポートしていく。

UbuntuとUbuntu Studioをおさらい

Ubuntu Studio

 Ubuntuという名前も聞いたことがない、という人のために一言で説明すると、これはWindowsともMacとも違うOSであり、フリーで配布されているものだ。ハード的にはWindowsマシンでもMacにでもインストールすることが可能であり、Windows、Macと比較してもかなり軽いのが特徴。Linuxのディストリビューションの一つで、ほかのLinuxと比較しても初心者向けに作られており、Linuxについてまったく知らない人でも、簡単に操作できてしまうのも大きなポイントだ。

 さらに、そのUbuntuの派生ディストリビューションとしてUbuntu Studioというものがある。ここにはDAWやMIDIシーケンサ、ソフトシンセやエフェクト、波形編集ソフト……とさまざまなDTMソフトがバンドルされているほか、ビデオ編集関連のソフト、グラフィックス関連のソフト、写真編集関連のソフト……といったジャンルのソフトがいっぱい詰まっている。かなり強力なものばかりだが、これもすべてタダ。夢のような環境なのだ。

 「ちょっと興味が湧いてきたけど、新しいOSを入れるのって難しそう……」と思う方もいるだろう。でも大丈夫。UbuntuもUbuntu StudioもDVD1枚に収まるサイズのOSであり、DVDに焼いてDVDから起動することも可能。これで、HDDやSSDにインストールすることなく、すぐ試してみることができる。4GB以上のUSBメモリがあるなら、ここに入れてUSBメモリから起動させれば、さらに高速に使える。Ubuntu Studioは、Ubuntu Studioサイトのダウンロードページから64bit版、32bit版のISOファイルの好きなほうを無料でダウンロードできる。

 また、毎年4月と10月に新しいバージョンのUbuntuがリリースされた後、1、2か月でUbuntu Studioもリリースされるようになっており、最新版は13.10というバージョン(2013年10月という意味)。ISOファイルはそのままDVD-ROMに焼いてもいいが、USBメモリーに書き込みたい場合はUNetbootinなどのフリーウェアを使って行なうことが可能だ。

 PCをUSBメモリからブート可能な設定にしておき、USB端子に接続した状態でPCの電源を入れると、起動するとメニューが表示される。ここで「Try Ubuntu Studio without installing」を選択すれば現在の環境を壊すことなく、Ubuntu Studioを体験することが可能だ。ただし、これだと日本語環境が使いにくかったり、動作にある程度の制限が出てくるなどするので、せっかくならインストールして使うことをお勧めしたい。その場合でも、現在のWindows環境を残したまま、Ubuntu Studioをインストールすることも可能になっている。

USBメモリから起動
インストールせずにUbuntu Studioを体験できる
Windows環境を残したまま、Ubuntu Studioをインストールすることも可能

 実際にインストールをスタートさせると、まず最初に言語選択のメニューが出てくるので、日本語を選択しよう。こうしておけば、あとはすべて日本語表記となるので、安心して使えるはずだ。あとは指示通りに操作していけば10~15分程度でインストール作業は終わるはずだ。

日本語を選択
指示に従ってインストール

UR44などUSBオーディオをCCモードで認識

 Ubuntuの操作方法については割愛するが、画面左上のボタンをクリックするとメニューが表示され、ここにあるAudio Productionの中に、DTM関連のアプリケーションが多数収められている。たとえば、波形編集ソフトのAudacityを起動すると、WindowsやMacでも見慣れた画面が登場し、同じように操作することができる。またHydrogenを使えば、簡単にリズムパターンを組んでいくことができる。

Audio Productionの中に、DTM関連のアプリケーションが多数収録
波形編集ソフトのAudacity
Hydrogen

 こうした操作をして音が出てくるのは、PCのオンボードのサウンド機能だ。最近のオンボードのサウンド機能は昔のものと比較するとある程度まともになってきたとはいえ、音楽用として使いたいものではない。やはり、DTMをするならオーディオインターフェイスを使いたいところだが、5年前にこれを試した際はかなり苦労した覚えがある。UbuntuのUIが非常に分かりやすいとはいえ、実際にオーディオインターフェイスを使うためには、コマンドラインでの操作が必要となり、慣れていないユーザーの多くはここでくじけてしまうだろう。筆者もこれが面倒で、Ubuntuから距離を置いていたのが実際のところだ。でも、5年たって、いろいろと状況が変わっているのではないか、という期待は持っていた。とくにiPadの影響もあり、USB Class Audioに対応したクラス・コンプライアントなオーディオインターフェイスが増えているので、これが使えるのではないか、という点だ。

 そこでさっそく、先日取り上げたSteinbergのUR44をCCモードに設定した上で、USBで接続してみたところ、拍子抜けするほどあっさりと認識され、音を出すことができた。「PulseAudio音量調整」というアプリケーションを起動すると、UR44という表示が出ており、プレーヤーソフトから音を鳴らすことができたのだ。同様にPreSonusのAudioBox 44VSLもUSB Class Audioに対応したオーディオインターフェイスなので、こちらにつなぎかえてみたところ、同じように音が出ることを確認できた。

UR44をCCモードで接続
UR44の音をプレーヤーソフトで鳴らせた
AudioBox 44VSLも同様に使えた
JACK Audio Connection Kit

 ただし、重要になってくるのは、ここから。WindowsにMME、DirectX、WASAPI、ASIOなどのドライバがいろいろ存在している以上にUbuntuにはさまざまなドライバがあり、互換性があったりなかったりで、難しいところ。具体的にはPulseAudio、ALSA、OSS……といったものがあるのだが、筆者自身もどう使い分ければいいのかをしっかりと理解できていない。が、なんとなくの経験上の知識でいうと、WindowsのASIOに匹敵する低レイテンシーを実現できるのがALSAで、警告音などを含め、DTM系以外の一般の音の出力に用いられるのがPulseAudio、古いサウンドカードなどが対応していたのがOSS……といったところ。またJACK Audio Server=JACK Audio Connection Kitを用いることで、オーディオおよびMIDIのドライバ間の橋渡しができるので、さまざまなルーティングが可能になり、UbuntuにおけるDTMの必需品である、というのが筆者の認識だ。

 実際、JACKを利用するアプリケーションが数多くあるのだが、UR44を接続してもJACK経由だとUR44から音を出すことができず、オンボードのサウンド機能のほうから出力されてしまう。JACK Audio Connection Kitの接続の画面を見ると、MIDIのほうはしっかりUR44が表示されていて、利用できるのに、オーディオのほうにUR44の文字が登場しないのだ。

 このJACK Audio Connection Kitの設定画面を見ると、ドライバはALSAが選択されており、中の項目を見てみると、UR44というものがあった。これを変更すればよさそうなのだが、何度やってもオンボードからの出力となってしまってうまくいかない。結論からいうと、Ubuntuを再起動したら動いてくれた。本来、再起動の必要はないはずなのだが、そんなこともあるのだろう。いろいろ検索をかけても、情報が少なく、やはりコマンドラインに降りての操作が必要なのか……と思ったが、GUI上での操作だけで動かすことができた。

最初は「オーディオ」のタブにUR44が出てこなかった
設定画面にUR44が表示されている

発売間近のBITWIG STUDIOも試す

標準DAWのArdour

 というわけで、ドライバ環境が整ったので、標準のDAWであるArdourを動かしてみた。以前のArdourと比較すると、UIもかなりかっこよくなっている。ArdourとJACK Audio Connection Kitは開発者が同じとのことだが、起動すると自動的にJACKに接続され、UR44を通して音を出すことができる。が、うまくモニターができないので、5年前の記事を振り返ってみると、モニターするための設定があるようなのだが、メニューからはそれがなくなってしまっている。おかしいと思って探してみると、PreferenceにMonitoringという設定項目があったので、これをハードウェアからArdourに変更したら、モニターが可能となり、エフェクトを設定した音も鳴らすことができた。ただ、かなりレイテンシーがあったので、これも確認したところ、バッファサイズの設定ができるようになっており、これを64に設定したところ、WindowsやMacの環境とそん色ない形でのモニタリングが可能となった。

PreferenceのMonitoring設定を、ハードウェアからArdourに変更
バッファサイズを64に設定
BITWIG STUDIOのダウンロード/インストール画面

 このほかにも数多くのDTMソフトが入っているので、それを試してみるのもいいのだが、今回久しぶりにUbuntuを使ってみたのには理由があった。間もなく発売になる独BITWIG社のDAW、BITWIG STUDIOがUbuntuに対応したというので、これを試してみたかったのだ。このBITWIG STUDIOの詳細は割愛するが、Ableton Liveに非常に近いコンセプトのDAWでライブパフォーマンスを得意とするタイプだ。発売は3月だが、評価版のライセンスを入手していたので、これを試してみたのだ。Ubuntuはサポート対象外とはなっているが、BITWIGのサイトにアクセスし、ログインするとダウンロードしてインストールできるようになっている。BITWIGサイトの説明によるとUbuntu 12.04での動作となっていたが13.10でもまったく問題なく使うことができるようだった。

 さっそく起動してみると、WindowsやMacとまったく同じ画面が登場し、まったく同じように操作することができた。ここで気になるのが、やはりオーディオの設定。前述のJACKサーバーを動かしたままの状態でBITWIGを起動したところ、うまく音が出ない。Prefereceを見るとALSAとなっているのだが、その選択肢にUR44がないのだ。とりあえず、ALSAからJACKに変更することで、問題なく使うことができ、バッファサイズを小さくすることで、レイテンシーの問題も解決することができた。が、なぜALSAでの選択肢にUR44がないのか不思議に思ったが、理由は簡単なことだった。それは、JACKがUR44をつかんでいたため見えないのであって、JACKを終了したところ、利用できるようになったのだ。こうすれば、BITWIGからALSAへの出力が可能になるため、より安定して動作してくれそうだ。

WindowsやMacと同様の画面で同じように操作できた
JACKを終了すると、BITWIGからALSAへの出力が可能になった

 ついでにもう一つ試してみたのがMACKIEのDAW、Tracktion5だ。こちらはベータ版という扱いではあるが、誰もが無料で試すことができる形で以前からLinux版がリリースされていたので、これをインストール。こちらも、ALSAを利用することで、非常に快適に使うことができた。

Tracktion5
ALSAドライバに対応

 このように、UbuntuはALSA対応のオーディオインターフェイス、つまりUSB Class Audioに対応したオーディオインターフェイスさえあれば、かなり快適なDTM環境を構築することができる。またUbuntu Studioに標準装備されているArdour、またオプションで簡単にインストール可能なRosegardenといったDAWがあるほか、BITWIG STUDIOやTracktionといった市販のDAWまでもが動作するようになってきたので、十分に実用可能なものとなってきているようだ。ほとんどのソフトが無料で入手できるので、興味のある方はぜひ試してみてはいかがだろうか?

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto