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「バキはNetflixが育ててくれた」。アニメ制作陣が振り返るNetflixとの10年
2025年9月5日 16:00
Netflixは9月4日、日本でのサービス開始10周年を記念したイベントとして、歴代配信作に関わった監督やプロデューサー、俳優などが登壇するトークパネル「Creator's Spotlight(クリエイターズ・スポットライト)」を開催し、アニメスタジオ・MAPPAで代表取締役社長を務める大塚学氏や、「PUI PUI モルカー」で知られる見里朝希監督などが登壇した。大塚社長はオリジナルアニメ作品の展開に意欲を示した。
トークパネルは、実写作品とアニメ作品の2パートに分かれて行なわれ、アニメパートには、大塚氏、見里監督のほか、トムス・エンタテインメント取締役 上席執行役員の吉川広太郎氏、劇作家・演出家の根本宗子が登壇した。進行は、Netflixでアニメ作品のコンテンツ調達を統括する山野裕史氏が務めた。
セッション冒頭、この10年で作品づくりなどで変わったことを問われると、MAPPAの大塚氏は「今年で社長9年目で、プロデューサーと経営者という面で、すごくビジネスに意識が向いたのが(Netflixが日本上陸した)9~10年ほど前。1番感じたのは、プラットフォームでアニメを全世界で楽しむ人たちを、作り手側が意識するようになった」と語った。
「コロナ禍は制作環境と、アニメを楽しむお客さんにも影響をもたらしました。アニメの作り手にはネガティブなものだけでなくて、自宅で作業するなど、働き方の選択肢が増えました。Netflixに協力してもらって、会社と自宅にそれぞれ仕事ができる環境を整えることもできました」
「アニメを楽しんでいるお客さんにとっても、スマートフォンでアニメを楽しむという習慣がより強く根付いたんじゃないかと思います」
トムス・エンタテインメントの吉川氏は「私は2016年に今の会社に転職してきて、Netflixが日本でローンチされたのが2015年。ちょうどNetflixが作品調達で気合を入れている時期、2016年12月ごろに『バキ』ともう1作品の2作品を提案させていただきました」と10年前を振り返る。
「(Netflixコンテンツ部門のバイスプレジデントである)坂本さんが、当時の社内会議で『バキ』をすごく推してくれたと聞いています。それがきっかけで2018年に『バキ』の第1期を配信して、第2期が2020年配信。そのときアメリカで初めてトップ10に入ったと聞きました」
「そこからシリーズを続けていって、『範馬刃牙』で世界5位、アメリカで6位まで上がって、2023年7月の『範馬刃牙』第2期で週間ランキングで世界2位まで上り詰めました。バキは、Netflixが育ててくれたIPだと言えると思います」
「(同じくトムス・エンタテインメントが手掛けている)『SAKAMOTO DAYS』は、集英社の作品でアメリカでもコミックがもう普及していて、ある程度の人気がある状態でアニメ化したので、いいポジションを取ることができました」
「ただ、『バキ』の場合は、ローカライズされたコミックがなかったんです。その状態で、Netflixが190カ国で配信して、徐々に人気を伸ばしてくれたので、思い出深いIPだと思います」
見里監督は、7月に配信開始されたストップモーション作品「My Melody & Kuromi」が週間グローバルTOP10で2位に入るなど話題になったことを受けて、「国内のみならず、世界的にも評価していただけた。Netflixだからこそ、世界的に展開できるようなコンテンツにできたのかなと思っています」とコメント。
同作で脚本を務めた根本氏も「まさか自分がNetflixの、しかも初めてのアニメ脚本を任されるとは思っていなかった。普段演劇活動していては反響を聞かない世代からも『面白かったよ』という声を聞いたり、海外からも感想のDMをいただいたりして。Netflixの作品に関わったからこその幸せな体験だなと思います」
「アニメ作品は今回が初めてだったんですけど、映像や演劇の脚本を書く時、『これはできない、これはやらないでほしい』と、やはり予算の話が出てきます。仕方ない部分ではありますが、(制約が)多いなと感じることも多くて」
「ただ、今回はまずやりたいことを全部見里監督とお話したうえで、風呂敷を広げるだけ広げてみました。大抵はすごく縮小されて終わることが多いと思うんですが、今回広げた風呂敷はほぼ広げたままで完成したので、Netflixの懐の深さというか、何でも面白がってくれる心意気にすごく助けられました」
最後に、今後10年を見据えてチャレンジしたいことを問われると、大塚氏は「表現の幅、作品にどんなテーマ性を持たせるか。日本のアニメの幅をどう広げていくか」と応じた。
「今、少年マンガ的な作品はうち(MAPPA)でも多く作っていますし、深夜アニメの文脈から企画が立ち上がりやすいですが、Netflixでアニメに限らず、いろいろな映像体験をしているお客さんの虚をつくような作品を作って、全世界に広げて社会現象にするか。実写作品でそういった実績があるNetflixだからこそ、そういったアニメを一緒に作ってみたいと思います」
吉川氏は「クリエイターを抱えて良い作品を作るには、どうしてもお金がかかります。ですので、Netflixの調達原資をどんどん大きくしていって欲しい」とした。
「(Netflixは)今世界のユーザーが3億人ですが、5億人、10億人と拡大していって欲しいですし、そのサポートができればと思っています。そうすれば自然と原資が増えるわけで、それをクリエイターに還元すれば良い作品ができて、良い作品をお客さんに提供できれば会員数が伸びる、というサイクルができますよね」
「あとは配信されている各国の詳細なレポートをいただけると助かるなとも思います。各国のニーズを把握できれば、それをプロデューサーに伝えることで、ニーズにマッチした作品を企画できますから」
見里監督は「長編作品をストップモーションで表現することを個人的にはやってみたい。例えばVRを使ったストップモーションなど、新しい方式で配信する仕組みを模索していきたい思いがありますね」とコメント。
根本氏は、演劇の世界で活躍していることから「演劇とNetflixでコラボレーションができたら」と語った。
「コロナ禍以降、演劇の配信も増えていますが、やっぱり演劇は生で観るものには叶わないので、生で観るのとは全く違う面白さや撮り方、配信の仕方というものを、Netflixと一緒に今後考えられたら嬉しいなと思います」