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「地面師たち」監督らが振り返るNetflixでの挑戦。山田孝之はギャラアップを直談判
2025年9月5日 12:40
Netflixは9月4日、日本でのサービス開始10周年を記念したイベントとして、歴代配信作に関わった監督やプロデューサー、俳優などが登壇するトークパネル「Creator's Spotlight(クリエイターズ・スポットライト)」を開催した。ドラマ「地面師たち」の大根仁監督や、「全裸監督」シリーズで主演を務めた山田孝之らが出席し、情報公開前の次回作の話題や、「俳優ももう少しギャラを上げてほしい」といったNetflixへの要望も飛び出した。
トークパネルは、実写作品とアニメ作品の2パートに分かれて行なわれ、実写パートには大根監督、山田のほか、「今際の国のアリス」シリーズで知られる佐藤信介監督、11月に配信されるNetflixドラマ「イクサガミ」の藤井道人監督が登壇した。進行は、Netflixで日本発の実写作品全般での制作・編成を担当する髙橋真一氏が務めた。
Netflixは「風通しの良さ、スピード感が違う」
作中のセリフが流行語大賞トップ10に選ばれるなど社会現象となった「地面師たち」を手掛けた大根監督は、「Netflixは非常に風通しの良い会社だと思った」と、Netflixとの“初仕事”を振り返った。
「『地面師たち』というのは、いろいろな経緯があって僕が企画しました。最初は映画やテレビドラマでやろうとしたんですが、いろいろな事情で企画が通らなくて、そのタイミングでNetflixさんを紹介いただいた。最初に髙橋さんと会って、『こういう企画で、脚本もここまで進めているんですが、どうでしょうか』と聞いたら、『これはNetflix向きの作品だと思う』と、ほぼその場で結論が出ました」
「一度持ち帰って会議にかけたり、それこそアメリカ本国のチェックだとか時間が掛かるんだろうなと思っていたら、翌週にはほぼ決定といった返事をいただけて。この風通しの良さ、スピード感は、他とは違うなと感じました」
「すぐキャスティングの話にならないのも驚きました。これまでやってきたドラマや映画は、メジャーになるほど『じゃあ、キャストはどうする?』という話になるんですが、(Netflixでは)まず企画内容と脚本を詰めましょう、キャスティングはその次、といった感じで、そこの感覚も従来の国内メディアとは違うなと感じました」
また髙橋氏も「ほかのクリエイターからも『アメリカ側の確認はあるのか』と問い合わせをいただきますが、基本的にはすべて日本側で決済して、どういう作品、アプローチがベストなのかを決めています」と付け加えた。
佐藤監督が手掛けた「今際の国のアリス」は、「業界の人でも、まだNetflixを知らない人が結構多くいた時期」に企画がスタートしたといい、「すごく手探りの時期でしたが、ひとつのスローガンとして、日本から世界に向かって作品が発表できる場だというのが中心にあったと思う」と語った。
「もちろん映画を作っているときは、どの国で観てもらっても、日本の事情を知らなくても楽しんでもらえるものを作りたいという思いはありましたが、実際に現場で『日本の文化を知らない人でも、この脚本分かるかな?』と話しながら脚本を作ったのは初めてでした。それがすごく面白かったです」
「またなんとなく(従来の作品で)あったのは、『なるべく画面は明るめにして分かりやすくしよう』ということをプロデューサーからよく言われていましたが、(Netflixでは)逆に『画面はダークにして、ちょっと分かりにくくてもいいからルック・トーンを上質にしたい』と言われます。僕たちは、つねづねそうしたいと思っていたので、話しやすい人が映画・ドラマづくりを始めてくれたなと感じましたね」
藤井監督は「DMやメールで、海外のメディアやクリエイターから連絡が来るようになりました。今まで自分たちがいかにドメスティックな空間で映画やドラマを作っていたのかを感じますし、(海外で認知してもらうには)映画祭に出ないとダメなんじゃないかといった固定概念の中でモノを作っていた僕たちに、すごくいいチャンスをくれたのがNetflixだと思っています」とした。
山田は、髙橋氏に「『全裸監督』のオファーはその場で快諾されたと聞きました。相当チャレンジングな決断だったと思うのですが……」と問われると、「まだ(世間に)浸透していないタイミングでNetflixから話が来た」と当時を振り返った。
「ちょうど話が来る1年半前ぐらいから、マンツーマンで英語の勉強をしていたんです。日本にいると日本のもの(作品)にしか出られないから、他のところにも出るチャンスを……と思っていたんですけど、全裸監督の話が来たときに『日本で撮影して、日本の題材で、世界に見てもらえるなら、そっちのほうが早いじゃん』と思ったんです」
「僕が英語を勉強したところで、本来の芝居はできないですよね。言語が違うとカルチャーも違うものだから、今まで学んできたものではないものになる。でも、日本語で日本の題材で出せるとなると、よくも悪くも自分の実力を世界に出せる。自分が求められる人なのかも試せるし、大きなきっかけだと思いました」
「当時、近い友達には『なんでNetflixなんかやるの』と言われましたし、4~5人の業界関係者には『Netflix Japanは業績悪くて日本から撤退するらしいじゃん』とも言われましたが、『だからこそ、チャンスじゃないか』と思いました」
各監督の次回作。大根監督は「180度違う」、佐藤監督は「本格的なSci-Fi」
ここからトークは「タイトルやキーになる情報を可能な限り避けながら、挑戦の一端を紹介してほしい」(髙橋氏)と、Netflixでの配信に向けて各クリエイターが準備を進めている次回作の話題に。
大根監督は「『地面師たち』の続編ではありません」と前置きしつつ、「『地面師たち』と同様、前からいつかはやりたいと思っていた作品」に取り組んでいると明かした。
「作品にGOを出してくれる映画会社やテレビ局はないだろうなと思っていた企画がもうひとつあって、それを提案したところ『ぜひやりたい』とNetflixに言っていただきました」
「これまで僕は東京を舞台にした現代モノをやってきた“シティ派監督”という自覚がありますが(笑)、それとは180度違ったもので、自然環境であり、現代設定ではない、あるとんでもない敵に立ち向かう男たちの話です。撮影時期やキャスト、脚本も仕上がっていて、あとは準備の大詰めと撮影に入るだけの段階です」
佐藤監督も、「今際の国のアリス」制作チームとともに新作に取り組んでいると説明。「まさにクランクイン直前」と明かした。
「『今際の国のアリス』のチームをスライドさせつつ、新しい人を加えたり、新しいキャストの人たちと、『今際の国のアリス』ではない作品を作ろうとしています」
「あまり人がちょっとやらないものを、やりたくなる気質がありまして。日本から意外と出てこなかった本格的なSci-Fi作品をやりたいと思って取り組んでいます。“行くところまで行くぞ”という気持ちですね」
「ヒューマンドラマのようになっているのですが、すごいSci-Fiでもある。僕自身、映画ファンなのでいろいろな作品を観てきましたが、ありそうでないかなという感じの作品をやろうとしています。日本が舞台になっていて、日本から出ていくというのがキーになるし、それがさらに輪をかけて観たことない作品になるかなと」
髙橋氏によれば「ターミネーターとストレンジャー・シングスをかけ合わせたような作品」になるという。
11月配信の「イクサガミ」を仕上げたばかりという藤井監督も次回作に向けた準備を始めており、「日本のチームで、世界を舞台に戦える作品にしたいと思っていて、海外を飛び回って撮影の準備をしています」
「日本人だから撮れる、日本の作品をやろうと。日本人にとっての豊かさ、平和ってなんだろう?というところを激しめのアクションで繋げれば良いなと思っています」
「『イクサガミ』は時代劇をどうアップデートするかを岡田さん(主演の岡田准一)と一緒にディスカッションして作った作品でしたが、次はもう少し自分の視野を広く持って、世界のみなさまにどう見てもらえるかを画策している段階です」
山田が挑む次回作は、1月に制作が発表されている実写ドラマ「国民クイズ」。杉元伶一(原作)・加藤伸吉(作画)による同名コミックをNetflixシリーズとして実写ドラマ化するもので、山田は圧倒的人気を誇る国民クイズの顔である司会者・K井K一を演じるほか、脚本開発にも携わったという。
山田は「国民クイズの原作はマンガですから、それをそのまま映像化しようとすると、VFXなど見た目の技術的な部分だけではなくて、マンガだからこそ成立していること、実写に落とし込むと成立しないことがある。これを実写作品にする場合『どこをリアルにして、どこをちょっと“ぶっ飛んだ”マンガの世界観を活用するか』は難しかった」と語った。
山田孝之「日本の俳優もギャラを上げてほしい」
トークパネルの最後は、これからNetflixでどんな作品づくり・挑戦をしていきたいか、またNetflixに挑戦してほしいことを紹介。大根監督は「テレビドラマや映画では実現できなかったようなチャレンジングな作品を担っていってほしい」としつつ、食事に関する要求も明かした。
「撮影環境に対する保証がしっかりしている。労働環境やスタッフケアに関してももっと進めてほしいですし、東宝スタジオで撮影する事が多いので、ここの食堂のプロデュースとかして貰えないかな(笑)。東宝の食堂も好きですが、もうちょっと健康に気を使ったメニューがあっても良いなぁと思っていて(笑)」
佐藤監督も「お菓子とか健康的なもの、スナック類を用意してくれる『クラフト』というのがあって、Netflixではクラフトが必ず現場にあるんです。これは映画界ではあまりなかったものなので、大きく歴史を変えたと思います。食に関することはさらに突っ込んで、健康を助けてほしい」と大根監督の意見に賛同しつつ、「世界と日本が交じるような作品」についても期待を示した。
「海外のチームと一緒にやるとか、本来だったら海外の人たちも出ていなきゃいけない原作だったら、その人たちと一緒にやるとか。その混じっていくっていうのも次なるステージかなと思っています」
「もう、どこの作品とか別にいいわけじゃないですか。日本の作品でも、韓国の作品でも、一緒に作りましたでも良いと思うんです。そういった方向に進んでいくことを期待したいですね」
藤井監督は「自分が生まれてからできたメディアが配信だと思っていて。だから『ここだったら戦って良いんだ』という場を作ってくれたと思いますし、働きすぎな日本人に『無理しなくて良いんだよ』とちゃんと言ってくれたのもNetflixだと思う」とした。
「リスペクトトレーニングを一番最初に導入したり、自分たちが気づかなかったことを教えてくれたり。そういったものがもっと広がれば嬉しいです。僕自身に対しては、こんなの絶対にできないだろうっているオファーをずっとくれたら嬉しいです。できない壁を超えるというのを頑張りたいので」
山田は、このトークパネルに参加した唯一の役者という立場から「日本の俳優も、もう少しギャラを上げてほしい、CEOがこの場にいるので今日言います」と語った。
「もちろん、Netflixは他の映画とかと比べるとギャラは良いです。ただ、やはり日本の俳優は、いまだ企業さんのCMに頼らないと、という部分が事務所を含めてあります。そこをやっぱり、自分が磨いてきたスキルや本業で、しっかりそれくらいのお金を稼げるのが(重要)。外と比べるわけじゃないですが、やっぱり安いので……」
「もちろんそのためには、クリエイティブをもっと良くして、もっと多くの人に観てもらうことが大前提ですけど、そういう保証があるほうが(役者も)人間ですから、やる気も出る部分もあると思うので、そのあたりは課題だと思っています」