日沼諭史の体当たりばったり!

部屋にスピーカーが置けないって? ならば天吊りだ! WiiM Amp Proも使って省スペースオーディオ環境にしてみる

第56回

オーディオ専用部屋をもつのは理想ではあるけれど、とりあえずは今の部屋で音楽や映画を楽しめるようにしたい。でも、そもそもスピーカーを置く場所がないくらい狭いんだよなあ……なんていうパターン、あるのでは? 筆者も4畳半のちんまりした仕事部屋にPCデスクとインドアサイクル機器が詰め込まれていて、ここに本格オーディオ機器も、となるとほとんどミッションインポッシブルである。

4畳半の自宅仕事部屋。スピーカーをデスク上に置いているが、配線していない

実のところ、DALIのMENTOR MENUETというブックシェルフのパッシブスピーカーは所有している。ただ、デスク上に置いてみるとけっこう邪魔。いつでも移動できるように配線していないので、最近は単なる置物になっていた。とはいえ15年ほど前からの長い付き合いで思い入れもあり、できることならちゃんと使いたい、という気持ちも……。

15年モノのDALI MENTOR MENUET

狭い部屋でも邪魔にならないところにスピーカーを配置できれば、きっと活用できる。ではどうしたらいいか。いろいろ悩んだ挙げ句出した結論が、「部屋を立体的に使えばいいじゃん」というものだった。人間のアイレベルの範囲でなんとかしようとするから邪魔になるのだ。だったら、ぽっかり空いている頭上の空間を使えばいいのでは、と。

狭い仕事部屋だけれど、見上げてみたら、そこには未開拓の広大な空間があるじゃない!

スピーカーを自宅天井に固定できれば、設置スペースは実質ゼロ! そのうえでオーディオアンプも場所をとらないコンパクトな「WiiM Amp Pro」にすることで、省スペースなオーディオ環境を構築できるのではないだろうか。ってことで、さっそく自宅仕事部屋の改造に取りかかることにした。

編集部注:個人によるスピーカーの天吊り設置は、天井の破損やスピーカーの落下などの危険が伴いますので、自己責任にて行なってください。

そもそもスピーカーや天井は吊り下げられる状態なのか

手始めにやったのは、スピーカー(MENTOR MENUET)が天吊りに対応しているのか、という確認だ。MENTOR MENUETをよくよく観察してみると、裏側に2つゴムキャップがあり、その奥にねじ穴があるのを見つけた。なるほど、ということは、純正の壁掛け金具みたいなのもあるのかな? と思ってWeb検索してみると、それらしきものを見つけることができた。

よく見ると裏側に2つ、ねじ穴が隠されていた
海外の通販サイトらしきところで純正壁掛けブラケットを取り扱っていたが、日本での入手は難しそう

壁掛けや天吊りにはひとまず対応できそうでひと安心。けれども、この純正ブラケットを国内で入手するのは難しそうだ。代わりにMENTOR MENUETのねじ穴間隔にちょうど合う汎用品のブラケットがないか探してみたが、調べた範囲では見つからない。ので、スピーカーのねじ穴に固定する金具はホームセンターで購入して自作(穴開け加工)し、そこに汎用の天吊り金具を取り付ける方向で進めることにした。

ホームセンターで購入した金具に電動ドリルで穴開け
径4mm、長さ15mmのねじでスピーカーに取り付けた
そこに取り付ける汎用の天吊り金具を入手

次に(あるいはその前に)確認しなければならないのは、そもそも天井がスピーカーを取り付けられる構造になっているか。筆者宅の仕事部屋の天井には頑丈な梁があるので、そこにねじ留めすれば安心。だけれども、部屋の中央寄りなのでスピーカーのポジションとして適しているとは言えない。良さげなのは部屋のもっと隅の方だ。

天井には梁があるが、中央寄りなのがネック

ところが、そこにあるのは悪名高き(?)石こうボード。スピーカー1本あたりの重量は約4.8kgあり、天吊りのための金具類も含めるとおそらく5kgを少し超える。これを石こうボード用のアンカーなどを使って天井にねじ留めしても、まず重量に耐えられないのでNGだ。

しかしである。こうした天井の裏にはたいてい一定の間隔で野縁(野淵)という下地になりうる木材の骨組みのようなものが走っているものだ。実際、自宅建築時の設計図や間柱センサーなどを使うことで、筆者宅の天井にもそれがしっかり存在することを確認できた。

こんな感じで、ピンク色にしたところの天井裏に野縁があるイメージ
間柱センサーで野縁を見つけ、マーキング
念のため針を差し込むタイプの間柱センサーも使って確認した

天井の石こうボードは梁に直付けされた受け部分でも固定されており、野縁自体にかかっている荷重はわずかと考えられる。野縁の太さと間隔(約80cm幅に2本通っている)なども考慮すると、スピーカー計10kg余りを取り付ける分には強度上は全く問題なさそうだ。

野縁に2本ねじ留め(左右)したうえで、補助的に石こうボード用アンカーも2本使用(上下)してしっかり固定

それでも、地震などで揺れたときに一時的に荷重が増えて脱落しないとも限らないので、何らかの落下防止策は必須。購入した汎用の天吊り金具にも落下防止ワイヤーが付属していたが、これは金具のパーツ間での脱落防止用。天井から丸ごと外れてしまった場合には役に立たない。

なので念のためもう1本、スピーカーにねじ留めしている金具と、近くの梁とをつなぐ落下防止ワイヤーも追加して万全を期すことにした。この落下防止ワイヤー周りの耐荷重はスピーカー重量の数倍はあり、万が一にも最悪の事態は避けられるはず。

汎用天吊り金具の落下防止ワイヤーは、金具のパーツ間の脱落防止用のようだ
念のため梁との間に落下防止ワイヤーを1本追加した

スピーカーケーブルは隠して配線したい!

続いては配線だ。スピーカーを天吊りすることで居住空間をすっきりさせることはできるが、そこからアンプにつなぐスピーカーケーブルが天井や壁を這っていたりすると見苦しい。ケーブルモールを使う手もあるとはいえ、違和感はどうしても出てしまう。

一番いいのは天井の中にケーブルを通すことだ。多少の手間とコストがかかるけれど、スタイリッシュさを追求できる。ただ、単に天井や壁に穴を開けて、ケーブルを直出ししてつなぐというスタイルはなんとなくみっともない。

そこでパナソニックの配線器具、コスモシリーズワイド21のラインアップにある「スピーカターミナル」を利用してみることにした。同シリーズのスイッチプレートと組み合わせることで、壁面にプラス・マイナスのスピーカーターミナルを埋め込めるというものだ。

パナソニックの「スピーカターミナル」

左右スピーカーを吊り下げる箇所の近くに穴を開けてこれ(1対分の端子があるもの)を埋め込み、天井から足元の壁面コンセント付近までスピーカーケーブルを通して、そこにも同様に穴を開け、結線したターミナル(左右2対分の端子があるもの)を埋め込む。

スピーカーの吊り下げ金具を取り付ける前から、天井には穴開け箇所をマーキングしておいた
いざ、思い切って穴開け
通線ワイヤーなども使いつつスピーカーケーブルを天井裏に通していく
ターミナルを天井に埋め込み……
スイッチプレートの枠を取り付けてスピーカー側は完了
天井から通したスピーカーケーブルを足元付近で取り出す
LRが後から分からなくなってしまうので、ラベルを付けておいた
こちらも壁に埋め込み完了

こうすることでスピーカーケーブルの大半を隠せる。目に見えるケーブルはスピーカーと天井のターミナル間、それと壁のターミナルからアンプまでというごくわずかな部分だけ。ちなみに左右スピーカーのケーブルに同じものを使うと後でメンテしたくなったときに左右がどちらだったか分からなくなるので、配線時にケーブルにラベルを付けておくのがおすすめだ。

ターミナルとスピーカーの端子をつないだところ。見た目が良く、脱着も簡単

そんな風に固定の仕方や配線の方法を検討したり、必要な資材を集めたり、DIY作業をしたりなどで1カ月以上。仕事の合間に少しずつ進めていき、ついに省スペースオーディオ環境が完成した。それがこちら。

天吊りスピーカーが完成
左スピーカー
右スピーカー

今までスタンドやデスクの上に置いていたMENTOR MENUETが天井からぶら下がっているのは、なんだか不思議な感覚だ。25×15×23cmというMENTOR MENUETのサイズはまあまあコンパクトなはずだけれど、天吊りするとそれなりの存在感。しかしこれでも床からスピーカー下端まで190cm以上はあるので、我が家の家族の頭にぶつかるようなことはない。

インシュレーターを付けたままにしているのが少し不格好なので、外した方がいいかなあ、と思っていたりする

ケーブルを天井や壁の中を通したことによる見た目のスッキリ感は、予想通り、すばらしい。余計なものが視界に入らず、それでいて新たな機能を部屋に追加できているのは、とっても気持ちが良いものだ。マジ達成感。壁に埋め込まれたスピーカーターミナルがオーディオ部屋感をちょっぴり演出していてリッチな気分にもなれる。

省スペースにするならアンプは「WiiM Amp Pro」でしょ!

さてさて、天吊りにしたことでスピーカー2個分の設置スペースを実質ゼロにすることができたので、せっかくならスピーカーを駆動するためのアンプもできるだけ場所のとらないコンパクトなものにしたい。ってことで、メーカーからお借りして試してみたのがWiiM Amp Proだ。

WiiM Amp Pro

WiiM Amp Proは、190×190×66mmという、ちょい大きめの弁当箱といったサイズ感のアンプ内蔵ネットワークプレーヤー。デスクに載せても占有しすぎず、見た目のシンプルさもあいまって、オーディオオーディオしていない雰囲気が仕事の集中も妨げずグッドだ。

スマホのGoogle Pixel 8 Proとサイズ比較するとこんな感じ
デスク上に置いてみた。最近流行のミニPCのような小ささで、目障りにならないシンプルなデザイン

WiiM Amp Proを選んだのはサイズだけが理由ではない。筆者の仕事部屋にある数々のデバイスの音声を天吊りスピーカーから出力するためには、多機能なネットワークプレーヤーとして機能しつつ、かつパッシブスピーカーをつなげられるスピーカーターミナルも備えている必要があったからだ。

まず有線のオーディオ入力としてHDMI ARC、光デジタル、ラインの3系統を装備しているほか、USBメモリを接続してその中にあるオーディオファイルの再生もできる。加えて、Bluetooth 5.3によるワイヤレスレシーバー・トランスミッター機能も備える。

オーディオ入力はHDMI ARC、光デジタル、ラインの3系統

スマホなどからBluetooth接続すれば音声出力先(音の出先はターミナルから接続したスピーカー)として利用できるし、有線オーディオやLAN接続からの入力音声をBluetoothのスピーカーやヘッドフォンに出力することもできる。さらにGoogle Cast、Spotify Connect、DLNAなどネットワークプレーヤー機能も豊富だ。

WiiM Amp Pro用のスマホアプリ。本体の動作状況の確認や細かな設定が可能

これらの音声入出力機能によって、筆者が仕事部屋で普段使っているWindowsのデスクトップPC、ノートPCのMacBook Air、Androidスマホ、Androidタブレット、モバイルモニターにつないだGoogle Chromecastといったデバイスすべての音声を1箇所で扱える。つまりWiiM Amp Proが仕事部屋のサウンド再生を司るハブのようなものになってくれるというわけ。

たとえばデスクトップPCは有線でつないでもいいし、Bluetoothでもいい。もしくはWebブラウザ内のコンテンツならキャスト機能(Wi-Fi)も使える。プレーヤーソフトのなかにはDLNA対応のものもあるので、よりどりみどり。MacBook Airも同じようにBluetoothか、Webブラウザ経由のキャスト、またはDLNA対応プレーヤーが使える。

スマホとタブレットはAndroidということもあってキャスト再生が便利だし、もちろんBluetoothもOKだ。ほとんどテレビ(nasne)や配信動画の視聴用となっているChromecastはBluetooth接続がメインとなる。デバイスや利用シーンごとに接続方法を都合良く変えられて、どのデバイスを使っているときでもスムーズに天吊りスピーカーから音を聞けるようになるのは大きい。

スマホからキャスト(Spotify Connect)して再生
Chromecastの音声はBluetoothで
macOSはVLCなどのプレーヤーを使うとWiiM Amp Proをレンダラーとして指定できる

一般的な機材だとアンプとネットワークプレーヤーが別体になり、どうしても設置スペースが広くなるし、複数台の機器を操作しなければならないので入力切り替えの手数も多くなってしまう。WiiM Amp Proは多数の機能を小型筐体に一体化することでそうした課題を解消しており、まさしくストレスフリーな使い勝手だ。

リモコンもあるので離れたところに置いてもいい

天吊り&多機能アンプの組み合わせがQoLを限りなく高める

で、このWiiM Amp Proでスピーカーを鳴らしてみて、改めてMENTOR MENUETの良さを実感した。ここのところはずっとスマートディスプレイやタブレットのスピーカーで音楽を聞くことが多く、そのカジュアルな音質に慣れてしまっていたけれど、MENTOR MENUETはやはり音のきめ細かさが段違い。

天井付近で鳴らしているのに、ボリュームを絞っても輪郭が破綻せず、楽器の音も人の声も、座っている筆者の耳にまでくっきり届く。クラシックなんかをBGMにしつつ仕事すると実にいいカンジだ。いい音は心が豊かになるなあ、としみじみ思う。

天吊りスピーカーとWiiM Amp Proのある生活

1階天井に取り付けたことから、2階のリビングなどに音が響いてしまわないか心配だったけれど、低ボリュームでも十分に聴かせてくれるし、スピーカーが斜め下向きになっているためか非常識な大音量にしない限りは2階には音が届かない。家庭内不和にもならずに済みそうだ。

あと不安だったのが低音。MENTOR MENUETはもともと頑丈なスタンドなどに置かないと低音を引き出せない性格だったりするので、宙づりだと低音が一段と痩せ細りそうだなと思っていた。が、想像していたよりはしっかり出ている。映画で求められるような重低音はいずれにしても難しいけれども、そのへんはサブウーファーを追加するか(WiiM Amp Proはウーファー用の端子も装備している)、WiiM Amp Proのアプリにあるイコライザー機能でカバーできるだろう。

低音はアプリのイコライザー設定でカバーしてもいい
部屋のレイアウト(座る場所)に合わせて左右バランスの調整も可能

1つ不満を挙げるとすれば、有線ヘッドフォンを接続できないこと。夜、家族が寝静まった後、あるいはPCで動画編集するようなときはヘッドフォンを使いたくなるが、その場合はデバイス個別の端子につなぐしかない。デバイスを変えるときはヘッドフォンもつなぎ替える必要があるので少し面倒だ。

ただ、そこはBluetoothヘッドフォンにすればいいという話ではある。ありがたいことに、WiiM Amp ProのBluetooth接続はレシーバーとして使っても、トランスミッターとして使っても遅延は少なく、動画再生時のリップシンクにも違和感なし。高音質・低遅延のLE Audioにも対応しており、有線ヘッドフォンにこだわる理由は少なくなっている。

狭い部屋には天吊りスピーカー&コンパクトなアンプが最高!

これほどまでに高機能なWiiM Amp Proが実売7万円以下というのは、ずいぶんとおトクだなと思った。今のところ2chのピュアオーディオ環境で十分と思っている筆者のような人にぴったりだし、低音を補うのにサブウーファーを追加してみようか、となったときの予算も捻出しやすい。

狭い部屋で悶々としているなら、スピーカーの天吊りはアリ寄りのアリ(もちろん安全に固定できることが大前提)。それとセットでWiiM Amp Proを導入すれば、極めて満足度の高いミニマルなオーディオ部屋に仕上がること間違いなしだろう。

個人的に今回のスピーカーの天吊りは、将来的なサラウンド環境構築に向けた第一歩にもなりそうな予感がしている。ここからまたどのように部屋をアップグレードしていくか、悩める楽しみも増えた。

スピーカー天吊りのために購入した機材のリスト

機材個数購入価格
汎用スピーカー壁掛け金具1セット4,030円
パナソニック スピーカターミナル (1対)27,306円
パナソニック スピーカターミナル (2対)15,321円
パナソニック スイッチプレート 1連用3519円
パナソニック 石膏ボード用はさみ金具3255円
ステンレス金具ウォールフック (脱落防止用)24,346円
ステンレスワイヤー (脱落防止用)2764円
ボードアンカー 4本入1セット415円
ジョイント金具 (穴開け加工したもの)2654円
シンワ測定 下地センサー Pro+16,971円
シンワ測定 下地探し どこ太Pro12,319円
32,900円
日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。