藤本健のDigital Audio Laboratory

第547回:Musikmesseレポート1。TEAC/KORG/ZOOMほか

第547回:Musikmesseレポート1。TEAC/KORG/ZOOMほか

DSDレコーダ、復刻アナログシンセ、Android用DAWなど

 毎年春にドイツ・フランクフルトで行なわれているヨーロッパ最大の楽器関連の展示会、Musikmesse(ムジークメッセ)。アメリカで1月に開催される「NAMM SHOW」と並ぶ世界の2大展示会のひとつだが、今年は4月10日~13日(現地時間)の日程で開催されている。

 このMusikmesseに初めて参加したが、日本の楽器フェアとは比較にならない大規模なもので、圧倒される。単純に会場の延床面積で比較すれば日本最大の幕張メッセの約5倍。全部を使っているわけではないようだが、それとは別に野外ステージも数多く組まれていることを考えると、いかに大規模かが分かるだろう。全日程を使って回ってくる予定ではあるが、とてもすべてを回りつくすのは無理そう。デジタル楽器、デジタルレコーディング機器を中心に、回ってくるので、主にDTM観点から面白そうなものだけをピックアップして、数回で紹介してみたいと思う。

会場の模様

コルグのアナログシンセ、TASCAM DSDレコーダ、ズームのPCMレコーダなど

コルグのブース

 まず最初にたどり着いたのがコルグ(KORG)ブース。先日インタビュー記事にしたMS-20 miniに象徴されるようにアナログシンセで勢いに乗っているコルグだが、今回もなんと3製品ものアナログシンセを発表した。

 今度の製品はコンパクトなボディーにシーケンサを内蔵したアナログシンセで、volca(ヴォルカ)シリーズという3つのモデルでリード・シンセvolca keys、ベース・シンセvolca bass、リズムマシンvolca beatsだ。すべて同じお弁当箱サイズで重さ約370g、いずれも18,900円というシリーズ。volca bassとbeatsが6月下旬、keysが7月中旬発売とのことで、マニア向けというよりも、価格設定などを見ても、より広い層の人たちが簡単に楽しめるように設計した機材のようだ。

volca keys
volca bass
volca beats

 実際に触ってみたところ、同社のmonotronと同じような、LEDランプが光る小さなツマミが並び、触るとドラスティックに音色が変化していくので、アナログシンセがはじめて、楽器の演奏ができないという人でも、すぐに楽しく遊べそう。鍵盤部分はタッチ式の金属板が並んでいて、それを利用して弾くこともできるし、シーケンサで簡単に打ち込みができるようになっている。volca keysは3音ポリの完全なアナログシンセ、vocla bassはモノフォニックで太いサウンドが出る音源、volca beatsはアナログ音源 + PCM音源となっている。

 ユニークなのは、すべてにアナログのシンク端子が用意されており、ミニジャックで接続すれば連動して動作させることができる点。3つ別々の機種をつないでもいいし、同じ機材を複数台接続してもOK。またMIDI IN端子も用意されており、外部からMIDI NOTEで発音をコントロール可能となっている。

 そのコルグブースの一角で展示を行なっていたのがDETUNEの社長、佐野電磁氏。ニンテンドーDS用に2年前に国内向けにリリースしていたソフトシンセ、KORG M01をリニューアルしたKORG M01Dを世界に向けて発売するということで出展していたのだ。このM01Dは3DS対応となり、3,000円にて5月からダウンロード販売される。今回のバージョンアップで、最大発音数が12音から24音に倍増するとともに、ネットを通じてのソングデータの交換が可能になる。また、SDカードにデータの保存が可能になったり、上部のステータス画面の3D表示対応になっているのがポイントだ。

DETUNE社長の佐野電磁氏
KORG M01Dの世界発売に向けて出展していた

 コルグブースがドラムなどが並ぶホール3にあったが、電子楽器、デジタルレコーディング機器などが膨大に並んでいるのがホール5。入って最初に目に飛び込んできたのは、やはり日本メーカーのティアック(TEAC)。ここでは最近の製品がズラリと並んでいたのだが、一番のお目当てはTASCAMブランドで新発表のDSDのレコーダ、DA-3000だ。1Uのラックマウントタイプのステレオレコーダ兼AD/DAコンバーターで、KORG MR-2000Sへ対抗する久々の本格的DSDレコーダー。2.8MHz、5.6MHzでのDSDレコーディングに加え、PCM 192kHzでのレコーディングも可能で、SDカード、コンパクトフラッシュに記録していく。これ単体ではステレオのレコーダとなっているが、最大4台までをカスケード接続することにより8トラックのレコーダーに仕立てることが可能で、サンプル精度での同期が行なわれるという。価格、発売時期はハッキリしないとのことだったが、最低1,000ユーロ以上で、6~7月をメドに発売したいとの話だった。

TASCAM DSDレコーダのDA-3000
SDカード/CFに記録

 さらにもうひとつ続けて日本メーカー。ズーム(ZOOM)が参考出品していたのは6トラックのハンディタイプのPCMレコーダ、H6だ。会場で配布されていたタブロイド紙、Frankfurt dailyの表紙を飾っていたH6は、かなりユニークなレコーダで本体部とマイク部を分離できる構造になっている。標準ではXYマイクが付属しているが、オプションでXLR/TRSユニット、MSステレオマイクユニット、ショットガンマイクユニットが用意されるとのことだ。5月の発売を予定しており、価格は400ユーロ程度を想定しているというから5万円程度になる模様だ。

本体部とマイク部を分離できるユニークな構造
オプションで様々なマイクユニットが用意される

21年ぶりに復活したBass Stationなど、注目のアナログシンセが続々

 今年がブームなのか、会場がヨーロッパだからなのか、とにかく会場でいっぱい見かけたのがアナログシンセ。開場前に情報がオープンになり、チェックしたいと思っていたのがNovationのBass Station II。これは90年代はじめに同社から発売されたBass Stationの新モデル。MS-20 miniが35年ぶりの復活だったのと比較すると短いけれど、21年ぶりの復活となるこの機材は多くのシンセファンの注目の的。モノフォニックで3オシレータを搭載。ちょっと弾いてみたが、フルサイズの25鍵は扱いやすい。64音色のプリセットのほかユーザー音色も64個保存できるという。2種類の効きのいいフィルターを搭載していてドラスティックにサウンドが変わっていくのはやはり楽しい。MIDI入出力およびUSB接続も可能のようで、外部からのコントロールも簡単そうだ。7月の発売が予定されており、価格は530ユーロというから、MS-20 mini、ArturiaのMini Bruteなども競合する機種になりそうだ。

NovationのBass Station II

 ドイツ・ベルリンのメーカー、MFBが出していた最新のアナログシンセ、MFB-Dominion 1はクラシカルな見た目でなかなかカッコいいデザイン。3VCO+3LFO+3EGという構成で37鍵のフルキーを装備。またアルペジエータ/シーケンサも装備している。FMモードダブルオシレータ・シンク、リングモジュレータ、12モードを持つディスクリートのSEDフィルターモジュールを装備するなどが特徴となっている。MIDI INも用意されていて外部からのコントロールも可能。価格は1,400ユーロで7月に発売されるという。

 さらに同社ではTFB-Tanzbarというアナログドラムコンピュータも展示。こちらは16音の音源を搭載すると同時に16ステップのシーケンサを搭載。144パターンを記録できるという。また2つのCV/GATEの入力を搭載しており、外部のアナログシンセからのコントロールも可能なようだ。

MFB-Dominion 1
アナログドラムコンピュータのTFB-Tanzbar

 同じくドイツ・ベルリンのメーカー、JoMoXもアナログのバスドラム音源、ModBase 09 Bass Drum Moduleおよびパーカッション音源のMod.Brane 11 Percussion Moduleを発表していた。パッドからのトリガーを入れれば鳴るというシステムになっているのだが、いずれも完全なアナログシンセとなっており、Tune、Pitch、Harmonics、Pulse、Attack、Gate Time……といった各種パラメータを自在に調整できるようになっている。またいずれもCV/GATEのアナログコントロール入力を備えるほか、MIDIの入力にも対応しているため、PCや外部のデジタルシーケンサからコントロールすることも可能となっている。

写真のユーロラックシステムの下にある2つが、ModBase 09 Bass Drum ModuleとMod.Brane 11 Percussion Module
パッドからのトリガーを入れて鳴らせることができる
Nordのブース

 アナログそのものではなく、バーチャルアナログのシンセメーカーとして広く知られるNordは今年30周年を迎えるとのことで、数多くのバーチャルアナログ音源を発表した。同社の代表的な音源Nord Leadの最新版、Nord Lead 4はこれまでのNord Leadのデザインを踏襲するもので、やはりスタイリッシュでカッコいい。

 4パートのマルチティンバーとなっており、それぞれ4系統を独立して出力できるようになっている。1ボイスにつき2つのオシレータ減算合成する方式となっており、そのオシレーターは通常の波形だけでなく、ユニークなウェーブフォームも搭載されている。また12/24dBのローパス、ハイパス、バンドパスフィルタに加え18dBと24dBのトランジスタ・ハシゴ型フィルターのシミュレーターも備えているという。ただ、価格的にはかなり高価で、1,849ユーロで5月に発売されるとのこと。また鍵盤のないラック版のNord Lead 4Rも登場し、こちらは8月に1,649ユーロで発売されるそうだ。

Nord Lead 4
Nord Lead 4R

 また叩いてみて楽しかったのがサンプリング音源を一切使っていないというバーチャルアナログドラム音源のNord Drum2。音源部分は6チャンネルのドラムシンセサイザで、6つのトリガー入力を装備。レゾナンスモデリング、減算合成、FM合成の形で音を作り出す。オプションとしてNord Padという6つに分かれたパッドが登場するが、MIDIでの入力も可能になっている。そのほかNordでは電子キーボードのNord Electro 4、電子ピアノのNord Piano 2、ステージキーボードのNord Stage 2など数多くの製品を発表していた。

バーチャルアナログドラム音源のNord Drum2
背面
オプションのNord Pad
電子キーボードのNord Electro 4

Android版FL STUDIO mobileなどDAWソフトも

 ホール5を見ていると、ハード中心であり、ソフトをあまり見かけなかったが、その中で気に入ったものを1回目のレポートの最後に2つ紹介しておこう。

 1つめはベルギーの会社Image-Line。同社のDAW、FL STUDIOは価格が安いこともあり、VOCALOIDユーザーなど日本のDTMユーザーの間でも広く使われているが、そのFL STUDIOがMusikmesse終了後の来週、メジャーバージョンアップしてFL STUDIO 11となる。もっとも見た目はこれまでと同様で、ほとんど変わらないのだが、いろいろとユニークな機能が搭載されている。

 まずはPatcherの搭載で、これにより各種モジュールを自在にマッピングしていくことが可能になる。またnovationのLAUNCHPADなどを用いてリアルタイムなプレイができるようになっているのもポイント。Windowsのタッチパネルにも対応しているから画面を直接タッチでのプレイも可能だ。さらに、新音源GMSやベースドラムなども搭載されている。既存バージョンのユーザーには従来どおり、無償でアップグレードできるのも嬉しいポイントだ。

Image-Lineのブース
FL STUDIO 11
novationのLAUNCHPADなどを使ってリアルタイムでプレイ可能
画面タッチでもプレイできる
GMSなども搭載

 そして、このImage-Lineで個人的にはさらに期待していたのがFL STUDIOのAndroid版のFL STUDIO mobile。だいぶ以前よりWebではそのデモビデオが公開されていたが、ついにリリースされる。これもFL STUDIO 11と同様に来週とのことだが、機能的にはすでにリリースされていたiOS版のFL STUDIO mobile 1.0をそのままAndroidに移植したもの。つまり現行のiOS版の2.0に搭載されたオーディオトラック機能はないが、MIDI機能、シンセ機能などは一通りすべて搭載されている。

Android用のFL STUDIO mobile
MIDI機能、シンセ機能などを搭載

 会場では、Nexus7を使ってデモを行っていたが、確かに以前に見たiOS版と同じであり、Nexus7以外でも画面サイズなどの条件を満たせばどのAndroidでも利用できるとのことだった。気になるレイテンシーも実際に触ってみたところ、ほとんど気にならないレベル。とはいえ、レイテンシーがあることは感じられるのと、iOSよりは若干大きそうだという印象は持ったが、このレベルであれば十分使えるシンセといえそうだ。なお、Image-Lineではもうひとつ、DJ系アプリのDecakdance 2.0も展示しており、これも来週発売とのことだ。

DJ系アプリのDecakdance 2.0も展示/デモされていた

 もうひとつ注目のソフトメーカー、ドイツ・ベルリンのBITWIGが展示していたのが、Ableton Liveともよく似たユーザーインターフェイスのDAW、BITWIGだ。これについては、だいぶ以前から登場がアナウンスされていたが、このMusikmesseでも正式な発売日は発表されていない。ただ、聞いたところ、年内にはリリースされるとのことで、完成には近づいているようだ。Liveと比較するとやや派手な画面だが、Windows上で動いているデモソフトを触ってみたところ、しっかりと動いている。ただ途中で落ちてしまったのを見ると、安定性がまだ乏しいということなのだろうか……。

BITWIGの操作画面

 ユニークなのは2画面で操作できることであり、使い勝手はなかなかよさそう。また、Reaktor風なDevice Editorという機能が搭載されており、モジュラージャック式で自分でシンセを作ったり、エフェクトを作るなど自在に機材が構成することができるのも魅力となっている。ちなみに、OSとしてはWindows、MacのほかにLinuxでも動作するというのも大きなポイント。主要DAWでLinuxでも動作するというものはなかったので、LinuxでのDTMに今後、注目が集まるようになるかもしれない。

2画面で操作可能
Device Editor

 以上が第1回目のmusik messeレポート。また、この後も会場を見ながら、面白い製品を見つけてレポートする予定だ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto