藤本健のDigital Audio Laboratory

第620回:手のひらPC「Raspberry Pi」にボード追加で、ハイレゾ楽曲をネイティブ再生

第620回:手のひらPC「Raspberry Pi」にボード追加で、ハイレゾ楽曲をネイティブ再生

 '14年11月の第613回記事で、手のひらサイズの小さなコンピュータ、Raspberry Piを使ってのハイレゾ再生にチャレンジしてみた。このときはハイレゾファイルを扱うところまではできたし、USB DACから音を出すことはできたが、残念ながらリサンプリングされてしまうようで、結果的には96kHz/24bitなどでネイティブ再生までは行き着かなかった。

Raspberry Pi(Model B)

 ところが、その後「Raspberry PiにVolumioを入れたらハイレゾ再生できた」といったコメントをいくつかもらったほか、知人から「Raspberry PiにドーターボードのDACをつけたら、すごくいい音で音飛びもまったくなくハイレゾ再生できるよ」という情報をもらったのだ。その知人に聞いてみたところ、今そのドーターボードは使ってないので貸してくれる、ということだったので、実際どんなものなのか試してみた。

Raspberry Piでハイレゾのネイティブ再生

 Raspberry Piは小さなボード型コンピュータではあるが、USB端子にHDMI端子、LAN端子、オーディオ出力、そしてSDカードスロットと、さまざまな端子を備えているため、これ1つで立派なコンピュータとして楽しむことができる。以前の記事でも書いたとおり、Linux系のOSを起動させてGUIで操作すれば、WindowsやMacから見てもあまり違和感のない高性能なコンピュータなのだ。

 しかもUSBだけでなく、しっかりとした拡張機能も備えている。実際、Raspberry Piのボード上にはピンヘッダ端子が用意されており、ここに接続できる周辺機器などもいくつか存在しているようだ。また、このピンヘッダとしては標準には搭載されていないものの、基板上に拡張用として用意されている端子もあり、この中にはオーディオのデジタルデータを扱うI2Sという端子も存在している。ここでI2Sに関する細かな解説まではしないが、要はUSB DACやサウンドカードなどに行く手前の段階で、サウンドICが直接扱うデジタル信号のこと。このI2S信号を捕らえて直接DACチップを通して音を出そうというのが、今回扱うドーターボードだ。

ボード上のピンヘッダ端子に周辺機器を接続して機能拡張可能

 調べてみると、これに近いコンセプトのRaspberry Pi用のサウンド系ドーターボードはいくつか存在しているようだ。その中で、今回借りたのは、new_western_elecというブログサイトで頒布している「IrBerryDAC 384k/32bit」というもの。このブログを運営しているTakazineさんが開発したRaspberry Pi用のDACで、基盤と部品類一式をキットという形で6,000円で通信販売している。ブログを見てみると、趣味で個人開発しており、作ったボードと部品類をまとめて、原価+αという価格で頒布しているのだ。安いキットという形だけに保証が得られるものではないが、結構評判はいいらしい。また高級CRオプションという2,000円のオプションもあり、こちらはコンデンサのOS-CONなどの部品を追加するもの。知人は、その高級CRオプションつきで入手したものを手元でハンダ付けして組み立てたのだという。

new_western_elecで頒布している「IrBerryDAC 384k/32bit」
アルミ缶のような銀色の部品がOS-CON

 では、それがそのままRaspberry Piにのせられるかというと、実はもうひとつハードルがある。前述のとおり、Raspberry Piの基板上にはI2Sの信号が出ているが、端子になっていないので、ここにピンヘッダを取り付ける必要があるのだ。そこで、このピンヘッダだけは別途、秋葉原で20円で購入。これをハンダ付けした上で、このドーターボードをのせてみた。

Raspberry Piの基板上に取り付けるピンヘッダを秋葉原で購入してハンダ付けした上で、ドーターボードをのせた

 見栄えもスッキリするし、高さもRaspberry Piにピッタリではあるけれど、ステレオの出力コネクタがあるため、残念ながら純正のケースには収まらない。ここは自分で工夫して専用のケースを用意するしかなさそうではあるが、とりあえず今回はむき出しのままテストすることにする。

Raspberry Piにドーターボードをのせたところ

 前回の記事でも書いた通り、Raspberry PiはSDカードにOSを書き込んだ上で、スロットに挿して電源を入れれば動作するという簡単設計。WindowsやMacのようなインストールという作業は不要で、SDカードに書き込むイメージデータを入手して書き込めばいいのだ。そしてそのイメージデータは、さまざまなものがネット上で配布されており、簡単にダウンロードできるのだが、問題は何を使うのか、という点。前回は標準のRASPBIAN(Debian Wheezy)というものを使ったが、今回は前述のnew_western_elecというサイトで配布しているものを使ってみた。いくつかのバージョンが配布されているのだが、とりあえずは、「Volumio1.5PI_IrBerry」というVolumioの最新のバージョンである1.5にIrBerryDACのリモコン機能を組み込んだものをダウンロード。こうした作業はWindowsやMacを使って行なうのだが、筆者はWindowsでダウンロードした後、Win32 Disk Imagerを使って8GBのSDカードに書き込んでみた。

「Volumio1.5PI_IrBerry」というVolumioの最新のバージョンである1.5にIrBerryDACのリモコン機能を組み込んだものをWindows PCでダウンロードして、Win32 Disk Imagerを使って8GBのSDカードに書き込んで使用

 とりあえず、これで準備完了。イマイチ状況も理解せずに、このSDカードをセットしてLANケーブル、ワイヤレスのマウス&キーボードのアダプタをUSB端子に接続して電源をオン。すると、HDMIから出力される画面には、ズラズラといろいろな表示がされていき、約1分ほど経過したところで、テキストでVolumioという表示が登場するとともにRCA端子に接続したスピーカーから起動音が聴こえた。どうやら起動成功のようだが、画面はプロンプト表示のまま。アレ? と思って、改めてVolumioについての説明を読んでみたら、そもそも、この画面は見る必要もないらしい。同じLAN上にあるPCからブラウザでアクセスして、操作するというのだ。つまり、Linuxでの操作は一切不要というわけである。

SDカードを入れてLANケーブル、ワイヤレスのマウス&キーボードのアダプタをUSB端子に接続して電源をオン
いろいろな画面表示が1分ほど続き、その後で接続したスピーカーから起動音が出た

 さっそく、WindowsでChromeを起動し、URLを入力するところに「volumio」と入れてみると、画面が表示された。そして、画面右下のBrowseというところをクリックしてみると、ネットラジオの番組一覧が表示されるので、ここから適当に選んで再生してみると、キレイな音でラジオが鳴ってくれる。ビットレートの低いネットラジオではあるけれど、想像していた以上にキレイなサウンドで驚いたが、プレイバック画面で見てみるとステレオの44.1kHz/24bitとの表示がされている。

URLのところに「volumio」と入れると画面が表示
ネットラジオを聴いてみる
ステレオの44.1kHz/24bitと表示されていた

 とはいえ、やっぱり手持ちのデータを演奏してみたいところ。調べてみると、起動したSDカードの中にWAVやFLAC、MP3などのデータを入れておくこともできるし、USB端子に接続したUSBメモリからの再生も可能であり、さらにNASやPCのHDDの中に収められているファイルにもアクセスできるというのだ。そこで、とりあえずUSBメモリにいくつかのファイルをコピーして試してみたところ、バッチリ認識され、再生することができた。さらに、PCのドライブにアクセスするには画面右上のMenuからLibraryを選択すると、ここでアクセス先が設定できるようになっている。WindowsのIPアドレスを調べると、「192.168.0.14」となっていたので、それを設定してみたところ、あっさりと認識。これでネットワーク上にある音楽ファイルなら何でも再生可能なようだ。

PCのドライブにアクセスするには、画面右上のMenuからLibraryを選択
ネットワーク内のWindows PCのIPアドレスを入力
Windows PCを認識
フォルダ内の音楽をネットワーク経由で再生できた

 ただ、一番肝心な96kHz/24bitや192kHz/24bitのハイレゾ音源に接続すると、明らかに倍速、4倍速で再生されてしまって、うまくいかない。おかしい……と思い、サイトを運営しているTakazineさんに連絡を取って聞いてみたみたところ「volumio v1.5やv1.41は RaspberryPiのModel B+に対応したもので、従来のmodel Bでは、44.1kHzは鳴るものの、ハイレゾ(96kHzや192kHz)は正常に動作しないようです。B+ではハイレゾも問題なく再生しますので、両方に対応しようとして何か失敗しているような感じだと思います」というお返事をいただいた。そこで、1.4をダウンロードして再度別のSDカードに書き込んで試してみたところ、今度はしっかり動いてくれた。筆者は、IrBerryDACの出力にヤマハのモニタースピーカー、MSP5STUDIOを接続して鳴らしてみたのだが、高級オーディオ機器か、というようなサウンドで聴くことができて、結構感激した。96kHz/24bitと192kHz/24bitの違いまでは分からなかったが、44.1kHz/16bitとは明らかに違う音であり、十分過ぎるほど満足のいくサウンドだった。

 ちなみに、ブラウザを使って操作はしていたが、プレイリスト作成もできるので、プレイリストを作って再生した後は、PC側の電源は切ってもOK。そうすれば、Raspberry Piはファンもないので、本当にキレイな音で鳴らせる環境が構築できる。この小さな機材とスピーカーさえあれば、立派なオーディオ機器が構築できてしまうわけだ。消費電力が小さいからか、長時間つけておいても本体が熱くなることもなく、暴走することもない。Linuxで動いていることもまったく意識しなくていいので、本当に便利な機材だ。

Apple Remote操作やAirPlayに対応。DSDも変換再生可能

Apple Remoteが使用可能

 このRaspberry Pi + IrBerryDAC + Volumioという組み合わせのシステムは、それだけに留まらない。実はIrBerryDACと頭に「Ir」とついているのには理由がある。これは赤外線リモコンに対応しているので、こうネーミングされているのだ。そのリモコンとはAppleが1,900円で販売しているリモコン、Apple Remote。これでPLAY、PAUSE、STOP、NEXT、PREV、VOL-UP、VOL-DOWNといった操作が可能になるからプレイリストさえ作ってしまえば、これですべて操作できるのは嬉しいところ。まさに家電機器として使えてしまうわけである。

 さらに、このVolumioにはもう一つ面白い機能が搭載されている。実は、これ、AirPlayに対応しているため、同じLAN内のWi-Fiに接続されたiPhoneやiPadなどがあれば、ここから再生することも可能なのだ。もちろん、AirPlayなのでハイレゾオーディオは扱えない(ファイルとしては再生できていたが、おそらく変換していると見られる)が、これでiPhoneから高品位なサウンドで再生できるというのは、やはり嬉しいところだ。

AirPlayでiPhoneやiPadからも再生できる
ネットワーク設定はDHCPで行なえる

 と、一通り、今回IrBerryDACというRaspberry PiのドーターボードをVolumioと組み合わせて使う方法を紹介したが、ここまでのLinuxとしての操作はまったくなかったし、そもそもNASの設定以外、何の設定もせずに動いてしまったのだが、もちろん、設定項目もいろいろとあるので、少し紹介しておこう。ネットワーク設定はIPアドレスの指定などもできるが、ここはDHCPであれば、特に触る必要もないだろう。

 System設定を見ると、I2S driverという項目がある。USB DACを使う場合は特に設定する必要はないが、IrBerryDACのようにI2Sを使うデバイスを利用する場合は、ここを設定する必要があるのだが、ここでは「Hifberry」というものを設定しておくと、利用できるようになる。また同じSystem設定の中に、AirPlayを有効にするか、DLNA Library Serverとして機能させるか、といった項目もあるので、必要に応じてONに設定しておくといいだろう。

IrBerryDACなどのI2Sを使うデバイスを利用する場合は、「Hifberry」を設定
AirPlayやDLNAサーバーの設定

 Playbackの設定では、Audio Outputの設定ができるが、I2Sの設定をすると、ここは必然的にsndrpihifiberryが設定されるようになるが、I2Sを使わない場合は、Raspberry Pi本体のオーディオ出力を使ったり、USB DACを使った設定もできるようになっている。またVolume control mixerの項目はデフォルトではSoftwareとなっており、Volumioのソフト的にボリューム調整ができるようになっている。ただし、ボリュームをいじれば当然音質は劣化する可能性が出てくる。そこでここをDisableに設定し、音量調整はアンプ側で行なえば、そうした問題を避けることができる。ただし、前述のApple Remoteを使った音量調整もできなくなってしまうので、利便性の面では落ちてしまう。この辺は音を聴いてみたうえで、好きな設定にするのがいいだろう。

I2Sを使わない場合は、Raspberry Pi本体のオーディオ出力や、USB DACを使った設定も可能
ボリューム調整は、アンプなどのハード側で行なうという設定もできる

 さらに、ギャップレス再生のYes/No、DoPのYes/No、ボリュームのノーマライズなんて設定も用意されている。DoPに関しては、USB DACでは使えそうだが、このドーターボードでは対応していないのでNOでいいはずだ。ここで、おや? と思って、DSFファイルを指定してみたところ、自動的に48kHzのPCMにコンバートされてしまったが、普通に再生できてしまったのも、なかなか気に入ったところだ。

DoPは、このドーターボードでは対応していないのでNOにした
DSFファイルは、自動的に48kHzのPCMで再生していた

 さらにResamplingという項目も用意されており、デフォルトではdisableとなっているが、これを96kHz/24bitとか192kHz/32bitに設定すると、すべての音の再生時に設定したサンプリングレートにアップサンプリングされて再生されるため、多少なりの音質向上も期待できるというわけだ。この際のサンプリングレートコンバータの精度も3段階で設定できるようになっている。

アップサンプリング機能も搭載し、3段階で設定可能

Volumioは他のUSB DACでも使える?

 以上、見てきたとおり、Raspberry Pi+IrBerryDAC+Volumioのシステムはコンパクトながら、非常に強力なオーディオ機器であることが分かったと思う。これがすべて組み上がり、Volumioの入ったSDカードも入った状態で売っていたら、結構多くの人が飛びつくのではないだろうか……。まあ、動作の保証ができるのかなどの課題はあるのかもしれないが、それでも欲しいという人は多いように思う。現在のところ、IrBerryDACはキットであるから、ハンダ付けなどの手間はかかるし、ケースを用意する必要もあるので、多少面倒ではあるけれど、だからこそ、自分だけの高性能オーディオデバイスが作れるのも事実だろう。

 なお、最後にオマケの実験として、同じSDカードのVolumioのシステムで、USB DACが使えるのかを試してみた。いったん、IrBerryDACを取り外したうえで、USB Class Audio 2.0対応のオーディオインターフェイスを取り付けて試してみたのだ。今回試してみたのは、先日紹介したTASCAMのUS-4x4。接続してみたところ、表示上認識されたのだが、音が出ない。もしかして……と思って、Volumioをv1.4からv1.5にしてみたところ、今度はバッチリ音も出る。IrBerryDACを使っている場合と違い、96kHzにしてもしっかりと動いてくれた。これなら、IrBerryDACのような特殊なドーターボードを使わなくても、標準のRaspberry Piとの市販のUSB DAC、USBオーディオインターフェイスだけでも使える。どちらの音がいいかに関しては、人によって好みは分かれると思うが、赤外線リモコンが使えないということ以外は基本的に同じ機能となるので、Raspberry Piを持っていれば、ぜひ一度試してみてもらいたい。

TASCAMのUS-4x4
Volumio v1.4では音が出なかったが、v1.5にすると使えた

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto