藤本健のDigital Audio Laboratory
第629回:コンサートのDSDライブ配信がもうすぐ開始。配布中ソフトでひと足先に体験
第629回:コンサートのDSDライブ配信がもうすぐ開始。配布中ソフトでひと足先に体験
(2015/3/30 13:00)
既報の通り、4月にソニーとインターネットイニシアティブ(IIJ)、コルグ、サイデラ・パラディソの4社が共同で、DSD 5.6MHzのハイレゾ音源でライブストリーミング配信する公開実験を行なう。その公開実験に先駆けて、3月19日よりDSDライブストリーミングのためのソフト、PrimeSeatがフリーウェアとして公開され、オンデマンドでのストリーミング配信の実験もスタートしている。実際、筆者の自宅の環境でこれが聴けるのか試してみた。
光回線で、DSDも余裕で配信できる環境。利用には対応USB DACが必要
このDSDライブストリーミングの公開実験、発表されると同時に、オノセイゲン氏から連絡をいただいて、そのことを知ったのだが、「DSDライブストリーミング」という名前から想像できる通り、なんとも贅沢な実験だ。2.8MHzとか5.6MHzという膨大なデータを使うDSDを圧縮もせずにストリーミング放送してしまうというのだから、すごい話だ。単純に考えて2.8MHzなら2.8Mbps、5.6MHzなら5.6Mbpsを必要とするわけで、実際には、誤り訂正とか制御信号とかもあるだろうから、それ以上の通信速度を必要とするわけだ。
コンサートの配信は、4月5日に「東京春祭マラソン・コンサート vol.5《古典派》~楽都ウィーンの音楽家たち」、ドイツ時間の4月11日19時より、ベルリン・フィルハーモニー・ホールで行なわれるサー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルの演奏会をライブ配信するというもの。無料配信だが、利用には、後述するソニーやコルグの対応USB DACが必要となる。
実は、この話を聞いて最初に思い浮かべたのは、1997年に公開実験をしていた坂本龍一氏のストリーミング放送だ。その内容はINTERNET Watchの記事にも残っているが、当時の通信回線であるISDNを用いて(実際には、衛星を使っての通信となった)、横浜アリーナからストリーミング放送をしようという実験だった。ヤマハのMIDIの技術とRealAudioでのオーディオ、StreamWorksでの動画を駆使しつつ、東京のレストラン会場で当時のマイクロソフト古川享氏が指揮を執りながら実験を行なっていたのが記憶に残っている。当時、筆者はその東京側の会場で、ややたどたどしいながらも、音と映像、MIDIデータがリアルタイムにネット経由で届くことに感動した覚えがあるが、それから18年。ついにDSDのストリーミングができる時代になってしまったのだ。
それにしてもダウンロードにだって、かなりの時間がかかるDSDをストリーミングなんて、本当に実現できるのだろうか? そんな疑問を持っていったところ、オノセイゲン氏から紹介されたIIJの担当者が答えてくれた。「いま、世の中は光回線が主流となってきています。そして各社とも100Mbpsだとか1Gbpsだ……といっているわけですから、5.6Mbpsくらい出なくては、誇大宣伝ということになってしまいます。それが本当であるかを確かめる上でも、今回の公開実験は意味あるものだと思います」、という。確かに、光回線であれば本来余裕ある速度であって、DSDを流す上で不足はない。まあ、マンションの共用タイプを使っていて、複数の部屋でこの公開実験に参加すると、ちょっと厳しい可能性はあるが、それでも数字上はかなりの余裕があるはずだ。
では、ユーザー側の回線速度に問題がないとしても、サーバー側だったり、途中の回線でボトルネックが生じることがないのだろうか? 「その辺に問題がないかを調べることも、今回の実験の目的の一つです。もちろん、日本中の人たちが一気にアクセスすれば、無理が生じてしまうでしょう。そのため、今回はコルグやソニーのDSD対応USB DACのユーザーに絞らせてもらっているのです」とIIJ担当者は語る。
この実験における対象機種は以下の7機種。
- コルグ DS-DAC-10
- コルグ DS-DAC-10-SV
- コルグ DS-DAC-100
- コルグ DS-DAC-100m
- ソニー USB DAC アンプ UDA-1 (Windowsのみ)
- ソニー ポータブルヘッドフォンアンプ PHA-2 (Windowsのみ)
- ソニー ポータブルヘッドフォンアンプ PHA-3 (Windowsのみ)
ユーザー側は、コルグが開発したPrimeSeatという専用のソフトウェアを利用して聴くのだが、このPrimeSeatが、これら7機種を認識し、それらが見つかると動作する仕組みとなっている。したがって、リアルタイムにPCM変換して他機種で再生するとか、他社のDSD対応のUSB DACを使って再生するといったことはできない。
まずは専用ソフトを準備
さて、そのPrimeSeatが公開実験よりも、かなり早い3月19日にリリースされた。筆者の手元にも以前購入したコルグ DS-DAC-100があるので、これを使って実験してみることにした。システム環境はWindows 8.1のマシンにコルグの最新のドライバをインストールしたもの。また通信回線は、auひかりホームというものを使っているので、下りは最大で1Gbpsが実現できることになっている。
PrimeSeatのインストーラのファイルサイズは18.1MBなので、すぐダウンロードできる。これをインストールしていくと途中で「PremeSeatはDSD Live Streamingの実験用に開発中のベータ版であり、欠陥が含まれていることが考えられます」といったメッセージも出てくるが、もちろんそうしたことは理解の上なので、そのままインストール作業を続けると、すぐに完了。さっそく起動してみると、PremeSeatが起動し、英語表記での画面が表示される。日本語に切り替えると「東京春祭マラソン・コンサート vol.5開催日まで あと 8日」というメッセージが表示されるとともに、PrimeSeatの使い方に関する情報などが表示される。この手順に従って設定を行なっていくが、すでにDS-DAC-100のドライバをインストールしてある状態でPrimeSeatをインストールしたので、実はもう何もすることはないのだが、一応設定画面を見てみよう。
画面右上の「Audio Setting」を選択すると、設定画面が出てくる。上から順に確認していくと、まずDevice Typeは「ASIO(DSD Mode)」となっており、選択の余地はない。また次のDevice Nameには「KORG USB Audio Device Driver」が選択されており、ここにはDS-DAC-100しか接続されていないために、これも選択の余地はないようだ。試しにDS-DAC-100を外して、別のASIOドライバのオーディオインターフェイスを接続してみたところ、「ASIO(DSD Mode)のデバイスは存在しない」ということのようで、認識されないようだった。
続いてSample Rateは「Auto」がオンになっているので、そのままに。こうすることで、PremeSeatがアクセスしたコンテンツによって自動的にサンプルレートが切り替わるようになる。「Auto」をオフにすると、5.6MHzか2.8MHzかを手動で選択する形になるのだ。バッファサイズは、ここでは設定ができないようだ。これはドライバ側の設定によって決まるものであり、「Show Control Panel」をクリックして見てみると、ASIOドライバの設定画面が現れ、この中に「Streaming Buffer Size」、「Asio Buffer Size」のそれぞれがある。デフォルトではそれぞれ、「Large」、「Maxmum」となっていたので、「180,608」という数値が表示されていたが、レイテンシーを小さくする意味はあまりないと思われるので、「Streaming Buffer Size」は「Safe」に設定してみた。
この変更で、すぐにPremeSeat側の表示は変わらなかったが、PremeSeatを再起動させた結果、ドライバで表示されていたのと同じ結果になった。そして、一番下のOutput Ch.も、DS-DAC-100が2chの仕様であるため、とくに選択することはできないようだ。
テスト配信のコンテンツを再生。途切れず再生できる理由とは?
ここまで、特別な設定をしたわけでもないが、準備が整ったので、画面右上の▽印をクリックしてみた。すると、コンテンツの一覧が表示される。頭に「Live」とついた上の4つが公開実験本番でのものとなるが、試しに、一番上の「Tokyo-HARUSAI Marathon Convert(DSD 5.6MHz)」を選ぶと、さらに「JAPAN」、「ASIA」、「US」、「EU」の4つの選択肢が現れる。ここではJAPANを選んでみたが、当然のことながら、いま放送はされていないので、「Can't open audio stream.Please try again later.」というエラー表示がされるだけだ。
ではオンデマンドのデータの場合はどうだろうか? 「Bar del Mattatoio」を「JAPAN」で選んでみると、1、2秒読み込みの表示がされた後、準備が整う。ここで画面右下のプレイボタンを押してみると、再生がスタートする。聴いてみると確かに、非常にクリアなDSDのサウンドだ。このオンデマンドのデータはすべてオノセイゲン氏提供のものとのことだが、本当にストリーミングで鳴っているようなのだ。
試しに「LYNX FUGA」の2.8MHz、5.6MHz、そして「Amazon Forest Moning」の2.8MHz、5.6MHzを「JAPAN」を選択して鳴らしてみたが、ローカルにアクセスしているのと、ほとんど違いがないほど、まったく問題なく再生することができた。では、「ASIA」や「US」、「EU」を選んだ場合はどうなのだろうか? いずれも、最初の読み込み時間が5秒程度かかったが、「ASIA]、「US」はとりあえず問題なく最後まで再生することができた。しかし「EU」の場合は途中で音が途切れるという事態が発生してしまった。どうやらヨーロッパからの転送速度が、DSD再生速度に追いつかなかったようで、バッファが切れてしまったようなのだ。一度途切れると、再度プレイボタンを押す必要も出てくる。とはいえ、日本のサーバーにアクセスしている限りは、まったく問題なく、快適に再生可能なことは確認できた。
では、この再生時間中、ずっと5.6Mbpsでデータストリームが流れてきているのだろうか? ちょっと気になったので、Windowsのタスクマネージャーを起動し、そのパフォーマンスにおいて「イーサネット」を選択し、再生しながら通信状況を見てみた。すると、オンデマンドのデータを選択し、接続がされた直後から38Mbpsといった高速でのダウンロードが行なわれる。その後しばらくすると、1曲分まるごとダウンロードを終えてしまうようで、曲後半はまったくストリームが流れることがなく、再生だけが続いていった。まあ、これだけのバッファで余裕を持たせているということなのだろう。そう考えると、実際のライブ放送においても、リアルタイム配信とはいえ、数十秒から数分のズレはあるかもしれないが、このオンデマンドでの放送を見る限り、まったく問題なく聴くことができそうだ。
本番のライブ放送は、4月5日と4月11日。コルグやソニーの対象のUSB-DACを持っているなら、ぜひ、この実験に参加してみると楽しそうだ。筆者は5日、放送現場を取材してみる予定だ。
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