藤本健のDigital Audio Laboratory

第653回:Android 6.0でオーディオ/DTM機能はどう変わった? ハイレゾやMIDI対応をチェック

第653回:Android 6.0でオーディオ/DTM機能はどう変わった? ハイレゾやMIDI対応をチェック

 既報の通り、Android 6.0 Marshmallowが9月30日に発表され、10月6日よりアップデートの配信がスタートした。またAndoroid 6.0をプリインストールした新機種、Nexus 6PやNexus 5Xも10月下旬より発売が開始される予定だ。オーディオやDTM関連の機能で、変化があったかどうかをチェックした。

Android 6.0 Marshmallow

 今回のバージョンアップで、指紋認証によるロック解除をOSでサポートしたほか、4Kディスプレイモードなども搭載した一方、MIDIもサポートしたとのこと。オーディオ機能、DTM機能では大きく差がついているiOSに追いついてきたのだろうか? アップデートした端末を触って試してみた。

AndroidのUSB Class Audioやハイレゾ対応に変化は?

 前バージョンであるAndroid 5.0 Lollipopがリリースされたのが昨年11月だったので、1年弱でのメジャーバージョンアップ。LollipopではUSBオーディオとの接続がサポートされたという点では大きな進化があったが、USB Class Audio 1.0の対応であり、最高でも48kHzまでの音しか再生できないという状況だった。

 もちろん、これはOSレベルでの話であり、ウォークマンをはじめ、各社からハイレゾ再生を実現する専用端末はいくつも登場してはいた。ただ、多くのAndroid搭載機器で、WindowsやMac、iOSのように誰でもがハイレゾを楽しめるという状況ではなかったので、これがどうなるのか、というのが気になるところだ。まあ、WindowsもOS自体はWindows 10になってもUSB Class Audio 2.0対応はしていないわけだが、オーディオインターフェイス/USB DACメーカー各社がドライバを出し、アプリケーションもそれに対応しているので、まったく問題なく使えるわけで、Androidとはまったく事情が異なる。

 一方、OSがMIDI対応するとなると、iPhoneやiPadのように楽器として使えるようになるのではと期待も高まるところだが、実際どうなっているのだろうか?

 Android 6.0がリリースされるというので、手持ちのNexus 10をアップデートして試してみようと期待していたのだが、よくチェックしてみると、アップデートに対応しているのはNexusシリーズでは、Nexus 5、Nexus6、Nexus7(2013)、Nexus9、Nexus Playerとなっており、Nexus7(2012)およびNexus 10は対象外。誕生から2年半経過しているので、この進化の速い世界においては仕方ないのかもしれないが……。Nexusシリーズが音楽系で魅力的な機器になっているのであれば、新機種も喜んで購入するところだが、これまでのところは、まともに使えるものではなかった。そこで今回は、編集部にあったNexus 5を借りてチェックすることにした。

Nexus 5(左)とNexus 10(右)

 手元に届いたNexus5はすでにAndoroid 6.0にアップデートされていたので、使うにはGoogleのアカウントをセッティングし、必要なアプリケーションをインストールするのみ。さっそくセットアップし、まずは一番気になる「USB Class Audio 2.0に対応したのか?」という点からチェックしてみた。NexusシリーズなどのAndroid機器においてUSB機材を接続するには、Android側をUSBホストとして機能させるためのOTG(On The Go)ケーブルが必要になる。これを使って、USB Class Audio 2.0対応のオーディオインターフェイスであるSteinbergのUR242を接続してみたところ……、残念ながら認識することはできなかった。

アカウント設定
OTGケーブルで接続

 ほかにもTASCAMのUS-2x2、ティアックのUSB DACであるUD-301などを接続してみたが結果は同様。やはりUSB Class Audio 2.0対応にはなっていないようだった。ただし、完全にダメというわけではない。以前、第623回の記事でも書いた、ONKYOのアプリ、「HF Player」および、ロック解除のための「HF Player-Unlock Key」を1,000円で購入しておくと、これらのデバイスが利用可能になるのだ。

USB DAC「UD-301」と接続してHF Playerで再生

 まず上記に挙げたUSB Class Audio 2.0対応機器をOTGケーブル経由でNexus 5に接続すると、すぐに、「アプリ HF Player にUSBデバイスへのアクセスを許可しますか? 」というメッセージが表示される。ここでOKをすれば、もうHF Playerでこれらの機器を認識することが可能になる。実際にHF Playerを使って96kHzのデータを再生すれば、96kHzで音が出せるし、192kHzのデータを再生すれば、192kHzで信号が渡せる。このことは、UD-301のインジケータを見ても確認することができる。また、HF PlayerでDSDの出力形式をDoPに設定しておけば、DSDネイティブでの再生も可能だ。

HF PlayerにUSB機器へ接続を許可
192kHzなどのハイレゾ再生も可能
UD-301のインジケータでハイレゾ再生を確認
DoPに設定すればDSD再生も可能

 もっとも、これらはAndroid 6.0の機能ではなく、HF Playerが行なっているものであり、Android 5.0でも同様のことはできていたので、今回の進化点というわけではない。そのためAndroid標準アプリであるPlayミュージックなどで、これらUSB Class Audio 2.0対応機器を使うことはできないのだ。

 このほかにも、HF Playerと同様のことができるアプリとして、ラディウスのアプリ「NePLAYER」(1,800円)があるので、これを購入して試してみた。しかし残念ながらNexus 5においては、うまく動かすことができなかった。NePLAYERのオープニング画面が出ている状態で、USBオーディオ機器を接続すると、「外部機器が接続されました」というメッセージまでは出る。これでうまく行くかなと思って次に進もうとすると、強制終了してしまったのだ。もしかしたら、何かのアプリとバッティングしているか、Nexus 5との相性が悪いということなのかもしれないが、いろいろ試してもうまく動かすことができなかった。

ラディウスのハイレゾ再生アプリ「NePLAYER」を購入
「外部機器が接続されました」というメッセージを表示
次に進むと、強制終了してしまった

MIDI関連で新機能は?

 では、もう一方のMIDIのサポートというのはどういうことなのだろうか? 改めて、Googleの発表文を読んでみると、「android.media.midi」というAPIをサポートしたということのようだ。ということは単純に考えると、このAPIに対応したアプリが登場してこないことにはユーザーにとって目に見えるメリットはない。そもそも、Android 5以前からUSB-MIDIデバイスに直接アクセスして利用するアプリはあったわけだから、こちらも目新しいことはなさそうに思えるが、ちょっと試してみた。

 まずは、以前から対応しているHeat Synthesizerというアプリを起動した上で、やはりOTGケーブル経由でUSB-MIDIキーボードであるコルグのnanoKEY2を接続すると、HF Playerのときと同様のメッセージが表示される。ここでOKをした上で、キーボードを弾いてみると、このシンセサイザを演奏することができる。Android 4時代から不思議とレイテンシーが非常に小さいソフトウェア音源であったが、ますますよくなっている感じがする。これを触っている限りはiOSとそん色なく感じるほどだ。

コルグのnanoKEY2を接続
接続した際のアプリ画面の表示
接続したキーボードでシンセサイザを演奏できた

 また、MIDI入力信号をモニタリングするためのUSB MIDI Monitorでも同じように、nanoKEY2を使うことができ、その信号をチェックすることができた。

USB MIDI Monitorでも、nanoKEY2を使うことができた

 さらに試してみたのはChromeだ。現在WindowsやMac上で動くChromeはWeb MIDI APIというものに対応したため、これをサポートしたWebアプリを利用すれば、ブラウザを楽器とすることが可能であり、ChromeがUSB-MIDIデバイスを認識して利用することが可能になっている。たとえば、この連載でも何度が登場していただいている、スマイルブームの藍圭介氏が開発したWeb Audio Synth V2などが面白い例だが、ここへNexus 5のChromeからアクセスするとどうなるかを試してみた。このWebアプリを動かすにはやや重い感じではあったが、やはり前述の2つのMIDIアプリと同様にこれも使うことができた。ここで表示されたメッセージからもわかる通り、やはり新しいMIDIのAPIが機能しているのではなく、Chrome自体がUSB-MIDIを認識するために、実現しているものであり、やはりAndoroid 5.0上でも同じことができたのだ。

Chromeから、Web Audio Synth V2を利用できた

 いずれも従来のバージョンと同様で特に変化はないし、ほかのソフトシンセなどを触ってみたが、結果は同様。もともと、これら外部のUSB-MIDIに対応していなかったアプリで使うことはできないのは、新APIに対応していないからであって、ここは今後に期待するしかない。

MusicアプリでMIDI再生は可能

 iOSにおけるGarageBandのようなアプリをGoogleが作っていれば、それがすぐに対応してくれそうだが、今のところそうしたアプリは存在しないから、サードパーティーに期待するしかなさそうだ。ただ、ここでふと思ったのは、音楽プレーヤーであるPlayミュージックでMIDIファイルの演奏ができるのかということ。

 考えてみれば、これまで自分では試したことがなかったので、PCからMIDIファイルをUSBで転送し、WAVやMP3、FLACなどを入れるのと同じMusicフォルダに置いてみた。結果的にはMIDIファイルも一般のオーディオファイルと同様に再生することができ、GM Level1での再生ができることまでは確認できた。ここで試しにAndoroid 5.0のままであるNexus 10で同じテストをしてみたところ、こちらでもまったく同じ音色で、同じ再生ができたので、Android 6.0での機能ではないようだ。

PC連携では新機能が今後使える可能性も?

Nexus 5をPCとUSB接続したときの選択画面に「MIDI」がある

 やっぱり、音関連で、今すぐ確認できる新しい機能は何もないのか……とガッカリしていた中、見つけたのがPCと接続した際に出てくるメッセージだ。Nexus 5の場合、PCとUSB接続した場合、USBは充電でしか利用されない。ファイル転送を行なうためには、「ファイルの転送(MTP)」モードに設定する必要があるのだが、そのモード切替の選択肢の中に「MIDI」というものを発見したのだ。これを選ぶとどういうことになるのだろうか? さっそく試してみた。

 ここで実験したのはPC側でDAWを起動するとどう見えるのか、という点。Cubaseを使ってチェックしてみたところ、MIDIの入出力デバイスとしてNexus 5が見えた。つまり、これに対応したアプリがあれば、PCから見た外部音源として利用することもできるし、反対にNexus 5上に表示される鍵盤を弾くことで、PCへレコーディングしたり、音源を鳴らすことができるというわけだ。

Cubaseから、MIDI入出力デバイスとしてNexus 5が見えた

 ただし、残念ながら現時点においては、この新しいMIDIのAPIに対応したアプリがないので、特に何もすることはできないというのが実情。おそらく、単純にこのAPIを叩いてMIDIの入出力をするプログラム作れば、すぐにPCとの連携も可能になりそうなので、近いうちに何らかのアプリが登場してくるのでは……と期待している。その一方で、USB Class Audio 2.0対応もAndroidの重要な課題だと思うので、ぜひ早いサポートを望みたい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto