第117回:“VIERAシリーズ最高画質”は本物か?
~成熟のプラズマ。パナソニック「TH-P42V1」~
日本の競合メーカーがプラズマテレビから離脱していく中で、毎年、充実の製品ラインナップを展開してくるのがパナソニックのVIERAシリーズだ。いまやもう「プラズマ=パナソニック」と言っていいだろう。
今年、2009年春もプラズマVIERAは順当に新モデルが投入されている。薄型かつWireless HDにも対応するZシリーズなど新提案も行なわれているが、今回は「VIERAシリーズ最高画質」をうたうVシリーズからf、売れ筋と思われる42V型の「TH-P42V1」を取り上げる。
■ 設置性チェック ~軽量化により42インチプラズマが29kgに!
42V型の「TH-P42V1」。今期から製品名の命名規則が変わった |
V1シリーズは42V型、46V型、50V型の3サイズからなり、基本機能は全サイズ共通である。本稿では42V型の「TH-P42V1」を評価したが、画面サイズに起因する機能以外についてのインプレッションは他の画面サイズでも共通と捉えてもらっていい。
TH-P42V1の設置スタンドを含む奥行きは約33cm。一般的なテレビ台であれば問題なく設置可能なはず。ただ前モデルのTH-42PZ800もそうだったが、スタンドの背が低い印象がある。スタンド底面からディスプレイ部底辺までわずか約4cm、映像表示面までも約13cm。背の低いテレビ台やAVラックに設置したときには映像が視聴位置よりも下に来るような感じになってしまう。
表示面は光沢処理されているため周囲の情景が映り込みやすい | 撮影者の姿がうっすらと見える |
ディスプレイ部のみの外形寸法は105.2×5.5~8.4×66.8cm(幅×奥行き×高さ)で「奥行き2インチ(約5.08cm)」をウリにする。ただ、最薄部が5.5cmなだけであり、底辺部の奥行きは8.4cmなので、側面を見た場合には「超薄型」という印象はない。
重量はディスプレイ部だけで約26kg、スタンド部を含んでも約29kgとなっており、ずいぶんと軽量化が進んだ。昨年モデルのTH-42PZ800がスタンド込みで約37kgだったことを考えると20%以上、約8kgも軽量化がなされたことになる。今回の設置に際しては、2階までは箱ごと筆者ともう1人の成人男性だけで運ぶことができ、ディスプレイ部を持ち上げてのスタンド部との組み立ては、1人で行なえた。プラズマの重さは同画面サイズ液晶テレビにだんだんと近づきつつあるようだ。
最薄部5.5cmだが、全体の約2/3は8.4cmなので“超薄型”というほどでもない | 額縁が同画面サイズ液晶と比較するとだいぶ広い |
設置後の印象として、42V型のわりには画面があまり大きく感じられなかったのだが、これは、同画面サイズ液晶と比較して、外周の額縁部分の幅が広いための錯覚からくるもののようだ。額縁部の広さは左右で約6cm、上が約5cm、スピーカーを内包している下側に至っては、ディスプレイ部下端から映像下辺までが約10cmもある。同画面サイズ液晶と比較すると、狭額縁化に関してはプラズマはまだまだ液晶に及ばない。
標準添付されるスタンドは左右±10°のスイーベル機構付き。手でちょっとだけ力を入れて押せばすっと回転する。
純正オプションとして、スイーベル機構を省いた背の高い(102.4mm)スタンド「TY-WS4P2」(79,800円)が発売されたほか、AVラックと2.1chスピーカを一体化したシステムラック「SC-HTX7-K」(実売10万円前後)も発売されている。壁掛け設置金具としては「TY-WK4P1R」(26,250円)が用意された。こうした、ユーザーの多様な設置スタイルに合わせたオプション設定は、パナソニックは相変わらず充実している。
TY-WS4P2 | TY-WK4P1R | SC-HTX7-K |
定格消費電力は484W。昨年モデルのTH-42PZ800が492Wだったので、若干下がってはいるものの相変わらず高い。ただし、年間消費電力量はPZ800の386kWh/年から、200kWh/年とかなり改善されている。
動作音については、映像表示面に近づくと聞こえるが、視聴距離を1mも取れば聞こえないので、実害はないといっていいだろう。背面上端には4基の冷却ファンが横並びで設置されており、稼働時はほぼ常時回転するが、ここのファン回転ノイズは聞こえない。ただし、背面側のボディは相当、熱を持っており、排気された空気も暖房器具並みに暖かい。その意味では冬場の使用はいいが、夏場の使用は空調に気をつけたほうがいいかもしれない。
この他、設置性関係で特記しておきたいのは寿命について。公称10万時間を謳っており、平均的な薄型テレビが6~7万時間ということを考えると、30%以上の長寿命が実現されていることになる。これは蛍光体の改良と発光プロセスの改善によるものだとされている。高い買い物なだけに「長寿命」というキーワードは、この時勢では高い訴求力を発揮しそうだ。
背面上部には冷却ファンが設置されている。ファンノイズは全く気にならないが、背面全体は相当熱くなる。視聴中は部屋が暑くなるほど |
■ 接続性チェック ~HDMI入力は4系統。D端子は1系統に削減
接続端子は昨年モデルから微妙に変更されている。メインの接続端子パネルは背面にあるが、昨年モデルにあった前面下部の接続端子パネルは廃止され、その代わりに正面向かって左側面にHDMI入力などの接続端子部が設けられている。
側面にHDMI入力などを装備 | 背面接続端子部。アナログビデオ系入力は削減 |
HDMI入力は全4系統で、背面に3系統、側面に1系統が実装されている。側面の抜き差ししやすいHDMI入力端子はゲーム機やビデオカメラを接続するのに便利そうだ。DeepColorやx.v.Color、1080/24pフォーマットにも対応している。ビエラリンクにも対応しているので、DIGAをはじめとしたパナソニック製AV機器との連係動作も可能となっている。
アナログビデオ入力系は、さらに統廃合が進んでおり、去年モデルまでは2系統あったD4入力端子は1系統に削減された。
コンポジットビデオ入力端子はビデオ入力1~3として全3系統あるが、ビデオ入力1については前出のD4入力端子と排他使用になる(どちらか一方を使っていると他方は使えない)。また、ビデオ入力2と3はS2ビデオとの排他使用となっている。ビデオ入力2は背面に、ビデオ入力3は側面に配される入力系統となり、全アナログビデオ入力系統に対してはアナログ音声入力端子(RCA)もペアで実装されている。
PC入力端子は側面側のサブ端子パネルに配される。端子としてはアナログRGB入力対応のD-Sub15ピン端子となっている。PC側からの音声入力にも対応するが、これは同じく側面のアナログビデオ入力3の音声入力端子と兼用となる。このPC入力端子を使ってのフルHD、ドットバイドット表示はサポートされない。このPC入力端子を用いてのアスペクト比を維持してパネル全域を用いて表示できる最大解像度は1,366×768ドットだ。
もちろん、DVI-HDMI変換コネクタ等を用いたPCとのHDMI接続は可能で、実際に筆者のNVIDIA GeForce GTX280ベースのPCと接続したところ、1,920×1,080ドットのドットバイドット表示が正しく行なえていた。
しかし、工場出荷状態ではオーバースキャン表示されてPC画面のデスクトップ外周がクリップアウトされて表示されてしまう。これを回避してPCディスプレイ的なアンダースキャン表示にするためには[メニュー]ボタンでメニューを開き、「設定する」-「画面の設定」から、「HD表示領域」を「標準」(オーバースキャン)から「フルサイズ」(アンダースキャン)へと変更する必要がある。
筆者宅での実験ではRGB出力設定したPLAYSTATION 3(PS3)とPCのいずれの場合も、映像を16-235のビデオ階調で受けてしまい、暗部が潰れた画調になってしましっていた。たとえば、PS3用ゲームソフト「Killzone2」の初起動時に促される階調調整メニューでは「薄暗いロゴが見えるまで輝度レベルを上げよ」という指示があるのだが、本機ではPS3側の輝度設定を最大に上げてもロゴは見えない。これはHDMI階調レベルが誤認されているためで、PS3側のシステム側のRGB出力設定をリミテッドに設定しなければならない。
競合他社の液晶テレビでも対応が進みつつあり、同じパナソニック製品でも「TH-AE3000」などのプロジェクタ製品では「HDMIビデオレベル」という、階調レベルの設定項目があるだけに惜しい。是非とも次期モデルには対応をお願いしたい。なお、現時点ではVIERAとのPCとのHDMI接続は正しく階調が表現できないため、おまけ機能程度に捉えておくべきだろう。
出力系端子としてはモニター出力端子を装備。内蔵テレビチューナの映像を、SD品質にてコンポジットビデオ/S2ビデオのどちらかで出力できるので、外部ビデオ録画機器で本機からの映像を録画したい場合に活用することになる。なお、i.LINK端子はない。
アクトビラ・ビデオ・フルに対応 |
デジタル放送からのサラウンドサウンドを外部AVアンプ等にデジタル出力するための端子として、光デジタル音声出力端子も備えている。
アクトビラに対応するためEthernet端子も備えており、アクトビラ最上位規格の「アクトビラ・ビデオ・フル」に対応している。そして、本機はさらに、YouTubeにも対応を果たしている。この機能の解説と使用感についての詳細は後述する。
この他、細かい点でいうとアンテナ端子が下方向から上に向かって挿す一般的な方式ではなく、背面に対して垂直に挿すタイプへと変更されている。アンテナ端子の抜き差しの機会はそう多くないとは思うが、本機では、背面に回らずとも、手探りだけで抜き差しができるようになっていて便利だ。
SDカード内のJPG映像を大画面でスライドショー再生可能(写真はサムネイル画面) |
SDカードスロットは、前モデルまでは前面にあったが、本機では側面へと移設されている。SDカードに記録されたデジタルカメラ写真、SD-Video規格1.2準拠のMPEG-1/2動画、あるいはAVCHD規格のMPEG-4 AVC/H.264動画(音声はドルビーデジタルのみ)の再生に対応している。
SDカードスロットの動作保証容量は前モデルから拡張され、最大16GBまでのSDHCカードに対応。JPEGファイルを適当に入れたSDカードの写真閲覧を実際に試してみたが、なんの問題もなく認識。プレビュー速度も速く、表示品質も良好できびきびしていて実用度は高いと感じた。撮ってきた写真の閲覧であればPCを起動してからよりも手っ取り早くて便利だ。
■ 操作性チェック ~YouTubeをVIERA画質で楽しめる!
リモコンの基本デザイン自体は、ここ数年のVIERA用のものとほぼ同一形状 |
リモコンは縦長で、船のように底面を絞り込んだ形状をしており、持ったときに十字キーに親指が自然といくように人差し指を乗せるくぼみを底面に設けたエルゴノミックデザインとなっている。
リモコン、そして基本的なメニュー設計は昨年紹介したTH-42PZ800とほぼ同一なので、メニュー上の各機能の紹介、基本的な操作系の使用感については42PZ800の回を参照していただきたい。本稿では、TH-42PZ800からTH-P42V1にて変更された部分についてのみ紹介する。
まず、リモコン周りで異なっているのは、左に張り出した部分のデザインの部分だ。張り出し部分のところのボタンの数が従来の4個に対し、6個と増えており、少々ごちゃごちゃしてきてしまっている。メニュー起動ボタンが前モデルまでは十字キーの上にあったのに、本機ではこの張り出し部分の小さいボタンに追いやられてしまった。メニューの起動とメニュー操作の十字キーが離れてしまったので先代までのVIERAに使い慣れているとかなり戸惑う。なお、先代までメニュー起動ボタンだったところには後述の「らくらくアイコン」起動が割り当てられている。
画面アスペクト比の切り替えボタンの[画面モード]ボタンもリモコン上部から姿を消しており、リモコン下部の蓋を開けた場所に移動している。こうした操作の根幹を変えるならばリモコンのデザインの方を新調すべきだったと思う。
さて、その新機能の「らくらくアイコン」だが、これは使用頻度の高いと思われる機能をアイコン化して画面下部に並べてくれるもの。機能のイメージをイラスト化して示してくれるため、直感的に探したい機能にたどり着ける。新搭載のYouTube視聴機能を活用したい場合も、らくらくアイコンから「テレビでネット」を選択してその先の「アクトビラ」「パソコン」「YouTube」の三択アイコンから「YouTube」を選択することでたどり着ける。操作レスポンスはそこそこきびきびしており優秀。
「らくらくアイコン」機能 |
電源オンから地デジ放送の映像が表示されるまでの所要時間は約6.5秒。最近のテレビ製品としては標準的な待ち時間だ。
入力切換はリモコン最上部の[入力切換]ボタンを押すことで開く接続端子一覧メニューから、希望の入力名に対応するチャンネルボタンを押すことで選択する2ストローク操作を採用する。入力切り替え所要時間はHDMI→地デジ放送で約2.0秒、地デジ放送→D4で約1.0秒、地デジ放送→HDMIで約1.0秒であった。まずまずの速さと言ったところか。
アスペクト比切換は[画面モード]ボタンを押して順送り式に行なう方式で、押した瞬間に切換が終了する。とても高速だ。なお、サポートされるアスペクトモードの種類はPZ750の時から同じなので、各モードごとの解説は本連載のPZ750の回を参照してほしい。
画調調整機能についても、TH-42PZ800から大きな変更はない。画調パラメータは、プリセットを直接エディットすることもできるが、プリセット画調モードは全入力系統で共有されるメモリ管理方式も従来機と同じ。VIERAでは、ユーザー画調モードのみ各入力系統で個別に管理され、プリセット画調モードはグローバル設定として調整結果が全入力系統に影響する。ここはVIERA特有の管理方式として新規ユーザーはあらかじめ知っておきたいポイントだ。
ルート・メニュー | 画質の調整(1/2) | 画質の調整(2/2) | テクニカル | 音声の調整(1/3) |
番組を探す/予約する | 設定する | 画面の設定 | 機器を操作する | インフォメーション画面 |
TH-P42V1はデジタルチューナとアナログチューナが一基ずつしか搭載されていないが、「簡易2画面機能」と銘打たれた「2画面機能」を搭載している。チューナが一基ということもあり、組み合わせはかなり限定されており、デジタル放送とアナログビデオ入力系統の組み合わせ時にのみ親子関係を交互に入れ替え可能。HDMI入力を絡めた場合は親画面がHDMI入力、子画面がデジタル放送に限定されている。アナログ放送を絡めた2画面表示は出来ない。
2画面の表示方法は、画面サイズこそ大小二段階切換が出来るものの基本的にはサイド・バイ・サイドの横並べ方式にのみ対応し、ピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)はサポートされない。とはいえ、ゲームやPCをしながらのスポーツ中継チェックといった用途には十分使える機能ではある。
サウンドについても触れておこう。TH-42PZ800では3Wayステレオの総出力36Wというテレビ内蔵にしては贅沢なサウンドシステムを内蔵していたが、TH-P42V1ではフルレンジユニットの総出力20Wという、いかにもテレビスピーカー的なスペックになってしまった。ただし、普通のテレビ番組視聴において力不足と感じることはなかった。画面下部の左右にスピーカーを埋め込んだアンダースピーカーデザインながら、音の定位感はしっかりしているし、人の声で多用される中音域の解像度も高い。なお、本機に内蔵されるスピーカーユニットは竹繊維を採用している。
デフォルト状態の電子番組表 | デフォルトでは7チャンネル表示だが、最大で19チャンネル表示も可能 | 19チャンネル表示はこんな感じになる |
目玉の新機能、YouTubeの使用感についても触れておこう。
TH-P42V1のYouTube機能は、インターネット動画サイトのYouTubeへのアクセスと動画の視聴をサポートするものだ。TH-P42V1からの直接の動画のアップロードは出来ないが、YouTubeサイトにアップロードされている動画の視聴機能に関してはかなり本格的なものが実装されている。
YouTubeアカウントを取得していない場合は、メインメニューからの各ジャンルのお勧め動画を見られるだけだが、取得済みのYouTubeアカウントでログインすれば、見たい動画をキーワードから検索することもできる。
「らくらくアイコン」メニューから「テレビでネット」を選択 | 「YouTube」を選択 | 「YouTube」メニュー画面 |
再生中の映像は、画面全域を使ったフル画面表示に切り換えることもでき、さらに、MPEGノイズリダクションなどのVIERAの高画質ロジックを適用して見られるので、PCで見るよりも幾分高画質に楽しめる。サウンドもTH-P42V1のスピーカで再生されるため、ノートPCの内蔵スピーカで聴くよりは数倍は高音質で楽しめる。また、ピックアップしたYouTube動画を連続して再生させることも出来るため、YouTube動画を環境ビデオ的に流しっ放しにすることも可能だ。
テレビ放送や番組表と連携させたYouTune活用は出来ていないので、「PCではなく、あえてテレビで見ることの意義」という部分については、現時点ではあまり価値が見いだせてない。しかし「テレビの1チャンネルとしてYouTubeを持ってきた」という意味においては、ユニークだし、その完成度は高いと思う。
YouTube機能で1つ不満があるとすれば、動画の検索キーワード入力にキーボードが使えない点だ。REGZAなどではウェブブラウザでの検索キーワード入力用にUSBキーボードをサポートしている製品もあるので、YouTube機能をより使い勝手のよいモノにしていくつもりならばVIERAでもキーボードの対応が欲しいところ。
■ 画質チェック ~圧倒的なコントラスト感と暗部描写力。VIERA最高画質は伊達じゃない
今期のプラズマVIERAは「NeoPDP」と呼ばれる新世代パネルを採用していることがトピックとなっている。
フルHDプラズマは液晶に比べて画素開口率が低いため、輝度を稼ぐためには発光効率の改善が必要だった。NeoPDPでは画素に封入する希ガスのレシピを改良し、発光効率を2倍に高めている。また、映像パネル表示面側の前面ガラス基板側の保護膜層に新素材を採用して駆動電圧を低減。新レシピの希ガスでは従来の保護膜層では駆動電圧が上がってしまうところをなんとか従来機並みに押さえ込めているのはこの新保護膜層の恩恵だ。
また、プラズマはサブフィールド法と呼ばれる時間積分的な階調生成を行なっているが、このサブフィールド周波数を480Hzから600Hzへと増加させている。これにより従来パネルよりも、なめらかな階調表現が出来るようになる……という算段だ。
画素の分離感はなくとても美しい |
実際の表示映像を見てみたが、輝度に関してはやはり同画面サイズの液晶と比較するとやはり暗い。天井に蛍光灯照明がある部屋では特にそう感じるかも知れない。プラズマの場合はピーク輝度でコントラストを稼げるデバイスではなく、実際画作りもそういう傾向ではないので仕方がないのだ。
ただし、暗室環境に近い状態にして見ると、表示映像はとたんに美しさを増す。
とにかく暗部階調の表現力がすごい。黒は薄明るくグレーに発光せず、視聴環境の部屋の暗さに沈み込むような暗さとなっている。
そしてこの漆黒から立ち上がる暗部階調表現も素晴らしい。プラズマは黒は黒くできても、そこから始まる暗部階調表現が苦手なものだったが、本機の映像は、変な言い方だが、暗部階調のアナログ感は液晶に近い見え方をしている。黒にほんのちょっと色味が付いただけの超暗色表現でもプラズマ特有のチラツキがほとんどなく、とてもアナログ的な見え方を醸し出せているのだ。
数年前のプラズマ画質を知る者ならば、本機のように超暗色が“ちゃんと見える”ことには感動を覚えるはずだ。
これは600Hzサブフレーム駆動と、先代PZ800モデルから採用になった内部18bit精度の階調生成制御の相乗効果によるものなのだろう。なお、暗部だけでなく、明部においてもプラズマ特有のチラツキは非常に少ない。画面に顔を寄せるとたしかにまだあることが分かるが、視聴距離を1mも取ればあのチラツキは知覚されない。
公称コントラストはネイティブコントラスト値にして4万:1。ピーク輝度で稼ぐのではなく、暗い方向のダイナミックレンジの広さで稼ぐコントラストなので明るい環境ではわかりにくいかもしれないが、部屋を暗くすればその数値の意味を実感できるはずだ。
発色も先代パネルからさらに進化したと感じる。特に赤が素晴らしい。プラズマの赤が朱色だった時代が懐かしく思えるほど、本機の赤は鋭く、そして深い。緑と青の純色も伸びやかで鮮烈だ。「今期のプラズマVIERAは色がいい」、と言い切れる。
色のダイナミックレンジも広く、中暗部から下の暗い暗色領域の色深度が強力で、日陰部分の暗い領域のディテールもちゃんと描き出せている。階調をブーストしているのではなく、本当に暗いエリアを暗色の使い分けだけでディテールを描き出せているのには感嘆させられる。いつも見慣れている評価映像でも、ここにこんなディテールが! という発見もあったほどだ。
人肌は前モデルと同じく若干だが黄味が乗った感じがするが、光を受けた人肌の陰影のグラデーション表現は強烈な滑らかさがある。平面に表示された映像なのに頬の奥行き方向のふんわりとした立体感が感じられるほど。人肌の“陰”の部分も茶色に逃げず微妙な陰影をちゃんと描き出せているし、ハイライト周辺も白に逃げずに滑らかに白めの肌色につながっている。このあたりのグラデーション表現はプラズマパネルの云々というよりも映像エンジンの優秀さから来ているものなのかも知れない。
気になる点もあった。それは動画性能なのだが、一応、公称では動画解像度1,080本を謳っているが、PS3、Xbox 360などを接続して3Dゲーム(「TOMB RAIDER UNDERWORLD」、「BIOHAZARD5」)をプレイしたときなど、奥行き方向の3Dクロール(奥から手前へ背景が流れていく様)では色割れ(色ズレ)が知覚されるのだ。表示映像の1フレームを構成する上で間に合ってはいても、人間の目の方が画面内に視線を巡せらせる映像、特にゲームやアクション映画などでは、時間積分法特有の弊害が顕著に出てしまうようだ。放送や映画などの映像をゆったり、じっくりと見る分にはいいが、ゲームユーザーは、このあたりが改善されるまで避けた方がよいかも知れない。
その他の、各種高画質化機能については、ラインナップとその効果については、先々代PZ750、先代PZ800と同じであった。詳細を知りたい読者は大画面☆マニアのPZ750編、PZ800編を参照して欲しいが、ここでも簡単なインプレッションは述べておこう。
「NR」(ノイズリダクション)は時間方向のノイズを低減させるものでアナログ放送やアナログビデオソース向けで、デジタルソース主体の活用では「弱」か「オフ」設定でOK。PCやゲーム機の映像はベースバンドなので「オフ」にしないとにじみが出てしまっていた。
「HDオプティマイザー」はMPEG特有のブロックノイズやモスキートノイズを低減させる機能。本機の新機能YouTube動画視聴機能においては元々低ビットレートな動画が多いため、この機能が効果的に働く。
VIERAには「ビビッド」と「カラーリマスター」の二つの色表現を調整する機能が搭載されていて画質メニューでも二つが仲良く並んでいることもあって、初心者には使い方がわかりにくい。本稿でも簡単に説明しておこう。
カラーリマスター機能は広色域規格であるデジタルシネマ・ワイドカラー「SMPTE RP 431-2-2007」に準拠した色域モードに対応させる機能だ。これは映像中の各色を「もしも映画ソースだったら」と仮定した上で「もともとはこういう色だったはず」と復元していく広色域モードだ。一方、ビビッド機能は記憶色指向に配色を変調させる機能で、彩度を高めに映像をチューニングする。
ビビッド=オフ | ビビッド=オン。緑の色合いの変化に注目 |
ビビッドは古めのアナログビデオソースを再生時に活用するとき以外はオフでいいだろう。一方で「カラーリマスター」は派手になるのではなく、映像における色のリアリティが向上する感じなので常時オンでもいいと思う。プロジェクタでいうと水銀ランプからキセノンランプに変えたみたいな感じだ。映画ソースには特に有効で、屋外のシーンでは色のリアリティがかなり違って見える。お勧め。
カラー・リマスター=オフ | カラー・リマスター=オン。写真では分かりにくいが赤のダイナミックレンジが広がる |
■ まとめ ~画質極まれり。今後のプラズマの進化の方針は!?
最高画質を謳うVシリーズVIERAは、確かに発色もよく、コントラスト感も強力だ。
特に明暗が混在した映像でも暗い画素はとことん暗いことに感動を覚える。階調のアナログ感は液晶並みに到達した本機は、プラズマならではのコントラスト感も併せ持つわけで、いうなればプラズマと液晶の「いいとこ取り」的な画質になっている。繰り返しになるが、圧倒的なコントラスト感は、部屋を暗くしないと体感できない。
「高画質だが、そのためには暗い環境で見る必要がある」。「プラズマか、液晶か」の選択において、ここは重要なポイントになると思う。
また、昨今のエコブームだけに、消費電力も気になるところ。たとえば同画面サイズの最新液晶テレビとの比較では、42V型のREGZA「42Z8000」が定格消費電力205W、BRAVIA「KDL-40W5」が202Wなので、TH-P42V1の484Wは2倍以上の消費電力だ。もっとも、年間消費電力量の場合、この差ははるかに小さくなり、TH-P42V1は200kWh/年、42Z8000は173kWh/年、KDL-40W5が182kWh/年だが、約15%ほどまだTH-P42V1の方が高い。
価格も42型のフルHDの本機でが実売で20万円前半と液晶との価格競争力は十分だ。ゲームプレイ時などの色割れ感と共に、さらなる省エネ性能の改善がなされれば、プラズマの復権があるかもしれない。期待したい。
(2009年 5月 8日)