第148回:価格は手ごろに。3D画質は圧倒的な進化

~明るくクリアな3D入門機 ソニー「VPL-HW30ES」~



VPL-VW90ES。3Dメガネは別売

 「3D元年」と言われた2010年。ソニーは早々と3D対応プロジェクタの製品を市場へと投入。それが本連載でも取り上げた「VPL-VW90ES」だった。

 VW90ESは、完熟レベルに到達した2D画質に加え、一定レベル以上の3D画質を実現してはいたが、VPL-VW85をベースに突貫的に3Dに対応させたような雰囲気があり、3D画質に関しては「もう少し上を目指せそう」というような、余力も感じられた。

 今回テストしたVPL-HW30ESは、下位モデルではあるが、後発のため設計やチューニングといった点ではVPL-VW90ESよりもリファインは進んでいるはず。価格も実売で30万円台とかなり“買いやすい”3Dプロジェクタとなった。



■ 設置性チェック~ボディデザインは従来機を踏襲。光源ランプは値下げ

VPL-VW30ES。ボディはHW20/10から変更なし

 VPL-HW30ESの外形寸法は407.4×463.9×179.2mm(幅×奥行き×高さ)で、先代のVPL-HW20と同一だ。もっといえば、2008年発売のVPL-HW10からボディデザインは変わっていない。

 比較的大柄で縦長のボディは重さ約10kg。大人であれば一人で持って移動できるが、天吊り設置などを一人で行なうにはやや難しい重さだ。

 奥行きが46cm以上だが、前部脚部と後部脚部の距離は約23cm。台置きの場合は天板の幅が30~40cm程度もあれば設置できる。ただし、背面には吸気口があるので後ろ方向にはクリアランスが必要になる(メーカー奨励30cm)。部屋の後部に設置する場合は、このクリアランスをどうとるかがポイントになってくる。脚部は前面2つがネジ式の高さ調整式で、底面は固定式のゴム足だ。

 天吊り設置用の金具ももちろんラインナップされており、VPL-HW10に利用出来た天吊り金具は全て利用できる。具体的には「PSS-H10」(80,850円)、とデータプロジェクタ用としてラインナップされている「PSS-610」(52,500円)が、対応可能となっている。天吊り金具は意外に高価なので、長きにわたって流用できるというのはユーザーとしては嬉しいポイントだ。

投射レンズは微妙にマイナーチェンジしたようだ。ただし、スペックは大きく変わらず

 投射レンズは、光学1.6倍ズームレンズだが、HW20と比較すると若干のスペック値の違いがある、HW30は「f18.7-29.7mm/F2.54-3.00」で、HW10/20の「f18.5-29.6mm/F2.50-3.40」と比較すると「倍率が1.58倍程度に下がったが、実用領域では明るくなった」といえる。

 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.0m(3,072mm)、最長投射距離は約4.6m(4,664mm)となっており、スペック表記上は、VPL-HW10/20から変化なし。レンズシフト範囲も従来機を踏襲しており、上下最大±65%、左右最大±25%のシフト量に対応する。具体的な数値でいうと、100インチ(16:9)時で限定して考えると、縦シフトなし時はスクリーン中央から約55cm左右にずらすことができ、横シフトなし時は約80cm上下に移動できる。

 なお、上下あるいは左右のどちらかを最大にシフトした場合、もう一方のシフト量は最大までシフトが出来ないという制限がある。一般論として、レンズシフトはなるべく利用しない方が光学的な画質は維持されるので、総シフト量がなるべく少ない位置に設置したいところだ。

 シフト操作、フォーカス調整、ズーム調整といった各種レンズ調整は手動式で、本体側のダイヤルやレンズリングを回して調整しなければならない。この部分は、下位モデルらしくコスト削減を優先した部分だろう。

 光源ランプは、新型に変更されている。出力200Wの超高圧水銀ランプだが、型番は「LMP-H202」となり、価格は31,500円。先代まで用の「LMP-H201」から5,250円値下げされた。ランニングコストが重視されるこのクラスの製品としては嬉しい配慮である。

レンズの調整は手動式。最近のモデルとしてはちょっと安っぽい感じがする部分LMP-H202

 定格消費電力は約300W。テレビで言うと42型のプラズマテレビくらいだ。画面サイズを考えれば消費電力効率は悪くはないと思うが、それなりに高い。騒音レベルは公称22dB。これはVPL-HW10から一貫して変わらず、よほど本体に近づかない限りは動作音は気にならない。


エアーフローは、吸気が前面底面、背面全体、排気が前面から側面に掛けて行われる。側面排気になるので左右のクリアランスには留意したい。メーカーは前後左右のクリアランスは30cm以上を奨励している
エアフィルターおよび光源ランプの交換はユーザー交換が可能

■ 接続性チェック

接続端子パネル

 接続端子は正面向かって左側面の下部に配置。2011年モデルらしい仕様になり、アナログビデオ入力は整理された。まず、VPL-HW20まで備えていたSビデオ入力、コンポジット入力がカットされた。レガシーなAV機器を接続しようとしている人は留意しておきたい。アナログ系映像は、コンポーネントビデオ入力にのみとなる。入力解像度はD3/(1080i)D4(720p)までで、D5(1080p)には未対応だ。

 HDMI入力は2系統。両端子共にCEC、3D、x.v.color、Deep Color対応を謳う。HDMI入力における、HDMI階調レベルの明示設定は、VPL-HW30ESにはない。ただ、PlayStation 3との接続に関しては、オートモードでPS3側の設定を認識するのでPS3側の「ディスプレイ設定」-「RGBフルレンジ(HDMI)」の設定を「フル」にしても「リミテッド」にしても正しい階調表示を行なってくれる。

 ただ、PCの場合は100%誤認してしまうことを確認した。筆者が実験した限りでは、PCの場合はグラフィックスカードの設定側を無視して、VPL-HW30ES側は「リミテッド」固定となってしまうようなので、PC側でピクセルフォーマットを変えられる場合は「リミテッド」設定にしよう。何度も言うようだが、明示設定が出来るモードを搭載して欲しい。


NVIDIAやAMDの最新ドライバには、「フル」か「リミテッド」かのピクセルフォーマットの切換設定機能が搭載されている。PCをVPL-HW30ESと接続する場合にはここを「リミテッド」設定にする必要がある

 PC入力にはHDMI入力のほか、ミニD-sub15ピン端子も利用できる。ミニD-sub15ピン端子はアナログRGB以外に、変換ケーブル等を用いることで追加のコンポーネントビデオ入力端子としても利用できる。このため、このミニD-sub15ピン端子には抽象的な「INPUT A」端子という名称が付けられている。

 この他、リモート制御用のRS-232C端子、IR IN端子、そして立体視同期用の3D SYNC端子などを備えている。下位モデルということで、電動開閉スクリーンやアナモーフィックレンズの連動脱着に利用するトリガー端子はない。

 ところで、VPL-HW30ESで3D立体視を楽しむためには、別途、3Dシンクロトランスミッター「TMR-PJ1」(実売7,000~8,000円)と3Dメガネ「TDG-PJ1」(実売1万円前後)が必要になる。

3D映像表示と3Dメガネの同期をとるためのオプション装置「TMR-PJ1」。本体との接続にはLANケーブルを使用する3Dメガネ「TDG-PJ1」。かつてのブラビア用とは違い前面側偏光板は装着済み

 3Dシンクロトランスミッターは、本機側の3D SYNC端子と接続し、これを3Dメガネに相対するスクリーン上部などに設置することが奨励されている。赤外線で照射される3D同期信号の照射範囲は上下左右120度となっているので、意外に適当に設置してもちゃんと機能してしまう。

 今回は、スクリーン脇のスピーカーの上に置いて、部屋の中央側(視聴位置側)に傾けるだけの簡易設置だったが、全く問題なく3D視聴が行なえた。接続に利用するケーブルは本機にもTMR-PJ1にも付属していないが、一般的なLANケーブル(カテゴリ7のストレート仕様)が利用できる。今回は10m以上の長いケーブルを利用したが問題なく同期が取れていた。床にケーブルを這わせたくないユーザーは、長いケーブルを使って天井配線を利用するといった工夫ができるはず。


■ 操作性チェック~リモコンに[3D]ボタン。新画調モードも搭載

VPL-HW30ESのリモコン。デザインは同じだがボタン配置は大きく変わり、ブラビアリンク関連のボタンは全カットとなった

 リモコンは、平面天板に曲面底面をあしらった、カマボコ形状のモノが採用されている。[LIGHT]ボタンを押すことで全ボタンが青色LEDで自照する。

 [電源]ボタンを押してから、HDMI入力の画面が表示されるまでの所要時間は約31.0秒(実測)。決して早いとは言い難いが、それでもVPL-VW90ESよりも20秒以上高速だ。また、VPL-VW90ESでは付いていなかった3D機能に関するボタンがHW30ESでは新設されている。

 まず、立体視モードの切換用として[3D]ボタンが用意されている。VPL-HW30ESが3D対応プロジェクタであり、その機能をちゃんとユーザーに使ってもらおうという配慮がうかがえる。

 [3D]ボタンを押すとまず出てくるのは「2D-3D表示選択」で、3Dコンテンツが入力されたときに自動で3D表示モードに移行するのが「オート」設定、常に2D表示とするのが「2D」設定、常に3D表示とするのが「3D」設定になる(その他の詳細事項インプレッションは後述)。

 VPLシリーズは各画調モードの切り替えボタンを1個ずつ、独立式に用意しているが、VPL-HW30ESでは、画調モードが増加したこともあって、なんと9個もの画調切り替えボタンがリモコン上部に配されている。画調モードの切り替え速度は実測で約2.0秒。あまり早くはないが、直接モード選択できるため待たされている感はない。

 入力切換は[INPUT]ボタンを押してからの順送り操作か、あるいは表示される入力切換メニューから上下ボタンでの入力を選択する操作で切り換える。切換所要時間はHDMI1→コンポーネントビデオで約4.0秒、HDMI1→HDMI2で約4.0秒で、遅めだ。VPL-HW30ESのリモコンはHDMI-CEC制御用のボタンがない分、リモコン上のボタン配置にゆとりがあるので、できれば直接入力端子を選択できるボタンが欲しかったところ。アナログビデオ入力が整理され、今は入力系統が4個しかないので、それほど大変ではないと思う。次回には期待したい。

 リモコン関係で大きく変わったのは、もう一つ。HDMI CECの「ブラビアリンク」関連操作ボタンが根こそぎカットされた点だ。HW30ESはHDMI CECには対応しているのだが、このリモコンで対応機器は操作しないので必要なし、という判断が働いたようだ。なので、9つの画調モード切り替えボタンの下が妙に空いてしまっている。

 十字ボタンの左上には[PATTERN]という、テストパターン表示用ボタンが用意されている。使用頻度が少ないPATTERNをここに持ってくるよりは、上階層に戻るメニュー操作の[RETURN]ボタンにした方が操作系として自然だったと思うのだがどうだろうか。実際、下階層に潜ったあと[RETURN]ボタンがないので不便なことが多い([←]ボタンで戻れる操作メニューもあるが全てではない)。

 アスペクト切換は[WIDE MODE]ボタンを押すことで順送り式に切り換えられる。切換所要時間は約1.5秒。競合他機種の多くが、ほぼゼロ秒となっている現状を考えるとあまり早いとはいえない。なお、用意されているアスペクトモードは以下の通り。VW90ESにあった、アナモーフィックレンズに適合したアスペクトモードはHW30ESには搭載されていない。

【アスペクトモード】
ワイドズームアスペクト比4:3映像の疑似16:9化
ノーマルアスペクト比4:3映像のアスペクト比維持表示
フルアスペクト比16:9映像向けのモードで入力映像をパネル全域に表示
ズーム4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出してパネル全域に表示

 この他、各種動作パラメータや画調パラメータを調整するための項目呼び出しボタンがリモコンの下半分に並んでいる。

 具体的には、倍速駆動調整用の[MOTION ENHANCER]、色域モード切換用の[COLOR SPACE]、色温度切換用の[COLOR TEMP]、RCP(Real Color Processing)機能、特定の色の発色傾向を調整出来るRCP(Real Color Processing)機能を呼び出す[RCP]、ガンマ補正調整用の[GAMMA CORRECTION]、黒補正調整用の[BLACK LEVEL]、動的絞り機構の動作設定用の「ADVANCED IRIS]などが並んでおり、慣れれば項目の呼び出しはメニューから潜らなくても、気軽に呼び出して調整できる。

画質設定

 調整可能な画調パラメータはVPL-HW10VPL-VW90ESとほぼ同じだ。

 VPL-HW10/HW20からの変更点しては、プリセット画調モードのラインナップが変わり、新モードが追加されている。具体的には画調の「シネマ」モードが「シネマ1」「シネマ2」「シネマ3」という風にバリエーション展開がなされ、さらには新モードとして「ゲーム」「フォト」が追加されたのだ。「ゲーム」「フォト」についてはVPL-VW90ESにもない完全新モードだ。

ダイナミックスタンダードシネマ1
シネマ2シネマ3
ゲームフォト
「シネマブラックプロ」設定

 ユーザーが作成した画調モードを保存しておけるユーザー画調モードは2つ。なお、合計7つのプリセット画調モードへのエディット結果、およびこの2つのユーザー画調モードは各入力系統ごとに記憶される。

 「シネマブラックプロ」メニュー階層下の動的絞り機構の制御項目「アドバンストアイリス」設定には変化なし。従来通り「オート1」は映像輝度に連動した絞り開閉の幅を広く取り、逆に「オート2」は浅く取る設定だ。


8つのガンマカーブを用意。ガンマ補正=ガンマ7

 「エキスパート設定」メニュー階層下の「ガンマ補正」は、HW20で6モードあったガンマカーブが2つ増えて8個になった。2つ増えたうちの1つがフィルム再現モードの「ガンマ7」、もう一つは静止画用の「ガンマ8」だ。ガンマ7はプリセット画調モード「シネマ1」に、ガンマ8はプリセット画調モード「フォト」に採用されている。実質的には、新設された新画調モードのために新設されたガンマカーブという感じのようだ。


エキスパート設定

 そして「エキスパート設定」メニュー階層下の「フィルムモード」設定と「カラースペース」設定については上位機VW90ESの機能が下位モデルのHW30ESでも追加された格好だ。

 「フィルムモード」は毎秒24コマ表示をフレームレート変換せずにリアル表示する「オート1」が追加され、従来の2-3プルダウン、2-2プルダウンコンバート表示モードは「オート2」となっている。

 「カラースペース」も、VPL-VW90ESの設定が継承され、従来の「ノーマル」「ワイド」の2モードだけでなく、ワイドがワイド1、2、3とバリエーション展開されている。「ワイド1」はフィルム色調再現志向、「ワイド2」がデジタルシネマ再現志向、「ワイド3」が最大広色域志向というチューニングとなっている。


■画質チェック~安定の2D画質。大幅に改善された3D画質

 映像パネルはソニーの反射型液晶パネル「SXRD」(Sony Crystal Reflective Display)を採用する。パネル世代はVPL-HW20よりも微細化の進んだ製造プロセス0.2μmによるもの。応答速度も2.0msに高まっており、240Hz、4倍速駆動に対応する。

 ついにエントリークラスのSXRD機が4倍速に対応したと言うことだ。補間フレームによる残像低減処理に関しては賛否はあるが、すくなくとも3D立体視においては、この高速駆動性能は武器になる。

 今回の評価は、投射距離約3.0mで16:9アスペクトの100インチの大きさで行なった。視聴距離は近めの画面から2.0m付近としたが、画素の粒状感は皆無だ。SXRDパネルの画素開口率は90%と言われるが、実際、この視聴距離でも、画素の仕切りは目視できない。RGBのサブピクセルが分離していない分、細かい1ドット単位の表現は液晶ディスプレイや液晶テレビよりも精細感がある。

 ソニーのSXRD機の下位モデルは、光学投射性能が不十分なものがあったが、HW30ESでは改善されている。フォーカス精度はやや「ぬめ」っとした感じではあるが、中央にフォーカスを合わせれば、外周まで同程度のフォーカス感は得られる。価格を考えれば十分な画質だとは思う。手動フォーカスなので、投射映像を確認しながら、レンズリングを調整しなければいけないのはやや面倒だ。

 色収差は半ピクセル程度はあるが、価格を考えれば妥協できるレベルだし、解像感低下への影響はそれほどでもない。

ピクセルアライメント調整画面ピクセルアライメント=入ピクセルアライメント=切

 デジタル画像処理で半ピクセル単位のピクセル移動を実現する「ピクセルアライメント」機能も搭載されている。今回の評価機ではR(赤)を「横(H)-2、縦(V)+2」、B(青)を「横(H)-6、縦(V)±0」と調整するとベストな状態に追い込むことができた。この調整はSXRDパネルを物理移動させているわけではなく、あくまで画像処理になるので、調整を有効にするとピクセルの輪郭が若干ボケ気味になる。色収差の色ズレを低減させるか、画素描画のフォーカス感を取るか……は究極の選択となる。調整マニアは大いに悩み楽しめる部分といえるかもしれない。

 輝度は1,300ルーメン。VPLシリーズ初の3D対応機「VPL-VW90ES」の1,000ルーメンが、3D視聴時にどうにも暗かったことを考えれば、この1,300ルーメンスペックが3D画質においては明るすぎるということはないはずだ。ちなみに、競合のビクターDLA-Xシリーズも1,300ルーメンだ。

 動的絞り機構を組み合わせたダイナミックコントラストは7万:1を謳う。VPL-HW20の8万:1から下がってはいるが、そもそもダイナミックコントラストのスペック値は、動的絞り機構のアルゴリズムを変えればどうにでもなる部分なので、気にする必要はあるまい。ただ、3D画質に配慮して輝度方向に性能を振ったチューニングがなされたということはあるかもしれない。

ランプコントロール=高ランプコントロール=低

 実際、ランプコントロール=高(高輝度モード)時の明るさは凄まじく、蛍光灯照明下でもPC画面やゲーム画面であればある程度は見られてしまうほど。それでいて、漆黒背景の中央に白色矩形を表示させるような、黒浮きを増長させる意地悪なテスト画像を表示させてみても、黒の沈み込みはかなり維持されている。例えばこの漆黒背景の部分に手をかざしても、確かに手の輪郭は見えるが、その輪郭の明るい部分はほとんど部屋の暗さと変わらない(つまり、表示映像としての黒浮きはほとんどない)。

 バリュークラスとはいえ、このコントラスト性能は圧巻だ。動的絞り機構(アドバンストアイリス)の動作も優秀で、不自然さはないが、ネイティブコントラストが優秀なので、それほどアドバンストアイリスの効果に実感はない。

アドバンストアイリス=オート1アドバンストアイリス=オート2
アドバンストアイリス=手動アドバンストアイリス=切

 階調表現も、かなり優秀で、最暗部付近の微妙な明暗表現や、最暗部付近の色味などもちゃんと描画できている。なので、暗い映像でも情報量が多いと感じられる。筆者も「バリュークラスの描写力がここまできたのか」と感心させられた。

 発色にも不満はなし。赤、緑、青の純色にクセがなく、しかも、色のダイナミックレンジ(色深度)も広い。水色に寄らない深い青、黄に飛ばない純度の高い緑、そして朱色感の少ない鋭い赤は、超高圧水銀ランプを光源にしているとは思えないほど美しい。比較すればキセノンランプの優位性は確かにあるのだろうが、ここまで出せるのであれば、民生機では、もはや水銀系ランプで十分だと言えるかも知れない。

 人肌は、カラースペースをノーマル設定にしている方が透明感があって自然に見える。肌のハイライト部分の白さや、人肌の赤みなどは「カラースペース=ノーマル」設定としているプリセット画調モードの「スタンダード」「シネマ3」がナチュラルに見えるようだ。ワイド系に設定していると赤みや黄味が強めに出る嫌いがある。

カラースペース=ノーマルカラースペース=ワイド1
「Motionflow」設定

 倍速駆動にまつわる画質評価も行なっておこう。SXRDは240Hz駆動対応だが、補間フレームを挿入しての残像低減駆動は2倍速の120Hzで行なわれている。これは「モーションエンハンサー」という機能名が与えられている。

 例によって、補間フレーム挿入型残像低減技術にとって過酷な「ダークナイト」冒頭のビル群のフライバイシーンで視聴してみたが、以前と比較するとエラーの発生率が改善されていると感じる。まだ、密度の高い縦縞状のディテールが迫ってくる部分では振動現象が出ているが、ビルの窓枠や、ビルの輪郭付近のブレや振動は改善が見られる。

 「ダークナイト」のチャプター9冒頭のビル群のシーンも、補間フレーム生成アルゴリズムにとっては難度の高い映像だが、ここでも同様で、以前と比較すればだいぶエラーが目立たない。「モーションエンハンサー」の動作設定は「切・弱・強」の3段階設定が可能だが、オリジナルフレームの合成支配率を上げた「弱」では時々発生するエラーもほとんど分からないレベルに抑え込まれるので、常用できるようになったと思う。

「3Dフォーマット」設定

 VPL-HW30ESの最大のウリとなっている機能である「3D立体視」についても詳しく触れておこう。対応する3Dフォーマットは、「サイド・バイ・サイド」「トップ・アンド・ボトム」「フレームパッキング」といった、主要な3D方式。

 2D-3D変換する疑似3D表示機能は「シミュレーテッド3D」機能として搭載されており、この機能を活用中は、「3D設定」階層下の「シミュレーテッド3D効果」設定で、「弱・中・強」の3段階強度設定が行なえる。強度を強めるほど映像が奥行き方向に引っ込む感じで、それほど強い立体感が得られるわけではない。また、強設定はクロストーク(左右の目の映像が両目で二重像として見えてしまう現象)が盛大になるので常用性は低い。

 筆者の実験では、このシミュレーテッド3D機能はHDMI入力の720p以上の映像限定で、コンポーネントビデオ入力の映像には効かせることはできなかった。DVDビデオなどを疑似3Dで楽しみたい場合には、HDMI出力できるプレーヤーを利用する必要がある。

 3D表示有効時には「3Dメガネ明るさ」を調整可能で、これは実質的には3D眼鏡のシャッター開閉タイミングにまつわる設定となる。設定範囲は「MIN・1・2・3・MAX」の5段階設定で、MINが最も暗いが、その代わりクロストークは最小になる。暗室で視聴できるのであればMINないしは1設定で視聴したいところ。ちなみに、コンテンツによって「3Dメガネ明るさ」は結構変えたくなるので、将来的にはリモコン側に「3Dメガネ明るさ」設定の切換用ボタンがあるとよいかもしない。

 フレームパッキング方式の3Dでは、これ以外に「3D奥行き調整」設定が出現し、「-2・-1・0・+1・+2」の5段階設定で、3D映像全体を手前に引き出したり、奥行き方向へ引っ込ませたりすることが出来る。具体的には、マイナス設定で表示映像が全体的に手前に寄り、プラス設定にすると奥側に寄る。通常は「0」の基本設定のままで変更の必要性はない。接客時には「-2」や「+2」に設定して立体感を煽るのも面白いが、この調整値を0以外にすると、表示映像の外周がクリップアウトされてしまうことは覚えておきたい。

 実際に「怪盗グルーの月泥棒」のチャプター13のジェットコースターシーンを視聴してみたが、あきらかにVPL-VW90ESよりも3D画質は向上していることが分かる。

 まず第1に、クロストークが圧倒的に少なくなっている。「3Dメガネ明るさ」設定を1ないしはMIN設定したところ、VW90ESでは盛大なクロストークが出てしまっていた、ジェットコースターシーンのトンネル内の電球が二重に見えてしまう箇所でも、クロストークはほとんど感じられない。明るめのシーンならば「3Dメガネ明るさ」設定を2ないしは3としても問題がない。

 第2に、3D映像の動きの切れとクリア感がよくなっている。これは、HW30ESの新機能の効果がどうこう、というわけではなく、VW90ESの3D映像よりも知覚される3D映像がくっきりと鮮明に見えるのだ。クロストークの大小とは別で、3D映像の動きにキレがあるように感じられる。

 ここ最近のプロジェクタの3D映像は結構見慣れているはずの筆者も、おもわず「おお?」と呟いてしまったほどだ。

240Hz駆動による高速描画だけでなく、ランプ駆動、3Dメガネのシャッター開閉タイミングまでを最適化して3D画質を改善

 240Hz駆動対応の高速応答性能がその表示特性に一役買っている可能性はあるが、それだけでなく、今回新実装されたという、3D映像の表示タイミングに合わせたシャッター開閉タイミングの最適化と光源ランプの駆動法の相乗効果によるものかもしれない。この新表示方式は、見る側からすれば、ブラウン管のようなインパルス表示に相当する。きっと、これが立体像の見え方のキレをよく、クリアにしているのだろう。

 第3に3D映像の発色が改善されている。3D眼鏡を掛けることで黄味の強まる色味を、うまく補正できており、2D映像時の発色に近い色味を実現出来ているのだ。2D画質と3D画質が微妙に食い違って見えていたVW90ESから、この部分もVPL-HW30ESでは改善を見ていると思う。

 ところで、3D表示時には幾つかの機能制限が存在する。

 まず、ノイズ低減機能の「MPEG NR」はフレームパッキング方式の3D映像に効かせることはできなくなる。そして、「サイドバイサイド」「トップアンドボトム」方式の3Dでは補間フレーム挿入・倍速駆動「モーションエンハンサー」機能が利用できなくなる。しかし、2D→3D変換による「シミュレーテッド3D」ではそういった制限事項はない。

「スタンダード」画調モードでは3フレームの遅延

 表示遅延についても言及しておこう。比較対象は東芝「REGZA 19RE1」だ。

 「スタンダード」画調モードでは3フレーム(60fps時、以下同)、新設された「ゲーム」画調モードでは1フレームの表示遅延が確認された。

 疑似3Dの「シミュレーテッド3D」、「サイドバイサイド」方式の3Dモード時の「ゲーム(3D)」画調モードでの表示遅延も計測してみたが、共に約1フレームとなっていた。

 1フレーム遅延はプロジェクタ製品では最速レベルだ。VPL-HW30ESは、2D、3D共にリアルタイム入力が必要になるタイプのゲームにも対応できそうだ。


■ まとめ ~3Dプロジェクタに低価格革命?

 VPL-HW30ESの実勢価格は30万円台。レンズ調整機能関連が手動となっているなどコスト削減感はあるが、そこさえ我慢できれば、本質的な画質はハイレベルでまとめられており、コストパフォーマンスはかなり優秀な製品だと言える。

 フォーカスは上級機と比較すると若干甘い感じもするが、フォーカス斑はほとんどないため、3mも離れて見れば気にならない。いわゆる「しっとり画質」が好きならば、それすらも"味"として感じられるかも知れない。

 そして、特筆すべきなのは3D画質だ。3D画質に関しては確実に、昨年モデルの上位機「VPL-VW90ES」より上だ。この3D画質と熟成の2D画質を約30万円で手に入れられるというのは凄いことだ。

 交換ランプの値段も下げられ、ランニングコストの安さも磨きがかかった。人生最初のファーストプロジェクタにお勧めで出来る製品だと思う。

 なお、補足しておくと、ソニーは、HW30ESに対して行った画質改善や同系の進化をVPL-VW90ESに施した「VPL-VW95ES(664,650円)」を今冬発売する。購入検討者は予算と照らし合わせてこちらも検討するといいかもしれない。

(2011年 9月 16日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。