第157回:CES特別編 2012年は4K2K元年か?

~フルHDの4倍解像度の800万画素テレビが続々!?~



 前回に引き続き、今回も、International CES 2012での映像機器関連の展示で興味深かったものを技術テーマ別に括って紹介していく。今回のテーマは「4K2K」だ。



■ シャープ、ICC-4Kでフォーカス感重視の4K2K化をアピール。8K4Kのデモも

人気を集めていたICC-4K体験コーナー

 シャープは高解像度映像パネル技術に力を入れているメーカーの1つだ。

 今回のCESのブースでは、CEATEC2011で初お披露目されたアイキューブド研究所が開発した4K2K化技術の「ICC-4K」のデモが行なわれていた。

 60インチのフルHD機AQUOSではフルHD映像を表示、60インチの4K2K(3,840×2,160ドット)試作機では、ICC-4K処理された4K2K映像を表示するという比較デモだったが、デモの内容がCEATEC 2011のものよりも新しくなっていた。

 CEATEC 2011では、“表示されているオブジェクトの材質ごとの光の反射モデルを再現する”というような内容だったが、今回のデモでは“フォーカス感や陰影を人間の記憶にある視覚に近づける”という方向性の内容であった。

 超解像処理はいわば、連続する映像信号(表示画素の並び、と置き換えて考えても良い)を高品位化し、いわば“入力映像を撮影したカメラよりも、より上級なカメラで撮影した映像に変換するもの”になるが、ICC-4Kでは、“入力映像を、人間の記憶視覚に近づける”というアプローチの画像処理を行なう。

 具体的な処理アルゴリズムは明らかにされていないが、コア技術はオフライン技術ではなく完全リアルタイム処理系であること、そしてフレームバッファリングは行なわれていないことが強調されていた。

左がフルHD、右がICC-4K処理後の映像。フォーカス感の違いに着目。遠景の山の山頂、中距離の砂利、近場の樹木の質感が明らかに違う
左がフルHD、右がICC-4K処理後の映像。山の輪郭の鮮鋭度と「さざ波」の陰影の立体感に注目

 処理前と処理後の映像を見比べた感じでは、色は作らずに階調の再構成と輝度分布を変調させているように感じられた。

 もし、実際のデモを見る機会があれば、ハイライト周辺の陰影の出方、輪郭付近の鮮鋭度に着目して見比べると面白いと思う。

 シャープは、この4K2Kテレビの発売を2012年内に予定している。ブース内では、60インチだけでなく、70インチの4K2Kテレビの試作機も展示されており、登場時には複数の画面サイズでのラインナップも予想される。

 4K2Kのリアル解像度での入力に関しての対応については、詳細な情報は得られず。

シャープは70インチの4K2Kテレビの試作機も展示北米では一般初公開となる85インチの8K4K(7,680×4,320ドット/RGB)液晶パネルの試作機のデモも公開


■ 東芝は、4K2Kを裸眼立体視用/超解像処理した映像の表示先に

 55インチの4K2Kパネル採用の裸眼立体視テレビ、レグザ「55X3」を2011年末に発売したことで、4K2K(3,840×2,160ドット)解像度パネルを採用した民生向けテレビとして世界初の称号を獲得した東芝。今回のCESでは、日本で既発売のレグザ「55X3」ではなく、これの北米モデルの展示を行なっていた。

 日本モデルの55X3と、北米モデルとの違いはバックライトの実装法にあり、日本版は画質を重視した直下型バックライト方式、北米版は極薄デザインを重視したエッジバックライト方式を採用している。

 ブースでは、フルHD(1,920×1,080ドット)の映像を超解像技術を適用して4K2K(3,840×2,160ドット)に変換しての表示デモと、得られる立体像の解像度が下がりがちな裸眼立体視であっても4K2Kパネルならば裸眼立体視時でも1,280×720ドット相当のHD立体像が得られる…というデモを実施。

 裸眼立体視の方は、飛び出しと奥行き感がそれほど派手ではないチューニングがなされていたこともあって、ド派手な3D効果を期待しがちな現地来場者達の評判はまずまずといったところ。なお、ブースのデモでは不用意な二重映りを避けるために、視聴者の顔面の位置に合わせて視差を最適化するフェイストラッキング機能はオフにされており、指定されたスイートスポットから視聴するようになっていた。

 一方で、超解像によるフルHD映像の4K2K化のデモは、とても分かりやすく、現地来場者の評判も上々だったようだ。

 個人的には、4K2Kパネルの高解像度性能をそのまま表示するために提供するというPC向けのインターフェースボックスの展示を期待していたのだが、これは行なわれず。昨年の時点では、4K2K表示が行なえる民生向けグラフィックスカードが不在だったのだが、年が明けて状況が変わってきたので(後述)、そろそろ具体的な動きを見せて欲しいところだ。

東芝が誇る超解像技術でフルHD映像を4K2K化して表示するというデモの様子。右側が原画像のフルHD映像。左側が4K2K化された映像


■ JVC、試作4K2Kカメラの映像をレグザ55X3で4K2Kでリアル表示

 東芝ブースでは行なわれなかった55X3による4K2Kのリアル表示デモだが、実はなぜかJVCブースでひっそりと行なわれていた。

4K2Kビデオカメラ「GY-HMQ10」は北米地区では5,000ドルで4月に発売予定

 JVCは、今回のCESで「GY-HMQ10」という4K2K(3,840×2,160ドット)の24/50/60fpsでの撮影が可能なプロ(ないしはプロシューマー)向けハイエンドカメラを発表している。このカメラで撮影した撮れたての4K2K映像を55X3でリアル4K2K表示していたのだ。

 GY-HMQ10は4K2KのフレームをフルHD(1,920×1,080ドット)の4枚の映像として分割して同時撮影し、4本のフルHDストリームを4枚のSDHCカードに並列記録させていくという力業の製品だ。

 55X3への表示にあたっては、ビデオプロセッシングボックスで4本のHDMIストリームの同期を取って1枚の4K2Kフレームに再構成してから、55X3の独自規格の専用端子に伝送している。

4本のHDMI経由のフルHDストリームをビデオプロセッシングボックスで4K2Kフレーム化して55X3の拡張端子経由で伝送する仕組み

 「ケーブル1本でのAV接続を実現する」ということで広まったHDMIだが、わずか数年でその限界性能を迎えてしまったことに歯がゆい思いを隠せないが、現行技術ではこうするしかないようだ。

 とはいえ、表示されている4K2K映像のクオリティはきわめて高い。S/Nも良好で、解像感も感動的だ。これを見てしまうと、フルHDを4K2K化した映像はフェイクにしか見えなくなってくる。

ラスベガスの映像は、CES開幕直前にJVCスタッフが直撮りした未編集の生映像だ。なのでカメラ操作時の揺れもそのまま記録されていたりして、4K2Kの生のリアル感が実感できるデモとなっていた


■ パナソニック、20インチで4K2KのIPS液晶ディスプレイ

 4K2Kというとキーワードはなにも大画面テレビだけのものではない。

 今回のCESでは、パナソニックが、なんと20インチの4K2K(3,840×2,160ドット)のIPSα液晶パネルのディスプレイ試作品を公開してきたのだ。

画素の大きさの比較。対比元の69ppiは、丁度、64インチの4K2Kパネルのイメージ

 ドットピッチにして216ppiと発表されており、ドットピッチだけで見ると、この値は丁度、PS Vitaの5インチ有機ELパネル(960×544ドット)の220ppiに近いものになる。最近のスマートフォン製品では4.5インチで1,280×720ドットパネルの採用モデルも出てきており、これらがおよそ320ppiなので、ドットピッチだけで言えば、既に上のものはある。

 しかし、1枚パネルで800万画素の表示となると、ドットピッチ談義とはまた別の次元の解像度"美"が実感できるものだ。

 動画の映像ソースはNHKによって8K4K撮影されたものを4K2Kにダウンコンバートしたものだそうで、元の映像が高精細なので、その表示には素材感が宿っているように見える。視覚意識を映像全体にすればオブジェクトとして見えるが、ディテールに集中して見ると、その質感というか手触りが見えてくるのだ。

 画素配列は普通のIPS液晶をそのままシュリンクしたようなRGB3原色のパネルで、インチキはない。

厚さは3.5mm。バックライトは白色LEDで導光型で底面にあると説明された
超高解像度映像には質感を再現するポテンシャルを感じる

 今回展示されたパネルは厚さ3.5mmで、バックライトは白色LEDを用いてパネル裏面に導光板で光を導くエッジ型となっている。輝度は450cd/m^2で、液晶モニタの1.5倍近く明るく、テレビ並の明るさとなっていた。今回の展示は「20インチで800万画素の表示」というのがメインテーマだったのだろう、色域はNTSC比70%とのことでそれほど広くはない。

 液晶パネル自体はパナソニックの自社製で、直近で民生向け製品への応用は考えられておらず、当面は、放送、医療、デザイン、印刷といった業務用製品として提供される見込みなのだそうだ。

上がフルHD、下が4K2K。デジカメで撮影してしまうと違いが分かりにくくなる。なお、リンク先はデジカメで撮影した画像をリサイズせず、そのまま掲載している
上の右側の写真から、一部を切り出したもの。左がフルHD、右が4K2Kから切り出した
全体像。上がフルHD、下が4K2K。左下付近を接写した画像を、右に掲載する一番小さい文字の付近を接写した画像(フルHD)同じ場所を接写(4K2K)。まだ文字が文字として描かれている


■ LGは4K2Kテレビを2012年内に市販
 3Dは縦解像度1080p。60、72インチも4K2K

 LGエレクトロニクスのブースでは、84インチの4K2K解像度のIPS液晶ディスプレイを3D立体視でデモンストレーションしていた。

 同社は3D立体視の実現方式として偏光方式を採用している。これは、ディスプレイ面の偶数ライン画素群と奇数ライン画素群とで異なる偏向方向に変換するFPR(Film Patterned Retarder)フィルムを貼り、対応する画素ラインを左右の目に振り分けてみさせることで立体視を得る方式だ。3Dメガネの各レンズにはアクティブシャッター機構が不要で、ただの偏光フィルムを適用した安価なもので済むコストメリットと、同時に両目で3D映像を見ることになるため、運動視差の知覚精度に優位性がある。

 ただ、それぞれの目が、偶数ラインと奇数ラインの抜けた映像を見ることになるので、映像によってはジャギーが目立ちやすくなる。

 4K2Kの解像度は3,840×2,160ドットになるので、たとえ1ラインが抜けた映像を見ることになる偏光方式の3D立体視でも、3,840×1,080ドットの映像が見られるので、このアーティファクトを軽減できるというのだ。

 実際に、この84インチ/4K2Kパネルによる偏光方式3D映像デモを見てみると、ラインが抜けている感はほとんど分からない。これを見てしまうと、LGエレクトロニクスの偏光方式の3D立体視は4K2Kになって完成形となる…という気がする。

 それはLGエレクトロニクス自身もよく分かっているようで、この84インチの4K2K/偏光方式3D対応テレビは年内に商品化する計画があるのだという。価格は未定ながらも製品番号は確定し「84UD」が与えられている。ちなみに、日本へのINFINIAとしての導入は検討中とのこと。

 また、関係者によれば、今回、展示にこそ間に合わなかったが、72インチと60インチの画面サイズでも4K2KのIPS液晶パネルの量産化の目処が付いたそうで、60インチが主戦場となる北米市場向けには、もしかすると1年以内に、4K2Kテレビの複数ラインナップが出揃う可能性が出てきている。

世界最大の超高解像3Dテレビとして訴求されているLGエレクトロニクスの4K2K偏光方式3Dテレビ試作機。型式番は「84UD」として発売が予定されている厚みは最薄部で4~5cm前後といったところ


■ サムスンの4K2Kは技術展示のみ

 サムスンはテレビの新製品、新技術に関しては有機ELに注力しており、4K2K技術の展示は壁際の展示コーナーにさりげなく展示してあるのみであった。

 展示されていたのは70インチの4K2K(3,840×2,160ドット)の液晶ディスプレイ。こちらは製品化の予定はないという。サムスン関係者によれば、4K2Kのコンテンツが潤沢に出てくること、それと次世代HDMIをはじめとしたインターフェースや伝送技術が確立してから実際の製品リリースに漕ぎ着けたいとのことであった。

サムスンは70インチの4K2K/液晶ディスプレイパネルを展示。製品化の予定はなし


■ AMD RADEON HD7900シリーズは4K2Kを1本のケーブルで伝送可能

RADEON HD 7900シリーズは次世代HDMIとDisplayPort1.2に対応。すなわち4K2Kをネイティブサポートする

 AMDブースでは、2011年12月に発表されたばかりのRADEON HD 7900シリーズのデモが行なわれていた。

 このRADEON HD 7900はリーズは、4K2K出力を1本のHDMIケーブル、ないしはDisplayPortケーブルで伝送できることが強く訴求されており、来るべき4K2K時代の立役者として期待されている。つまり、次世代HDMIの3GHz HDMI 1.4aに対応しているのだ。

 3GHz HDMI 1.4aでは、4K2Kのような高解像度出力だけではなく、ハイフレームレートな3D映像にも対応している。

 例えば、現行のHDMI規格では、60Hz(左右で120Hz)の3D映像は解像度にして720pまでしか対応していない。1080pの3D映像は30Hz/24Hz(左右で60Hz、48Hz)までの対応なのだ。3GHz HDMI 1.4aでは、この制限がなくなり、1080pの3D映像でも60Hz(左右で120Hz)が伝送できるようになる

 また、AMDはRADEON HD 7900シリーズだけでなく、先代のRADEON HD 6000シリーズより、DisplayPort 1.2をサポートしており、こちらも1本のDisplayPortケーブルでの4K2K出力をサポートしている。

 ブースでは、EIZOの4K2K(4,096×2,160)対応の36.4型・高精細/高解像度モニター「FDH3601」とRADEON HD 7970を接続しての4K2KのリアルタイムCGレンダリングがデモされていたが、惜しいことにFDH3601がDisplayPort 1.1規格なので、RADEON HD 7970とは2本のDisplayPortケーブルで接続されていた。

 さて、3GHz HDMI 1.4aは、対応している現行製品がないはずなのだが、AMDのエンジニアの話では、サムスンのPC用液晶ディスプレイの「SA950」などのDisplayPort 1.2対応の液晶ディスプレイは、未保証ながら3GHz HDMI接続が出来てしまうらしい。

 AV機器同士の4K2K伝送/接続はまだまだ未整備だが、PCの方は着実に準備が進んでいる。

実勢価格288万円のEIZOの36.4インチ・4K2Kモニタ「FDH3601」を使った4K2K解像度のリアルタイムレンダリングデモ。接続にはDisplayPortを使用次世代HDMI仕様を先取り。1080p/60Hzの立体視ゲーミングをデモ


■ 各メーカーの4K2Kへの取り組み方の違いが見えた今回のCES

 ディスプレイ機器に対し、4K2Kの波は確実にやってきている。

 今回のInternational CESでは、大手メーカーは、何らかの4K2K展示を行なっていたが、各メーカーごとに、4K2Kへの取り組み方は微妙に異なっていたのが面白い。

 PCやプロフェッショナルの世界では、既に4K2Kクラスのコンテンツがあるので4K2Kのネイティブサポートや、4K2K環境の整備が急速に行なわれつつあることを実感できる。

 PCは、ハイエンドゲームが4K2K解像度でプレイ出来るようになりつつあるし、なにより身近なデジカメの写真データがすでに1,000万画素クラスなので、4K2Kはずいぶん前からウェルカム状態で待ち望まれている。

 プロの世界でも同様で、映画製作の世界ではもう数年前から4Kデジタル撮影を行なっているスタジオはあるし、医療、印刷、デザインの世界では解像度がありすぎて困ることはないという状況だ。

 一方で、民生機を出しているAV機器メーカーとしては、基本的には4K2Kは、現行のフルHD基準の映像技術に対してややオーバースペックな技術として捉えており、一般ユーザーが望む画質性能よりも高品位のものを欲しがるハイエンドユーザー向けのプレミアム機能という位置づけとしているようだ。

 4K2K元年とも言うべき、2012年。その動向には注目していかなければなるまい。

(2012年 1月 16日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。