【新製品レビュー】

CD/MP3/ラジオに加え、薄型TVの音も高音質再生

-新コンセプトコンポ、ケンウッド「U-K323」


シルバーモデル

4月上旬発売

標準価格:オープンプライス

実売価格:4万円前後

 iPodの普及や携帯電話の音楽再生機能の充実により、MDやカセットテープの需要が減少。連動してMD/CD搭載ミニコンポの市場規模も縮小傾向にあり、iPodスピーカーやPCがその代わりを務めつつある。

Prodino

 ケンウッドではこの“ポストミニコンポ”カテゴリに注力。2008年11月に「Prodino」という超小型デジタルアンプ&スピーカーセットを発売した。PCのUSBオーディオとして動作するほか、SDカード内の音楽再生が可能。光デジタル入力やポータブルオーディオ用入力も備えた、「PCやポータブルオーディオとの親和性の高い小型システム」として存在感発揮。2009年3月からはアンプ単体での販売も開始されており、売れ行き好調だという。

 そんな「Prodino」は、PCとの親和性が高いため、どちらかと言うと個室でのパーソナルな利用がメインになる製品だ。そこでケンウッドは新たに、リビングでの使用や、テレビの近くへの設置を想定した「U-K323」という製品を投入した。

 スピーカーとアンプ/プレーヤーを一体化したシステムで、サイズだけを見るとミニコンポと言うよりラジカセのようでもあるが、同社のハイクオリティコンポ「Kseries」にラインナップされる、高級感にもこだわったモデルなのだという。

 新しいコンセプトのコンポがいかなるものか、さっそく試してみよう。



■ 低価格/コンパクトだが、こだわり満載

 アルミ製の一体型筐体に、デジタルアンプとCDプレーヤー、スピーカー、AM/FMラジオを収めたシステム。背面にUSB端子を備えており、USBメモリなどに保存した音楽ファイルの再生が可能。また、一体型2chシステムとして世界で初めて、DTSのフロントサラウンド技術「DTS Surround Sensation(SS)」を搭載したのが特徴となる。

 実売は4万円前後。2~3万円程度が多いMDコンポと、5万円を越えるHDD搭載コンポの中間に位置する。筐体はコンパクトで、外形寸法は390×267×119.5mm(幅×奥行き×高さ)と、MD/CD/カセットを縦に重ねるミニコンポよりも大幅に薄い。似たデザインといえばBOSEの「Wave Music System」(74,970円)があるが、「U-K323」の方が3万円以上安い。

 デザインはシンプルで、カラーはシルバーとブラックを用意している。上から見ると長方形ではなく、前後が微妙なカーブを描いていることがわかる。凹凸が少なく、操作ボタンは天面の中央に1本のラインのように配置。操作は付属のリモコンからも可能で、機能的にはリモコンの方が豊富であるため、本体側のボタンを使う機会は少なそうだ。

 

カラーはブラックとシルバーの2色

ブラックモデル

上から見ると前面と背面はカーブを描いているのがわかる

 CDドライブはスロットインタイプで、前面のディスプレイ下部に備えている。フロントパネルにはそれ以外ほとんど何も無く、端子類は全て背面。入力端子は光デジタル、アナログ音声(RCA)、同社のオーディオプレーヤーや別売のiPod用Dock「PAD-iP7」(12,600円)を接続するためのD.AUDIO入力(アナログ)を各1系統装備。iPodなどを、コンポ付属のリモコンで操作することもできる。出力はレックアウトとイヤフォン出力を1系統用意。なお、iPodなどのプレーヤーに、音楽CDから録音するような機能は備えていない。

黒いディスプレイの下部にあるのがCDドライブ。全体の下にあるスリット型の穴はバスレフポート

音楽CDを挿入しているところ

端子は全て背面に用意されている

天面に備えた操作ボタン。1本のラインのように配置されている付属のリモコン。複雑な操作はこちらから行なう

内蔵されているスピーカーを抜き出したもの。フルレンジユニットが奥行きのあるエンクロージャに取り付けられており、その側面にダクトが装着されているのがわかる
 スピーカーは筐体に内蔵されているため、外から見ることはできないが、非常に凝った作りになっている。ユニットは80mm径のフルレンジで、長細いMDFのエンクロージャに装着。スピーカー容積は左右合計で2リットルと、外観からは想像するよりも大きい。エンクロージャはバスレフで、側面に空いたポート部に折り曲げたダクトを装着。音道は筐体の底を通って筐体前面のポートから放出する。小型筐体で低音を再生するための工夫だ。

 アルミ筐体と別に、スピーカーのエンクロージャを用意しているのは、CDドライブなど、他の回路との干渉を抑えるためだ。低価格な一体型オーディオでは、スピーカーやドライブなどを、プラスチック製の筐体に仕切りを作って配置しただけのものもあるが、スピーカーからの振動がドライブの読み取りに悪影響を与えたり、筐体全体が振動することで再生音が濁るなどの問題がある。

 スピーカー部を独立させた「U-K323」では、そうした問題はかなり抑えられているというが、それでも振動は筐体に伝わる。そこで、底面に振動を解消する独自形状の「バイブレーションコントロールシャーシ」を採用。インシュレーターも低価格コンポとは思えないほど本格的なものを履いている。また、重量は5.8kgもあり、持ち上げるとコンパクトな外見からイメージするよりかなり重い。アルミ表面は梨地処理で高級感があるのも嬉しいポイントだ。


筐体の振動をコントロールする「バイブレーションコントロールシャーシ」しっかりとしたインシュレーターが採用されている

 アンプは20W×2ch(8Ω)のデジタルアンプ。プリ/パワー段ともにフルデジタル構成で処理することで、高精度な信号増幅が行なえるという。電源部はオーディオ回路から構造的に分離。専用のシールドケースで覆うことで、オーディオ回路などからの干渉を排除している。

 一体型オーディオと聞くとチープなイメージがあるが、各部を見るとオーディオ機器のクオリティ向上において、外せないポイントをキッチリ守っていることがわかり、「伊達にKseriesを名乗っているわけではないな」と感じさせてくれる。


■ テレビと接続してみる

 機能面のポイントは、テレビとの接続を想定していること。薄型テレビは省スペース性が特徴だが、CRTテレビと比べて筐体が薄くなり、スピーカーのエンクロージャに使える容積が減ったため、低音や中域が出にくい。そこで、「U-K323」をテレビと接続し、音声出力だけをコンポが肩代わりしようというわけだ。

 入力はアナログ(RCA)か光デジタルを使用。テレビ側に光デジタル出力があれば、こちらを利用したいところ。なお、ドルビーデジタルやAACなどのデコーダは備えていないので、入力できるのはリニアPCMのみだ。接続しても音が出ない場合はテレビ側のデジタル出力設定で、スルー出力ではなく、リニアPCM変換出力を指定する必要がある。

32型の液晶テレビと組み合わせたところ。テレビラックに設置してみた
 試しに32型液晶テレビと接続してみたが、音を出す前に、薄型筐体の恩恵を感じた。高さが119.5mmと、レコーダやVHSビデオデッキよりも少し厚いくらいであるため、テレビラックに収納できるのだ。従来のミニコンポでは、このスペースに設置するのは難しいだろう。

 テレビをミュートし、「U-K323」のリモコンで「DIGITAL IN」を選択すると、テレビの音が「U-K323」から再生される。テレビのスピーカーと切り替えて試聴したが、その差は歴然だ。中低域が出にくいテレビスピーカーは、高音が耳につき、薄く、カサついたサウンド。バラエティ番組の爆笑効果音が煩く感じる。また、テレビのプラスチック筐体が振動して鳴いているため、その付帯音が音の解像度を低下させており、中域がもやもやして、男性の声などが聞き取りにくい。

 対する「U-K323」の音は非常にフラット。中低域に厚みが生まれ、音が立体的になり、非常に聞きやすく、長時間聴いていても疲れにくい。高域の伸びが良く、CMのBGMなど、同じ音楽で比べるとテレビスピーカーではわからなかった細かい音が聞き取れる。特筆すべきは音のクリアさで、同じような音量で比較しても、明らかに「U-K323」の方が言葉が聞き取りやすい。デジタルアンプを採用していることと、振動対策により付帯音の少ない中域を実現しているためだろう。隣の部屋に移動しても「U-K323」では、ニュース番組で何を喋っているのかがキチンと聞き取れた。


天面の右隅に刻印されているのがDTS Surround Sensationのマーク
 「DTS Surround Sensation」は、2chスピーカーでサラウンド再生を行なうバーチャルサラウンド機能で、ソースがステレオでも、広がりのある再生ができるというのが特徴だ。効果は2種類用意されており、モード「1」を選ぶと、音場が拡大。映画でドアを開ける音や、銃撃音などが真横から聞こえてくるようになる。ただ、他のバーチャルサラウンド機能と同様に、位相が乱れたような音の“コモリ”は感じられ、明瞭度は低下。左右に音場が広がった分、中央の音が弱く感じられ、役者のセリフやナレーションが遠のく。それを解消するためにボリュームを上げたくなるので、ある程度大音量で、映画などを再生する時に活用するモードと言えそうだ。

 モード「2」では広がりが抑えられる反面、中央の音が野太く、聞き取りやすくなる。ただ、OFF状態よりも明瞭度は低下している。個人的にモード「1」よりも好みだが、素の音がハイクオリティなため、広がりを強調しない方向なら、OFF状態の音がベストだと感じた。常用モードと言うよりも、映画やライヴ番組などで利用したい。

DTSモードを「1」に設定したところ
 次に、CRTテレビとしては最大級のサイズである、36インチのテレビと接続してみた。CRTでは奥行きがあるため、テレビの上にも設置可能。設置場所が高くなると音場がより広く、高域の伸びも一層良くなる。ただ、このサイズのCRTテレビのスピーカーはかなりの容積があり、フラットで良い音が出ている。低音の量感では「U-K323」を越えている面もあり、あえて「U-K323」で音を出す利点は薄いと感じた。組み合わせるなら薄型テレビが良さそうだ。

 なお、テレビの近くに設置するとコンポまでの距離が遠くなり、ディスプレイの表示が見にくく、現在何の入力が選択されているか判別できなくなる。だが、付属のリモコンには「チューナ」、「CD」、「USB」、「D.AUDIO」、「デジタル入力」、「AUX」と、各入力が独立したボタンで用意されているため、迷わずに選択できた。


36インチのCRTテレビの上に乗せてみた


■ 単体オーディオ機器として使ってみる

 普通の一体型オーディオとしても使ってみよう。再生できるのは音楽CD、USBメモリなどに保存したMP3、WMA、AACファイルだが、DRMには非対応。タグ表示も可能だが、英数カナのみで、漢字は文字化けしてしまう。

 音楽ファイルはルートにあるものから再生し、フォルダ内のファイルも再生可能。リモコンの曲送り/戻しで選択できるほか、フォルダ単位の移動ボタンもリモコンに備えている。ナンバーボタンを使ってファイルナンバーを指定した再生も可能だ。ディスプレイ表示が1行のため、楽曲の選択性が良いとは言えないが、あまり膨大な量の楽曲を入れなければ大丈夫だろう。

USBメモリを背面に直刺ししたところ

漢字は文字化けしてしまう

 音の傾向は「Prodino」と良く似ており、清涼感のある、抜けの良いサウンドだ。低域は控えめで、バランスとしては腰高だが、解像感の高いデジタルアンプのキャラクターと合ったサウンドだと感じられる。山下達郎「アトムの子」冒頭、ドラム乱打の描写も精密で、スピーカーの前に顔を持ってくるニアフィールドリスニングでは、ドラムのスティックの動きも良くわかる。葉加瀬太郎「Dolce Vita」のヴァイオリンも、弦が震える様が明瞭で、虚空に消える高域の余韻も美しい。 女性ヴォーカルでは坂本真綾「トライアングラー」も絶品で、軽やかな音が疾走感をアップさせてくれる。休日の午前中に窓を開けて聞きたいサウンドだ。

 JAZZもフュージョン寄りであればハマるが、Kenny Barron Trioの「Fragile」など、低音の量感が欲しい楽曲や、録音が古いものなどは音が軽く感じられる部分もある。Norah Jones「Don't Know Why」など、音場の密度が雰囲気を演出するような楽曲も、抜けが良すぎるため、音楽の“うま味”まで削ぎ落としてしまったように聞こえる曲もあった。

 ただし、こうした音の傾向は、中低域の迫力に重点を置く“ミニコンポサウンド”とは異なり、極めてピュアオーディオ寄りの音作りであり、好感が持てる。低域を増強する「D-BASS」機能もあるのだが、設定を増やしていっても音の芯が太くなっていくだけで、低域がブーミーに膨らむそぶりすら見せないことに驚かされる。一貫した音の思想を感じさせる。悪く言うと素っ気ない音で、量販店の売り場などでは地味に感じるかもしれないが、長く使っていても飽きがこない音だ。単品コンポユーザーのサブシステムとしても活用できるだろう。


■ 細かい使い勝手をチェック

 一体型オーディオらしく、時計表示機能やスリープタイマー、指定した曜日/時間に、ラジオやCD、USB機器を再生させる機能を装備。ベッドサイドに置いての利用も想定している。ただ、残念なのは電源OFF時に時間を確認するには、リモコンや本体の「停止」ボタンを押す必要があり、表示時間も5秒に制限されていること。常時時計を表示する機能は欲しかった。ラジオはAM/FM両対応。エリア設定を行なえば、放送局がプリセットされており、ディスプレイに放送局名も表示される。

 便利だと感じたのは、デジタルアンプを採用しているため、発熱が少なく、排熱用のスリットが背後の極めて小さいスペースで済んでいること。そのため、フラットな天面に小物やiPod用Dock、リモコンなど、好きな物が置ける。

ラジオ局名表示が可能

時計表示も可能だが、常時表示はできない天面がフラットで、放熱スリットも無いため、色々な物が置ける

 反面、使いづらいと感じたのはUSB端子が背面にしか無いこと。USBメモリは細長いものが多いので、背面に直刺しすると、余計に奥行きを必要とするほか、ラックの中に入れた場合は、USBメモリを差し替えるのに苦労する。排他利用でも構わないのでフロントパネル、もしくは天面にも端子が欲しい。同様にイヤフォン端子も前面に欲しいが、デザイン性との兼ね合いが悩ましいところでもある。



■ アイデア次第で活用できる新感覚コンポ

天面はヘッドフォン置き場としても使用可能。ヘッドフォンの音も解像感の高く、明瞭だ
 普段はシンプル操作の一体型オーディオとしてリビングに設置し、ラジオや音楽CDを再生。薄型テレビで映画を見る時は、テレビのそばに設置してバーチャルサラウンド再生。部屋のPCに蓄積した音楽ファイルを再生したい場合は、USBメモリに入れてお手軽再生と、ニーズに合わせて使い方を変えられるのが大きな魅力。薄型の一体型筐体を採用したことで、設置場所の変更が苦にならないのがポイントと言えるだろう。

 テレビのそばに設置することを考えると、DVDプレーヤー機能などが欲しくなるが、BD/DVDレコーダが普及している昨今、音楽CDに留めてコストを抑える“割り切り”は良い判断だと感じる。実売4万円という価格も、音質や質感、デザイン性から考えると安いと言って良い。薄型テレビ用のラックシアターと比べると、テレビから離しても普通のオーディオ機器として利用できる点が評価できるだろう。

 従来のミニコンポや、HDD搭載コンポと比べて足りないのは、MDやテープなど、何かのメディアに録音/蓄積する機能や、その音楽をポータブルプレーヤーに転送する機能だ。そう言った意味で、「U-K323」はPCやポータブルオーディオ機器を既に使っている家の中で、そうした機器が置かれにくい場所での音楽鑑賞、テレビ視聴を補佐する製品と言える。共存を前提に、PCと重複する機能は大胆に省き、省スペース性やデザイン性を追求。“薄型テレビの音の悪さ”という新しい問題にもアプローチする……。それがケンウッドの描く“新しいミニコンポ像”と言えそうだ。




(2009年 4月 3日)