【新製品レビュー】

新顔&個性派、気になるイヤフォン2機種を聴く

-ヤマハ初カナル「EPH-100」、9w低価格「NW-STUDIO」


左がナインウェーブの「NW-STUDIO」、右がヤマハ初のカナル型「EPH-100」

 製品数が増加し、方式やデザインがますます多様化。どれを選べばいいか悩ましい状況になっているイヤフォン市場。ここでは、そんなイヤフォン市場に登場した、気になるニューフェイス2モデルを紹介する。

 1つ目は、カナル型イヤフォン市場に新規参入したメーカーのモデル。と言っても新興メーカーではなく、お馴染みのヤマハだ。オーディオメーカーとしても長い歴史がある同社だが、意外にもヘッドフォン&イヤフォン製品は数十年ぶり(楽器練習用などは除く)とのことで、初のカナル型イヤフォン「EPH-100」を8月に発売した。直販サイト「Yダイレクト」のみで販売するモデルとなっており、価格はオープン。直販価格は14,800円。

 もう1つのメーカーは、カナル型全盛のイヤフォン市場において、独創的な技術を採用したインナーイヤフォン「NW-STUDIO PRO」(実売15,800円前後)で存在感を発揮しているナインウェーブ(9w)。同社が7月28日にリリースしたのが、低価格モデルの「NW-STUDIO」(実売5,980円)だ。




■EPH-100の外観チェック

 音を出す前に外観をチェックしよう。まずはヤマハの「EPH-100」。目を引くのは、アルミニウム削り出しの光沢のある筐体と、装着したダブルフランジタイプのイヤーピース(ヤマハでは2ステージイヤーピースと呼称)による、銀と黒のコントラストだ。筐体にもイヤーピースにも“節”が沢山あるデザインで、かなり特徴的だ。

EPH-100筐体のアルミと黒いイヤーピースのコントラストが特徴ハウジングの背面にヤマハのロゴ。わずかに凹んでおり、指で押し込みやすいようになっている

 どちらかと言うと男性向けのデザインで、耳に挿入するとイヤーピースは外から見えないため、質感の良いアルミ筐体だけが露出する事になる。方向性としては“クールで上質”というイメージで、スーツにも似合いそうだ。

 筐体が細身なのでバランスド・アーマチュアのように見えるが、ダイナミック型ユニットを採用している。ドライバは6mmの超小型タイプ。耳穴にドライバまでをしっかり挿入する事で、ユニットから発せられた音を鼓膜に真っ直ぐ届ける狙いがあり、「外耳道内での音の反射を抑制する事で、ピュアな音質を実現する」(ヤマハ)としている。

ドライバは6mmの超小型タイプイヤーピースを外したところ。アルミ筐体の質感は高い

 超小型のダイナミック型ユニットを、耳穴の奥まで挿入するという考え方は、ビクターが「HA-FXC71」などで採用している「マイクロHDユニット」と「トップマウント構造」によく似ている。

 イヤーピースはタイヤのような独特の形状をしており、5種類のサイズを同梱している。前述のように、耳穴の奥まで挿入するのが正しい装着なので、ある程度耳穴に挿入した状態で抜けにくいサイズを選ぶと良いようだ。

イヤーピースは5種類のサイズを同梱細身のイヤーピースを取り付けたところ

 入力プラグはステレオミニで、ケーブルは1.2mのY型。ケーブル側に面白い工夫がある。「スマートケーブルホルダー」と名付けられた小さなパーツで、ここにステレオミニプラグの根元を固定できる。これにより、大まかではあるが、ケーブルを短くまとめられ、鞄などに収納しても絡まりにくいという。ケーブルを巻きつけるホルダが付属する製品は多いが、ホルダを家に忘れてしまう事もあるので、ケーブルそのものに可搬性を向上させるパーツが付いているのは便利だ。

 インピーダンスは16Ω。再生周波数帯域は20Hz~20kHz。重量は15g。キャリングケースも付属する。

指先にあるのが「スマートケーブルホルダー」ホルダに入力プラグの根元を固定する


■NW-STUDIOの外観チェック

NW-STUDIO
 「NW-STUDIO」の筐体形状は、上位モデルとなる「NW-STUDIO PRO」とよく似ている。だが、素材とカラーが異なるため、受ける印象はずいぶん違う。「NW-STUDIO PRO」の筐体はアルミ製だが、「NW-STUDIO」は樹脂製で、触ると若干チープに感じる。しかし、黒とシルバーを組み合わせたシルエットはシャープなイメージで、「NW-STUDIO PRO」とはまた違った魅力がある。こちらの方が“カッコイイ”と感じる人もいるだろう。


左が「NW-STUDIO PRO」、右が「NW-STUDIO」

 ユニットは13.4mm径と大口径。この樹脂筐体に最適化したドライバになっているという。再生周波数帯域は20Hz~20kHz。インピーダンスは32Ωだ。

 ナインウェーブのイヤフォンと言えば、M.I.Labsの技術「DUAL Anti-Standing Wave System」を採用しているのが特徴。低価格モデルではあるが、「NW-STUDIO」も同じものを採用している。

 これは、通常のイヤフォンで発生する低域の共振を防ぐための技術で、振動板の面積に対して、発音部側の筐体に設ける微細孔の開口面積を1%に設定するというもの。穴の面積が少ないので、強力な空気の機械抵抗が発生し、振動板の各種共振を制御。振動板の動作を抑制することなく、原音に忠実に低音域から高音域に掛けてのフラットな再生を実現するという。

 イヤーパッドを外すと、バッフル面積に対して、微細孔が占める面積が少ない事がわかる。同時に、微細孔がバッフル面の下側のみに偏っているのがわかる。これは、耳の中で鼓膜に到達した音波が反射し、イヤフォンまで戻り、再び反射して“行ったり来たり”する定在波を発生させないための工夫。鼓膜に対して角度をつけた形で音波を放出し、そのまま戻ってこないようにしているわけだ。

 入力プラグはステレオミニ。ケーブルはY型で、長さは約980mm。重量は約11g。付属品はイヤーパッドのみとなる。

左が「NW-STUDIO PRO」、右が「NW-STUDIO」。同じ技術が使われている事がわかる


■聴いてみる

 では音を聴いてみよう。試聴機材は「iPhone 3GS」+「ALO AudioのDockケーブル」+「ポータブルヘッドフォンアンプのiBasso Audio D12 Hj」を使用している。

●EPH-100

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、冒頭のギターの段階で非常にバランスの良いサウンドである事がわかる。1分過ぎからアコースティック・ベースの量感ある低域が入ると本領発揮。カナル型ならではの「ヴォーン」というボリュームのある低域が味わえる一方で、中高域の明瞭さが低下しない。低域が膨らみすぎない全体のバランス感覚と、それに覆われてしまわない中高域の解像度の高さが活きている音作りだ。

 ヴォーカルの伸びも自然で、声の質感が自然さはダイナミック型ならでは。サ行に金属的な響きが乗ったり、ヴォーカルの音像が硬質で薄くなるような事はなく、肉厚で温かみのある声が楽しめる。

 低域のキレの良さ、解像度の高さも特徴の1つで、「キマグレン/LIFE」の締まった低域が実に心地良い。また、ドンッ、ドンッと刻みこむような低域の裏に「シャカシャカ」というパーカッションの細かい音が存在しているのがしっかり描写されており、解像度の高さを伺わせる。筐体がアルミ製で、ハウジングが振動する音が低域をふくらませたり、汚していないのも効いているようだ。

 難点としては、耳穴に深く挿入するタイプのカナル型であるため、音像が頭の中心に近く、頭内定位が強い事。ただ、アルミ筐体のためか、音を出していない時でも耳栓のような音がこもる閉塞感は少なめだ。


●NW-STUDIO

 カナル型(EPH-100)を聴いた直後という事もあり、インナーイヤー型ならではの開放的な音場が心地よい。「Best OF My Love」を再生すると、こちらも付帯音の少ない、クリアでバランスの良いサウンドが流れだしてくる。

 カナル型と比べるとアコースティック・ベースのボリュームは少なくなるが、低域の最低音はしっかり沈み込み、芯のある硬質な低音が味わえる。13.4mm径という絶対的なユニットの大きさが効いているのがわかる。迫力という面では「EPH-100」の方が上だが、原音に忠実なバランスとしては「NW-STUDIO」の方が近く、スピーカーやヘッドフォンのバランスに近い。中高域の動きも明瞭に見える。

 高域の抜けの良さは特筆すべきレベルで、ヴォーカルの伸びやかな声が虚空に消える様が体感できる。ハウジングの振動により発生する余分な“鳴き”がほとんど感じられず、ユニットからの音をそのまま聴いているようなクリアさがある。

 ここで上位モデルの「NW-STUDIO PRO」も参加。NW-STUDIOと比べてみると、違いが興味深い。NW-STUDIO PROの筐体素材はアルミだが、ヴォーカルの高域などに、若干アルミ特有の付帯音を感じるのだ。

 ボリュームを上げ目にすると傾向が顕著になり、ヴォーカルやパーカッションから広がった音の響きが、アルミハウジングの中で共鳴しているのがわかる。同じアルミ筐体である「EPH-100」の部分でも書いたが、共鳴した音は低い音にならず、低域の明瞭度を下げるものではないが、高域に加味されると、人間の声やシンバルなどの響きが「シャラシャラ」、「カンカン」した硬質で金属的なイメージになる。

 ただ、付帯音の傾向が爽やかであるため、独特の“スッキリ感”を生み出しており、聴いていて不快な感じはしない。また、共鳴した音が音圧となって迫ってくるダイナミックさに変化している部分もあり、ある意味カナル型イヤフォン的な迫力が加味される。

 NW-STUDIOに戻すと、こうした付帯音や増幅された響きの成分が綺麗サッパリ消えてなくなり、ユニットからの音がクリアにダイレクトに耳に届き、響きの成分もハウジングに反射して戻ってくる感覚が無いため、広がる音波の波紋がどこまでも広がる印象だ。

 迫力や爽やかさの面ではNW-STUDIO PROが優れているが、クリアさ、音の自然さの面では、低価格なNW-STUDIOの方が優れていると感じる。このあたりは好みの問題だが、個人的には、NW-STUDIOの方がマニア受けするニュートラルなサウンドだと感じた。



■まとめ

 EPH-100は、ヤマハのカナル型イヤフォン参入第1弾だが、全体のバランスが非常に良くできている。中高域のクリアさを維持しつつ、カナル型ならではの低域のパワーもちょっと強めに発揮……しかし、膨らませ過ぎずに締めるところは締めるという、絶妙な音作りで、第1弾とは思えない、良い意味で手馴れた感じがする。流石は老舗のオーディオメーカーという完成度だ。

 気になるのはWebでの直販のみで、現在のところお店などで試聴する事ができない事だろう。直販14,800円という価格は、現在の市場では高価とまでは言えないが、やはり聴いてみてから買いたいものだ。

 「NW-STUDIO」のサウンドは、実売5,980円とは思えないクオリティで、インナーイヤーのライバル製品が少なくなっている現状は別にしても、オススメできる製品だ。iPodなどの付属インナーイヤーからのステップアップだけでなく、この価格ならば、既に高価なカナル型イヤフォンを愛用しているという人がサブ機として入手し、バランスの違い、閉塞感の少なさなどを楽しむという使い方もアリだろう。


(2011年 9月 9日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]