西田宗千佳の
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Wii後継機は「Wii U」。TVとの関係を考え直す据置型?!

~E3 2011特別編 任天堂プレスイベント詳報~


イベント会場となったNokia Theatre。早朝から多くのプレス関係者が詰めかけた。

 E3の次なる話題は、Nintendo of America(NOA)のプレスイベントだ。

 今回の注目点は、Wii後継機。任天堂は4月25日に、E3にてWiiの後継機をお披露目すると公表していた。任天堂は、日本同様、アメリカでも人気がある。特にゲームプレス関係者からの「リスペクトの高さ」は、他の企業よりもかなり上だと感じる。

 そんな同社の新型機発表なのだから、盛り上がらない方がどうかしている。会場となったNokia Theatreは、早朝からプレス関係者の長蛇の列ができた。ある意味これも例年通りなのだが、今年も例に漏れない。


 


■ ゲーム機の課題は「メンタルギャップ」。深い体験と簡単な操作の両立を目指す

 そんな任天堂のプレスイベントは、人気タイトル「ゼルダの伝説」に関するアピールから始まった。このシリーズは日本のみならず、特に北米市場で人気があるだけでなく、今年で25周年ということもあって、任天堂としても力が入るのはよくわかる。

ゼルダの伝説25周年を記念し、生オーケストラによるテーマソングや効果音(!)の演奏が行われた「ゼルダ」関係を中心にプレゼンテーションを行った、宮本茂氏。やはり会場での人気は高く、歓声もひときわ大きかった
任天堂の岩田聡社長。Wii後継機に向けた「現状でのゲーム業界が抱える問題点」について認識を伝えた

 人気タイトルの施策を発表し、会場の雰囲気が暖まったところで、同社・岩田聡社長が壇上に登場した。

「私たちは過去に、ニンテンドーDSとWiiを発表した際、ゲーム人口の拡大という目標をかかげました。その結果、ゲームをする人々の間に、もはや性別・年齢の隔たりはなくなっています」

 確かに、ニンテンドーDSから始まり、Wiiにつながる施策の中では、ティーンエイジャーからコアなゲーマーといったある塊だけでなく、よりファミリー層に近い世代にゲームが広がったのは間違いはなく、それこそが同社の成功を支えた要因だ。


WiiとニンテンドーDSの成功は、ゲームをより広い層へと普及させることに成功した。だが、それがそのまま「永続的な成功」を意味しなかったのが、同社の現状の問題点だ

 だが、岩田氏は現状に満足しているわけではない。

「しかし、まだまだ『メンタル面』ではギャップを抱えてしまっています」

任天堂の次の狙いは、「奥の深さ」と「幅の広さ」の両立

 岩田氏の言う「メンタル面」とは、「ゲームに求めるものが違う人々同士」の満足度が異なることだ。コアなゲーマーと、時々しかゲームをしない人、ゲームをする時間は長くても難しいゲームはしない人とでは、同じゲーム機から得られる満足感が異なる。これこそまさに任天堂が直面している課題であり、岩田氏も「Wiiはカジュアル向けのゲーム機であると認識されてしまっている」とそのことを認める。

 他方で岩田氏はこうも続ける。

「ですが、我々の業界はどこも、あらゆる層に満足してもらうゲーム機を作るのは、業界として成し遂げていません。我々がイベントの後半で紹介する後継機は、『奥が深く』『幅広い』、これまで業界が成し遂げていなかったものです。我々のイノベーションのゴールは、すべてのゲームプレイヤーのためになるものを届けること。新しいプラットフォームは、我々のゴールへの大きな一歩になります」


 


■ TVから離れて、TVと一緒に使うコントローラ。次の狙いもインターフェイス革新

ニンテンドー・オブ・アメリカのプレジデント、レジー・フィザメイ氏。アメリカでは、岩田氏や宮本氏と並び、任天堂の「顔」である

 新型機の登場は「2012年」。その前に、任天堂には「今年」のビジネスがある。その部分の説明を担当したのは、ニンテンドー・オブ・アメリカのプレジデントであるレジー・フィザメイ氏だ。同社にとって今年のビジネス、とはもちろんニンテンドー3DSの拡販。「マリオカート」をはじめとし、タイトルが揃ってくることを強調していった。このあたりは、E3が年末商戦に向けた商談の場であることを考えれば当然のことで、むしろ彼らにとっては主軸ともいえる。

 新作の紹介が終わると、話しは再び「後継機」に戻る。フィザメイ氏はこう切り出した。

「Wiiというハードウエアの名前があっというまに広まっていったのは、言葉の響きが『We(我々)』に通じていたからです。この後継機は、『あなたにピッタリ』という意味を加えたものになります。名前は『Wii U』です」

 もちろん意味は、「We(我々)」と「You(あなた)」のコンビネーション。Wiiを引き継ぐものであり、よりパーソナルな満足感を実現できる、という意味を込めたものなのだろう。


「Wii U」のロゴと、新コントローラーをフィザメイ氏がお披露目コントローラーの裏にはトリガーも。伝統的なコントローラーの代わりになるよう設計されている

 その後壇上で流されたのは、Wii Uで考えられる「遊び方」の提案の映像だ。手法としてはWiiを発表した時と同じだが、Wii Uそのものが非常に多様性に富んだハードウエアなので、映像も凝ったものになった。

新コントローラーを持って操作。テレビから離れて、映像を見ながら使えるペンでお絵描きも。DSのタッチパネルに比べても、かなり精度の高い入力ができるようだ
ボードゲームを、新コントローラーを囲んでやることも可能。この後、負けている方は盤面をひっくり返すようにコントローラーをひっくり返し、駒をバラバラにしてしまうテレビと新コントローラーの両方に、別々の映像を映して操作。コントローラー画面で「狙う」ような感覚だ
ビデオチャットを思わせる画面。カメラ内蔵で通信ができるなら、こういった用途も十分に考えられるウェブ閲覧。メインはテレビ画面だが、操作用に同じ情報を新コントローラー側にも表示している

 Wii Uの正体は、6.2インチのタッチパネルを中心に置いたコントローラーと連携する据え置き型ゲーム機だった。

「これはけっして3DSのような、ハンドヘルドゲーム機を置き換えるものではありません」

 岩田氏はこの点を強調する。Wii Uの中心となる新コントローラーは、タッチスクリーンを備えた板状の物体で、まるで「タブレット端末」のように見える。しかしこれはあくまで「コントローラー」であり、この部分が単独で動作することはない。プレゼン映像では、テレビの横にひそやかに置かれている白い小型の箱がWii Uの本体であり、コントローラーは「インターフェイス」であり「ディスプレイ」である。

テレビの下にあるのが、本当の「Wii U」本体。これと新コントローラー1つがセットで動作する

「いままでゲームはテレビを専有しないといけませんでした。しかし6.2インチのモニターを搭載することで、テレビを諦めなくてよくなりました」

 岩田氏はそう話す。

 Wiiのソフト・周辺機器と完全な互換性をもちつつも、Wii UそのものはHD画質世代のゲーム機であり、メディアとしても「12cmサイズの独自規格光ディスク」をサポートする。

 ディスクの詳細は不明だが、同社関係者によると、WiiがDVDビデオの再生機能を持たないのと同様、BDビデオの再生機能は持たないという。ゲームの映像はHDMI経由でテレビに表示するだけでなく、新コントローラー内のディスプレイにも表示できる。テレビ向けの出力と同じものを出すこともできるが、別の映像を出すことも可能。要は、パソコンにおける「マルチディスプレイ」を想像してもらえればいい。同じものも出せるが、コントローラー自身を「2つめのディスプレイ」とし、独自の情報を出すこともできる。

 ここで重要なのは、新コントローラーには、タッチパネル以外に「コントローラーとしての機能」をすべて持つ、という点だ。モーションセンサーもあれば、アナログパッドやトリガーもある。カメラも内蔵だ。すなわち、Wiiリモコンで得られたことも、3DSで得られたこともすべてを取り込んだ上に、双方を組み合わせることも可能。デモビデオ中もっとも会場が沸いたのが、足下に新コントローラーを置き、Wiiリモコンを持ってゴルフをプレイする様だった。新コントローラーのディスプレイを「テレビが使われている時のサブ」としてでなく、操作するためのサブ画面と捉えるのが、Wii Uの特徴といえる。

新コントローラーを使ったゴルフのデモ
新コントローラーの詳細図。左右にゲーム的な操作系を用意したタブレット、という印象。実際の中身などはまだよくわかっていない

「Wii Uでは、限りなく、幅広いタイプのゲームが作成できます。両手を使ってたくさんの操作を要求される上級者向けのものもできれば、直感的に遊べるゲームも可能。我々もいままでにない悩みを抱えています。それは、新しいアイデアがつぎからつぎへと浮かんできてしまうことです(笑)」

 岩田氏は、一貫して「インターフェースがゲームを変える」と主張してきた。フィザメイ氏も会見をこう締めくくった。

「任天堂の4つのゲーム機、ニンテンドーDS/3DS、Wii、そしてWii Uに共通しているのは『イノベーション』。Wii Uによって2つめの扉が開くことで、ゲームがどうなるか考えてみてください」

 今回任天堂が狙ったのは、動きによるシンプルな操作性だけでなく「正確さ」「組み合わせによる複雑さ」の両方を兼ね備えた製品を作ることだろう。

 また、リビングのテレビ近くでコンパニオンのように扱えるデバイスとして、タブレット端末へ注目度が高まっているという、昨今の家電のトレンドもある。

 価格や技術の詳細などはまだ未公表だし、残念ながら筆者も、まだ実機を体験する機会には恵まれていない。コスト的に「気軽に買えるゲーム機」の範疇に収められるのか、また、そもそも「汎用機器としてのタブレット」が普及していく中で、本体と1対1で使う専用コントローラーという形態をとることのメリットがデメリットを上回るのかなど、気になる点が多い。

 任天堂が考える「ゲームを中心としたエンターテインメント端末」であるので、AV的に見てどのくらい魅力的な商品なのかはまだ未知数だ。しかし、任天堂が「人が集まるリビング」においてテレビだけを重視しない形態を選んだことは、テレビと人の関係を考える上で、非常に重要なポイントとなってきそうである。

(2011年 6月 9日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]