西田宗千佳の
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「NGP」は「PlayStation Vita」に! PS3は「3D」で訴求

~E3 2011特別編 SCEAプレスカンファレンス詳報~


 サンフランシスコでWWDCが開かれる一方、ロサンゼルスではゲーム関連イベント「Electronic Entertainment Expo(E3) 2011」がスタートする。

会場となった、Los Angeles Memorial Sports Arena。ロサンゼルス・オリンピックのメイン会場だったところだ

 今年の日程は6月7日から9日の3日間。各社プレスイベントなどは、その前日の6日からスタートする。WWDCとは日程がばっちりぶつかった。

 当方もスケジュールの関係から、まったく同じ日程で動くイベントには参加できなかった。というわけで、残念ながら、午前に予定されていたマイクロソフトのプレスイベントについては参加できなかった。僚誌GAME Watchのレポートなどをご覧いただきたい。ただマイクロソフト関連については、別途キーマン取材を予定しているので、そちらをお楽しみに。

 WWDCから移動してもなんとか間に合う状況だったのが、夕方からスタートしたソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)のプレスカンファレンスだ。今年のE3レポートは、SCEAのプレスイベント・レポートからお届けしよう。

 アップルに負けず劣らず、こちらも話題は多い。明るい面に目をやれば、年末に登場が予定されている「NGP」こと「PlayStation Vita」の詳細が気になるところだが、他方で、4月以降同社をゆさぶった大規模不正アクセスの影響も小さくない。

 SCEAのプレスイベントは、Los Angeles Memorial Sports Arenaを借り切る形で行なわれ、終了まで5時間という長丁場となった。とはいえ、パーティーを兼ねたイベントであるので、会見は約1時間半だ。今回は、その後に行なわれたPS Vitaのハンズオン取材についても解説していく。

 


■ 大切な「つながり」を奪ったことを謝罪。PS3は「3D」と「Move」をアピール

 プレスイベントにまず登壇したのは、SCEAプレジデント兼CEOのジャック・トレントン氏だ。

SCEAプレジデント兼CEOのジャック・トレントン氏。アメリカ市場に向けた新作ソフトを中心にプレゼンテーション

 最初に発したのは、PlayStaion Network(PSN)の個人情報大規模流出に関するコメントだった。といっても、まずはつかみのジョークとして。

「スキャンダルや失敗ほど、ネタになるものはないですよね。ジャーナリストのみなさん、いらっしゃいませ」

 もちろん、その後は真面目なコメントも行なった。

「我々は、皆様がもっとも大切にしているゲームや友人との『つながり』をとりあげてしまいました。個人的にも、また会社の代表としても、心からお詫びします。消費者の皆様はのプレイステーションの血です。皆様なしに我々は存在しません。変わらぬご支持、ありがとうございます。そして、プレイステーションから去った方々、プレイステーションに触れたことがない方々は、これからの時間で説得できるよう努めます」

 イベントの中心は、もちろんプレイステーション向けタイトルのアピールだ。個々のタイトルについては、ゲーム専門媒体に譲るとして、ここでは傾向だけを抑えておきたい。

 今回はついにPS2やPSPのタイトルへの言及がほぼなく、PS3と「NGP」に時間が割かれた。プラットフォームがついに「完全に次世代へ移行」した印象だ。

 特にPS3については「3D」と「PlayStation Move」についてのアピールに時間が割かれ、特に3Dについては、多くのゲームが3Dでデモされるなど、力が入っていた。デモタイトルのほとんどが、PS3のみ、もしくはPS3向けに独自のコンテンツを持つものであり、その機能の一つとして「3D」を推している、という印象だ。ゲームの3D対応も技術的にこなれてきて、大型タイトルならば最初から想定に入っている、ということもあるのだろう。もちろん、ソニーグループが全社を挙げて3Dに邁進している、ということは無関係ではない。映像コンテンツがなかなか出てこない中、ゲームは3Dに対応しやすく、数が増やしやすい。うまく作れば魅力も高いからだ。

PSブランドの3Dモニターとなる「CECH-ZED1」。価格は、3Dメガネ、ゲームがセットになって499ドル

 特にそれを象徴しているのが、「プレイステーションブランドの3Dモニター」(米国型番「CECH-ZED1」)の発売だ。24型フルHD/4倍速フレームシーケンシャル表示となかなかリッチな構成でありながら、3D対応ゲームである「RESISTANCE 3」、3Dメガネ1つ、HDMIケーブルがセットになって499.99ドル、というのはかなり安い。

 価格やセット内容が米国と同一とは限らないが、日本でも秋に発売が予定されているという。

 このモニターのおもしろいところは、1台で2人のプレーヤーが、しかも「フル画面」で対戦プレイできるところ。しかけは単純で、フレームシーケンシャルによる3D表示の仕組みを「右目と左目の表示」にするのではなく、「1人目のプレイヤーと2人目のプレイヤー」にする、ということ。それぞれメガネをかけていれば(理論的には)自分向けの映像しか目に入ってこなくなるので、フル画面での対戦が1モニターでできる、ということになるわけだ。

 ソフト面のしかけなので、他の3Dテレビでもできそうな印象を持つが、詳細は不明。クロストークが大きなテレビだと「ちょっと相手の映像が見える」感じになりそうだが、その辺の感覚も分からない。まあどちらにしろ、アイデアとしてはかなり面白い。

1枚のディスプレイで「2人がフル画面のゲームで対戦」できる仕組みを搭載。フレームシーケンシャル方式の応用なのだが、おもしろいアイデアだCECH-ZED1

 


■ Vitaは249ドルからスタート。アメリカの3GパートナーはAT&Tに

SCE代表取締役社長兼グループCEOの平井一夫氏。ワールドワイドの施策として「Vita」の正式名称や価格をお披露目した

 そして、イベントの後半は、ある意味今回の「本題」ともいえる「NGP」の話題だ。

 登壇したのは、SCE代表取締役社長兼グループCEOの平井一夫氏だ。平井氏もまた、PSNのトラブルからプレゼンテーションをはじめた。

「6年前のE3で、我々は10年間に渡るビジョンを発表しました。そして、そのためにPSNをローンチしたのですが、その後ネットワークエンターテインメントは大きく変化し、ますます重要なものになりました。今回、PSNの障害で学んだもっとも大きなことは、ユーザーの信頼が大切である、ということです」

 そして、NGPに入る前に、まず「PlayStation Suite」(PSS)に関する説明を行なった。
「6年前の携帯電話では、まだ複雑なゲームは不可能でした。しかし、今の電話ではPSNに近いことが出来るようになっています。PSSは、まず『PlayStation Certificate』という認証のとれた機器から展開していきます。詳細は後日発表しますが、NGPとははまた違った形で、ユーザーとゲームをつなげるコンテンツになります」

 となると、やはり気になるのは「NGP」である。

「NGPの正式名称は『PlayStation Vita』。Vitaとは『命』という意味、生活に溶け込むような製品を目指しています」

 仕様面は、1月に日本で発表された時から大きな説明の変更はない。逆に、細かなスペックの公開もなかった。今回発表された中でも注目は、やはり価格だ。

 アメリカでの販売価格は、Wi-Fiモデルで249.99ドル。日本では24,980円。これはおおかたの予想の中でも最も安いゾーンにあたる。

 3G/Wi-Fiモデルは299.99ドル(日本では29,980円)で、こちらも安い。ただし、携帯電話事業者との契約形態が公開されていないため、この価格がどういうものにあたるかはまだ不明だ。

 平井氏は壇上で、「アメリカではAT&Tモバイルがエクスクルーシブなパートナーとなる」と発表した。この瞬間、プレスイベントの中では唯一ブーイングが起きた。やはりAT&Tモバイルの不人気ぶり(?)は相変わらず、といった印象である。

価格は、Wi-Fi版が249ドル(欧州では249ユーロ、日本では24,980円、3G/Wi-Fi版が299ドル(同299ユーロ、29,980円)と、中身を考えると相当にお手頃価格からスタートアメリカでの3G回線パートナーはAT&Tモバイルに。回線の遅さ・つながりにくさでは不評が大きく、会場からはブーイングも
PlayStation Vita

 


■ Vita実機ファーストインプレッション。画質だけでなく「即応性」の良さが光る

 ここで、会見後に行われたハンズオンイベントでの、Vita実機の動作状況をお伝えしよう。残念ながら撮影は一切禁止とされていたので、写真はない。ご容赦いただきたい。

プレスイベント会場の奥に用意された試遊スペース。内部には5つのゲームタイトルと、数十台のVita実機が。内部は基本的に撮影禁止だった

 印象を一言でいえば「次世代」としかいいようがない。

 PSPはいまだ多くのゲームの出るプラットフォームだが、最新のスマートフォンに比べると、ディスプレイの解像度などで見劣りするため、少々古い印象が否めない。だがNGPはまったく逆で、解像度だけならばさほど変わらないiPhoneなどと比較しても、一歩も二歩も上のクオリティだと感じる。特に「Uncharted Golden Abyss」は、携帯機とは思えないクオリティだ。

 それ以上に感じたのが、タッチセンサーやジャイロセンサーの精度の良さである。タッチやジャイロを生かしたゲーム作りという点では、いかにも「iPhone向けのゲームから影響を受けているな」という作品が少なくない。だが、触ってみた時の反応や追従性は、十字キーなどで操作した時の「キビキビ感」「即応感」に近いものがある。

 特に大きいのは、ジャイロセンサーの精度だろう。外部の映像とゲームを連動させる拡張現実(AR)系の操作をする際、スマートフォンでは「体の動きに映像が遅れてついてくる」印象が否めない。同様にARを組みこんでいるニンテンドー3DSは、スマートフォンよりは反応がよいと感じたのだが、VitaのARを体験すると、やはりちょっと精度が悪いのか、と感じてしまった。

 最先端のセンサー系デバイスに最先端のプロセッサー、そして大型の有機ELディスプレイをセットにしたのが、Vitaの最大の美点だといえる。どれもデバイス的には、スマートフォンやタブレット端末に追いつかれる時期が来そうだが、「即応性」の面では、負荷の大きい汎用OSを使った端末に比べると、しばらく「ゲーム機であること」がアドバンテージになりそうな印象だ。

 この製品を25,000円以下で出す、というのは、SCEにとって相当大きなチャレンジといえそうだ。

 他方、気になったことも一つある。

 会場の盛り上がりを見ると、携帯機であるVitaより、やはり据え置きの方が大きかった印象が否めない。日本以外の市場では、まだまだ携帯機は「サブ」と見られている。ニンテンドーDSが据え置きとはまったく異なる市場を作ってはいたがその勢いも衰え、むしろ「手軽でサブ的なゲームをする」という意味合いから、スマートフォンに市場が移りつつあるのは事実だろう。今回の渡米に際し、空港でゲームをする人の姿をウオッチしたが、数的にはスマートフォン派が圧倒的に多く、アジア人か若年層がDSをやっている、というところだった。

 そんな状況で、Vitaはどれだけバリューを市場に見せられるのだろうか? 即応性・画質で優れたVitaの価値を、「携帯機の魅力が浸透していない」地域でどこまで理解させられるのか? マーケティング的な課題は、日本より遙かに大きいと感じた。

 PSNのトラブルがSCEにどのような影響を与えたのか、VitaやPSSのビジネスがどうなるか、そして、各国のゲームを巡る市場をどう見ているのか。

 平井CEOへの単独取材を予定しているので、詳しくはそちらをお待ちいただきたい。

(2011年 6月 8日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]