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西田宗千佳の
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「シンプル」こそが価値。録画機市場は変わった?

バッファローが「ゼン録」に賭ける理由


バッファロー 事業本部 デジタルホーム事業部 DHマーケティンググループ 山口勝寿氏

 12月中旬より、バッファローはHDD搭載ビデオレコーダ「DVR-Z8」を発売する。この製品は、地上デジタルデジチューナを8つ搭載し、8チャンネルを同時に、最大8日間分録画できる。実売価格は10万円前後、愛称は「ゼン録」だ。

 バッファローはなぜ、DVR-Z8を商品化したのだろうか? そして録画機市場をどう見ているのだろうか? バッファロー 事業本部 デジタルホーム事業部 DHマーケティンググループの山口勝寿氏に話を聞いた。



■ 録画予約さえいらない「シンプルさ」をアピール

DVR-Z8

 DVR-Z8の特徴は、「8チャンネル分の地デジ番組を同時に録画できること」だ。逆にいえば「それだけしかできない」。データ放送にも対応していないし、Ethernet端子も「アップデート専用」(山口氏)だ。他のメーカーのレコーダが多機能であるのに対し、明確に違う方針で作られている。その背景にあるのは、同社がレコーダ市場で採る戦略にある。

山口(以下敬称略)昨年(2010年)の状況からお話しないといけませんね。昨年来我々は、単体の地デジチューナ市場に製品を投入してきました。これが、累計200万台ほど売れています。また、昨年「DTV-H500R」を発売しました。地デジを録画する機能に特化したレコーダですが、こちらも20万台ほど売れました。


'10年10月発売の500GB HDDレコーダ「DTV-H500R」

 これらの製品をお使いになっている方の声として、「余計なことを覚えなくて済む」という点があるんです。我々の製品の支持の根源はそこにあります。

 もちろん、「BSが見たい、録りたい」ということもありありましたので、H500Rだけでニーズを満たすことはできませんでした。今年はそのニーズに答えた、3波対応のチューナ、レコーダも製品化しました。

 しかし、DVR-Z8はそれとはまったく毛色の異なる製品なのです。H500Rは、シンプルで楽に録画できることがウリでした。しかし、従来通りの「録画予約」は必要です。もっと楽々で、究極のものを作りたいと考えたのです。録画もせずにすべて録ってあれば、予約はいらない。それがDVR-Z8開発の根本にあったものです。

 山口氏の言う通り、DVR-Z8の機能は非常にシンプルだ。チャンネルなどの設定が終わっていれば、あとは複雑なところはなにもない。

 カギになるのは番組表だ。一般的なEPGは「現在と未来」のためのものである。過去の番組にスクロールしていくことはできない。だがDVR-Z8のものは過去方向へもスクロールできる。過去方向へスクロールしていくと、番組の部分に「録」というアイコンがつく。これは、HDD内にその番組の録画が残っている、という印。見たい場合には、その番組を選んで「決定」でOKだ。見終わった番組や見なかった番組を消去する必要もない。自動録画分については、勝手に録画されて勝手に消えていく。

EPGは一般的な構成だが、「過去へさかのぼれる」点が違う。録画済みの番組には「録」というマークがついているので、それを選べば再生ができる 録画済みの番組を選択した場合、番組情報の詳細と「再生」「ダビング」に関するメニューが出てくる。ダビング対象は、内蔵HDDと外付けUSB HDDだ
再生中のユーザーインターフェースはとてもシンプル。再生と、早送り・早戻しだけ。タイムシフト中の場合、右上に現在時刻と再生している番組が放送されていた日時が表示される

 この種のやり方は、いわゆる「全録型レコーダ」では一般的なものだが、DVR-Z8の場合は、シンプル化が徹底している。番組を選んで「録画」することもできるが、それはかなり補助的なものだ。

 DVR-Z8での録画は、基本的に「全録」であり、全録時にはMPEG-4 AVC/H.264にトランスコードしながら録画する。ビットレートは最大8Mbps。標準の出荷時設定では4Mbps。「8チャンネル8日間」となるのは、2Mbps設定での場合となる。2Mbpsでは少し画質が落ちるが、4Mbpsならば、動きが少ない番組ではそう気にならなくなってくる。

 山口氏も「4Mbpsを基本として、設定を変えればもっと長く録れるという形」と話す。2Mbpsは、現在の価格で搭載可能なHDDを使いつつ「8日8チャンネル」という形を実現するための設定、と見た方が自然だ。もちろん、録画するチャンネル数を減らしていけば(地上波ならば、「8チャンネル必ず必要」という人は意外と少ないだろう)、その分ビットレートを上げても録画可能な時間は延びる。

USB HDDはダビング用と直接録画用として利用できる

 番組を選んで「録画予約」する場合にはDRモードでの録画となる。これはHDDのうち、「全録」とは違う領域に記録されており、特別な扱いとなる。「全録」した番組を消えないように残す場合にも、この領域へと番組を改めてコピーしておく、という使い方になる。ちょっと複雑に思えるが、要はDVR-Z8においては「上級編」的な使い方になるわけだ。

 もちろん、いきなり「全録」という流れが、広い層に理解されるとは、バッファロー側も考えていない。


EPGから直接番組予約をすることも可能。こちらの場合、録画は必ずDRモードとなり、「全録」とは別の扱いになる

山口:最初にDVR-Z8を意識していただけるのは、まずはテレビが好きな人、デジモノが好きな方でしょう。いきなり広い層にアプローチするのは難しいと考えています。

 本来使っていただきたいのは、そういう方々の親御さんや奥さん。こういうデジタルギアの知識はない方々です。そういった方々に「紹介して使ってもらう」形になるでしょう。いきなりお年寄りに「全録ですよ」と言っても引いてしまうでしょうから。

 H500Rも、そういったところがありました。市場では、BDレコーダがあたりまえで、「HDDレコーダ」の認知度は非常に低い。そこで真っ向勝負しても無理があるところです。「シンプルで、使ってみると十分使えるね」という話をよく分かる方から広げていきました。奥さん向けにこれで十分、といった形でです。DVR-Z8も同じような流れになるでしょう。

 そういう意味でDVR-Z8は、レコーダの市場に分け入るというより、裾野が広い製品です。おそらく、リビングにはあるんだけどプライベートルームに置かれるわけではない。どちらかというとサブ、という製品です。いきなりメインのレコーダーになるか、というと、それは難しい。しかし、(メインの)BDレコーダを持っていても、普通に見逃しは発生します。ライブラリー化はBDで行なう。それに対しDVR-Z8は、バックアップというか、安心感を与える製品になるのかな、と考えています。


■ スピード重視でシンプルな構成に、課題は「検索」?

DVR-Z8には、8チャンネル分のB-CASカード。チューナもエンコーダ LSIも8系統分搭載している

 DVR-Z8は、中身を見ると実に「豪快」な製品だということが分かる。本体前面を取り外すと、見えてくるのは8枚のミニB-CASカード。エンコーダーも、同様に8つ。極論すれば、8台分のレコーダーを1台にまとめたような構成だ。

山口:開発を始めたのは、企画段階からいえば、2010年の頭くらいのことです。ハードウエアとしてこれまでの製品と違うのはエンコーダの部分です。(東芝のように)CELLやCEVOエンジンのような独自LSIがあれば自社だけでできるのでしょうが、そういうものは企画段階ではありませんでした。種類やメーカー名などは公表しませんが、一般的なLSIを使って実現しています。力技といえば、力技ですね(笑)。

 バッファローが「力技」を採ったことには理由がある。今年の年末に間に合わせたかったからだ。現在は1チップで複数の映像ストリームを扱えるLSIの選択肢も増えており、よりシンプルな構造で製品を作れる可能性は高まっているが、その登場を待って製品化する、という選択を、バッファローは採らなかった。

山口:理由は、家電メーカーが「全録レコーダ」を一斉に出して来るのでは、という予想があったからです。実際にはそれほどなかったわけですが。そういう意味では、力技の構成の選択は「スピード」という意味で良かったと考えています。今年の年末商戦はひとつの目標でしたから。

 DVR-Z8が最初にアプローチする層は、それなりにリテラシーがある層となる。だが、構成としてはあくまで「シンプル」だ。同社はNASなども手がけており、DTCP-IPを使ったダビング機能などを組みこむのは不可能ではない。その点は、山口氏も認める。だが、バッファローはあえて「シンプル」にこだわった。

山口:次期モデル以降では、DTCP-IPなどへの対応も視野に入れます。従来から弊社が行っているPC周辺機器やホームネットワーク機器の考え方からみれば、そういうやり方は当然あるでしょう。

 しかし、H500Rや単体チューナのユーザーを見ると違うのです。これらの機器の販売数量は「200万台」という数字。PC周辺機器とは、ケタがちがってきています。それだけのユーザーが我々の製品をつかっていただいているのです。

 そういう方々の意見をうかがうと、「ネットワークが入ってくると難しそう」と感じます。規模が大きくならないのです。まずは、ユーザーの裾野を広げるのが優先と考えると、ネットワークであれもこれもではなく、「シンプル」で用意しました。

 同様の発想は、先日発表したデジカメ連携機器「おもいでばこ」でも採用しています。リテラシーの高い方は、「デジカメ連携なら、クラウドのサービスと連携して……」と考えると思いますが、そうはしていません。そうしないことで、コンシューマーユーザーの裾野を広げていきたいのです。

 お客様からみれば、「やりたいことをワンタッチでしたかった」という点を満たせることが重要。レコーダを市場で売る場合にも同様です。その中で、ネットワーク機能はとりあえず今は本質ではなかった。

 もちろん他方で、DVR-Z8には機能面で不満を感じる部分も少なくない。

 例えば、USB HDDを増設できるものの、それは「直接に録画予約した場合」のみに使えるもので、全録用の領域を増設するためには使えない。「シンプル」にするなら、ニーズに合わせてそちらに使えるようにすべきだ。また、トリックプレイについても、最大128倍速までの早送り・逆送りや15秒スキップなどの機能はあるものの、自動チャプター系の機能はない。正面にあるLEDのインジケーターは消せない。確かに光り方は控えめだが、そこまで自己主張が必要とも思えない。

 また、より重要なのは「検索性」だ。DVR-Z8では、EPGの他、EPGが指定する「ジャンル」によって番組を探すことができるようになっているが、膨大な「全録された番組」から素早く見たい番組を探すには、まだまだ機能が足りない。今のユーザーインターフェースでは、「放送日時とチャンネルがわかっている番組を見つける」のが現実的な使い方だ。

番組はEPGから呼び出す他、ジャンルを手がかりに検索していくこともできる。ジャンル情報は地デジ用EPGデータから取得したもの。操作は簡単だが、他方で、番組名などを使った検索はできない

 これらの改善点があることについては、バッファロー側も認めている。特に検索性については、最優先の課題と考えているようだ。

 他方、まったく違う方向から、この年末には懸念も発生した。タイで発生した大規模洪水の影響による、ハードディスクの高騰だ。秋葉原ではバルクのハードディスクが高騰して「時価」になり、家電メーカーでも調達量などで色々と苦慮しているという話を聞く。DVR-Z8は、もちろんハードディスクが要。バッファローとしてはどうなのだろうか?

山口:出荷量などに変更はありません。DVR-Z8などを手がけている事業部はPC以外をやっていくところなのですが、ここには戦略的に割り当てていくことになっています。確かに供給はタイトなのですが、社全体では数を用意できていますから、DVR-Z8向けは大丈夫です。

 DVR-Z8は、それだけ同社にとって「戦略製品」にあたるもの、ということだろう。

(2011年 11月 18日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]