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東芝の全録、「レグザサーバー」誕生の秘密に迫る

“レコーダ”にこだわらず、新しいユーザー開拓を


東芝・デジタルプロダクツ&サービス社 商品統括部 BD商品部 第一担当 参事の澤岡俊宏氏

 「全録」型レコーダの本命が、ようやく登場する。東芝はこの週末、12月10日より、全録型のレグザブルーレイである「レグザサーバー」こと「DBR-M180」(HDD容量合計2.5TB)を発売する。上位機種にあたる「DBR-M190」(同5TB)は12月22日発売予定だ。

 日本での「全録」商品としては、同社のハイエンドテレビ「CELL REGZA」から搭載された「タイムシフトマシン」が、もっとも有名な製品であるだろう。レグザサーバーは、この機能を単体のレコーダとして実現したものになる。

 レグザサーバーは、レコーダとしてどのくらいの能力を持っているのだろうか? そして、テレビに搭載されたタイムシフトマシンとはどう異なるのだろうか? 東芝にその詳細を聞いた。取材に御対応いただいたのは、東芝・デジタルプロダクツ&サービス社 商品統括部 BD商品部 第一担当 参事の澤岡俊宏氏だ。




■テレビから派生、古いテレビも「よみがえらせる」?!

 レグザサーバーは、簡単に言うとどういう製品なのか? まずはそこから確認してみよう。機能的に言えば、これまでのレグザブルーレイやRDシリーズのような「レコーダ」というよりは、テレビ、中でもハイエンドのレグザシリーズが搭載している機能に近い。それも当然だ。澤岡氏は、その中身をこう説明する。

DBR-M190はタイムシフト用に4TB、通常録画用に1TBのHDDを搭載 DBR-M180はタイムシフトに2TB、通常録画に500GBを搭載

澤岡氏(以下敬称略):基本になっているのは「ZG2」に入っている「レグザエンジンCEVO」だと考えていただいてかまいません。

 すなわち、テレビの機構・LSIを使って作られたのがレグザサーバー、ということになる。ZG2に入っていたタイムシフトマシンが「全録」として搭載されているのも当然のことだ。そのためレグザサーバーには、これまでのレコーダとはかなり趣の異なる機能も搭載されている。それが「第6世代超解像」系機能だ。

タイムシフトマシン機能を備えた「47ZG2」

澤岡:ZG2に搭載されている、第6世代の超解像機能が搭載されています。弊社のレコーダ、例えば「Z160」、「Z150」シリーズにも超解像機能は搭載されていますが、その機能は他社並みのもの。いわゆる「再構成型」の、第一世代タイプの超解像機能です。しかし、レグザサーバーの超解像機能は「第6世代」ですから、映像の質がまったく異なります。

 レコーダに搭載されているわけですから、テレビとセットで使えば、他社のテレビにつないだ場合も含め、第6世代超解像機能が使えることになります。最新のものでないテレビで最新のエンジンが使える、といってもいいかも知れません。私もレグザのZ3500やZ9000と組み合わせて使っていますが、かなり良くなりますね。

 実際、レグザZG2に搭載されている細かな画質調整系の設定項目は、レグザサーバーでもほぼそのまま生きていますし、機能します。そういった部分でのこだわりは、レグザサーバーでも生きています。

 これまでは、レコーダとテレビで搭載されている高質化機能を比べると、テレビの方が高性能である場合が多かったのですが、レグザサーバーの場合にはそうではないですから。場合によっては、テレビ側の高画質化機能を切っていただいて使ってもいいでしょう。

 もちろん、各社の最新のテレビとレグザサーバー搭載の超解像機能を比べた場合、どちらが優秀かは単純に比較しづらいだろう。だが、テレビはレコーダに比べても買い換えサイクルが長い。だから、テレビは最新のものでない、という人も少なくないはずだ。そういった場合、レグザサーバーとの組み合わせは画質の向上にプラスとなるだろう。

 高画質化機能をレコーダに組みこむ、という発想は珍しいものではない。しかし、テレビのために開発した機能をほぼそのまま流用する、という例は珍しい。開発コストを圧縮する意味でも、開発した技術の価値を最大化するという意味でも興味深いアプローチだ。

 現在、東芝が「レグザエンジンCEVO」搭載のレグザで採用している最新の超解像技術は、X3/ZP3/Z3などで採用されている「第7世代」のものである。レグザサーバーに搭載されている機能は「ZG2とほぼ同等」(澤岡氏)というから、1世代前のものになるが、実は第7世代系搭載のレグザと組み合わせた場合、より画質が良くなる。

澤岡:ぜひ、最新のレグザとのセット、組み合わせで使ってみてください。「レグザコンビネーション高画質」という要素が追加されます。

 これまで、超解像処理はテレビの機能の方が高かったので、レコーダは一歩引いた感じで働いていました。しかし、実際には、やはり前段で処理した方が効果が高いものがあります。例えば、ブルーレイの24p素材の処理がそれにあたります。テレビでやると、どの素材も60pだと考えてしまってから処理することになりましたが、レコーダ側で行なう場合、24pのまま色超解像処理を行ない、テレビで再構成型超解像処理をする、という形になります。役割分担をして高画質化するわけです。特に、4Kパネルを使った「X3」と組み合わせた場合に、一番効果が高くなります。

 レグザサーバーと該当するREGZA(X3、Z3、ZP3)と組み合わせた場合、HDMI経由で該当機種を識別し、この機能が有効になる。自社テレビとの組み合わせで画質向上機能を最適化する、という取り組みは、多くのテレビメーカーが行なっているが、この機能は「同じ機能を都合2セット用意する」ことになるからこそ実現したものだろう。

 他方、ZG2シリーズが「レグザエンジンCEVO」に搭載されたLSIセットを2つ使う「レグザエンジンCEVO Duo」であったのに対し、レグザサーバーでは「Duo」が謳われていない。かといって、レグザサーバーではLSIセットが減った、というわけではないようだ。

澤岡:テレビとはちょっとLSIセットの使い方が違うので「Duo」とは呼んでいません。しかし実際には、「全録」部とレコーダ部で2つのレグザエンジンCEVOを使っています。お互いレコーダ用に若干に変更しており、使い方が異なるのです。「全録」側はレコーダ部から独立し、とにかく「常に動き続ける」ことを前提に設計されています。

 すなわち、テレビで実現されていた機能を、テレビで利用していたLSIセットを使い、よりレコーダ向けにブラッシュアップして単体製品に切り出したのが「レグザサーバー」ということになるのである。




■狙うは「レコーダ」にないニーズ、レコーダと違う部分も多数

澤岡氏

 そもそも、東芝はなぜレグザサーバーを商品化しようと考えたのだろうか? 狙いは「レコーダ」という言葉ではくくれない需要の取り込みにある。

澤岡:レコーダでは、どうしても「録り逃し」の問題があります。それを防ぐ究極の方法として、全録・まる録を、というのは、一つの切り口かと思います。

 我々はテレビの方で先にやっていたわけですが、「レコーダには興味をもっておられなかった方に売りたい」とも考えていました。実際「予約が面倒なのでレコーダは買っていない」という方がCELL REGZAに興味をもっていた、という例があります。

 ひとついえるのは、「タイムシフトマシン」は完全にテレビの楽しみ方を変えるものです。使い始めると、リアルタイムで放送を見る時間が少なくなり、自由に見るようになります。テレビの見方がかわり、新しいユーザー層が発掘できると思います。


選択すれば、その番組がすぐに再生できる過去番組表

 しかし、テレビの買い換えサイクルは長いですから、テレビに搭載しているだけではなかなか難しい。「テレビを買い換えずに使えるようにならないか」という声もありましたので、レグザサーバーを出すことになったのです。

 これがあれば新しい使い方ができます。「テレビがよみがえる」、といってもいいでしょう。従来のレコーダよりも幅広く訴求できますので、ひょっとしたら、爆発的なヒットになる可能性もあります。もちろん、値段的なところがどうか、という話はありますが……。

 レグザサーバーはテレビのREGZAの心臓部を切り出したような製品だ。だから、ユーザーインターフェースも従来のレグザブルーレイとは異なり、今春以降の「REGZA Zシリーズ」に準拠するものになっている。だがもちろん、テレビでなく「レコーダ」として製品にまとめ上げる以上、まったく同じというわけにはいかない。機能面はもちろんだが、ユーザーインターフェースの面でも同様だ。


澤岡:テレビ側のユーザーインターフェースは、番組表など、評判が良かったところも多いです。テレビのGUIのうち、効果的なところはそのまま使っています。

 しかし、ちょっとこだわったところとしては「 完全に一緒だと、REGZAザとレグザサーバー、どっちをつかっているかわからなくなる」という点があります。そのため、あえて変えている部分も少なくありません。

 例えば、テレビでは「選択色」は黄色ですが、レグザブルーレイでは青にしています。またオーバースキャンの問題もありますので、番組表の周囲は空けるようになっています。この点は、設定を変えていただければ同じにもできますが。もちろん、再生中の表示などには「レコーダ」という表示を入れ、どちらを使っているものなのかをわかるようにしています。

 また、レコーダには、レコーダに特化した「暗黙の了解」とも言える動作もあります。例えば、「録画ボタン」を押したらすぐに録画が始まること。テレビでは録画先を選択してから動作しますが、レコーダでは、デフォルトの状態にすぐ録画が動き始めるようになっています。そういう細かなところが違います。

 全録や高画質化、USB HDDが4台同時に使えることなど、テレビ側の技術の方が優れている点は多々あります。それを踏襲していますが、「レコーダ」として比べると、できていない部分があります。でも、「レグザブルーレイ」という商品になれば、「レコーダ」としてお客様は見ます。レコーダの機能としてブラッシュアップしないといけません。

レグザメニュー画面 連ドラ設定画面。選択項目のカラーが青になっている

 他方で、完全に「レコーダ」と同じになってはいない点も少なくない。その中でも大きいのは「編集」の部分だ。

澤岡:現在、フレーム単位編集までは実現できていません。必要なところだけを残す、という形でのダビングには対応しています。

チャプター一覧画面

 レグザサーバーでは、「マジックチャプター」(いわゆる自動チャプター設定機能)により、番組を「本編」と「C」(本編以外)という部分に分けられるようになっている。その後、「本編」だけ、もしくは「C」だけ、といった形でダビングができる。もちろん、自分でチャプターを設定することも可能だ。

 他方、その区切りはフレーム単位ではなくGOP単位となる。この点は、単純にRDシリーズやブルーレイレグザと置き換えられない違いといえる。テレビでは逆方向へのスロー・コマ送りができなかったが、「フラッシュバック」という形で、GOP単位で逆方向へ映像を戻せるようにもなっている。これは、レグザサーバーの「GOP単位」という制限と、テレビ側では弱い編集用の再生機能を両立しよう、という工夫といえる。


【タイムシフトと通常録画の違い】

- タイムシフト 通常録画
長時間録画
Wマジックチャプター -
BDへのダビング -
(通常録画用HDDに
ダビング後可能に)

 

 もちろん、レグザサーバーの方が優れている点もある。

 「全録」ことタイムシフトマシンの存在はもちろんだが、その名の通り「サーバー」になることも重要な点だ。DLNA+DTCP-IPを使い、録画した映像を他の機器へ配信することができる。いわゆるDLNAサーバーとしての機能をもっているわけだが、この他「プレーヤー」としての機能も持ち合わせている。この際、同時発売になるタブレット「REGZA Tablet AT700」と連携すると、より高度なことができる。

タブレットでの転送ビットレート。720pへリアルタイムトランスコードして再生する。タブレットチームとレコーダチームの連携で実現された

澤岡:ビットレートなどを設定し、リアルタイムにトランスコードしながら、タブレット側に映像を写すことができます。DLNA+DTCP-IPを使ったものですので、他のソフトからもアクセスは出来るかも知れませんが、トランスコードまで対応しているのは、レグザタブレットに専用アプリを組み合わせた時だけです。そういうことができるのは、東芝製品同士であるからです。映像部隊とPCの部隊が同じ会社になりましたので、連携が密になるのです。Z160/150は、映像がAVCになっていればできるのですが、レグザサーバーではリアルタイム変換で対応できます。ただし、同時に配信できる端末は1つのみで、2つ同時にはできません。

 なお、タブレットへの映像の配信については、12月現在では、「録画予約」を行なったものだけが対象となり、タイムシフトマシンへの「全録番組」は対象ではない。この点はとても残念だが、3月下旬に予定されているバージョンアップにて、全録番組も配信対象となるという。それまでは、全録側から「保存」することで対応する必要がある。




■内部は「二階層」的構造、新基軸ゆえの悩みも

 レグザサーバーは、内部的には「タイムシフトマシン側」と「レコーダ側」の2パートに分かれている。操作上はある程度統一されているものの、内部機構が分かれている以上、操作面での違いはやはり存在する。

 中でももっとも大きいのは「同時動作制限」の問題だ。レコーダ側では、いくつか細かい同時動作制限がある。しかし、全録を行なっているタイムシフトマシン側は、レコーダ側がどのような動作をしていようと影響を受けない。両者が独立して動いており、「とにかくタイムシフトマシンは止めない」という思想で作られているからだ。

 その点で残念なのは、タイムシフトマシン側のHDDを増設することができない、という点だ。

澤岡:やりたかったのですが、開発工程が爆発的に困難になるので断念しました。1台あたり3chずつ録画するようになっているのですが、そこでHDD増設に対応すると、どのような扱いにするか、というパターンが多くなるのです。この時期に発売するためにはしょうがなかった部分です。

 同様に、開発工程の問題もあって実現されていないのが、「入力」への対応だ。レグザサーバーは完全に「デジタル放送」向けのレコーダであり、アナログ入力は一切ない。唯一「外部入力」的に対応しているのは、Ethernetを使うスカパーHDの録画だ。

澤岡:HDMIからの入力は認められていませんし、アナログ入力に対応すると、エンコーダの追加など非常に開発が難しくなります。そのため、今回は割り切らせていただきました。同様に、ビデオカメラからの映像取り込みやブルーレイからのムーブバックにも対応していません。

 このあたりの仕様を考えても、現状ではいわゆる「レコーダ」とは異なる性質の機器、と考えるべきだろう。澤岡氏も「レコーダの延長というより、買い換え・買い増しが多いのでは。補完的に使われると見ている」と話す。

DBR-M190の背面 DBR-M180の背面

 

 「全録」的に要望が多かったにもかかわらず、対応ができなかったのが「CS/BSを含めた全録」だ。タイムシフトマシンは、現状地デジにのみ対応している。これはレグザも同じだ。問題となったのは主に「有料放送」への対応だ。

B-CASカードは、有料放送対応用の赤いフルサイズが1枚と、地デジのタイムシフトマシン用のminiサイズが1枚

澤岡:やりたかったのですが……。現状、有料放送で1枚のB-CASカードで対応できるのは3つのチューナまでです。他方で、多くのお客様は1枚のカードにのみ、有料放送の契約をしておられる。やるとすれば多数のスロットを用意しないといけませんし、有料放送の問題も解決しないといけません。現在の製品では、赤いB-CASカード(地上/BS/110CSデジタル)が1枚に、mini B-CASカード(地デジのみ)1枚で対応しています。タイムシフトマシン用は後者、という扱いです。

 また、ちょうどB-CASカードの運用ルール変更も、開発時期に重なっていたところだったので、時期的にも難しかった、というのが実情です。まずは地デジで出させていただいて、次のステップで考えたいと思います。

 他方で、新しい要素としては、東芝のレコーダとしては初めて、光学ドライブがスロットイン式になっていることも挙げられるだろう。これもある意味「苦渋の決断」と「新奇性の提案」が入り交じったものであったようだ。

澤岡:HDDも3台搭載していますし、内部的にも容積は厳しいのですが、これ以上サイズを大きくしたくない、ということがありました。他方、スロットインにすることで目新しさも演出できます。お客様の中には「ドライブあったんですか」と言われる方もいらっしゃいました。

 実際のところ、ブルーレイドライブが必要かどうかは、議論したところです。しかし市場では、ブルーレイがないと売れない。ブルーレイレコーダの売り場しかありませんから。ブルーレイを抜いたところでそう安くなるものでもありませんし、あることで生きてくることもあります。

 レコーダは難しい市場だろう。

 日本が中心の市場であるため、あまり開発コストはかけられない。しかし、そこで求められるものは多く、しっかりとした開発をしないと支持を得られない。

 そこで、テレビのために培った技術を転用するのは、非常に論理的なことに思える。まだまだ「レコーダ」として、すべてのニーズを満たせるわけではないが、いままでにない用途を満たし、新しい市場を作ってくれるのは間違いない。

 そのせいか、現状、レグザサーバーの予約は好調だという。年内、年明けの納入が難しい……という販売店もあるようだ。HDDを大量に必要とする製品であり、タイの洪水の影響も大きかったようだ。

 「録画」という市場に新たな一幕を開く製品として、その評判と今後の発展を見守っていきたい。


(2011年 12月 8日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]