タブレットとサーバーを柱に展開する「REGZA WORLD」

東芝が考える「機器の垣根を越えた映像体験」


レグザサーバー企画担当の室井氏(左)と、REGZAブランド/商品企画を担当する本村氏(右)

 東芝は、2011年のCEATEC JAPAN開幕前日に6ch/15時間録画の「REGZAサーバー」や4Kグラスレス3Dテレビ「REGZA 55X3」などを発表した。'09年のCELL REGZA「55X1」発表以来、CEATEC恒例となった前日の記者会見だが、そこで示されたのが、REGZAブルーレイをホームサーバーとし、番組やコンテンツを蓄積。テレビやタブレットから自由にアクセス可能にするという提案「REGZA WORLD」だ。

 そのため、テレビやレコーダ/サーバーだけでなく、セカンドディスプレイ/コントローラともいえる「REGZAタブレット」も10型の10.1型の「AT700/35D」と、7型の「AT3S0/35D」を発表した。

 今年のCEATECでは、他の電機メーカーがソーラーやエネルギーマネジメントを重視したブース展開を行なう中、東芝は最大規模のブースで、あらゆるデジタルAV機器がつながり、コンテンツを共有できる「REGZA WORLD」を訴求している。

 REGZA WORLDが目指すものとは何か? REGZAブランド全体を担当する東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 デジタルプロダクツ&サービス第一事業部の本村裕史氏と、REGZAブルーレイ/サーバーの商品企画を担当した商品統括部 BD商品部 第一担当 グループ長の室井和之氏に話を聞いた。(以下敬称略)


■ CELL REGZAの経験がREGZA WORLDに繋がる

REGZAサーバー「DBR-M190」と「55X3」

 今回の発表では「REGZA WORLD」として、各製品だけでなく、各製品がネットワークで繋がり、連携し、コンテンツを共有する世界を提案した。なぜ、こうした提案に至ったのだろうか?

本村:REGZAでこれまでやってきたことが、ようやく認知されてきて、「REGZAは、画質も良くて、尖ったテレビ」と知ってもらえました。REGZAの認知は上がってきましたが、ケータイからテレビ、レコーダ、タブレットを単にREGZAという名前に統一したからREGZA WORLDというわけではないです。これまでのテレビは見るもの、レコーダは録画するもの、タブレットは情報端末でした。その垣根を取っ払った時に何が起きるか。「面白い、わくわくする生活が待っているよね」ということです。


REGZA WORLDの狙い

 大角(東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 大角社長)の会見でも、「機器の垣根を越えた新しい映像体験」と語りましたが、タブレットでテレビが見られたら、テレビの世界はこれはすごく広がる。最近は「テレビのスマート化」とか、「スマートTV」と言われていますが、40型以上の大画面の中にアプリが並んでいますというものが多い。ただ、インテリジェントな「パーソナルテレビ」と考えると、それってタブレットじゃないかと。

 パソコンがタブレットに移行していくことは皆意識していると思いますが、映像がしっかり扱えるタブレット、というのはこれは「パーソナルスマートテレビ」と言えると。それをトイレでもベットでも、家の外でも見れて、また、大画面テレビと連携して楽しめるものになるんじゃないか。これが起点です。では、コンテンツをどこに集めるかというと、サーバーが必要。だから、REGZAブルーレイをサーバーにしました。REGZAブルーレイはコンテンツをためる場所、加工する場所、家庭内のエンターテインメントサーバーになるべき。そこでタイムシフトマシンというのをいれて、見たい番組を“キャッシュ”して、テレビでもタブレットでも、別に他社の製品でも、自由にアクセスしてエンタテインメントを楽しめる世界ができないか。そうすれば、もっとわくわくする生活が待っているよね、というのがREGZA WORLDです。

REGZAサーバー「DBR-M190」タブレット「AT700」からサーバー内のビデオを再生REGZAサーバー「DBR-M190」

--プレゼンや説明を聞いていると確かにそれぞれのデバイスが有機的に連携し、コンテンツを共有できるという、皆が理想としていた世界に近づいてきたな、という感じがます。サーバーを作って家庭内で共有というこのコンセプトは、タイムシフトマシン第1弾のCELL REGZA「55X1」を作っているときに見えていましたか?

本村:いや、見えてないです。一昨年、CELL REGZAを並べたら、「(タイムシフトレコーダの)ボックスだけほしい」という声をたくさん頂いた。「100万円のテレビはさすがに買えない、タイムシフトマシンだけでも買いたい」と。ボックスだけほしいという声のほか、タイムシフトいらないのでこの「画質」(ディスプレイ側)だけで売ってくれないかという、2つがあったんですね。だから、こういう声があるなら、作らないとなとは思っていました。

--当時からいまのREGZA WORLDの姿を想定して進めてきた、というわけではないんですね?

そうですね。タイムシフトマシンは、まずCELL REGZAで、モンスター級のエンジンであるCELLの能力を活かすために作った機能。そこでお客様、メディア、自分自身がタイムシフトマシンを体感した。そして、CELLに代わるレグザエンジンCEVOを作るとなった時に、僕が言わなくても技術陣の中にはタイムシフトマシンが必要だという意思があった。それがあるからREGZAサーバーが比較的簡単に実現できる。もちろん、力技でBDレコーダの基板を4枚入れてタイムシフトマシンのレコーダを作ることはできますが、それでは大きくなってしまうし、商品として難しい。

室井:今回のREGZAサーバーですが、普通のレコーダのサイズになっていますよね。CEVOがなければこのサイズにはできませんでした。

本村:当時、今の姿を想定していたわけではないのですが、CELL REGZA X1を作ったということは我々にとってすごくいい影響があったと思います。


■ REGZA WORLDのカギは「タブレット」。ノウハウの蓄積で「15日」録画に

 会見で大角社長が一番力を込めて説明したのがタブレット。「タブレットをPCとテレビとともに、新たな事業の柱にしていく」と宣言した。REGZA WORLDでタブレットはどう位置づけられるだろうか?

10.1型「AT700/35D」

本村:テレビとPCの事業カンパニーが一緒になったのもプラスに左右しています。(昨年までの)レコーダとテレビだけが一緒にやっていた時に、タブレットまで使ったREGZA WORLDを想像できたかというとできなかった。

 いま、(フロアの)すぐ隣のシマがPCチームですが、そこで日々会話するわけです。するとタブレットについてわかってくるし、タブレットの使い方についてもイマジネーションがわいてきます。また、我々映像の考え方というのも、PCのチームからするとすごく新鮮だったりするらしい。だから、「タブレットにDTCP入れよう」、「名前もREGZAで行きましょう」ということがすぐに決まるようになった。

 CELL REGZAから始まって、いろいろなイマジネーションと、トップダウンでやった(組織の)環境変化。さらに市場の変化を受けて、4月にREGZA WORLDの基本的なコンセプトを発表しました。このころはまだ妄想に近かったですが、今かなり具現できたと思います。

-- たとえば、タブレットはある意味汎用機ですよね。もちろんDTCPのような著作権保護の仕組みを入れると、「どれも一緒」とはいきませんが、REGZAじゃなくてもいいという部分はありませんか?

本村:「囲い込み」と「面の広がり」のバランスだと思います。我々は囲い込んでREGZA WORLD製品以外は使いものにならない世界を作りたいわけじゃない。けれども、尖った、ザラッとしたものを具現化するためには、自分たちのところで一緒にやっていかないといけない部分もあります。

 たとえば、REGZAとサーバーで「コンビネーション高画質」というのを入れました(REGZAサーバーと対応REGZAをHDMI接続した場合に、サーバー側では、複数フレーム超解像と色超解像を適用。REGZA側で再構成型超解像と非圧縮12bit相当の4:4:4処理を適用する)。これは、住吉(REGZAの画質担当)と桑原(レコーダの画質担当)ががっちり組んでやらないと具現化できない。こうした部分はあります。できることと、できないことはありますが、基本的な部分は他社の製品でも使えるけれど、REGZA同士で揃えると「なお便利です」といったことを考えています。

-- 例えば、DTCPに対応したタブレットを作ったメーカーが「REGZA WORLD」に参加したいといってきたら?

本村:それは条件次第ですよね。いい話であれば。我々、アイ・オー・データさんバッファローさんの録画用HDDもどんどん接続してくださいと言ってしまうメーカーですから(笑)。なんでもできる、というわけではないですが、門戸を閉じるという時代でもないですしね。

-- 今回レコーダのプラットフォームが「CEVOエンジン」になりました。今後のレコーダはCEVOを基盤としたものに集約していくのでしょうか?

室井:CEVOを使いながら、どういう開発をしていくのかというところですね。今回はタイムシフトの部分はCEVOだけど、ベースの部分でもともとのレコーダの機能も入っています。ですので、目的にあわせて、使っていくということですね。

本村:RDシリーズとしてのREGZAブルーレイとは、違う軸での新しいレコーダのありかたをREGZAサーバーとしてやっていくという感じですね。

-- REGZAサーバーの開発はいつからスタートしたのでしょう?

室井:X1の時から考えてはいました。ただし、開発自体は大体1年サイクルですから、正式には昨年末ぐらいからですね。

--REGZAサーバーで気になるのは同時動作の仕様です。タイムシフト用HDDから通常HDDへのダビング時に、REGZA ZG2シリーズでは、「録画番組を再生できない」などの制限があります。REGZAサーバーのDBR-M190/M180ではこうした動作制限が緩和されると聞きましたが、詳しい仕様をお教えいただけますか?

室井:内部的には大体決まっていますが、まだ動作検証が終わっていません。なるべく動作制限が起きないように緩和する方向ですが、ダビング中の配信ですとか、いろいろな条件下でどう動くか検証中です。特にレコーダの場合、録画に失敗しては絶対にだめですから、きっちり検証するためにもう少し時間をいただければと思います。ただ、今回はテレビじゃなくて「レコーダ」ですから、そこはやはり期待されることをちゃんとやりたいと思っています。

本村:これはレコーダならではだな、というのはタイムシフトにも(MPEG-4 AVC/H.264の)トランスコーダを全チャンネル分入れたところですね。

室井:テレビは「きれいな画質をそのまま」という考えでしたが、レコーダはアーカイブ的なところがあるので。レコーダにはトランスコーダが必要だろうと考えました。

本村:CEVOがタイムシフトの基本的な部分をやって、その裏で全チャンネルのトランスコーダが動くという構成ですね。

タイムシフトマシンにトランスコーダを追加。DR録画のほか、高画質(約8Mbps)、中画質(約6Mbps)、低画質(約4Mbps)が用意される

室井:録画時間も考えたんですよね。録画モードも4モード(MPEG-2 TSのほか、AVCの高画質、中画質、低画質)を用意しましたが、上位機(M190)での「15日」にはこだわりました。当初は「2週間/14日でいいんじゃないの?」と話していたんです。でも、CELL REGZAのユーザー調査や、社内を調査すると、クール替わりで、例えば連ドラだと1話だけじゃなくて、2、3話ぐらいまで見て、友人やTwitterの反応を確認して、見続けるか決めたいという声が多い。

-- 2週間後に話題になった後に、1話までさかのぼれるし、保存もできると。

室井:ええ。14日ちょうどだと、3話の放送後には1話目が見えなくなってしまいます。同じようにM180も8日分にしたんです、2話目を録画した後も余裕が残るようにと。

--プラットフォームがCEVOになったことで開発に何か困難はありましたか?

室井:いま、まさに困難の最中ではありますが(笑)。まだ、細かいところまで追い込めていないので、先ほど言ったような動作制限等の検証はできていません。

本村:画質軸においては、テレビとレコーダのエンジンが一緒なので、コンビネーション高画質ができたり、EPG一つとってもグラフィックエンジンが一緒なので共通化しやすいとか、いい効果を出しやすいですね。そこにレコーダチームのこだわりが加味されれば、ある時テレビにフィードバックできるものもあるかもしれない。

室井:お互いのいいところを取り入れられるというのはメリットです。

--テレビとレコーダ、サーバーで市場を食い合うというという懸念はないですか?

本村:全然。昔は事業部も違いましたが、いまはテレビもレコーダもタブレットも全部一緒ですから。

室井:以前のBD事業部では、録画テレビの構成比が増えてきた……とかいろいろ分析していましたけど、いまは気にしていないですね。


■ 4Kのこれから

55X3

--今回グラスレス3D搭載で4KのREGZA「55X3」を発表しました。4KはCEATEC会場でも、ソニー、シャープなどが力を入れて紹介しています。ただし、55X3で4Kをネイティブ解像度で入力するためには、業務用の機器を使って4本のHDMIを出力するか、あるいはSDカードから写真を見るということになります。多くの人にとって4Kテレビを購入しても、フルHDを超解像とアップコンバートにより4Kで見るということになります。より簡単にネイティブの4Kを見せる施策などは考えていますか?

本村:ポイントはそこですね。4K超解像度は効果はあります。すごく効果がわかりやすいし、優良なカメラ、優秀な編集したものであれば、「Blu-rayがここまできれいなんだ」とわかっていただけると思います。4Kをそのままということになれば、やはり写真ですね。今までテレビで写真を見るというのは、遊び、とかおまけという感じだったと思いますが、4Kであればプリントアウトよりテレビで見たいというくらいのリアリティがあると思います。

ひかりTVの4K/2K映像配信のデモ

 動画では、家庭用でも4Kはすぐ来ると思います。ビデオカメラはJVCさんなどが手掛けていますし、ソニーさんはカメラも、PCLやポスプロなど様々な技術があり、撮影自体は難しくなくなってくる。だから問題はどうやってデリバリーする? ってところに尽きると思います。BDが今日明日に4Kになるということも、放送がすぐに4Kということも想像しにくい。これは新たなコンテンツ配信、ネットに期待しています。NTTぷららさんが4K実験をやるというメッセージは、我々にとってすごくうれしいことですね。4Kコンテンツが生まれることによって、コンテンツの流れも変わっていくと思います。環境はそろい始めていますから、いろいろな企業がこれから力を入れてくれると思います。

--CEATECでは各社が4Kを提案していますが、ソニーもシャープもフルHDをいかに「きれいに見せるか」というところに力を入れているように感じます。

本村:われわれも4K超解像に力を入れています。ただし、あるべき姿はリアル4Kだと思っています。見た人は皆「すごいリアルだ」とわかる。4Kはテレビの高画質進化のメインストリームだと思っています。

--たとえば3Dを省いた4Kテレビとかは考えられないでしょうか? 4Kの画像をそのまま表示できるので写真家などは喜びそうだと感じました。

本村:あったらうれしいですか? 55X3は「3Dが付いた4Kテレビ」なのですが、考え方としては、例えば、Zシリーズでは、アクティブメガネの3D/タイムシフトマシンのZG2、パッシブ3DのZP3/ZP2、Z3など様々バリエーションを用意しているので、そこは柔軟に考えたいですね。


(2011年 10月 7日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]