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「dtab」から見るドコモのオープン・コンテンツストア戦略

ドコモは「携帯電話事業者」から脱皮する?

dtab

 4月18日から、NTTドコモが同社のサービスに最適化したタブレット「dtab」を、ドコモショップで店頭販売する(オンライン販売は3月下旬から)。単体価格は25,725円だが、ドコモの回線契約とspモード契約、dビデオを6カ月間契約する場合は、2013年9月末までキャンペーン価格として9,975円で販売される。つまり、ドコモのスマートフォンを利用者であれば、dビデオに6カ月加入すれば1万円以下で入手できるわけだ。

 dtabを簡単に説明すれば、同社が運営するビデオストア「dビデオ」の利用を前提とした10インチタブレットであり、NTTドコモという携帯電話事業者の製品でありながらも、携帯電話網(WAN)への接続機能は持たず、Wi-Fiのみでネットワークに接続する。ドコモサービスの利用が前提となるものの、これまでの同社製品と比較すると、かなり独特な位置付けのものである。ただし、ドコモ専用機というわけではなく、Google Playに対応するなど、Android 4.1タブレットとして、十分な基本機能は備えている。同タブレットの使い勝手などについては、別途レビューが掲載されているので、そちらを併読いただきたい。

 ドコモは、dtabでどのような戦略を採ろうと考えているのだろうか? そこからは、単純に「タブレットを売る」ということではない、これからの事業戦略の一端が見えてくる。

 dtabと、dビデオを中心としたコンテンツ配信や通販の窓口となる「dマーケット」を担当する、NTTドコモ・スマートコミュニケーションサービス部 ネットサービス企画担当課長の那須寛氏に話を聞いた。

「オープンなビジネス」への第一歩、キャリアフリービジネスへ

NTTドコモ スマートコミュニケーションサービス部 ネットサービス企画担当課長 那須寛氏

 dtabは、ドコモオンラインショップで3月27日より先行販売されている。販売状況は、かなり良好であるようだ。取り扱い数量の問題から、入手困難な時期もあったという。「ドコモのタブレット」として、いままで以上の売り上げになりそうだ、と那須氏は言う。

那須氏(以下敬称略):オンラインショップの取扱数量に限界があったのですが、あまりに人気が出たため、現在、取り扱いできるキャパシティを拡大してご対応しているところです。少なくとも、これまでにドコモが取り扱ったタブレットの、1カ月での数量を軽く越えていくことになるだろう、と考えられるほどの反響です。

 やはり「なんでもできるタブレットがこの価格で、しかもスペックもいいじゃないか」ということが評価いただけたのかな、と思います。Twitterなどを見ていても「安いからダメかと思ったが、意外といい」というお声をいただいています。

 だが那須氏は「数を売ることがdtabの最大の目標ではない」と言う。dtabは「dマーケットを利用してもらうための専用タブレット」であるからだ。

那須:dtabについては台数を売ることももちろんなのですが、いかにその中でサービスをつかっていただくか、ということをKPI(重要業績評価指標)として大きくとらえていますので。それをいかにちゃんとやっていくかが、これから特に重要なことです。台数よりもちゃんと利用していただき、dマーケット自体にお客様をちゃんと呼び込むこと。それが「総合サービス企業」としての力点です。

 那須氏が「総合サービス企業」と強調するには意味がある。dマーケットとdtabの存在は、NTTドコモにとって、今後の大きな戦略転換の象徴でもあるからだ。

那須:弊社は「総合サービス企業」である、と宣言しています。通信料・通話料がシュリンクしてくる中で、サービサーとしての収入をたてていかなくてはならない、という風に考えているからです。

 iモード以降、コンテンツプロバイダーさんがコンテンツを容易に配布し、そこに課金できるサービスを提供し、手数料を頂戴するというモデルを構築し、14年やってきました。

 しかし、昨今はそれだけでは足りないと思っています。いままでのiモードの世界では、携帯電話に特化したコンテンツでやってきたところがあるので、月額で料金をお支払い続けていただける状況ではありますが、スマートフォンになり、インターネットにたくさんのコンテンツが存在している形になりました。ニュースや天気予報などにお金を払う文化ではなくなってきて、売り切りも普及してきたな、と思います。

 当然プラットフォームとしての収入は減ってくるわけです。よって、他のOTTプレイヤー(Over the top プレーヤー 筆者注:回線事業者でなく、インターネット上で各種サービスを提供する企業のこと)やコンテンツプロバイダーにとられる部分を埋めていかねばならない……というのが発想です。

 スマートフォンで、レガシーな(フィーチャーフォン向けの)コンテンツプロバイダーは収入が激減していて、「コンテンツ市場がシュリンクしている」と言ってます。ですけれど、我々の認識としては、お客様自身がコンテンツに支払っているお金はあまり変わっていない。もしくは若干上がっていると思っています。お客様の使い方が、月額固定ではなくて「自分でほしいものにお金を支払う」個別型に変わっている、ということだと。コンテンツプロバイダーとしても、そういう事業モデルに変化している方々が勝っている。

 そう考えると、プラットフォーマーだけではダメなのでは、と思います。

dマーケット

 すなわち、回線とそれに伴う課金プラットフォームとしての事業から、「回線にこだわらないビジネス」へ。そのミックスでビジネスを行なう事業者へと変わることが、NTTドコモの言う「総合サービス企業」である。

那須:「キャリア」のビジネスとして、今の契約者にしかマーケティングできないことになり、市場のサイズを決めてしまっていることになります。ですから、OTTプレイヤーと同じ考え方で臨まねばならないと思います。

 つまり、ドコモのお客様以外にもサービスを提供していくことができなければ、最終的にそれを絵に描けねば、やっていく意味はない、と考えます。

 すなわち、コンテンツやサービスを「自社の契約者」にこだわらず、最終的にどの携帯電話を使っている人にも、PCなどからだけ使う人にもサービスを解放する。これが、NTTドコモの狙いだ。

 dtabは、NTTドコモの回線契約者を軸にしたものである。だが、その先にあるのは、あくまで「広くサービスを提供する」のが狙いだ。

那須:昨年12月にサービスを開始した「dゲーム」はキャリアフリーとして、iPhoneのお客様にもauのお客様にもサービスを提供させていただいています。

 dマーケットについては、いつになるか見えないくらい検討課題は多いのですが、基本的には、ドコモのお客様だけではなく他のキャリア、もしくはPCに対しても、サービスを提供していくことを絵として描けなければ、サービサービジネスモデルではやっていけないんじゃないか、と思います。

 その部分が通信料・通話料にどれだけ近づいていけるか、追い越していけるかを見つつ、経営の二本柱になっていければ、と思います。もちろん、キャリアとしてのビジネスを諦めたわけでは、けっしてありません。しかしストア・マーケットの部分に関しては、OTTプレイヤーと伍してやっていきたいというモチベーションでやっています。(キャリアフリー化は)努力目標ですが、年度内には達成したいと思っているんですが……。

 dtabのような端末は、KindleでもNexus10、7でもそうですが、自分が売りたいものが全面にマーケティングされていて、それをお客様に使いやすく提示しているので、そこにメリットがあります。例えば、ソフトバンクをお使いのお客様にもdtabを提供し、iPhoneを使いつつドコモのサービスと決済をご提供できるようになれば、iPhoneのお客様でも「我々のお客様」ということになるわけです。

 そのためには、色んな意識変化・改革が必要だとは思いますが、なんとか色々やっていきたいとは思っています。

 dtabで「Wi-Fiのみのタブレットを提供する」こと、dビデオを軸としたビジネスを展開することは、NTTドコモにとって、ビジネスモデルを転換するための第一歩なのである。

ドコモ決済を活用、将来的には「ドコモポイント」でコンテンツ販売も

 dビデオは、多くの広告出稿と豊富なコンテンツ量、そして、携帯電話事業者ならではの、機種交換や新規契約のタイミングを生かした拡販策が功を奏し、現状、3月15日に契約者が400万を突破している。月額課金制のビデオオンデマンド(SVOD)では、国内最大の契約者を抱えている。

那須:契約者の数をみてもトップ。コンテンツの数をみても、SVODとしてはトップと思います。会員数獲得に、ドコモショップというアセットをつかっていけることは大きなメリットだと思います。

 dビデオでも、いつかはまだ断言できませんが、当然の流れとして、「新作」を単品で提供できるようにしていきます。ハイブリットなストアにした上で、それを例えばiPadの上でも、PCの上でも見れるようにしたい、ということは当然やっていかなくては、と思います。

dビデオ

 今のdビデオはSVODのみで、いわゆる「新作」がない。コンテンツ提供側としては、新作は単品で売れるものなので、SVODには提供しないのが常だからだ。dビデオでも将来的には、レンタルビデオ店や単品販売型のVODサービスのように、「新作を単品で提供する」形も実現したい、ということだろう。

那須:dビデオをお選びいただくメリットについてですが、ここに関しては、ローカライズされたコンテンツということが大きいかと思います。他のストアをみると、どうしても日本に特化したコンテンツがなかなか展開できていないと考えます。

 ただしこうしたところは、追いつかれてしまうことも考えられます。

 次にくるのは、色んなストアを形成しているdマーケットとしてポイントが使えます、といったこともあるでしょう。ドコモポイントが貯まります、通話料で貯めたドコモポイントがここで使えます、ということです。

 各携帯電話事業者は、通話料収入などに伴いポイントサービスを展開している。NTTドコモの場合には「ドコモポイント」がこれにあたる。しかし、これをきちんと活用できている人は少ないだろう。機種変更時の割引や周辺機器の購入程度に使うのがせいぜいで、今ひとつ使いどころがない。

 だが、コンテンツ購入などにも使える、コンテンツ購入でも貯まる、ということになれば、話はずいぶん変わってくる。これは、楽天が「スーパー楽天ポイント」を展開し、Amazonが「Amazonポイント」を展開し、家電店がそれぞれのポイントシステムを展開することと同義であり、顧客ロイヤリティの構築につながる。ドコモとしてもそのステージに立ち、そういう「ネットでの巨人」と直接戦う道に入ることを指す。

 他方、ドコモの強みはもちろん「携帯電話事業者」であること。特に大きいのは、課金決済の部分である。

那須:キャリアフリーの中では「決済」、例えばですが、ドコモをチャーンアウト(筆者注:MNPを利用して他キャリアに移動すること)してiPhoneを使っていらっしゃるお客様に対しても、キャリア契約はないですが、dビデオの請求はドコモの請求書でお支払いいいただく、今まで通り口座引き落としで利用いただける、ということだって可能になるのです。他のOTTプレイヤーですと、ID・パスワードを発行しないといけない、ご自身で決済手段を選ばせないとならない。そうしたことに、ドコモのアセットを使っていければいいのではないか、と思います。ポイントの点についていえば、新規流入・キャリアを意識せずにできることが重要かと思います。

 だが、その道は平坦ではない。現状、ドコモはまだ「キャリアフリー」のサービスを多く用意できていない。dtabもdビデオストアも、まだ「ドコモ利用者向け」のサービスだ。

那須:非常に多くの検討課題があります。

 現在は通信事業者として、回線契約のあるお客様に対して請求・課金事務を行なっていますが、そういう部分をチャーンアウト(注:この場合はドコモ回線から他キャリアに移行)したお客様に使っていいのか、という制度の問題があります。問題山積で、できるかどうかは検討が必要ですが、少なくとも構想としては、ドコモのお客様だけにしかアプローチできないのは非効率的だと思っていまして、全ネットユーザーに対してマーケティングできないと効率が悪いです。それで初めて、OTTプレイヤーと伍していけると思っています。

「契約者数」を武器に権利者を説得、「多人数で1契約」は御法度

 NTTドコモは、全国に2,395の「ドコモショップ」があり、そこで携帯電話の契約にあわせてdビデオの拡販が行なえることが、大きな強みになっている。店舗では、新規契約や機種交換の際、dビデオなどの契約を行なうことで、端末価格が割引されることが多い。だからこそ、「使わないけれどdビデオに入る」という例は少なくないはずだ。それ故に、短期間で400万もの契約を集められた、といっていい。ここは、国内トップシェアの携帯電話事業者であるからこその施策だ。こうした施策が行なわれている理由は、NTTドコモから販売店に対し、dビデオの契約について、成功報酬(インセンティブ)が支払われているからでもある。

 だが一方で、「割引目的」で顧客を引きつけることは、解約にもつながる。使わないがとりあえず契約し、翌月には解約する……という顧客も存在する。この点を、ドコモ側はどう考えているのだろうか。

那須:おっしゃる通りです。dビデオやNOTTVを押し出している関係上、ドコモショップとしてもそれを売った方がインセンティブになりますので、一生懸命拡販します。他方で、契約後に解約する、という事例は実際把握していますし、そのことについては、当然忸怩たる部分はあります。

 しかしことdビデオだけに限って言うならば、まず重要なことは「会員数を増やす」ことなんです。

 そうすると、権利者の方々に「これだけの会員に見ていただける」とご説明できますから、交渉しやすくなるのです。結果、コンテンツの数を増やし、安価に利用していただくことが可能になります。まずは契約者数を集めるためのステップです。そうしてしっかりとしたマーケットにして、誰がきても「こちらがいい」と思われるようにする、ということが重要です。

 すなわち、「いかに安価にコンテンツの数を集めるか」の施策として、少々荒っぽい施策であることを認識した上で、権利者との交渉のために「会員数重視」の施策を採っている、ということだ。

 dビデオは、月額525円で見放題である。兄弟サービスであるdアニメストアも、月額420円で見放題となっている。携帯電話事業者の運営ではないSVOD系サービスは、おおむね月額1,000円前後で提供されており、ぐっと安い。携帯電話事業者はというと、先に走ったドコモの価格に引っ張られ、500円前後で運営する施策を採っている。

 この価格帯でどこまで勝算があるのか、現状での利益状況などは明確でない部分が多い。だが少なくとも、彼らにとっては「低価格な権利料により、大規模な顧客に対して低価格なサービスを提供する」というのは、まとまった戦略の一環であるようだ。

 そしてこのことは、コンテンツを利用する場合の「利便性」にも関わってくる。

 ネットコンテンツを活用する場合、問題になるのは、DRMの存在に伴う利便性だ。SVODになり、コンテンツ単位で課金が不要になって便利にはなったが、「複数の端末で使う」という部分が重要だ。どこでも使う、家族と使う、知人に見せるといった場合、どう権利処理との折り合いをつけるかが、使い勝手に直結してくる。

 dtabの販売に合わせ、NTTドコモは、dビデオに登録できる端末数の制限を2台から「5台」に増やした。2011年11月にサービスを開始した直後は3台であったものが2台になり、現在は5台。この変化を見ても、同社がここで苦慮していることが見えてくる。

那須:そこはバランスかと思っています。

 権利者の方々がコンテンツを提供してくれて、はじめてお客様の手に渡ります。権利者の方々が「制限をかけてほしい」と言われるのであれば、掛けざるを得ない、というのが現状。これはビデオでもブックでも同様です。

 もちろんわかりやすくしたいとは思うものの、権利者の方々の要求に沿う形でないと、リーズナブルな価格でのご提供が難しくなります。その上でいかに操作面を工夫するかに取り組むべきか、ということかと考えています。

 台数制限についてですが……。権利者の方々にすると「同時視聴」できてしまうと問題であるようなのです。そこが非常に強い縛りであります。我々のプロモーションでも気をつけなければいけない部分なのですが、あくまで「1ユーザーのためのマルチデバイス」。僕がdビデオに入っているから、家族全員がこのアカウントで、それぞれの端末で見られます……というのはダメなんです。そういう部分への配慮が必要になっています。

 弊社の立ち位置としては「個人のもの」ということです。複数端末での同時視聴も可能、という権利の取り方もあるのですが、そうすると権利料がグン、と上がります。コンテンツをお使いいただく方々にもご理解をいただかなくてはいけないところか、とも思います。

 すなわち、特にビデオに関して言うならば、問題は「複数端末の同時視聴」であり、「複数端末での利用」ではないわけだ。別の言い方をすれば、1アカウントで複数人が「完全に自由に見られる」形にしてしまうのは難しい、ということになるだろう。
 さらにここには、NTTドコモが「オープンサービスを提供する」ことの難しさも関わってくる。

那須:難しいのはIDが「契約者」なのか「利用者」なのか、ということです。ここはきちんとしていかなくてはならないもので、マルチキャリア・サービスになっていくにも必要なものです。現在の(ドコモの)仕組みは「契約者のもの」です。そのため、制度面の変更は大きなものになります。

 将来的には「利用者にひも付いたID・パスワード」で、その人の責任においてモノを買い、その状態でマルチデバイスで使うことになるが、その中でどう利用されるかはしょうがない。特に、現在の出版社の考え方は、この流れです。

 NTTドコモの回線契約者でなくなった方に対してどうdビデオの請求書を発行するか、というのは制度の問題で、難しいところはありますが、そこを可能にするのが、総合サービス企業としての脱皮のあり方だと思います。

 そうなれば、クレジットカードを使いたくない、持っていない方に対してのサービス提供が広くできる、ということになりますので。

「PCからタブレット」の流れを加速、iPadと同じ数を日本で売る!

 話をdtabに戻そう。

 dtabは、dマーケットのコンテンツを中心に、NTTドコモが提供するコンテンツを売ることに特化した端末である。他方で、ドコモは自社の回線を利用するものとして、スマートフォンやタブレットを販売している。また、完全にオープンなサービスとなった時には、他社の端末上でも同じサービスが使えることになる。

 ドコモとして、dtabと「自社回線端末」、そして「完全に汎用なもの」との関係をどう見ているのだろうか? 那須氏は「私見であり、社内全員がそう思っているわけではない」と前置きした上で、次のように説明した。

那須:弊社には回線契約者数を追い求める部門もありますし、サービス契約者数を追い求める部門もありますので。バランスだとは思っていますが……。

 dtab担当として申し上げるならば、ドコモのサービスが全面に出ていて使いやすくなっているタブレットは、すべてdtabと呼んでいい、と思っています。ですから、仮にXperia Tablet Zにdマーケット向けのカスタマイズされたサービスを提供できるのであれば、それも「dtab」です。

 将来的には、最初はdマーケット中心のフェイスになっていなくても、そのためのアプリをダウンロードしていただければdtabのようになりますよ、という施策も必要です。

 もちろん、メーカーブランド・タブレット端末のすべてがそうなるべきかは、社内で色々と議論が必要でしょう。しかし、dマーケットのサービスを推進する、私の考えとしては、サービス普及のためには集中が必要と考えます。アマゾンはKindle Fireを提供しています。でも、アマゾンブランドで汎用タブレットを提供するかというと、おそらく絶対に「しない」ですよね? サービサー側のモデルとしては、そういう考え方になるのが必然です。dtabに関しては、ドコモのサービスに特化して使っていただきたいと思っており、それに必要な端末だと思っています。

 その背景には、どんどんタブレットが普及していくだろう、という考えがあります。いまPCでやっていることがタブレットに置き換わっていく、と。ある意味「タブレットに移らせなくてはいけない」とう意味合いもあります。タブレットは米国では販売台数がPCを越えています。しかしデジタルコンテンツだけではなくEC、ショッピング系については、まだまだPCを使っている、というのが実情です。特に日本ではそうです。

 「PC」については、当社が製品を出しているわけではない。しかしそれをタブレットに誘導していくことで、我々がマーケティングできる範囲が増えていきます。ですからそこを意識して、「PCでやるのでなくタブレットでやってください。タブレットでやれば便利でお得です、おうちでできます」という環境を整備することが重要だと思っています。

 これはニワトリ・タマゴの問題ですが、マーケット自身を魅力的にすることと、環境として使いやすいものにしていくことの両面で必要です。

 dtabのマーケットを魅力的にすること、そして、個人が家庭で使うコンピュータを、PCからタブレットへと誘導するという考えの裏には、「日本のタブレット市場」に対する分析が存在する。

那須:日本のタブレットの市場を見ると8割がWi-Fiモデルで、しかもそのほとんどがiPad。残り2割の半分がドコモのタブレットで、残り半分がiPadの3G版。すなわち、市場の9割がiPadなんです。

 現状、普通の方であれば、一人で何台ものタブレットを持つ、というのは難しいでしょうから、iPadをもってしまったら、コンテンツ購入はiTunes、AppStoreに行ってしまうのは当然のことと思います。現在、Kindle FireにしろNexusにしろ、こういった市場をとりにきているので、我々としても「この市場をとらねばならない」という、強い危機意識があります。

 なので、後発ではありますが価格競争力の高いものを投入し、今のiPadと同じくらいの台数をとっていかねば、(コンテンツマーケットとしての)相応のパイはとっていけないのでは、と考えます。

 日本市場でiPadと同等の数を取りに行く、というのは、きわめて大胆なものだ。だが、まだアメリカのように、「猛烈な勢いでタブレットが売れている」というわけではない、というのも実情。米NPD DisplaySearchの調査によれば、北米の2012年の市場規模は8,500万台。それに対して日本はまだ462万台(IDC Japan)でしかない。

那須:日本の市場であれば、まだ十分に可能だと考えています。日本のお客様というのは、タブレットについて、まだ「なにをしたらいいかわからない」と模索している状況かと思います。日本でiPadがぐっと伸びていかないのも、そうしたんほんの状況があるのか、と。そこで「こんなことができますよ」ということを先駆者としてお示ししていかなくてはいけないのか、と思います。

 日本の場合、薄い・軽いパソコンもたくさんあります。それとの違いも明確にしていかなくてはいけませんし、携帯電話も含めたマルチスクリーン化も提示しないといけない。そして、ドコモ以外のお客様にも「ドコモのタブレットは使える」「使ってみたらけっこういい」と思っていただかなくてはいけません。

 dtab販売時期にTwitterなどをみていると、「dビデオってけっこういいんだね、ラインナップ多いね」というお声をずいぶんみかけました。そうしたことでお気づきいただけることは多いはずなんです。ですから、端末としてお手元に届くことは非常に重要なことと考えています。

 全然醸成されていない市場を活性化する上でも、こうした努力は重ねていかねば、と思います。

 那須氏の言う通り、日本ではまだタブレットの起爆剤がない。確実に広がってはいるが、家庭にあって当たり前、とまではいえない。「なぜタブレットを使うのか」を理解してもらうことが必要だ。

 まずドコモは、dビデオというサービスで「タブレットの拡大」目指す。そしてその結果、同社が「サービス提供者」として強くなれば、と考えている。こうした施策の変化は、今年から来年までに見えてくることになるだろう。その第一歩であるdtabは、今のところ成功の方向に向かいつつあるように見える。

 だがさらに広げるには、「携帯電話事業者」発想でないサービス開拓も必要になるだろう。なにしろライバルはAmazonやアップルだ。どこまで大胆な施策を打てるのかに、成功のカギがある。

西田 宗千佳

1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。  個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41